小豆洗いの小手先大工猫日記

人を取り巻く環境は、今も昔もあるいは変わっていないかも知れない。

単に己の心のノスタルジアからか。
昔、高校生だった頃の話であるが、いつも連れ立っていた3人組でとある居酒屋に入り酒を酌み交わしたので
あった。

いつも誰かしらが金を持っていたが、その日はたまたま誰も一銭の金すら持っていなかったのである。
そこでその飲み屋から近所に住まいしている一人の教師の名が3人から上がったのである。
早速電話して迎えにきてもらったのである。無論支払いも先生の処理で済ませた。
更に酔いつぶれた一人を先生がおぶって、先生の下宿までお世話になった。
下宿先についたら、再び一升瓶で茶碗酒が始まったのである。

昔は剛毅な先生がいたのである。
一緒に飲んでいる時「先生！」と呼ぶと「俺は先生と呼ばれるほど馬鹿じゃない！」「名前を呼べ」と。
それから彼を「ケンさん」と呼び大騒ぎをし、朝を迎えたのであった。
夜中「ケンさん、トイレはどこですか」と聞くと、「窓を開ければそこが便所だ」と答えが返ってきたので、
勢いよく開けて用足しをした。
明るくなり始めていたので景色を良く見ると、何とそこは母の兄、つまり叔父さん家の庭先に放水していたの
である。

その時は流石に慌て、「先生、隣はうちの親戚ですから窓から小便するのはもうやめてください」と。
皆大笑いであった。
酔いつぶれて先生の背中で下宿先までお世話になった奴は、その後高校の教師になった。
その彼の結婚式では、教え子が大挙して押し寄せて来たのには驚いたが、彼も良い教師になったんだなと。

ケンさん先生が良い種をまいてくれたんだなと思ったのは、下宿で夜明かしをした10年後のことであった。