2015年05月25日
582. 又吉直樹A 芥川・太宰・虚言癖・ハンバートハンバート 「 サワコの朝」
「今日のゲストは文豪です」と阿川さん。「お笑い芸人でもありますが、今や文豪として大変な注目を集めていらっしゃいます。初めての長編小説が40万部に迫る?もう超えたかもしれない…」
「全然文豪じゃないですよ」と又吉さん。ただ「小説について話す機会が多いですね」
1980年、大阪生まれの34歳。長編デビュー小説「火花」が39万部を超えるベストセラー。三島由紀夫賞にノミネート。1票差で破れましたが、高い評価を受けます。
2003年(23歳)、綾部祐二さんとお笑いコンビ「ピース」を結成。2010年(30歳)、「キングオブコント」準優勝。
芸人として活躍するかたわら、今年1月、文芸雑誌「文學界」に「火花」を発表。大きな反響を呼び、「文學界」は創刊83年目にして初の増刊をすることに。
「こんな話題にしていただけるとは思ってなかったですね、何の反響もないと思ってました」と又吉さん。「賛否両論になるものが書ければいいなと思ってたんですけど、自分が思ってたよりずっと褒めていただいて」
「共感に媚びたくない」と思っていたそうです。「意味分からんなあ、でも面白い、ってあるじゃないですか」
「ご家族の反応はどうでした?」
「母親はメールくれたんですけど、『花火、面白かったよ』って、まずタイトル間違ってましたし」(笑)
記憶の中で今もきらめく曲
「カレーライス」遠藤賢司
「父親が吉田拓郎とかかぐや姫とか、そういうテープが家の中にいっぱいあって」と又吉さん。「ラジオで初めて聞いたときに、『すごくカッコいい』と思って…」
なるほど…。又吉さんのお父さんと私(よしろう)は年が近いと思います。吉田拓郎やかぐや姫をずっと聴いていた少年が「カレーライス」を聴いて感動する…。分かります。
「これラジオで流れてて、『うわー』ってなっちゃったんですよね」と又吉さん。
又吉さんは大阪生まれ大阪育ちですが、お父さんは沖縄、お母さんは奄美大島出身だそうです。
同じアパートに住んでいてお母さんは看護師、お父さんは二日酔い。苦しそうにしているのを、お母さんが仕事柄、「大丈夫ですか?」と気遣ったことから始まったご縁だそうです。「ウエッ、から?」と阿川さん。(笑)
又吉さんがちょっと「ぼうっと」しているのはそのせいとか…。(失礼)
虚言癖
幼い頃の又吉さん、サービス精神から少し話を膨らませて話をする癖があり、それが友人にはウケていたのですが、大人には「この子は虚言癖がある」と受け止められていたそうです。(笑)「なんなんやろう、この子は?」と心配されたそうです。
母親から相談を受けたおばあちゃん、「嘘をつく、と言うのは、考える力があるからや」と助言。「大丈夫や」
「その頃からコント作ってたんじゃ…?」と阿川さん。そして6歳で初めて漫才を作るのです。2人の姉から父親の誕生日に「漫才をしたい」「直樹、漫才考えて」という依頼が。
直樹少年が考えたネタを姉がノートに取り、それを見ながら父の前で発表するという…。
酒を飲みながらずっと見ていたお父さん、「鬼のような顔をして、『何がおもろいんじゃ』言うてました」(笑)「僕の努力が台無しに…」でもとても嬉しかったそうです。「それが最初ですね」
文学の目覚め
文学の目覚めは中学時代だったそうです。国語の教科書に載っていた芥川龍之介の「トロッコ」。
「名前の付いてない曖昧な感情…、主人公の言葉が、『え、これ思ったことある!』自分は言葉に出来ひんかったけど、ここに言葉としてある。的確な言葉として…」
主人公の少年が土工と別れて、1人で夕暮れの道を駆ける、その心細さが自身の実体験と重なり、非常に感情移入できたのだとか。
そして太宰治に入っていったそうです。
「『人間失格』は100回読んだっていう…」と阿川さん。
「年明けの一発目は『人間失格』を読むって決めたんですよ」と又吉さん。「3色のマーカーを引いていって」「線引いていないところに『え、こんな文章あった?』みたいな…」
そしてほとんどの文章にマーカーが引かれることに。(笑)
もともとはクラスメートに薦められたのだとか。「これ、お前みたいなヤツが出てくるから読んでみ」「それで、うわーっとなって…」
辛かった時も、おどけてそれを笑いに変える、道化性。それが自分と同じだと気づき、「ラクになれた」と又吉さん。
ダウンタウンやさんま、鶴瓶等のお笑いの先輩と太宰や芥川等の作家達。どちらも又吉さんにとっては憧れの「カッコイイ」存在だったそうです。「どちらも同じ目で見てました」
「小説とお笑い、どちらかを選ぶとしたら」と阿川さん。
「お笑い芸人でしょうね」と又吉さん。「同じなんですけどね、僕からしたら、人を楽しませる…」
決め手はライブだそうです。「ライブ出来ひんほうがキツイですね」
小説は「5冊は書く」と考えているのだとか。「2作目はコケる、と決めている人があまりにも多いので」(笑)矢継ぎ早に書こうと。
「好きなんで、書くのも。ネタ考えるのも好きやし、文章書くのも好きですし…」
今、心に響く曲
ハンバートハンバート「ぼくのお日さま」
ジャケ買いで出会った夫婦デュオだそうです。
「すごい素敵で、このあいだライブ行ったんですけど、楽しすぎて途中から涙が出てきて…」と又吉さん。「周り見たら、泣いてるん僕だけだったんですよ」(笑)
ああ、あまりにも興味深いトークで大変な分量になってしまいました。
というのも私と又吉さんとは年齢がずいぶん違うのに、物の感じ方や体験がちょっと似ている気がしたからです。
芥川の「トロッコ」を初めて読んだ時の印象や太宰との出会い。「カレーライス」を聴いたときの印象等々。
ハンバートハンバートも「京都音博」で体験しましたし…。
年齢は違うのに体験や資質に自分と似たものを感じてしまう…。
違うのは又吉さんが大好きなお笑いや小説に一直線に進むところ。テレビで初めてお見かけした頃、いささか印象の薄い方だと感じましたが、今や一時代を築く勢い…。これからもますますのご活躍を。
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