前回の内閣改造(昨年8月10日)から間もなく1年。政治の焦点は内閣改造・自民党役員人事に移った。 岸田文雄・首相が解散を先送りしたことで永田町の解散風は一時止んだように見えるが、首相は諦めてはいない。内閣改造では秋の解散・総選挙をにらんだ「選挙シフト」を敷くとの見方が有力だ。しかも、来年の自民党総裁選での再選を確実にするために、ライバルたちを内閣や自民党中枢から一掃する“粛清人事”まで練っているようなのだ。
その大粛清を前に、自民党では首相側近の遠藤利明・総務会長が、「(内閣改造は)たぶん8月か9月にはある」と声を上げ、萩生田光一・政調会長も「党役員任期は1年だから当然人事はある」と口調を合わせている。党3役の2人までがそう言い切る以上、首相はすでに人事の根回しを進めていると見ていい。
第1の標的は次の総裁選への出馬意欲を隠さない茂木敏充・幹事長だという。岸田派議員はこう言ってはばからない。
「岸田総理は総裁選で自分のライバルとなる茂木幹事長に選挙の指揮をとらせるつもりはない。茂木氏は公明党との関係を悪化させるなどいまや政権の足を引っぱる存在だから交代は既定方針。後任の幹事長には森山裕・選対委員長の抜擢が有力視されている」
森山氏は悪化した公明党との関係を修復して自公の選挙協力文書を交わした立役者だ。首相は6月30日に森山氏と会食してその労をねぎらうなど、「党役員の中でいま一番頼りにしている存在」(岸田側近)とされる。しかも、森山派は衆参8人のミニ派閥で、総裁候補とは見られていない。
「総理にすれば森山さんを幹事長に起用しても寝首を掻かれる心配がない。そのうえ非主流派の二階派や菅義偉・前首相との関係がいいから党をまとめられる」(同前)
それが森山幹事長説というダークホース浮上の理由だ。
粛清の次なる標的に挙げられているのが河野太郎・デジタル相兼消費者相と高市早苗・経済安保相。前回総裁選で岸田首相と総裁の座を争った2人だ。
河野氏は続出するマイナンバー問題の担当大臣。「責任は大臣たる私にある。何らかの処分をやらなければならない」としたが、岸田首相は「職責を果たしてもらいたい」と更迭を拒否している。
だが、それは表向きで、実際は内閣改造で河野氏に全責任を負わせて交代させる方針なのだ。
その舞台も周到に整えた。自民党は野党の要求に応じてマイナンバー問題の国会閉会中審査(衆院7月5日、参院同26日)の開催を決め、岸田首相は「関係閣僚に説明を尽くさせる」と言明した。政治ジャーナリストの野上忠興氏は、これを“河野潰し”作戦と見る。
「岸田首相が閉会中審査に応じたのは、担当大臣の河野氏に野党から集中砲火をあびせさせて火だるまにするためです。そうなれば河野氏は来年の総裁選までにイメージを回復するのは難しいから、首相は内閣改造で河野氏を更迭し、無役にしても怖くないと読んでいる。いま引責辞任させるより大きなダメージを与えることができるわけです。河野氏の総裁の芽を事実上潰し、マイナンバー問題も幕引きしようという一石二鳥の狙いでしょう」
そして内閣改造は、総務省文書問題をめぐる「ねつ造」発言の責任がウヤムヤになっている高市氏を交代させる絶好の機会だ。
「後ろ盾の安倍晋三・元首相をなくした高市氏を交代させても反発は出ないでしょう。後顧の憂いなく更迭できる」(野上氏)
次の総裁選のライバルである茂木氏、河野氏、高市氏をいっぺんに切り捨てるという指摘だ。