ペトロニウスの何やかんや

これは本当に会った話。

もう、30年ぐらい経つが、その30年ぐらい前、わたしははじめて東京へ行った。

それは、あるコンサートを見にというか聴きに行ったのだが、そのことは今日の話題ではない。

そのとき、彼女に「東京に行ったら、渋谷へ行って、マロンロコ買ってきて」と頼まれた。

「それどこに売ってんねん」

「どうげんざかちゅうとこの、コージーコーナーって言う店で売っとる」

当時は、ネットもパソコン通信だったし、グーグルマップもない。

今なら楽勝というか、「ネット通販でかえるやろ」という程度のお願いだった。

わたしは、山手線というJRの電車に乗って、渋谷という駅で降りた。

たしか、「どうげんざか」とよばれる場所が合って、たぶん今もあるだろうけど、そこをてくてくと歩いていったのだった。

そして、銀座コージーコーナーという店を見つけた。今はもうそこにはないかもしれないが、そのときは確かにあったのだ。

ちょっと入るのが恥ずかしかったが、またお持ち帰りだからええやろ、と思って。入り口のドアをおした。

今でいるとメイド風のかわいい店員さん、今で言うと広瀬すず風の、が「いらっしゃいませ」といった。

どうやら、店売りだけではなくて、奥はカフェになっていたと思う。

どうも場違いな感じで、恥ずかしかったので、とにかく用事だけすまそうと、

「マロンロコください」、といった。

そのとき、店員さん(すずちゃん)が「うっ」となったような感じがしたが、おそらく気のせいだろうと思っていたら。

「いくらのになさいますか」という。

わたしは、1000円ぐらいでええやろ、と「1000円分下さい」といった。

そして、商品のマロンロコを受け取った。

どうも様子が変だ。

奥のカフェからも片な雰囲気が伝わってくる。

おそろしいから、はよ大阪へ帰ろ、と思った。

そして「いったいマロンロコて、どんや食いもんやねん？」ともったのだと思う。

さっき、すずちゃんがマロンロコを取り出したショーケースを見た。

そこには、丸くておいしそうなお菓子が陳列してあった。

そこには「マロンコロ」と書かれていた。

わたしは逃げ出すようにコージーコーナーを後にした。

ps.マロンコロはもう売ってないそうです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。
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ps.2　今にして思うと、もっと早く気付くべきだった。彼女はパンを買うと「このチョココネルおいしいやん」とのたまっていたのだった。
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