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2018年01月06日

藤沢周平新ドラマシリーズ「小さな橋で」








 昨年末にも放送されたのですが、この正月元日にも、時代劇専門チャンネルで「藤沢周平新ドラマシリーズ」の「小さな橋で」という作品が放送されました。
 江戸の市井(しせい)ものの典型ともいうべきもので、ストーリーとしてはそう複雑ではないが、人間を描くことにおいての深い洞察力・観察力・思索の深さ、視野の広さ、などがないと描けない作品だと感じました。
 貧しいながらもつつましく暮らしている江戸庶民の小さな町。その中でも、ひどく重い宿命を背負った母子がいる。物語はその男の子の視点で展開されます。
 男の子は10歳という設定らしいです。母がいます。母は松雪泰子さんが演じています。父は行方不明になりました。少年は、「ちゃん(おとうさん)」が出て行った時までは覚えています。なぜ出て行ったかは後に詳しく語られます。
 父が出て行った後、母親の生活は荒れます。一家の生計を支えるため、飲み屋で働きます。そして毎晩、酒に酔って帰宅します。
 少年には姉がいます。この姉は或る商家に働きに出ています。父親が出て行った後、毎晩飲んだくれて帰るような母を良く思っていません。
 少年は炊事洗濯その他、家の仕事におわれます。日々の労働もつらいが、父が家を出て行ったという現実もつらい。母が飲んだくれて帰るという現実もつらい。姉が母と仲が悪く家の雰囲気が険悪である現実もつらい。
 しかし、それでもしっかりと、働き、友達と仲良くし、たまに、よその町の子供たちとケンカしますが、ぐれたりしません(そういう年齢でもないのだが)。
 ある時、姉が働いている先の商家の手代と「デキている」という噂が耳に入ります。少年はまだ子供ですから「デキている」とはどういうことなのか、本当の意味がわかりません。それでも、姉を迎えにその商家へ行った時に、男(姉の恋人というより情夫というべきか)から「おねえちゃんと二人っきりで話があるから」と、どこかでしばらく暇つぶしをしていてくれと頼まれ、銭を渡されますが、受け取ってはいけないのだと感じとり、受け取りを拒否します。
 姉が男とデキているという噂は、当然のことながら母親の耳にも入っています。母親は、あの男と付き合ってはいけない、と諭し、「あの男には女房がいるんだよ」と言い、お前が仮にその男と添い遂げたとしてもそれは誰かを不幸にすることだよ、とも言います。しかし、恋を知った年ごろの娘の耳には入っても心には届きません。
 母と姉はケンカし、ある日、ついに姉は男とともに行方をくらませます。
 少年は姉の勤め先へ行き、やっと異変を知ります。そして男の家を突き止め、そこへ行くと、いたのは乳飲み子を抱えた若い女。女は自分の夫が若い娘と手を取り合って駆け落ちしたことなどしりません。何も知らずに夫の帰りを待っています。とても、男に愛想つかされるようなダメ女には思えません。
 少年はたいへんなショックを受けます。自分の姉と男 がしたことは、まさに、乳飲み子とその母(まだ若い)を不幸のどん底に突き落とすことだ。
 「ごめんなさい!」
 少年はいたたまれず、その場を逃げるように走り去ります。
 娘の駆け落ちを知った母の生活はますます荒れ、酒におぼれます。夫も去り、娘も去った。あとは息子が残っただけ。
 逃げ出したい生活。でも逃げる場も無い。そんな絶望的な生活の中で、少年は、質の悪そうな男たちに追われている男をみます。その男こそ「ちゃん」、つまり少年の父親です。
 少年の父親は江口洋介さんが演じています。
 思わぬところで息子と再会した父が語った、失踪の真相とは? そして父は息子に何を託したのか?
 母のつとめる客で一時的にせよ母が再婚を考えた相手も登場しますが、その男を含めて、登場人物のほとんどそれぞれの視点でも考えられ、共感できる(少年の父を追いかけたヤクザ風の男たちや姉の情夫は別)作品ですが、どの視点で考えても辛く切なくなる作品です。



 

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