2016年03月21日
【出光美術館】生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画―<みやび>の女性像
出光美術館で開催中の「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」に行ってきました。
江戸中期の浮世絵師、勝川春章(1796〜1792)。役者絵で人気を博しながら、晩年には美人画を多く描きました。その美人画がずらりと揃います。出品は80点。全て肉筆画です。
春章の画業がもっとも充実した時期は、多色摺木版画(錦絵)を創始した鈴木春信(1725?-70)の後半期に重なり、また、鳥居清長(1752-1815)や喜多川歌麿(1753?-1806)、東洲斎写楽(?-1794-?)といった浮世絵史上に輝く歴々の巨匠たちが脚光を浴びはじめる、まさにその目前で終わりをむかえます。活躍期を接するビッグネームたちに押されたためか、春章に寄せられるこれまでの評価は、いまだ作品の出来ばえに見合ったものとはいえません。歌舞伎俳優の特徴をとらえた、迫真的な役者絵にもすぐれた仕事を残した春章ですが、とりわけ晩年期に手がけられた肉筆による美人画は、その女性表現の優雅さにおいて、ほかの浮世絵師のそれとは一線を画したものといえます。
おそらくは周囲の貴顕たちの好みに応じた結果、風雅なおもむきを強くにじませることとなった春章の肉筆美人画は、同時代の女性という日常的で手近な題材をとらえながらも、画題の選択や表現技法に、〈古典〉とのつながりを明確に打ち出します。この展覧会は、〈美人画〉という現実の都市生活の断面を、伝統的な文化の枠組みのなかへ転じようとする、いわば〈俗中の雅〉ともいうべき性格に注目しながら、春章の芸術が目指したこと、そして、当時の鑑賞者たちが春章の絵画に期待したことを明らかにしようとするものです。
作品は出光美術館のコレクションが中心ですが、一部に東京国立博物館や千葉市美術館、太田記念美術館などが加わります。
初期の浮世絵のテーマは遊里(遊女)と芝居(役者)が中心でした。浮世絵のテーマに風景が取り上げられるようになったのは、享保年間(1716-1735)の末頃のこととされます。それまで風景は背景として描かれるか、または伝統的な水墨山水画の構図を木版画で表したものなどに止まっていました。
浮世絵の風景画の発展を進めた一因として、西洋から伝わった遠近法があります。西洋では古代ギリシャ美術にも遠近法が見られますが、日本絵画ではほとんど用いられていませんでした。享保5(1720)年8代将軍徳川吉宗が禁書令を緩和して、キリスト教に関係のない書物の輸入を認めたことをきっかけに、遠近法の理論や遠近法を用いて描かれた銅版画が日本に持ち込まれました。そして、遠近法は浮世絵に取り入れられ、元文4(1739)年頃に浮絵と呼ばれる絵が現れて流行します。
浮絵とは空間の奥行や距離感を強調した絵で、遠景が窪んで見えることから「くぼみ絵」とも呼ばれました。初期の浮絵を描いた代表的絵師には奥村政信(1686-1764)や初代鳥居清忠(生没年不詳)らがいます。当初の浮絵では柱や天井などを利用して、遠近法を取り入れやすい室内空間(舞台、座敷)や建築物が描かれました。その後、歌川豊春(1735-1814)により浮絵における遠近法の技法が改良され、山河や海などの広大な風景をも描けるようになり、後の風景画の発展に大きな影響を与えました。
今回は、冒頭にメインの作品が展示されています。最晩年の大作「美人鑑賞図」。広々とした邸宅にて軸画を見定めては談笑する女性が描かれています。壁から掛け軸を取り出し、畳の上に広げ、何やらひそひそと会話する様子には動きもあります。じゃれ合う2匹の猫やぼたん、奥行きのある部屋の様子、後景の庭園や画中画も見どころです。庭園は注文主に縁のある六義園を意識したと言われています。さらに近年の研究によって鳥文斎栄之の錦絵の構図を引用したことも分かったそうです。
初期の浮世絵がこんなにも魅力的だと思ってもいませんでした。さらっと見るつもりが、2時間近く見てしまいました。版画とは全く違います。なかなかスポットの当たらない絵師の作品も充実していて、これがまたとても面白い。後期の広重、北斎とは全く違う魅力がありますが、これは実物を見ないとわかりません。本当におすすめの展覧会です。
邸内遊楽図屏風江戸時代(17世紀前期)
吾妻風流図勝川春章 天明元年(1781)頃
桜下花魁図 勝川春章 天明7, 8年(1787, 88)頃
桜下三美人図 勝川春章 天明7, 8年(1787, 88)頃
更衣美人図喜多川歌麿 江戸時代(19世紀前期)
娘と童子喜多川歌麿 江戸時代(19世紀前期)
雪月花図 勝川春章 天明3-7年(1783-87)頃
婦人風俗十二か月 寛政元-4年(1789-92)頃
開催場所 出光美術館開催期間2016/02/20〜2016/03/27休催日月曜日 (ただし3月21日は開館)
開催時間 午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
春章の画業がもっとも充実した時期は、多色摺木版画(錦絵)を創始した鈴木春信(1725?-70)の後半期に重なり、また、鳥居清長(1752-1815)や喜多川歌麿(1753?-1806)、東洲斎写楽(?-1794-?)といった浮世絵史上に輝く歴々の巨匠たちが脚光を浴びはじめる、まさにその目前で終わりをむかえます。活躍期を接するビッグネームたちに押されたためか、春章に寄せられるこれまでの評価は、いまだ作品の出来ばえに見合ったものとはいえません。歌舞伎俳優の特徴をとらえた、迫真的な役者絵にもすぐれた仕事を残した春章ですが、とりわけ晩年期に手がけられた肉筆による美人画は、その女性表現の優雅さにおいて、ほかの浮世絵師のそれとは一線を画したものといえます。
おそらくは周囲の貴顕たちの好みに応じた結果、風雅なおもむきを強くにじませることとなった春章の肉筆美人画は、同時代の女性という日常的で手近な題材をとらえながらも、画題の選択や表現技法に、〈古典〉とのつながりを明確に打ち出します。この展覧会は、〈美人画〉という現実の都市生活の断面を、伝統的な文化の枠組みのなかへ転じようとする、いわば〈俗中の雅〉ともいうべき性格に注目しながら、春章の芸術が目指したこと、そして、当時の鑑賞者たちが春章の絵画に期待したことを明らかにしようとするものです。
作品は出光美術館のコレクションが中心ですが、一部に東京国立博物館や千葉市美術館、太田記念美術館などが加わります。
初期の浮世絵のテーマは遊里(遊女)と芝居(役者)が中心でした。浮世絵のテーマに風景が取り上げられるようになったのは、享保年間(1716-1735)の末頃のこととされます。それまで風景は背景として描かれるか、または伝統的な水墨山水画の構図を木版画で表したものなどに止まっていました。
浮世絵の風景画の発展を進めた一因として、西洋から伝わった遠近法があります。西洋では古代ギリシャ美術にも遠近法が見られますが、日本絵画ではほとんど用いられていませんでした。享保5(1720)年8代将軍徳川吉宗が禁書令を緩和して、キリスト教に関係のない書物の輸入を認めたことをきっかけに、遠近法の理論や遠近法を用いて描かれた銅版画が日本に持ち込まれました。そして、遠近法は浮世絵に取り入れられ、元文4(1739)年頃に浮絵と呼ばれる絵が現れて流行します。
浮絵とは空間の奥行や距離感を強調した絵で、遠景が窪んで見えることから「くぼみ絵」とも呼ばれました。初期の浮絵を描いた代表的絵師には奥村政信(1686-1764)や初代鳥居清忠(生没年不詳)らがいます。当初の浮絵では柱や天井などを利用して、遠近法を取り入れやすい室内空間(舞台、座敷)や建築物が描かれました。その後、歌川豊春(1735-1814)により浮絵における遠近法の技法が改良され、山河や海などの広大な風景をも描けるようになり、後の風景画の発展に大きな影響を与えました。
今回は、冒頭にメインの作品が展示されています。最晩年の大作「美人鑑賞図」。広々とした邸宅にて軸画を見定めては談笑する女性が描かれています。壁から掛け軸を取り出し、畳の上に広げ、何やらひそひそと会話する様子には動きもあります。じゃれ合う2匹の猫やぼたん、奥行きのある部屋の様子、後景の庭園や画中画も見どころです。庭園は注文主に縁のある六義園を意識したと言われています。さらに近年の研究によって鳥文斎栄之の錦絵の構図を引用したことも分かったそうです。
初期の浮世絵がこんなにも魅力的だと思ってもいませんでした。さらっと見るつもりが、2時間近く見てしまいました。版画とは全く違います。なかなかスポットの当たらない絵師の作品も充実していて、これがまたとても面白い。後期の広重、北斎とは全く違う魅力がありますが、これは実物を見ないとわかりません。本当におすすめの展覧会です。
邸内遊楽図屏風江戸時代(17世紀前期)
吾妻風流図勝川春章 天明元年(1781)頃
桜下花魁図 勝川春章 天明7, 8年(1787, 88)頃
桜下三美人図 勝川春章 天明7, 8年(1787, 88)頃
更衣美人図喜多川歌麿 江戸時代(19世紀前期)
娘と童子喜多川歌麿 江戸時代(19世紀前期)
雪月花図 勝川春章 天明3-7年(1783-87)頃
婦人風俗十二か月 寛政元-4年(1789-92)頃
開催場所 出光美術館開催期間2016/02/20〜2016/03/27休催日月曜日 (ただし3月21日は開館)
開催時間 午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)