2016年05月06日
憲法 平成22年度第1問
A県の条例は洗髪設備なしの理容所の営業の自由を侵害し違憲無効である。以下に理由を述べる。
1 22条1項は公共の福祉に反しないかぎり職業選択の自由を保障しているが、職業は継続的活動であるとともに分業社会においては社会的機能分担の活動たる性質を有するから人格的価値と不可欠である。このような職業の意義に照らすと選択のみならず遂行(営業)の自由も同条で保障されていると解すべきである。
もっとも職業は社会的相互関連性が大きいため公共の福祉による制約を精神的自由におけるよりも強く受ける(二重の基準の理論)。ここで公共の福祉とは人権相互の矛盾衝突を解消するための実質的公平の原理とする(一元的内在制約説)が通説的だが、人権を制限できるのが他の人権だけであると解するのは狭すぎて妥当でなく、それぞれの権利を制約するに足りる質を持つ限り様々な制約根拠はあり得ると解する。そして職業は千差万別だからそれに対する制約も各種各様である。そのため、ある規制が22条1項の公共の福祉によるものか否かは、規制の合理性があるか否かによるべきであり(合理性の基準)、国民の生命・自由の保護という消極目的の場合は規制の目的が公共の福祉に適合するものであり、規制の手段が目的と関連性を有し、合理性、必要性が認められるか否かによって判断すべきである(厳格な合理性の基準)。一方、経済の調和的発展のための積極目的の場合は、目的が正当で手段が著しく不合理でないかを検討すべきである(明白性の原則)。
2 理容所の営業も一般的に営業の自由の一環として21条の保護の下にある。理容師法は理容師の資格を定めているがこれは一定の技術をもつ者のみに営業させる趣旨であり公共の福祉に適合する。本件条例は、このような資格制に加えて洗髪設備の設置を義務付けるものであり、これは従来適法とされてきた洗髪設備なしの理容所の営業の自由を直接的に制約する効果がある。そのため、まず本件条例の目的が公共の福祉意に適合しているかどうかの検討が必要になる。
本件条例の目的は@理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要望した場合等に適切な施術ができるようにすることで利用業務が適正に行われるようにすること及びA理容所における一層の衛生確保により公衆衛生の向上を図ることである。まず@の目的について、現に洗髪設備のない理容所が存在する立法事実の下では、洗髪設備のない理容所の理容師が洗髪を必要と認めることはありえず、また、洗髪設備のない理容所を選んでサービスを受けに来た利用者は洗髪を希望するはずがない。これらは結局洗髪設備の設置や洗髪設備ありの理容所を選ぶ利用者の意思を後見的に定めるもので、洗髪が人格の破壊をもたらすものでない以上、公共の福祉によるものとは言えない。
一方、Aについては、公衆衛生の向上という究極目的及び衛生確保という二次的目的はいずれも国民の生命・健康を警察目的で保護するものであり公共の福祉に適合する。
3 そうすると次にAの目的について手段審査することになるが、本件条例独自の目的は衛生確保であるから、これについて検討するのが適切である。衛生確保という目的と洗髪設備の設置を義務付けという手段は抽象的には関連性を有するが、洗髪設備のない理容所の衛生状態が洗髪設備のないことによって特に悪いことを示す立法事実はない。抽象的には洗髪設備自体が雑菌の温床になるなどかえって衛生状態が悪化することも考えられる。そのため具体的な関連性に欠けるというべきである。関連性の乏しい手段に合理性は乏しく、それらを埋め合わせるだけの必要性の大きさも見いだせない。
なお、このように洗髪設備の設置義務付けが関連性・合理性・必要性に乏しい手段であること、及びA県では洗髪設備なしの理容所が多く開設され、その利用者が増加した結果、従来から存在していた利用者が激減しているという立法事実を合わせて考えると、衛生確保というのは表向きの目的に過ぎず、本件条例の本当の動機は従来の理容所の保護にあると推測される。法の目的を含めて立法府による再検討が必要である。
4 したがって、表記の結論となる。
1 22条1項は公共の福祉に反しないかぎり職業選択の自由を保障しているが、職業は継続的活動であるとともに分業社会においては社会的機能分担の活動たる性質を有するから人格的価値と不可欠である。このような職業の意義に照らすと選択のみならず遂行(営業)の自由も同条で保障されていると解すべきである。
もっとも職業は社会的相互関連性が大きいため公共の福祉による制約を精神的自由におけるよりも強く受ける(二重の基準の理論)。ここで公共の福祉とは人権相互の矛盾衝突を解消するための実質的公平の原理とする(一元的内在制約説)が通説的だが、人権を制限できるのが他の人権だけであると解するのは狭すぎて妥当でなく、それぞれの権利を制約するに足りる質を持つ限り様々な制約根拠はあり得ると解する。そして職業は千差万別だからそれに対する制約も各種各様である。そのため、ある規制が22条1項の公共の福祉によるものか否かは、規制の合理性があるか否かによるべきであり(合理性の基準)、国民の生命・自由の保護という消極目的の場合は規制の目的が公共の福祉に適合するものであり、規制の手段が目的と関連性を有し、合理性、必要性が認められるか否かによって判断すべきである(厳格な合理性の基準)。一方、経済の調和的発展のための積極目的の場合は、目的が正当で手段が著しく不合理でないかを検討すべきである(明白性の原則)。
2 理容所の営業も一般的に営業の自由の一環として21条の保護の下にある。理容師法は理容師の資格を定めているがこれは一定の技術をもつ者のみに営業させる趣旨であり公共の福祉に適合する。本件条例は、このような資格制に加えて洗髪設備の設置を義務付けるものであり、これは従来適法とされてきた洗髪設備なしの理容所の営業の自由を直接的に制約する効果がある。そのため、まず本件条例の目的が公共の福祉意に適合しているかどうかの検討が必要になる。
本件条例の目的は@理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要望した場合等に適切な施術ができるようにすることで利用業務が適正に行われるようにすること及びA理容所における一層の衛生確保により公衆衛生の向上を図ることである。まず@の目的について、現に洗髪設備のない理容所が存在する立法事実の下では、洗髪設備のない理容所の理容師が洗髪を必要と認めることはありえず、また、洗髪設備のない理容所を選んでサービスを受けに来た利用者は洗髪を希望するはずがない。これらは結局洗髪設備の設置や洗髪設備ありの理容所を選ぶ利用者の意思を後見的に定めるもので、洗髪が人格の破壊をもたらすものでない以上、公共の福祉によるものとは言えない。
一方、Aについては、公衆衛生の向上という究極目的及び衛生確保という二次的目的はいずれも国民の生命・健康を警察目的で保護するものであり公共の福祉に適合する。
3 そうすると次にAの目的について手段審査することになるが、本件条例独自の目的は衛生確保であるから、これについて検討するのが適切である。衛生確保という目的と洗髪設備の設置を義務付けという手段は抽象的には関連性を有するが、洗髪設備のない理容所の衛生状態が洗髪設備のないことによって特に悪いことを示す立法事実はない。抽象的には洗髪設備自体が雑菌の温床になるなどかえって衛生状態が悪化することも考えられる。そのため具体的な関連性に欠けるというべきである。関連性の乏しい手段に合理性は乏しく、それらを埋め合わせるだけの必要性の大きさも見いだせない。
なお、このように洗髪設備の設置義務付けが関連性・合理性・必要性に乏しい手段であること、及びA県では洗髪設備なしの理容所が多く開設され、その利用者が増加した結果、従来から存在していた利用者が激減しているという立法事実を合わせて考えると、衛生確保というのは表向きの目的に過ぎず、本件条例の本当の動機は従来の理容所の保護にあると推測される。法の目的を含めて立法府による再検討が必要である。
4 したがって、表記の結論となる。
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