2016年02月01日
民法 平成17年度第1問
問題文
工場用機械メーカーAは、Bからの工場用機械の製作を請け負い、これを製作して、Bに引き渡した。その工場用機械(以下「本件機械」という。)は、Bが使用してみたところ、契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたのに、不具合があって1時間当たり2000個程度の商品生産能力しかないことが判明した。そこで、Bは、直ちに本件機械の不具合をAに告げて修理を求めた。この事案について、以下の問いに答えよ。なお、各問いは独立した問いである。
1 Bはこうした不具合があったのでは本件機械を導入する意味がないと考えているが、本件機械を契約どおりの商品生産能力の機械とする修理は可能である。Aが修理をしようとしないので、Bは代金を支払っておらず、また、Bには商品の十分な生産ができないことによる営業上の損害が発生している。この場合に、Bの代金債務についての連帯保証人であるCは、Aからの保証債務の履行請求に対してどのような主張をすることができるか。
2 Aが修理をしようとしないため、Bはやむを得ずDに本件機械の修理を依頼し、Dは修理を完了した。その後、Bは、営業不振により高利貸しからの融資を受ける状態になり、結局、多額の債務を残して行方不明となり、Dへの修理代金の支払もしていない。この場合に、Aは本件機械の引渡しの際にBから代金全額の支払いを受けているものとして、Dは、Aに対してどのような請求をすることができるか。
設問1
Cは保証債務の付従性により主債務者Bのもつ以下の抗弁権を援用できる。
1 修補義務の先履行
(1)Aの修補義務の根拠
AB間では請負契約(632条)が締結されており、請負人Aは注文者Bに対して請負目的物の瑕疵担保責任として修補義務を負う(634条)。請求原因は「瑕疵」(同条)である。「瑕疵」とは契約で決められた性質を有さないことを言い、本件機械は契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたのに不具合のため1時間当たり2000個程度の商品生産能力しかないことは「瑕疵」に当たる。
したがって、Aは修補義務を負う。
(2)Aの修補義務とBの報酬支払義務との関係
これについては請負の担保責任の法的性質が問題となる。請負契約は請負人が仕事完成義務を負う契約類型だから、瑕疵担保と債務不履行の区別がつきにくい。そのため請負の担保責任は端的に債務不履行責任の性質を有すると解すべきである。そうすると修補義務は仕事完成義務の性質を有するから、報酬支払義務より先に履行すべきものである(633条)。
2 損害賠償請求権との同時履行
(1)Aの損害賠償義務の根拠
Bは商品の十分な生産ができないことによる営業上の損害を、瑕疵の「修補とともに」賠償請求しうる。要件は@「瑕疵」の他にA「損害」が必要である。
AとしてBは上記の営業上の損害を主張立証することになるが、このような瑕疵結果損害も請負の担保責任の内容となるかが問題となる。仕事完成義務とは別の保護義務違反の問題とする見解もある。しかし、前述のように請負の担保責任の法的性質は債務不履行であるから、瑕疵結果損害も634条2項の「損害」として請求できると解する。
(2)Bの損害賠償請求権とAの報酬請求権の関係
同時履行である(634条2項後段、533条)。
(3)同時履行の範囲
目的物の引渡しと報酬支払が同時履行と解される(633条)こととの均衡から、損害賠償請求権は報酬支払請求権の全額と同時履行の関係に立つと解する。
3 損害賠償請求権との相殺
(1)債務の性質が許さない場合は相殺はできず(505条1項但書)、受働債務に抗弁権が付着している場合はこれに当たると解されている。2で見た通りAの報酬支払い請求権には同時履行の抗弁権が付着しているから相殺できないのが原則である。しかし、この場合相互に現実の履行をさせる利益に乏しく、相殺した方が便宜だから、例外的に注文者からの相殺の抗弁が認められると解する。
(2)Cの援用の可否
457条2項は保証人が主債務者の相殺の抗弁をもって債権者に「対抗することができる」と定めている。この文言からは相殺の抗弁権を行使できそうであるが、債権者と保証契約を結んだことにより保証人に主債務者の財産の処分権を認めるのは不合理なので、保証人は、相殺によって消滅する限度で債権者に対して保証債務の履行を拒絶できると解すべきである。したがってCはBの持つ損害賠償請求権の範囲で、Bが相殺権を持つことを主張立証して保証債務の履行を拒絶できると解する。
4 解除
(1)Bの635条に基づく解除権の有無
635条の解除権を行使するための請求原因には@「瑕疵」、A契約目的を達成できないことが必要である。Aは抗弁と解する余地もあるが、契約の拘束力から解放する根拠として請求原因となると解する。本件では@は前述のとおりであり、AもBは不具合のために本件機械を導入する意味がないと考えているから、満たす。したがって、Bは635条に基づく解除権を有する。
(2)Cの援用の可否
CはAB間の契約の当事者ではないから、CにはAB間の契約について解除権はない。しかし、解除権が行使された場合の保証人は主債務者が解除権を有することを理由に保証債務の履行を拒絶できると解すべきである。CはAが解除権を有することを理由に保証債務の履行を拒絶できる。
設問2
1 423条に基づき、Bに対する修理代金支払請求権を保全するため、BのAに対する修補に代わる損害賠償請求権を代位行使できるか検討する。
(1)請求原因は、@被保全債権の存在、A保全の必要性(債務者の無資力)、B代位行使する債権の存在(以上423条1項)と解する。
本件で@は前述のとおり満たす。AはBが多額の債務を抱えていることから満たすと思われるが、立証のためにはDは利害関係人として家庭裁判所に財産管理人の選任を請求し(25条)、財産状況を確認する必要があろう。Bについて、BはAに対して修補に代わる損害賠償請求か修補とともにする損害賠償請求かを選択できるため(634条1項)、選任された財産管理人が「修補に代えて」修補相当額の損害賠償を選択した場合には、この要件を満たす。
(2)Aは抗弁として@代位を許す債権ではないこと(423条1項但書)、A弁済期が到来していないこと(同2項)を主張しうる。本件では@は認められない。Aについて、損害賠償請求権は請求時に弁済期が到来する(412条3項)から、認められない。
(3)以上より、DはBの財産管理人を置くことを請求し、AとBの要件を満たす場合に限り表記の代位行使ができる。
2 703条に基づきAに対して修補費用を不当利得返還請求できるか検討する。
(1)前提として、2は1の請求が認められない場合に補充的に請求できるだけなのか、不当利得制度の本質が問題となる。公平説によれば不当利得は補充的だが、公平説は物権行為の無因性を採用したドイツの議論であって、日本民法の解釈として不適当である。日本民法の解釈としては利得の原因に応じて類型化する説が妥当であり、したがって不当利得制度は補充制を持たないと考える。本件でもDは1と2を併存的・選択的に請求できる。
(2)本件のような侵害利得の事例では請求原因は@Aの受益、A@がDの権利に由来することと解する。一般的には⑴受益⑵損失⑶因果関係⑷法律上の原因のないことを挙げるが、⑵と⑶はAに吸収される。⑷は、物権的請求権で占有権限が相手方の抗弁であることとの均衡から、法律上の原因のあることがAの抗弁になると解する。
本件では、Aは修補義務を免れている(@)。また、@はDのBに対する報酬請求権に由来するものである(A)。
(3)Aは抗弁として@権利喪失、A法律上の原因の存在、B利得消滅、C消滅時効を主張立証しうるが、本件ではいずれも認められない。
(4)したがって、DはAに対し、表記の請求をすることができる。 以上
工場用機械メーカーAは、Bからの工場用機械の製作を請け負い、これを製作して、Bに引き渡した。その工場用機械(以下「本件機械」という。)は、Bが使用してみたところ、契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたのに、不具合があって1時間当たり2000個程度の商品生産能力しかないことが判明した。そこで、Bは、直ちに本件機械の不具合をAに告げて修理を求めた。この事案について、以下の問いに答えよ。なお、各問いは独立した問いである。
1 Bはこうした不具合があったのでは本件機械を導入する意味がないと考えているが、本件機械を契約どおりの商品生産能力の機械とする修理は可能である。Aが修理をしようとしないので、Bは代金を支払っておらず、また、Bには商品の十分な生産ができないことによる営業上の損害が発生している。この場合に、Bの代金債務についての連帯保証人であるCは、Aからの保証債務の履行請求に対してどのような主張をすることができるか。
2 Aが修理をしようとしないため、Bはやむを得ずDに本件機械の修理を依頼し、Dは修理を完了した。その後、Bは、営業不振により高利貸しからの融資を受ける状態になり、結局、多額の債務を残して行方不明となり、Dへの修理代金の支払もしていない。この場合に、Aは本件機械の引渡しの際にBから代金全額の支払いを受けているものとして、Dは、Aに対してどのような請求をすることができるか。
設問1
Cは保証債務の付従性により主債務者Bのもつ以下の抗弁権を援用できる。
1 修補義務の先履行
(1)Aの修補義務の根拠
AB間では請負契約(632条)が締結されており、請負人Aは注文者Bに対して請負目的物の瑕疵担保責任として修補義務を負う(634条)。請求原因は「瑕疵」(同条)である。「瑕疵」とは契約で決められた性質を有さないことを言い、本件機械は契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたのに不具合のため1時間当たり2000個程度の商品生産能力しかないことは「瑕疵」に当たる。
したがって、Aは修補義務を負う。
(2)Aの修補義務とBの報酬支払義務との関係
これについては請負の担保責任の法的性質が問題となる。請負契約は請負人が仕事完成義務を負う契約類型だから、瑕疵担保と債務不履行の区別がつきにくい。そのため請負の担保責任は端的に債務不履行責任の性質を有すると解すべきである。そうすると修補義務は仕事完成義務の性質を有するから、報酬支払義務より先に履行すべきものである(633条)。
2 損害賠償請求権との同時履行
(1)Aの損害賠償義務の根拠
Bは商品の十分な生産ができないことによる営業上の損害を、瑕疵の「修補とともに」賠償請求しうる。要件は@「瑕疵」の他にA「損害」が必要である。
AとしてBは上記の営業上の損害を主張立証することになるが、このような瑕疵結果損害も請負の担保責任の内容となるかが問題となる。仕事完成義務とは別の保護義務違反の問題とする見解もある。しかし、前述のように請負の担保責任の法的性質は債務不履行であるから、瑕疵結果損害も634条2項の「損害」として請求できると解する。
(2)Bの損害賠償請求権とAの報酬請求権の関係
同時履行である(634条2項後段、533条)。
(3)同時履行の範囲
目的物の引渡しと報酬支払が同時履行と解される(633条)こととの均衡から、損害賠償請求権は報酬支払請求権の全額と同時履行の関係に立つと解する。
3 損害賠償請求権との相殺
(1)債務の性質が許さない場合は相殺はできず(505条1項但書)、受働債務に抗弁権が付着している場合はこれに当たると解されている。2で見た通りAの報酬支払い請求権には同時履行の抗弁権が付着しているから相殺できないのが原則である。しかし、この場合相互に現実の履行をさせる利益に乏しく、相殺した方が便宜だから、例外的に注文者からの相殺の抗弁が認められると解する。
(2)Cの援用の可否
457条2項は保証人が主債務者の相殺の抗弁をもって債権者に「対抗することができる」と定めている。この文言からは相殺の抗弁権を行使できそうであるが、債権者と保証契約を結んだことにより保証人に主債務者の財産の処分権を認めるのは不合理なので、保証人は、相殺によって消滅する限度で債権者に対して保証債務の履行を拒絶できると解すべきである。したがってCはBの持つ損害賠償請求権の範囲で、Bが相殺権を持つことを主張立証して保証債務の履行を拒絶できると解する。
4 解除
(1)Bの635条に基づく解除権の有無
635条の解除権を行使するための請求原因には@「瑕疵」、A契約目的を達成できないことが必要である。Aは抗弁と解する余地もあるが、契約の拘束力から解放する根拠として請求原因となると解する。本件では@は前述のとおりであり、AもBは不具合のために本件機械を導入する意味がないと考えているから、満たす。したがって、Bは635条に基づく解除権を有する。
(2)Cの援用の可否
CはAB間の契約の当事者ではないから、CにはAB間の契約について解除権はない。しかし、解除権が行使された場合の保証人は主債務者が解除権を有することを理由に保証債務の履行を拒絶できると解すべきである。CはAが解除権を有することを理由に保証債務の履行を拒絶できる。
設問2
1 423条に基づき、Bに対する修理代金支払請求権を保全するため、BのAに対する修補に代わる損害賠償請求権を代位行使できるか検討する。
(1)請求原因は、@被保全債権の存在、A保全の必要性(債務者の無資力)、B代位行使する債権の存在(以上423条1項)と解する。
本件で@は前述のとおり満たす。AはBが多額の債務を抱えていることから満たすと思われるが、立証のためにはDは利害関係人として家庭裁判所に財産管理人の選任を請求し(25条)、財産状況を確認する必要があろう。Bについて、BはAに対して修補に代わる損害賠償請求か修補とともにする損害賠償請求かを選択できるため(634条1項)、選任された財産管理人が「修補に代えて」修補相当額の損害賠償を選択した場合には、この要件を満たす。
(2)Aは抗弁として@代位を許す債権ではないこと(423条1項但書)、A弁済期が到来していないこと(同2項)を主張しうる。本件では@は認められない。Aについて、損害賠償請求権は請求時に弁済期が到来する(412条3項)から、認められない。
(3)以上より、DはBの財産管理人を置くことを請求し、AとBの要件を満たす場合に限り表記の代位行使ができる。
2 703条に基づきAに対して修補費用を不当利得返還請求できるか検討する。
(1)前提として、2は1の請求が認められない場合に補充的に請求できるだけなのか、不当利得制度の本質が問題となる。公平説によれば不当利得は補充的だが、公平説は物権行為の無因性を採用したドイツの議論であって、日本民法の解釈として不適当である。日本民法の解釈としては利得の原因に応じて類型化する説が妥当であり、したがって不当利得制度は補充制を持たないと考える。本件でもDは1と2を併存的・選択的に請求できる。
(2)本件のような侵害利得の事例では請求原因は@Aの受益、A@がDの権利に由来することと解する。一般的には⑴受益⑵損失⑶因果関係⑷法律上の原因のないことを挙げるが、⑵と⑶はAに吸収される。⑷は、物権的請求権で占有権限が相手方の抗弁であることとの均衡から、法律上の原因のあることがAの抗弁になると解する。
本件では、Aは修補義務を免れている(@)。また、@はDのBに対する報酬請求権に由来するものである(A)。
(3)Aは抗弁として@権利喪失、A法律上の原因の存在、B利得消滅、C消滅時効を主張立証しうるが、本件ではいずれも認められない。
(4)したがって、DはAに対し、表記の請求をすることができる。 以上
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