2016年02月01日
民法 平成16年度第2問
1 Eが抵当権に基づく妨害排除請求としてAの登記の抹消請求ができるか検討する。
(1)請求原因は@EC間の消費貸借契約、A@の担保のため甲不動産に抵当権設定、B同不動産にAの抵当権設定登記の存在と解する。抵当不動産の占有者に対して明渡しを求める場合はほかにC競売手続の妨害目的とD優先弁済請求権の行使が困難となる状況があることが要件となるが、先順位の抵当権設定登記の場合はそれがあるだけで後順位抵当権者は劣後することになるから、それらの要件は不要と解する。
(2)これに対してAは、登記保持権限の抗弁として@AB間の消費貸借契約、A@の担保のため甲不動産に抵当権設定、B抵当権設定当時に甲不動産をCが所有していたこと主張立証する。Bは、抵当権設定契約が物権契約であることから要求される。
(3)それに対してEは、Bの債務の時効消滅を主張する。要件としては@@から10年経過(167条1項)、AEの時効援用(145条)、BBの無資力(後述)と解される。
ア Aの時効援用について、Eの立場から詳述する。判例は時効援用権者を時効により直接の利益を受ける者とする。そして後順位抵当権者にとって、先順位抵当権が時効消滅することによる配当額増加に対する期待は反射的利益に過ぎないから、後順位抵当権者は直接受益者に当たらないという。この判例に従うと、後順位抵当権者Eには時効援用権が認められないということになる。ここで反射的利益とされたことの意味は、後順位抵当権者は先順位抵当権の登記を抹消しなくても自己の債権が無価値になるわけではないこと。また、時効援用は他の抵当権者にも影響することを考慮されてのことだと考えられる。
しかし、時効を援用しうる債務者が無資力である場合には、後順位抵当権者は時効を援用しないと被保全債権が無価値となる。また、無価値となる債権の保全という理由があれば、他の抵当権者に影響がでることも正当化されうる。したがって、債務者が無資力である場合には、後順位抵当権者も直接受益者といえ、時効援用権者になると解すべきである。
したがって、Bの要件が加わる場合にEはBの時効を援用できる。そしてBは債務超過で行方不明だから、Eは「利害関係人」(25条)として管理人を置くことを家庭裁判所に請求し、管理人により無資力を証明させることにより、Bを満たす。
イ Aの反論及び私見
時効はある事実状態の継続のみで権利の変動を認める制度だから、債務者の無資力を要件に加えることは妥当でなく、Eの主張は採用できない。
もっとも、Eの言い分の趣旨はEにBの時効援用権を代位行使(423条)させることで実質的に同じ効果をもたらすことができる。その際の請求原因はT被保全債権の存在U代位債権の存在V債務者の無資力と解される。それらを主張立証することにより、EはBの時効援用権を代位行使することを主張できる。
この点についてAからは時効援用権が一身専属的権利(423条1項但書)にあたるという反論があり得る。しかし、債務者が無資力の状態では、将来にわたって債務返済をもくろむ債務者の意思よりも、現在の債権の保全を図ろうとする債権者の意思を優先すべきだから、債務超過者の時効援用権は一身専属権に当たらないと解する。
(4)ア これに対してAは、Cが複数回にわたって合計800万円をBに代わって弁済し、残りの債務も代わって弁済する旨繰り返し申し出たことが「承認」(147条3項)に当たり、時効が中断するという抗弁を出しうる。
イ それに対してEは、物上保証人には「承認」権がないと主張しうる。
ウ 私見
承認とは債務の存在を認識していることを示すことであり、これは財産の処分を伴うから債権者のみが承認権者に当たると解される。
もっとも、CはBの父親であること、前述のようにCはBの代わりに弁済し、また弁済を続ける意思表明をしていることから、Bの債務はCが免責的に引受けたと解すべきである。免責的債務引受について明文はないが、引受人に対する債務引受の合意と債務者に対する債務免除(519条)の混合契約であり、免除は債権者の一方的意思表示で行うことができるから、免責的債務引受は債権者と引受人の合意で行うことができると解される。本問でも、AとCとの間で免責的債務引受が行われた。したがって、Cは債務者として承認し、よって時効は中断した。
この場合、(3)で検討したBの時効援用権の代位行使はCのそれに変わる。Cが無資力である場合に限り代位行使できる。
(5)これに対してEは、Cの免責的債務引受又は承認が詐害行為(424条)に当たることを主張しうる。
2 以上みた通り、Cが無資力であり、かつ、Cの免責的債務引受又は承認が詐害行為に当たらないかぎり、EのAに対する抵当権設定登記の抹消登記請求は認められない。 以上
かゆいところ
A「これは単純に難しいわ。」
B「主張反論で書かずに普通に書けばもうちょっと読みやすくかけるんじゃないの?」
A「まあそうかもね。あと、抵当権に基づく妨害排除の要件としてそもそも債務者の無資力を要求するべきなのかもしれないわ。」
(1)請求原因は@EC間の消費貸借契約、A@の担保のため甲不動産に抵当権設定、B同不動産にAの抵当権設定登記の存在と解する。抵当不動産の占有者に対して明渡しを求める場合はほかにC競売手続の妨害目的とD優先弁済請求権の行使が困難となる状況があることが要件となるが、先順位の抵当権設定登記の場合はそれがあるだけで後順位抵当権者は劣後することになるから、それらの要件は不要と解する。
(2)これに対してAは、登記保持権限の抗弁として@AB間の消費貸借契約、A@の担保のため甲不動産に抵当権設定、B抵当権設定当時に甲不動産をCが所有していたこと主張立証する。Bは、抵当権設定契約が物権契約であることから要求される。
(3)それに対してEは、Bの債務の時効消滅を主張する。要件としては@@から10年経過(167条1項)、AEの時効援用(145条)、BBの無資力(後述)と解される。
ア Aの時効援用について、Eの立場から詳述する。判例は時効援用権者を時効により直接の利益を受ける者とする。そして後順位抵当権者にとって、先順位抵当権が時効消滅することによる配当額増加に対する期待は反射的利益に過ぎないから、後順位抵当権者は直接受益者に当たらないという。この判例に従うと、後順位抵当権者Eには時効援用権が認められないということになる。ここで反射的利益とされたことの意味は、後順位抵当権者は先順位抵当権の登記を抹消しなくても自己の債権が無価値になるわけではないこと。また、時効援用は他の抵当権者にも影響することを考慮されてのことだと考えられる。
しかし、時効を援用しうる債務者が無資力である場合には、後順位抵当権者は時効を援用しないと被保全債権が無価値となる。また、無価値となる債権の保全という理由があれば、他の抵当権者に影響がでることも正当化されうる。したがって、債務者が無資力である場合には、後順位抵当権者も直接受益者といえ、時効援用権者になると解すべきである。
したがって、Bの要件が加わる場合にEはBの時効を援用できる。そしてBは債務超過で行方不明だから、Eは「利害関係人」(25条)として管理人を置くことを家庭裁判所に請求し、管理人により無資力を証明させることにより、Bを満たす。
イ Aの反論及び私見
時効はある事実状態の継続のみで権利の変動を認める制度だから、債務者の無資力を要件に加えることは妥当でなく、Eの主張は採用できない。
もっとも、Eの言い分の趣旨はEにBの時効援用権を代位行使(423条)させることで実質的に同じ効果をもたらすことができる。その際の請求原因はT被保全債権の存在U代位債権の存在V債務者の無資力と解される。それらを主張立証することにより、EはBの時効援用権を代位行使することを主張できる。
この点についてAからは時効援用権が一身専属的権利(423条1項但書)にあたるという反論があり得る。しかし、債務者が無資力の状態では、将来にわたって債務返済をもくろむ債務者の意思よりも、現在の債権の保全を図ろうとする債権者の意思を優先すべきだから、債務超過者の時効援用権は一身専属権に当たらないと解する。
(4)ア これに対してAは、Cが複数回にわたって合計800万円をBに代わって弁済し、残りの債務も代わって弁済する旨繰り返し申し出たことが「承認」(147条3項)に当たり、時効が中断するという抗弁を出しうる。
イ それに対してEは、物上保証人には「承認」権がないと主張しうる。
ウ 私見
承認とは債務の存在を認識していることを示すことであり、これは財産の処分を伴うから債権者のみが承認権者に当たると解される。
もっとも、CはBの父親であること、前述のようにCはBの代わりに弁済し、また弁済を続ける意思表明をしていることから、Bの債務はCが免責的に引受けたと解すべきである。免責的債務引受について明文はないが、引受人に対する債務引受の合意と債務者に対する債務免除(519条)の混合契約であり、免除は債権者の一方的意思表示で行うことができるから、免責的債務引受は債権者と引受人の合意で行うことができると解される。本問でも、AとCとの間で免責的債務引受が行われた。したがって、Cは債務者として承認し、よって時効は中断した。
この場合、(3)で検討したBの時効援用権の代位行使はCのそれに変わる。Cが無資力である場合に限り代位行使できる。
(5)これに対してEは、Cの免責的債務引受又は承認が詐害行為(424条)に当たることを主張しうる。
2 以上みた通り、Cが無資力であり、かつ、Cの免責的債務引受又は承認が詐害行為に当たらないかぎり、EのAに対する抵当権設定登記の抹消登記請求は認められない。 以上
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A「これは単純に難しいわ。」
B「主張反論で書かずに普通に書けばもうちょっと読みやすくかけるんじゃないの?」
A「まあそうかもね。あと、抵当権に基づく妨害排除の要件としてそもそも債務者の無資力を要求するべきなのかもしれないわ。」
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