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2016年02月01日

民法 平成21年度第1問

設問1
1 BはCに対し、所有権に基づく返還請求権を行使して甲絵画の引渡請求をすることができるか検討する。
(1)Cは所有権喪失の抗弁として売買契約を主張する。Bはそれに対して、Aに授権がなかったこと又はAが無権代理人だったことを主張する。Cはそれに対して表見代理を主張するだろう。争点は、@BがAに代理権を与えたか否か、A表見代理の成立の有無である。
(2)@について
 Bとしては、Aに対して「売却についての委任状」を交付したのは甲絵画の処分を授権する趣旨であり、処分の代理権を与える趣旨ではないから、109条ないし112条の「代理権」がなく、表見代理は成立しないと主張しうる。
 しかし、代理権授与は事務処理契約であって、事務処理契約から直接に代理権が生じると解する。仮に処分に関する代理権でなく処分の授権がされたにすぎない場合でも、利益状況は異ならないから、109条や112条は類推適用されると考える。
(3)Aについて
ア 109条の表見代理の成否
 Cは@Bの代理人としてのAの行為(甲絵画の売買契約)、A@に先立つ代理権授与行為(委任状)を主張立証し、Bは@代理権消滅(「甲絵画を売るのはやめた。委任状は破棄しておくように。」と言ったこと)、ACの悪意・過失(109条但書)を主張立証するが、Cに悪意・過失は認められない。
 したがって、109条の表見代理が成立する。
イ 112条の表見代理の成否
 112条の条文からは要件は明らかではないが、112条も他の表見代理の規定と同様に表見法理を定めた規定と解されるから、@かつての代理権の存在、A以前の代理について本人の帰責性、B相手方がかつて代理行為者と取引していたことなどがあり、その際存在していた代理権が今も存続していると信じたことと解する。Bについては、単に行為の時点で代理権の不存在を知らなかったことで足りるとする見解もあるが、一回代理権を与えただけでその後延々と表見代理が成立するリスクを負うのは妥当でないから採用しない。
 本件では、CはBと何度が同種の取引をしたことがあるという関係にあるだけで、適法に授権を受けたAと取引していたことがあるわけではないから、同条は適用も類推適用もされないと考える(AがかつてBの代理人として何度かCと取引していた事実があれば同条が適用され、Aがかつて代理権はないがBから処分授権を受けてCと取引していた場合には同条が類推適用されると考える)。
 したがって、112条は適用されない。
(4)したがって、109条の表見代理が成立することにより、BはCから甲絵画を取り戻すことができない。
設問2前段
1 Aは所有権に基づく返還請求権を行使し、Dに対して乙自動車の引渡請求をするのに対し、DはAの親権者B(Aの財産管理権を有する、824条)による乙自動車の売買契約を主張する。Aは、利益相反行為(826条)並びに代理権濫用を主張しうる。
2 利益相反行為(826条)該当性
 利益相反行為か否かは外形的客観的に解釈すべきである。子の所有する車を売却する行為には客観的に利益相反性はないため、利益相反行為に当たらない。
3 代理権濫用の有無
(1)前提として、824条はこの財産管理の代理権を親権者に与えた規定であり、この規定により親権者は子の財産の法定代理人となっている。
(2)代理権濫用とは、本人のためでなく自己に経済的利益を帰属させる目的で、代理権の範囲内の行為をすることである。効果は93条但書類推適用により無効である。Bは、自己の株式購入の資金とする目的で、Aの財産管理権(824条)を行使しているから、代理権濫用に当たり得る。
 しかし、親権者の財産管理権(824条)に基づく行為はそれが利益相反行為(826条)に当たらないかぎり広範な裁量があるから、824条の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がない限り代理権濫用に当たらないと解する。
 本件では、Bの株式投資により得られる利益がAにも還元されることがありうること、A自身も売却を望んでいたことから、824条の趣旨に著しく反する特段の事情は認められない。
(3)したがって、代理権濫用に当たらない。
4 したがって、AはDから乙自動車を取り戻すことができない。
絶問2後段
1 親権喪失の宣告が確定していた場合には、AにはBの財産管理権(824条)はない。そのためAの行為は他人物売買となり、債権的に有効だが物権的に無効であるから、Aの所有権に基づく返還請求は認められるのが原則である。この場合にDは112条の表見代理を主張することが考えられる。
2 112条が法定代理に適用されるか。
 112条も表見代理の規定である。表見代理の趣旨は、取引安全もあるが、主なのは表見法理と解する。すなわち、表見代理の成立には本人の帰責性が要件となる。
 しかし、法定代理権の場合には、それは本人に授与されたものではなく、本人に帰責性がない。
 したがって、112条は法定代理に適用されないと解する。
3 したがって、AはDから乙自動車を取り戻すことができる。このように解してもDはBに追奪担保責任(561条)を問えるので不当ではない。  以上

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posted by izanagi0420new at 16:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法
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