2024年05月11日
光の翼 飛躍の翼16 赤錆の斧1
霊峰レジリスの登山口間近に立つ、黒い屋根のロッジの前。
左目に眼帯をしたスキンヘッドの大柄な男が、刃の赤い斧を幾度も振るっている。
防寒着に身を包んだ金髪碧眼の少年―ファラームのアルス王子は、紙一重のところで難を逃れていた。
「ははははは!なかなかしぶといじゃねえか、王子サマよ!」
ただし王子がかわしているのではなく、左手で斧を振るう男がお遊びでわざと外しているのが現実だった。
「はあ、はあ…。」
実際、斧を扱う男が余裕綽々なのに対し、身軽なアルス王子は目に見えて疲労が溜まっている。
既に放っておいても崩れ落ちてしまいかねない。
「だが、もうそろそろ飽きた。ここらで終いにさせてもらうぜ!」
「待て!!!」
僕が急ぎアルス王子と男の間に割って入ると、紅炎達も後に続いた。
「何だ、てめえら!?」
「アルス王子を捜しに来たモンだけど。王子を殺そうとしてるっつーことは、おっさんがラダンとかいう強盗かな?」
「ほう、オレを知ってやがるのか。だが、その上でツラを出すのは賢い選択じゃねえな!」
ラダンが振り下ろした赤錆の斧を、駆君が土をまとわせた両手で受け止める。
「ぐッ…随分な馬鹿力じゃねエか…!」
「おい、誘拐犯!アルス王子を連れて逃げろ!こいつは僕達で何とかしてやる!」
「は、はい!―アルスくん、こっちに!」
「すみません、ユナさん…!」
「待て、てめえら!」
去り行くアルス王子とユナに気を取られたラダンは、斧から手を離した駆君に腹部を殴られる。
「くっ、このガキ…!」
右手で駆君を捕らえようとしたがかわされ、更に両足を氷華君の冷気で凍らせられた。
「あんたの相手はボクたちだよ!」
「ああ!?ほざくな、ザコが!」
魄力を上げて両足に絡み付いた氷を容易く打ち砕き、ラダンは吠える。
「てめえらに用事はねえんだよ!少しでも楽に殺してほしけりゃ、とっとと道を空けやがれ!」
「まあまあ、落ち着きなよ。こうして6人がかりで狙われるなんて、裏の大物志望サマにとっちゃ名誉な話だろ?」
メイルが背中の大剣の柄を握り、微笑みながら挑発する。
「それにどうせ殺しをするなら、あの2人よりあたしらをやる方があんたの名前も上がると思うけどね。人数的にも、強さ的にもさ。」
「…ちっ、口の上手いアマめ。」
野蛮な笑みを浮かべたラダンが両手で斧を握り締め、渾身の力を込めて振り下ろして来た。
「そんなセリフを叩かれちゃ、後回しにしてやれねえだろうが!」
その一撃は地面をクレーターの如くへこませ、レジリス村全体を震わせた。
皆が危なげなくかわし、僕とメイルで軽い衝撃波もお返ししたが、ラダンはどちらも斧を盾代わりにして防いでのける。
「ほう。てめえら、思ったよりはできるらしいな。もしかして、そこそこ名が知れてる使い手の1匹や2匹、いやがるか?」
「御期待に沿えなくて悪いね。あたしはしがない傭兵だし、こっちの団体さん達は人間界の出さ。良くも悪くも、名前なんてロクに通っちゃいないよ。」
「ちっ。じゃあてめえらと逃げた2匹をぶっ殺しても、単に57匹達成ってだけか。…だがまあ、100匹どころか50匹も行かねえでグズグズしてるよりはマシだな。」
ラダンはつまらなさそうにぼやくが、すぐに薄ら笑いを浮かべた。
「てめえらに恨みも興味もねえが、オレの邪魔をしたのが運のツキだ!全員まとめて、この斧のサビにしてやるぜ!」
使い込まれた斧を頭上で軽々と振り回すと、赤い刃を自慢気に見せ付けるように構え直す。
「…あんた、人の命を何だと思ってるの。」
「何だ、そりゃ?随分くだらねえ疑問だな。」
怒りと悲しみが混ざった表情で問う氷華君に、ラダンは怪訝な顔をするのみ。
「命でも何でも、この世は取るか取られるかだ。だったら自分が取る側に立って、限界まで取ってやらねえと面白くねえ。…それくらいにしか答えようがねえが、何か感想でもあるか?」
「…最低!」
「…つくづくしょうもない奴だな。」
「ははははは!何だ、その反応は!まさか、強盗にモラルだか何だかを期待してたのか!?冗談きついぜ、アホ共!」
「だはははは、そちらこそご冗談を〜。ヒョウ嬢も嵐刃も、お前を遠慮なくぶちのめして良いんだって安心しただけだぜ〜。―もちろん、俺等もな!!」
陽気な物腰から一転して顔を険しくした紅炎が、モデルガンから炎の弾丸を連射する。
「はっ、ほざくじゃねえか!ぶちのめせるもんなら、やってみやがれ!」
「言われなくても!」
「やッてやらア!」
次々に襲い掛かる火の玉を斧で打ち払うラダンに、氷の剣を握った氷華君と、拳に土をまとわせた駆君が追撃を仕掛けに行った。
対するラダンは余裕をひけらかすように無防備のまま立ち尽くし、胸部に直撃を受けたが。
「…けっ。2匹がかりでそんなもんかよ。」
「何…!」
「そんな…!」
岩を砕く剛拳にも、強烈な冷気を伴う斬撃にも、まるで動じていなかった。
「さっきのは過大評価だったな。てめえらじゃ、遊びにもならねえぜ!」
ラダンが右手の拳で、氷華君と駆君の顔を一挙に殴りつける。
「あうっ!」
「ぐあッ!」
2人は勢いよく飛ばされ、仰向けに倒れた。
「てめえ!!」
紅炎が怒りを露わに巨大な炎の弾丸を放ったが、ラダンはこれも斧での切り上げで真っ二つに引き裂いた。
「ほう、こいつはなかなか悪くねえ威力だったな。」
背後で巻き起こった2つの大爆発を眺め、得意気に笑う。
「だが1発きりじゃ、オレには通じねえぞ!」
「だったら、集中砲火してやるよ!」
僕はラダンの背後に回り、模造刀から風の斬撃を飛ばした。
「月光波(げっこうは)!」
「衝(ショウ)!」
それとほぼ同時に、麗奈が掌から撃ち出した光線と、メイルが大剣から放った衝撃波が、左右から。
「紅蓮爆炎弾(ぐれんばくえんだん)!!」
更に紅炎が再び撃った極大の炎の弾が、正面から襲い掛かった。
「ぐっ、てめえら―」
微かな焦りと、はっきりとした怒りを帯びたラダンの声は、炸裂した火球の爆音にかき消された。
左目に眼帯をしたスキンヘッドの大柄な男が、刃の赤い斧を幾度も振るっている。
防寒着に身を包んだ金髪碧眼の少年―ファラームのアルス王子は、紙一重のところで難を逃れていた。
「ははははは!なかなかしぶといじゃねえか、王子サマよ!」
ただし王子がかわしているのではなく、左手で斧を振るう男がお遊びでわざと外しているのが現実だった。
「はあ、はあ…。」
実際、斧を扱う男が余裕綽々なのに対し、身軽なアルス王子は目に見えて疲労が溜まっている。
既に放っておいても崩れ落ちてしまいかねない。
「だが、もうそろそろ飽きた。ここらで終いにさせてもらうぜ!」
「待て!!!」
僕が急ぎアルス王子と男の間に割って入ると、紅炎達も後に続いた。
「何だ、てめえら!?」
「アルス王子を捜しに来たモンだけど。王子を殺そうとしてるっつーことは、おっさんがラダンとかいう強盗かな?」
「ほう、オレを知ってやがるのか。だが、その上でツラを出すのは賢い選択じゃねえな!」
ラダンが振り下ろした赤錆の斧を、駆君が土をまとわせた両手で受け止める。
「ぐッ…随分な馬鹿力じゃねエか…!」
「おい、誘拐犯!アルス王子を連れて逃げろ!こいつは僕達で何とかしてやる!」
「は、はい!―アルスくん、こっちに!」
「すみません、ユナさん…!」
「待て、てめえら!」
去り行くアルス王子とユナに気を取られたラダンは、斧から手を離した駆君に腹部を殴られる。
「くっ、このガキ…!」
右手で駆君を捕らえようとしたがかわされ、更に両足を氷華君の冷気で凍らせられた。
「あんたの相手はボクたちだよ!」
「ああ!?ほざくな、ザコが!」
魄力を上げて両足に絡み付いた氷を容易く打ち砕き、ラダンは吠える。
「てめえらに用事はねえんだよ!少しでも楽に殺してほしけりゃ、とっとと道を空けやがれ!」
「まあまあ、落ち着きなよ。こうして6人がかりで狙われるなんて、裏の大物志望サマにとっちゃ名誉な話だろ?」
メイルが背中の大剣の柄を握り、微笑みながら挑発する。
「それにどうせ殺しをするなら、あの2人よりあたしらをやる方があんたの名前も上がると思うけどね。人数的にも、強さ的にもさ。」
「…ちっ、口の上手いアマめ。」
野蛮な笑みを浮かべたラダンが両手で斧を握り締め、渾身の力を込めて振り下ろして来た。
「そんなセリフを叩かれちゃ、後回しにしてやれねえだろうが!」
その一撃は地面をクレーターの如くへこませ、レジリス村全体を震わせた。
皆が危なげなくかわし、僕とメイルで軽い衝撃波もお返ししたが、ラダンはどちらも斧を盾代わりにして防いでのける。
「ほう。てめえら、思ったよりはできるらしいな。もしかして、そこそこ名が知れてる使い手の1匹や2匹、いやがるか?」
「御期待に沿えなくて悪いね。あたしはしがない傭兵だし、こっちの団体さん達は人間界の出さ。良くも悪くも、名前なんてロクに通っちゃいないよ。」
「ちっ。じゃあてめえらと逃げた2匹をぶっ殺しても、単に57匹達成ってだけか。…だがまあ、100匹どころか50匹も行かねえでグズグズしてるよりはマシだな。」
ラダンはつまらなさそうにぼやくが、すぐに薄ら笑いを浮かべた。
「てめえらに恨みも興味もねえが、オレの邪魔をしたのが運のツキだ!全員まとめて、この斧のサビにしてやるぜ!」
使い込まれた斧を頭上で軽々と振り回すと、赤い刃を自慢気に見せ付けるように構え直す。
「…あんた、人の命を何だと思ってるの。」
「何だ、そりゃ?随分くだらねえ疑問だな。」
怒りと悲しみが混ざった表情で問う氷華君に、ラダンは怪訝な顔をするのみ。
「命でも何でも、この世は取るか取られるかだ。だったら自分が取る側に立って、限界まで取ってやらねえと面白くねえ。…それくらいにしか答えようがねえが、何か感想でもあるか?」
「…最低!」
「…つくづくしょうもない奴だな。」
「ははははは!何だ、その反応は!まさか、強盗にモラルだか何だかを期待してたのか!?冗談きついぜ、アホ共!」
「だはははは、そちらこそご冗談を〜。ヒョウ嬢も嵐刃も、お前を遠慮なくぶちのめして良いんだって安心しただけだぜ〜。―もちろん、俺等もな!!」
陽気な物腰から一転して顔を険しくした紅炎が、モデルガンから炎の弾丸を連射する。
「はっ、ほざくじゃねえか!ぶちのめせるもんなら、やってみやがれ!」
「言われなくても!」
「やッてやらア!」
次々に襲い掛かる火の玉を斧で打ち払うラダンに、氷の剣を握った氷華君と、拳に土をまとわせた駆君が追撃を仕掛けに行った。
対するラダンは余裕をひけらかすように無防備のまま立ち尽くし、胸部に直撃を受けたが。
「…けっ。2匹がかりでそんなもんかよ。」
「何…!」
「そんな…!」
岩を砕く剛拳にも、強烈な冷気を伴う斬撃にも、まるで動じていなかった。
「さっきのは過大評価だったな。てめえらじゃ、遊びにもならねえぜ!」
ラダンが右手の拳で、氷華君と駆君の顔を一挙に殴りつける。
「あうっ!」
「ぐあッ!」
2人は勢いよく飛ばされ、仰向けに倒れた。
「てめえ!!」
紅炎が怒りを露わに巨大な炎の弾丸を放ったが、ラダンはこれも斧での切り上げで真っ二つに引き裂いた。
「ほう、こいつはなかなか悪くねえ威力だったな。」
背後で巻き起こった2つの大爆発を眺め、得意気に笑う。
「だが1発きりじゃ、オレには通じねえぞ!」
「だったら、集中砲火してやるよ!」
僕はラダンの背後に回り、模造刀から風の斬撃を飛ばした。
「月光波(げっこうは)!」
「衝(ショウ)!」
それとほぼ同時に、麗奈が掌から撃ち出した光線と、メイルが大剣から放った衝撃波が、左右から。
「紅蓮爆炎弾(ぐれんばくえんだん)!!」
更に紅炎が再び撃った極大の炎の弾が、正面から襲い掛かった。
「ぐっ、てめえら―」
微かな焦りと、はっきりとした怒りを帯びたラダンの声は、炸裂した火球の爆音にかき消された。
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