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2024年12月21日
【ファンブログ最終更新】それでは、また。
今日は、『暇人の独り言』管理人です。
去る12月17日、2025年4月22日でファンブログがサービス終了すると伝えられました。
同日以降は管理も閲覧も一切できなくなるので、本ブログともお別れとなります。
元々更新の頻度が低く、近頃に至っては拙作『光の翼』と生存報告ばかりになっていたとはいえ、丸7年は地味にいじって来た『暇人の独り言』。
それがごっそり消されるとなると、少し寂しさがあります。
まだ拙作の他に、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』語りもやろうとしていましたが、それは別の機会があればということになりそうです。
決められたものはしょうがないので、データを取って移転するなり、一種の機会と思ってこれきりで眠らせるなり、対応を考えます。
今なお御覧頂いている記事もあることだし、とりあえずデータだけは残しておこうかな…?
いずれにせよ、ファンブログとしての更新はこれで最後にさせて頂きます。
長らく管理人の他愛ない独り言にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
もしも移転した際は、引き続き御贔屓下さいますと幸いです。
そしてこの締めをするのも、とりあえずファンブログでは今回が最後です。
いつか完璧にやる気がなくなった時か拙作を完結させた時、いつもと違う意味で、それでもいつも通りな挨拶をして区切りにしようと決めておりました。
そのどちらにもなっていないタイミングで申し上げるとは予想もできませんでしたが、これもまた巡り合わせとして受け止めておきましょう。
ともあれ…
去る12月17日、2025年4月22日でファンブログがサービス終了すると伝えられました。
同日以降は管理も閲覧も一切できなくなるので、本ブログともお別れとなります。
元々更新の頻度が低く、近頃に至っては拙作『光の翼』と生存報告ばかりになっていたとはいえ、丸7年は地味にいじって来た『暇人の独り言』。
それがごっそり消されるとなると、少し寂しさがあります。
まだ拙作の他に、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』語りもやろうとしていましたが、それは別の機会があればということになりそうです。
決められたものはしょうがないので、データを取って移転するなり、一種の機会と思ってこれきりで眠らせるなり、対応を考えます。
今なお御覧頂いている記事もあることだし、とりあえずデータだけは残しておこうかな…?
いずれにせよ、ファンブログとしての更新はこれで最後にさせて頂きます。
長らく管理人の他愛ない独り言にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
もしも移転した際は、引き続き御贔屓下さいますと幸いです。
そしてこの締めをするのも、とりあえずファンブログでは今回が最後です。
いつか完璧にやる気がなくなった時か拙作を完結させた時、いつもと違う意味で、それでもいつも通りな挨拶をして区切りにしようと決めておりました。
そのどちらにもなっていないタイミングで申し上げるとは予想もできませんでしたが、これもまた巡り合わせとして受け止めておきましょう。
ともあれ…
それでは、また。
『暇人の独り言』管理人より
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2024年12月14日
管理人、2024年の漢字は…
毎度ご無沙汰しております。
『暇人の独り言』管理人です。
同人サイト「DLsite」や、姉妹サイト「DLチャンネル」への関与が増え、拙作『光の翼』の動きも鈍くなりで、こちらが疎かになっておりました。
いつでもどこでも筆が遅いんです、オイラは。
さて、早いもので2024年も12月半ば。
いつの頃からか、年末には「今年の漢字」が発表されるようになりましたね。
「分かる」と思う時もあれば「え、それ?」となる時もありですが、1年を振り返る切っ掛けになるのは面白いと思います。
ただ、管理人があれを真似るなら、我が2024年の漢字は「怠」あるいは「滞」としなくてはなりません。
お恥ずかしい話、またもや進歩のない日々だったので。
変わらず元気に生かされている点では、今年も感謝の絶えない1年ではありましたけどね。
あと僅かだけ2024年も続くので、新年と言わず今年の内に、いい加減何かを変え始めたいものです。
上手く行く予感は全くしないが
訪問者様にとっては、どんな漢字が浮かぶ1年だったでしょうか?
嬉しい字だったにせよそうでなかったにせよ、2025年をもっと良い日々にするため、今後ともお身体に気を付けてお過ごし下さいね。
以上、久々の生存報告でした。
次はどうにか年内に、拙作『光の翼』の続きを置ければと思います。
『暇人の独り言』管理人です。
同人サイト「DLsite」や、姉妹サイト「DLチャンネル」への関与が増え、拙作『光の翼』の動きも鈍くなりで、こちらが疎かになっておりました。
いつでもどこでも筆が遅いんです、オイラは。
さて、早いもので2024年も12月半ば。
いつの頃からか、年末には「今年の漢字」が発表されるようになりましたね。
「分かる」と思う時もあれば「え、それ?」となる時もありですが、1年を振り返る切っ掛けになるのは面白いと思います。
ただ、管理人があれを真似るなら、我が2024年の漢字は「怠」あるいは「滞」としなくてはなりません。
お恥ずかしい話、またもや進歩のない日々だったので。
変わらず元気に生かされている点では、今年も感謝の絶えない1年ではありましたけどね。
あと僅かだけ2024年も続くので、新年と言わず今年の内に、いい加減何かを変え始めたいものです。
訪問者様にとっては、どんな漢字が浮かぶ1年だったでしょうか?
嬉しい字だったにせよそうでなかったにせよ、2025年をもっと良い日々にするため、今後ともお身体に気を付けてお過ごし下さいね。
以上、久々の生存報告でした。
次はどうにか年内に、拙作『光の翼』の続きを置ければと思います。
2024年11月04日
光の翼 不穏の足音 あとがき
深夜になって、今晩は。
またもや『光の翼』のあとがきが遅くなった、『暇人の独り言』管理人です。
「DLチャンネル」で記事を書いたり、『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』をいじっていたりで、後回しにしてしまいました。
管理人の周りには、時間泥棒がたくさんいる…
まあそれを言い出すと、我が『光の翼』が一番時間を取りますけどね。
さて、「不穏の足音」のあとがきです。
蒼空兄弟が2人暮らしをしている理由が明らかになったり、変質者だけど頼れるティグラーブに久々登場の霞がくっ付いていたり、ワルの気配しかしない組織が誰かを痛めつけていたりの回でしたが、サブタイトル通りに不穏さを感じて頂けたでしょうか?
この話も最初に書いた時はただ長いだけで、冒頭では人間界の様子を、その後は風刃達の修行や雑談をダラダラと描写していました。
今回の改稿では、その辺をバッサリ省いております。
修行の方は完全に省くと色々差し支えるので、続きの話で入れる予定です。
ただし、短さを意識しつつ現在進行形で描くのが良いか、さっさと先に進んでから「あいつはこれくらい強くなった」と軽くコメントするのが良いかは悩み中。
いい加減に先に進めたいけれど、蒼空家の事を風刃の口から仲間達と読者様に話してもらいたいし、そのためには修行の場面をすっ飛ばすとやり辛くなるし…
…物語を作るのは、苦労も苦悩も絶えません。
ただでさえ遅筆な管理人がそんな四苦八苦をしながら書いている『光の翼』は、果たして無事に完結できるのか。
誰よりも自分で心配になりますが、御縁あれば長い目で見守って下さいますと幸いです。
そして自己満足の一環として、完結したら何かおまけでも付けて電子書籍にできたら良いな。
またもや『光の翼』のあとがきが遅くなった、『暇人の独り言』管理人です。
「DLチャンネル」で記事を書いたり、『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』をいじっていたりで、後回しにしてしまいました。
管理人の周りには、時間泥棒がたくさんいる…
まあそれを言い出すと、我が『光の翼』が一番時間を取りますけどね。
さて、「不穏の足音」のあとがきです。
蒼空兄弟が2人暮らしをしている理由が明らかになったり、変質者だけど頼れるティグラーブに久々登場の霞がくっ付いていたり、ワルの気配しかしない組織が誰かを痛めつけていたりの回でしたが、サブタイトル通りに不穏さを感じて頂けたでしょうか?
この話も最初に書いた時はただ長いだけで、冒頭では人間界の様子を、その後は風刃達の修行や雑談をダラダラと描写していました。
今回の改稿では、その辺をバッサリ省いております。
修行の方は完全に省くと色々差し支えるので、続きの話で入れる予定です。
ただし、短さを意識しつつ現在進行形で描くのが良いか、さっさと先に進んでから「あいつはこれくらい強くなった」と軽くコメントするのが良いかは悩み中。
いい加減に先に進めたいけれど、蒼空家の事を風刃の口から仲間達と読者様に話してもらいたいし、そのためには修行の場面をすっ飛ばすとやり辛くなるし…
…物語を作るのは、苦労も苦悩も絶えません。
ただでさえ遅筆な管理人がそんな四苦八苦をしながら書いている『光の翼』は、果たして無事に完結できるのか。
誰よりも自分で心配になりますが、御縁あれば長い目で見守って下さいますと幸いです。
そして自己満足の一環として、完結したら何かおまけでも付けて電子書籍にできたら良いな。
2024年10月22日
光の翼 飛躍の翼20 不穏の足音
「へえ。テメーにしちゃ、なかなか口が上手かったのね。そいつも、弟への愛ってやつのなせる業かしら?」
「…当然…。」
ファラーム城の事件の一部始終を報告すると、ティグラーブが感心を露わに舞を見た。
監視を引き受けるからと執行猶予を付けさせ、ユナを味方に引き込んだ舞。
それはカオス=エメラルドだけでなく、自分の弟を捜索させるのも狙っての事だった。
ちなみにジャボンは、情報収集に必要であれば時に悪事も辞さないが、無用な悪さをした関係者にはどんな軽い罪でも厳罰を与えるという。
ユナは言い逃れしようもなく後者だが、執行猶予期間を無事に過ごせば許すと言われたらしく、予定通り情報収集役として使える事になった。
「でも、水さん。ティグラーブさんが味方してくれてるのに、ユナまで必要あります?大体、ホントに役に立つかどうかも…。」
「むっ…ジャボンの忍びに向かって、ご挨拶だね!そんな態度するなら、あなたのこと色々喋っちゃおうか?」
「色々って、ボクの何を知ってるのさ。会ったこともないのに。」
「ふふーん、すぐに分かるよ♪えーっと…ユキハラヒョウカさん、だったよね。」
ユナはスマートフォンを操作し、「ジャボン秘録」なる見慣れないアプリを起動した。
画面に無数の人物の写真と、氏名や年齢や職業が表示される。
「あ、これだね。」
その中にあった氷華君の顔をタッチすると、より細かい情報がずらずらと現れた。
「雪原氷華さん、海園中学校2年4組の出席番号44番。12月23日生まれ、やぎ座の満13歳、血液型はA型。住所は白砂町の湊川(みなとがわ)4丁目1の2…。」
「え…?いや、えっ…!?」
住所を読み上げられたところで氷華君は動転を極めたが、ユナの攻勢はまだ止まらなかった。
「身長155センチ、体重48キロ。得意科目は国語と体育と美術と音楽、苦手科目は数学と理科と地歴と家庭科。英語と技術は苦手ってほどじゃないけど、得意なわけでもなし。好きな歌は童謡とアニメソング。将来の夢は幼稚園から小学校3年生くらいまではアイドル歌手、4年生頃から今はキャリアウーマン。応援してるグラビアアイドルはバスト92センチの小町真美(こまちまみ)さん…。」
「ちょっ…あんた、ストーカー!?何でそんなの調べられたのさ!!」
「教えられませーん☆調査方法はナ・イ・ショ♡…ぐえっ!!」
「人の秘密バラしまくっといて何がナイショだよ、このヘンシツ者―!!」
唇の前で人差し指を立ててウインクを飛ばしたユナに、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした氷華君がヘッドロックを決めた。
「…へえ…氷華ちゃん…小町真美…好きなんだ…ふふ…ばすと…92も…あったら…憧れちゃうよね…しかも…あのぐらどる…昔は…胸…ちっちゃかった…らしいし…。」
「そのネタ、一番スルーしてほしかったんですけど!!」
「あ…ご、ごめんなさい!!」
涙目で抗議する氷華君に、舞が全力で頭を下げた。
「本当に悪気なく抉りに行くな、お前…。」
「悪気がねぇんだか、学習能力がねぇんだか…。」
「…がふっ…。」
呆れを隠さない風刃のぼやきに、舞が巨大な胸に手を当てて咳き込む。
一方、氷華君の身体を叩いてギブアップの意思を示すユナは、紅炎と麗奈の横入りでようやく救出され、荒い息を吐いていた。
「もー、こいつサイテー!!こんな犯罪者と組むなんて、ジョウダンじゃないよ!!」
「そりゃ、前科者と喜んで組めとは言わねーけどね。『使えるモンは何でも使う』くらいの気持ちでやらねーと、カオス=エメラルドなんか集められねーわよ。それに今更そいつが実刑になったら、執行猶予付けさせたマイの面目も丸潰れだしさ。」
「…チッ。このアマもオレらも、選択肢はねエッてことか…。」
「それで丁度良いだろ。さっきも言ったが、舐めた真似しやがった分、たっぷりこき使ってやるだけだ。」
冷然と言い放つ風刃を、ユナが見やる。
その視線は反発や不満の色がなく、純粋にしげしげと観察しているものだった。
「…何だ。」
「…いえ。ジャボンの情報的に、あなたとあなたのお兄さんは利用価値があったって私と関わりたくないって言うと思ってたから、ちょっとびっくりっていうか…。」
「…正直、感情論で行けばそう言いたいぞ?けど、僕達はお前を放り出せる立場じゃないし、放り出せたとして他の奴に飼われでもしたら良い事ないからな。」
「はあ、なるほど。…カオス=エメラルドとか、マイさんの弟さんとは別に調べさせたいことがありそうに見えるのは、気のせいでしょうかね?」
「…ふっ。狂言誘拐なんかやる馬鹿でも、それくらいの知恵は回るか。なら―」
先延ばしにしないではっきり言おうと口にしかけて、止めた。
「…風刃、お前から言え。ここらが大概、頃合いだろ。」
「頃合いって…この流れで、割といきなりじゃねぇのか?…まあ、いつかは話さねぇとって思ってたけどよ…。」
風刃は短い溜息を吐くと、ユナに命じた。
「黒い鎧着たジジイと、金髪と黒髪ごちゃ混ぜで汚い杖持った野郎について調べろ。どういう連中か、今どこにいやがるのか。」
「はい、分かりました。お任せを。」
ユナがスマートフォンのメモ帳を開き、書き留める。
「…何なンだ、そいつら?」
「4年前、うちの親をさらいやがった連中だ。」
努めて淡々と答える風刃に、氷華君と駆君と舞が声もなく驚く。
「…それって…4年前の…いつごろ…?」
「9月20日の午後4時20分です。」
「わっ。ずいぶん細かいところまで覚えてるんだね。」
ユナが目を丸くした。
「目の前で親をさらわれた挙句、無様にのされた日だぞ。忘れたくても忘れられるか。」
「…そっか。だから、ユナと王子様にあそこまで怒ってたんだね…。」
「はいはい、その話はまた今度にしやがりなさい。」
ティグラーブが2回手を叩き、話を遮った。
「ミズカワタイキだけでも手を焼いてんのに新しい仕事まで増えちゃ、いくらジャボンを味方にしたからって簡単に片付きやしねーわ。3日ほど、修行でもして待ってやがりなさい。」
「3日?3日でうちに来た連中の事、分かるのか?」
事が進むかと期待して聞いたところ、ティグラーブは頭を掻きながら詫びた。
「…悪い、言葉足らずだったわね。フウジンの言う連中の方はまだ期待しねーで、3日ほど待ってやがりなさい。」
「…じゃ…うちの弟は…。」
「ええ。そろそろカタを付けましょう。もし危ねえヤローが絡んでてもどうにかできるように、短い間で目一杯腕を上げ―」
「了解!思い切り強くなってくる!」
やる気に燃えて魄力を上げる舞に、皆が少し引いた。
「…それじゃ、私もマイさんの弟さん捜しを優先した方がいいかな?」
「何言ってやがんの、ユナ。テメーも一緒に鍛えるのよ。」
「え、何で!?」
「速さはともかくとして、鍛錬と経験を積むほど伸びるのが魄力ってことくらい、知ってやがるでしょ。いざって時、それなりに戦えるようによ。」
「ああ、それも良いな。安全圏でのんびりさせとくのも腹立つと思ってたし。」
僕が明るく笑って告げると、ユナは観念したように苦笑いする。
「…でも、調べ物はどうするの?」
「余計な心配よ。ミズカワタイキに絞れば、ジャボンに頼るまでもねーわ。」
「だってさ、ユナ。ゴチャゴチャ言ってないで、一緒に楽しく修行しよ☆」
氷華君が満面の、しかし威圧感のある笑顔でユナの肩に手を乗せる。
さっき恥をかかせてもらったお礼にたっぷりしごいてあげるから覚悟しなよ、と言いたがっているのが誰の目にも明らかだった。
―嵐刃達が去って、程なく。
「…と、こんなところで構わねーかしら?」
「上出来だ。」
ティグラーブの隣に、霞が空間を溶かすようにして現れた。
「しかし8人もいて気付かせねーとは、テメーもなかなかやりやがるわね。」
「奴等がまだまだ未熟なだけだ。」
「ま、それも否定はできねーけど…本当にいいの?一歩しくじりゃ、テメーの望みも水の泡なのよ?」
「そうならないための策を考えていると言っただろう。計画通りに事を運ぶのはディザーや災厄の刃(クラディース)ではない。この僕だ。」
霞は拳を握り、静かに強く宣言した。
持ち込まれた松明以外に、照明はない。
4つの檻が備え付けられた暗い地下室は壁が黒ずみ、床には赤黒い染みが点々としている。
「ぐぐ…。」
檻のうちの1つに、黒髪の少年は囚われていた。
うつ伏せのままで苦しげに呻く彼は、身体中に打撲痕と切り傷をこさえている。
薄くなりつつあるものもあれば、ほんの少し前に付けられた真新しいものまで、鮮度は様々だった。
「どうだ、シクロスよ。返事は変わったか?」
金髪と黒髪の混ざったドレッドヘアをした粗暴な男が、くすんだ紫色の杖を右手で弄びながらやって来た。
「マだだ。こイツ、意地と根性は相当なモんダぜ…。」
黄色い身体をした邪鬼(イヴィルオーガ)のシクロスが、疲れを隠さずぼやく。
「はア…もう、いい加減ジれっタい!そろソろ止めを刺さセロよ!生かサず殺さずっテノも、骨が折れルんだゾ!」
「文句言うな。派手なオチが盛り上がるのも、長々とタメにタメてこそだろうが。」
「ったク、とコトン享楽主義だナ…おっ?」
通知音に気付いたシクロスが、ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。
「どうした。どこぞの女からデートの誘いでも来たか?」
「…ルドルス。タールの奴から報告ダ。強盗ラダンが、ミズカワマイに捕マっタんだと。」
「―何だと!?ちっ、あのアマ…!そろそろスカウトってタイミングだったのに…1度ならず2度までも興を削ぐマネしやがって!」
ルドルスは杖を握り締めた右手で壁を殴り付け、穴を空けた。
「へへ…いい気味だな…。」
「…何だと?」
薄ら笑う少年を、ルドルスが睨み付ける。
「思い通りにならなくていい気味だな、って言ったんだ…!いくら強くたって、悪さしてればこういうバチが当たるんだよ…!」
「…ククク。そうか、こいつが天罰か。なら、カミサマとやらの御慈悲に感謝しねえとな。これっぽっちの事で悪を裁いたつもりになってくださりありがとうございます、ってよ。」
ルドルスは人差し指でいい加減に十字を切り、白々しく両手を組んだ。
「ふん、強がるなよ…!戦力が強化できなかったんだ…きつくないわけないだろ…!」
「クク…オレは興を削がれたと言っただけなんだが、聞いてなかったか?オレらの組織にとっちゃ、頭領(カシラ)の消滅が唯一無二の痛手…いや、致命傷だ。それ以外は、何のダメージにもならねえ。まして、スカウト予定のヤツを潰されたくらいの事なんざな。」
黒髪の少年もはっきりと感じた。
ルドルスは強がりでも冗談でもなく、本気で言っている。そして過信でも油断でもなく、実際にリーダーが生き延びる限り、彼らに消滅の危機はないと。
「ところで、だ。延々と痛めつけられるだけってのも、つまらねえだろ?そろそろ外に出たくねえか?雑兵にしろ雑用にしろ、面白い働きができるようなら長生きさせてやるぜ?」
「断る!!おれだって封殺者だ!!お前らなんかに協力できるか!!」
「ほう、威勢がいいな。」
吠える少年に、ルドルスは獰猛な笑みを浮かべていた。
「…当然…。」
ファラーム城の事件の一部始終を報告すると、ティグラーブが感心を露わに舞を見た。
監視を引き受けるからと執行猶予を付けさせ、ユナを味方に引き込んだ舞。
それはカオス=エメラルドだけでなく、自分の弟を捜索させるのも狙っての事だった。
ちなみにジャボンは、情報収集に必要であれば時に悪事も辞さないが、無用な悪さをした関係者にはどんな軽い罪でも厳罰を与えるという。
ユナは言い逃れしようもなく後者だが、執行猶予期間を無事に過ごせば許すと言われたらしく、予定通り情報収集役として使える事になった。
「でも、水さん。ティグラーブさんが味方してくれてるのに、ユナまで必要あります?大体、ホントに役に立つかどうかも…。」
「むっ…ジャボンの忍びに向かって、ご挨拶だね!そんな態度するなら、あなたのこと色々喋っちゃおうか?」
「色々って、ボクの何を知ってるのさ。会ったこともないのに。」
「ふふーん、すぐに分かるよ♪えーっと…ユキハラヒョウカさん、だったよね。」
ユナはスマートフォンを操作し、「ジャボン秘録」なる見慣れないアプリを起動した。
画面に無数の人物の写真と、氏名や年齢や職業が表示される。
「あ、これだね。」
その中にあった氷華君の顔をタッチすると、より細かい情報がずらずらと現れた。
「雪原氷華さん、海園中学校2年4組の出席番号44番。12月23日生まれ、やぎ座の満13歳、血液型はA型。住所は白砂町の湊川(みなとがわ)4丁目1の2…。」
「え…?いや、えっ…!?」
住所を読み上げられたところで氷華君は動転を極めたが、ユナの攻勢はまだ止まらなかった。
「身長155センチ、体重48キロ。得意科目は国語と体育と美術と音楽、苦手科目は数学と理科と地歴と家庭科。英語と技術は苦手ってほどじゃないけど、得意なわけでもなし。好きな歌は童謡とアニメソング。将来の夢は幼稚園から小学校3年生くらいまではアイドル歌手、4年生頃から今はキャリアウーマン。応援してるグラビアアイドルはバスト92センチの小町真美(こまちまみ)さん…。」
「ちょっ…あんた、ストーカー!?何でそんなの調べられたのさ!!」
「教えられませーん☆調査方法はナ・イ・ショ♡…ぐえっ!!」
「人の秘密バラしまくっといて何がナイショだよ、このヘンシツ者―!!」
唇の前で人差し指を立ててウインクを飛ばしたユナに、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした氷華君がヘッドロックを決めた。
「…へえ…氷華ちゃん…小町真美…好きなんだ…ふふ…ばすと…92も…あったら…憧れちゃうよね…しかも…あのぐらどる…昔は…胸…ちっちゃかった…らしいし…。」
「そのネタ、一番スルーしてほしかったんですけど!!」
「あ…ご、ごめんなさい!!」
涙目で抗議する氷華君に、舞が全力で頭を下げた。
「本当に悪気なく抉りに行くな、お前…。」
「悪気がねぇんだか、学習能力がねぇんだか…。」
「…がふっ…。」
呆れを隠さない風刃のぼやきに、舞が巨大な胸に手を当てて咳き込む。
一方、氷華君の身体を叩いてギブアップの意思を示すユナは、紅炎と麗奈の横入りでようやく救出され、荒い息を吐いていた。
「もー、こいつサイテー!!こんな犯罪者と組むなんて、ジョウダンじゃないよ!!」
「そりゃ、前科者と喜んで組めとは言わねーけどね。『使えるモンは何でも使う』くらいの気持ちでやらねーと、カオス=エメラルドなんか集められねーわよ。それに今更そいつが実刑になったら、執行猶予付けさせたマイの面目も丸潰れだしさ。」
「…チッ。このアマもオレらも、選択肢はねエッてことか…。」
「それで丁度良いだろ。さっきも言ったが、舐めた真似しやがった分、たっぷりこき使ってやるだけだ。」
冷然と言い放つ風刃を、ユナが見やる。
その視線は反発や不満の色がなく、純粋にしげしげと観察しているものだった。
「…何だ。」
「…いえ。ジャボンの情報的に、あなたとあなたのお兄さんは利用価値があったって私と関わりたくないって言うと思ってたから、ちょっとびっくりっていうか…。」
「…正直、感情論で行けばそう言いたいぞ?けど、僕達はお前を放り出せる立場じゃないし、放り出せたとして他の奴に飼われでもしたら良い事ないからな。」
「はあ、なるほど。…カオス=エメラルドとか、マイさんの弟さんとは別に調べさせたいことがありそうに見えるのは、気のせいでしょうかね?」
「…ふっ。狂言誘拐なんかやる馬鹿でも、それくらいの知恵は回るか。なら―」
先延ばしにしないではっきり言おうと口にしかけて、止めた。
「…風刃、お前から言え。ここらが大概、頃合いだろ。」
「頃合いって…この流れで、割といきなりじゃねぇのか?…まあ、いつかは話さねぇとって思ってたけどよ…。」
風刃は短い溜息を吐くと、ユナに命じた。
「黒い鎧着たジジイと、金髪と黒髪ごちゃ混ぜで汚い杖持った野郎について調べろ。どういう連中か、今どこにいやがるのか。」
「はい、分かりました。お任せを。」
ユナがスマートフォンのメモ帳を開き、書き留める。
「…何なンだ、そいつら?」
「4年前、うちの親をさらいやがった連中だ。」
努めて淡々と答える風刃に、氷華君と駆君と舞が声もなく驚く。
「…それって…4年前の…いつごろ…?」
「9月20日の午後4時20分です。」
「わっ。ずいぶん細かいところまで覚えてるんだね。」
ユナが目を丸くした。
「目の前で親をさらわれた挙句、無様にのされた日だぞ。忘れたくても忘れられるか。」
「…そっか。だから、ユナと王子様にあそこまで怒ってたんだね…。」
「はいはい、その話はまた今度にしやがりなさい。」
ティグラーブが2回手を叩き、話を遮った。
「ミズカワタイキだけでも手を焼いてんのに新しい仕事まで増えちゃ、いくらジャボンを味方にしたからって簡単に片付きやしねーわ。3日ほど、修行でもして待ってやがりなさい。」
「3日?3日でうちに来た連中の事、分かるのか?」
事が進むかと期待して聞いたところ、ティグラーブは頭を掻きながら詫びた。
「…悪い、言葉足らずだったわね。フウジンの言う連中の方はまだ期待しねーで、3日ほど待ってやがりなさい。」
「…じゃ…うちの弟は…。」
「ええ。そろそろカタを付けましょう。もし危ねえヤローが絡んでてもどうにかできるように、短い間で目一杯腕を上げ―」
「了解!思い切り強くなってくる!」
やる気に燃えて魄力を上げる舞に、皆が少し引いた。
「…それじゃ、私もマイさんの弟さん捜しを優先した方がいいかな?」
「何言ってやがんの、ユナ。テメーも一緒に鍛えるのよ。」
「え、何で!?」
「速さはともかくとして、鍛錬と経験を積むほど伸びるのが魄力ってことくらい、知ってやがるでしょ。いざって時、それなりに戦えるようによ。」
「ああ、それも良いな。安全圏でのんびりさせとくのも腹立つと思ってたし。」
僕が明るく笑って告げると、ユナは観念したように苦笑いする。
「…でも、調べ物はどうするの?」
「余計な心配よ。ミズカワタイキに絞れば、ジャボンに頼るまでもねーわ。」
「だってさ、ユナ。ゴチャゴチャ言ってないで、一緒に楽しく修行しよ☆」
氷華君が満面の、しかし威圧感のある笑顔でユナの肩に手を乗せる。
さっき恥をかかせてもらったお礼にたっぷりしごいてあげるから覚悟しなよ、と言いたがっているのが誰の目にも明らかだった。
―嵐刃達が去って、程なく。
「…と、こんなところで構わねーかしら?」
「上出来だ。」
ティグラーブの隣に、霞が空間を溶かすようにして現れた。
「しかし8人もいて気付かせねーとは、テメーもなかなかやりやがるわね。」
「奴等がまだまだ未熟なだけだ。」
「ま、それも否定はできねーけど…本当にいいの?一歩しくじりゃ、テメーの望みも水の泡なのよ?」
「そうならないための策を考えていると言っただろう。計画通りに事を運ぶのはディザーや災厄の刃(クラディース)ではない。この僕だ。」
霞は拳を握り、静かに強く宣言した。
持ち込まれた松明以外に、照明はない。
4つの檻が備え付けられた暗い地下室は壁が黒ずみ、床には赤黒い染みが点々としている。
「ぐぐ…。」
檻のうちの1つに、黒髪の少年は囚われていた。
うつ伏せのままで苦しげに呻く彼は、身体中に打撲痕と切り傷をこさえている。
薄くなりつつあるものもあれば、ほんの少し前に付けられた真新しいものまで、鮮度は様々だった。
「どうだ、シクロスよ。返事は変わったか?」
金髪と黒髪の混ざったドレッドヘアをした粗暴な男が、くすんだ紫色の杖を右手で弄びながらやって来た。
「マだだ。こイツ、意地と根性は相当なモんダぜ…。」
黄色い身体をした邪鬼(イヴィルオーガ)のシクロスが、疲れを隠さずぼやく。
「はア…もう、いい加減ジれっタい!そろソろ止めを刺さセロよ!生かサず殺さずっテノも、骨が折れルんだゾ!」
「文句言うな。派手なオチが盛り上がるのも、長々とタメにタメてこそだろうが。」
「ったク、とコトン享楽主義だナ…おっ?」
通知音に気付いたシクロスが、ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。
「どうした。どこぞの女からデートの誘いでも来たか?」
「…ルドルス。タールの奴から報告ダ。強盗ラダンが、ミズカワマイに捕マっタんだと。」
「―何だと!?ちっ、あのアマ…!そろそろスカウトってタイミングだったのに…1度ならず2度までも興を削ぐマネしやがって!」
ルドルスは杖を握り締めた右手で壁を殴り付け、穴を空けた。
「へへ…いい気味だな…。」
「…何だと?」
薄ら笑う少年を、ルドルスが睨み付ける。
「思い通りにならなくていい気味だな、って言ったんだ…!いくら強くたって、悪さしてればこういうバチが当たるんだよ…!」
「…ククク。そうか、こいつが天罰か。なら、カミサマとやらの御慈悲に感謝しねえとな。これっぽっちの事で悪を裁いたつもりになってくださりありがとうございます、ってよ。」
ルドルスは人差し指でいい加減に十字を切り、白々しく両手を組んだ。
「ふん、強がるなよ…!戦力が強化できなかったんだ…きつくないわけないだろ…!」
「クク…オレは興を削がれたと言っただけなんだが、聞いてなかったか?オレらの組織にとっちゃ、頭領(カシラ)の消滅が唯一無二の痛手…いや、致命傷だ。それ以外は、何のダメージにもならねえ。まして、スカウト予定のヤツを潰されたくらいの事なんざな。」
黒髪の少年もはっきりと感じた。
ルドルスは強がりでも冗談でもなく、本気で言っている。そして過信でも油断でもなく、実際にリーダーが生き延びる限り、彼らに消滅の危機はないと。
「ところで、だ。延々と痛めつけられるだけってのも、つまらねえだろ?そろそろ外に出たくねえか?雑兵にしろ雑用にしろ、面白い働きができるようなら長生きさせてやるぜ?」
「断る!!おれだって封殺者だ!!お前らなんかに協力できるか!!」
「ほう、威勢がいいな。」
吠える少年に、ルドルスは獰猛な笑みを浮かべていた。
2024年09月16日
光の翼 狂言誘拐始末 あとがき
真っ昼間から、今日は。
拙作『光の翼』のあとがきをぶち込みに来た、『暇人の独り言』管理人です。
遅筆なせいで、本編から大分空いたタイミングでやっとあとがきをしたためる事が増えたな…
それで早速、先頃掲載した「狂言誘拐始末」についてですが。
こいつも元はダラダラと長いばかりの部分で、今となっては人様に見せるどころか、作者自身も読めたものではない出来でした。
(それでも昔は公開していたのがおぞましく、そして恥ずかしい)
例によって必要最低限の描写に絞るところから始めましたが、キャラクターの台詞を多くすればロクに短くできないし、かと言って地の文ばかりで進めれば淡泊になり過ぎるしと、バランスに大層悩ませられたものです。
また、「ファラームの刑法は日本がモデル」と設定したお陰で、アルスとユナの量刑を決めるのに色々と検索する手間も掛かりました。
ユナは直近の役割が既に見えており、アルスも今後どこかで動かすかもしれない都合上、条件を付けた上で両者共に執行猶予付きの罰金刑で勘弁させましたが…
創作でこれだけ苦労するなら、本物の裁判で判決を言い渡すのはどれだけ大変な話であろうかと感じます。
ちなみに検索したところだと、罰金刑に執行猶予が付くケースは1年に数件程度とのウワサです。
(執行猶予の意義は「社会生活からの断絶」を回避させる事にあるが、納付すれば終わりの罰金刑には社会生活からの断絶がないため)
いくらおまけの罰則を付けたにせよ、決して軽くない悪さをしたアルスとユナを執行猶予付き罰金刑で済ませたのは結構に無理を押し通した感がありますが、「所詮は創作」として御容赦下されば幸いです。
ところで、改稿前は情報屋のティグラーブがユナを新たな情報収集役として引き抜いていたのですが、今回の書き直しでその役回りは舞が担う形に変わりました。
次の話ではっきり書きますが、舞が王室を言い包めたのは勿論、ユナを弟捜しに利用したいから。
法を破らない範囲であれば弟を取り戻すのに手段もなりふりも構わない実姉キャラ、作者と同じ趣味の方に響いていてほしいです。
拙作『光の翼』のあとがきをぶち込みに来た、『暇人の独り言』管理人です。
遅筆なせいで、本編から大分空いたタイミングでやっとあとがきをしたためる事が増えたな…
それで早速、先頃掲載した「狂言誘拐始末」についてですが。
こいつも元はダラダラと長いばかりの部分で、今となっては人様に見せるどころか、作者自身も読めたものではない出来でした。
(それでも昔は公開していたのがおぞましく、そして恥ずかしい)
例によって必要最低限の描写に絞るところから始めましたが、キャラクターの台詞を多くすればロクに短くできないし、かと言って地の文ばかりで進めれば淡泊になり過ぎるしと、バランスに大層悩ませられたものです。
また、「ファラームの刑法は日本がモデル」と設定したお陰で、アルスとユナの量刑を決めるのに色々と検索する手間も掛かりました。
ユナは直近の役割が既に見えており、アルスも今後どこかで動かすかもしれない都合上、条件を付けた上で両者共に執行猶予付きの罰金刑で勘弁させましたが…
創作でこれだけ苦労するなら、本物の裁判で判決を言い渡すのはどれだけ大変な話であろうかと感じます。
ちなみに検索したところだと、罰金刑に執行猶予が付くケースは1年に数件程度とのウワサです。
(執行猶予の意義は「社会生活からの断絶」を回避させる事にあるが、納付すれば終わりの罰金刑には社会生活からの断絶がないため)
いくらおまけの罰則を付けたにせよ、決して軽くない悪さをしたアルスとユナを執行猶予付き罰金刑で済ませたのは結構に無理を押し通した感がありますが、「所詮は創作」として御容赦下されば幸いです。
ところで、改稿前は情報屋のティグラーブがユナを新たな情報収集役として引き抜いていたのですが、今回の書き直しでその役回りは舞が担う形に変わりました。
次の話ではっきり書きますが、舞が王室を言い包めたのは勿論、ユナを弟捜しに利用したいから。
法を破らない範囲であれば弟を取り戻すのに手段もなりふりも構わない実姉キャラ、作者と同じ趣味の方に響いていてほしいです。
2024年09月04日
光の翼 飛躍の翼19 狂言誘拐始末
当然だが、アルス王子とユナはファラーム城でも散々叱られた。
特に王子の教育係でもあるシヴァの、悲しみと怒りの混ざった表情での小言は長かった。ガルシーさんとミルさんに止められていなければ、まだ数十分は続いていたかもしれない。
ガルシーさんを皮切りにミルさんとシヴァ、そして正座中のアルス王子とユナも僕達に土下座したところで、ようやく説教は一区切りとなった。
「…それにしても、アルス。そのユナ=ゾールという少女とは、どういう関係なのですか?」
「ああ…御紹介が遅れまして、失礼致しました。ユナさんは、僕の友人です。」
「友人?いつの間に出会っていたのです?」
「2ヶ月ほど前です。散歩をしていた際、白夜の泉で休んでいた彼女と出会いまして。」
「アルスく…王子様にちょっとお声がけしたら、世間話が弾んだもので…それからも何度か泉で会って、色々と話すようになりました。」
「色々と…?アルスよ。まさかとは思うが、町の機密事項などは喋っていないだろうな?」
「話してはおりませんが…ユナさんなら御存知かもしれません。彼女はジャボンの一員ですから。」
「まあ、ジャボンの?」
「…ああ…それで…。」
ミルさんや舞が納得したのとは対照的に、僕達は首を傾げていた。
「ジャボン?何それ?」
「その小娘みたく、風変わりな格好のヤツが集まってる隠れ里らしいよ。ニンジャ…だっけ?大昔、人間界にいたっていうスパイを現代で再興しようとしてるそうでね。」
「メイルさん、詳しいのですね。」
「いや、あたしも話に聞いただけだけどね。」
メイルが苦笑いする一方、アルス王子を除いた王室の面々は浮かない顔をしていた。
「…ユナ=ゾール。あなた、ファラームの情報を探るためにアルスに近付いたのではありませんか?」
「いいえ。王子様に出会ったのは偶然です。…正直に申し上げますが、王子様が仰った通り、私達ジャボンはファラームの情報をほとんど掴んでいます。それでも、改めて王子様から情報を引き出す必要があるとお考えになりますか?」
「…そう言われては、考えないとしか言えんな。」
「…では、もう1つ訊きます。あなたは…アルスと交際しようと考えていますか?」
「ああ、そこはご安心を。お互い、そういう目で見てはいませんから。」
「…そうですか。」
あっけらかんとした態度のユナにアルス王子も頷いたのを見て、シヴァは唇の端を微かに緩ませた。
「あれま?姫様、喜んでたりする?」
「…シヴァちゃん…ぶらこんだもんね…ふふ…。」
小声でのやり取りにお前が言うかと割り込む寸前だったが、無駄な労力なので飲み込んでおいた。
その後は僕達の意見も取り入れて貰いつつ、アルス王子とユナへの処分を決めた。
ファラームの刑法は人間界の日本をモデルにしており、2人の罪状は業務妨害罪、罰則は3年以下の懲役か50万円以下の罰金となっていた。
「しかし、王室にあるまじき不祥事ですからな。特例として、アルスをファラームから追放する、宝石収集を一定期間禁じるといった、法定刑にない罰をおまけする事も考えざるを得ないでしょう。」
なかなか出くわす問題ではないだけに、議論は難航した。
風刃や駆君やメイルが懲役3年をと望めば、氷華君は大迷惑な行いだったとはいえ反省しているのだから最短である1ヶ月の懲役か罰金刑で良いのではと唱える。
「ん〜…たっぷりお仕置きしてもらいてえのは同感だけど、それで二度と同じ事起こさねえって保証になるかね〜…?」
結局は今回の件で懲りているかどうかが全て。懲りていなければいずれ同じ事を繰り返すが、懲りているならこれきりの過ちで終わる。
そう語る紅炎の一言で、厳罰を望んだ駆君やメイル、更には僕や風刃さえも考えが揺れ出した。
最終的に、手持ちの宝石の処分によって工面する事と、1ヶ月間は宝石集めを自粛し学問と修練浸けの軟禁生活を送る事を条件に、アルス王子は罰金50万円の刑で済ませられた。
一方、共犯で同じ処分になるところだったユナは罰金を払える見込みがないからと自ら刑務所での労働を申し出たが、そこに舞が口を挟む。
「…この娘…執行猶予つけて…私達に…預からせて…もらえませんか…?」
カオス=エメラルド探しには情報がたくさん欲しい、ジャボンを味方に付けられれば心強いとの理由だった。
結果的にアルス王子を救った点では感謝しているが執行猶予はとミルさんが難色を示せば、舞は結果の話をするならユナが王子を連れ出したお陰でファラームはラダンに襲われずに済んだのではないかと語る。
「そんな…舞さまに似合わない詭弁です!ファラームをラダン=ベイルから守ったのは舞さまのお力であって、ユナ=ゾールの狂言誘拐ではないでしょう!そもそもアルスが全てを話していたなら、狂言誘拐などしておらずとも舞さまのような猛者が…!」
「…来てくれる人…いたかな…?…王子様が…ローガルスに行って…強盗に…睨まれました…殺されるかも…しれないから…助けてくださいって…言って…。」
シヴァは猛然と反発したが、舞の指摘にごく小さく呻いて押し黙った。
アルス王子が罪なき被害者と思われていた段階でも、捜索に名乗りを上げたのは僕達とメイルだけだった。まして全てが知られていれば王子の自業自得としか思われず、手を差し伸べる者などとても現れなかっただろう。
それは試験官として志願者を待ち続けたシヴァが、誰よりも身に染みている筈だ。
「…仰る通りですな。かしこまりました、舞さま。あなた方の監視の下、ユナ=ゾールに1年の執行猶予を付けましょう。」
アルス王子の軟禁期間中は一切王子に接触しない事も執行猶予の条件に加えられたが、ユナは僅かに眉を動かすのみで、大きな動揺は見せずに受け入れた。
「牢屋に入らずにお許しを頂けるなんて、恐れ多い幸せです。王子様共々寛大な処罰に止めてくださり、ありがとうございます。」
「…礼を言うなら、本当に甘い罰で済んだ時だろ。いちいち言うのも何だけど、そうなるかどうかは今後次第だぞ。お前も、王子もな。」
僕が念を押すと、ユナとアルス王子はその機会を貰えたから礼を言うのだと、揃って深々と頭を下げた。
「処罰の話はこんなところですかな。では、報酬をお渡しします。」
事前の約束通り、アルス王子が手に入れたカオス=エメラルドの欠片は僕達が譲り受けた。
ガルシーさん達は仕事を果たしたのだからやはり受け取ってくれと謝礼金も渡そうとして来たが、最初に金ではなくカオス=エメラルドを要求したのはこちらだからと、僕達は頑として断った。
どうせならメイルへの慰謝料にしてはどうかと意見したが、そのメイルもどんな名目であろうと仕事に失敗しておいて金だけ貰うなどあってはならないと辞退した。
「王子と小娘の始末も見届けさせてもらったし、そろそろ退散するよ。」
「あの、メイルさん。強盗ラダンの懸賞金ですが、貴女が受け取るのはいかがでしょうか?」
「…何を言い出すんだい。奴を倒したのはあんた達じゃないか。」
「舞さんがいらっしゃるまで私達が持ちこたえられたのは、メイルさんが一緒に戦って下さったからです。そのお礼という事で…。」
「…いいね…麗奈ちゃん…私も…そのことで…何か…お礼しないとって…思ってた…。」
「いや、あんた達、旅人なんだろ?あたしどころじゃなく、物入りだろうに…。」
「今の所は困ってないから、別に良いさ。必要になれば、どうにか稼いでやるだけだ。」
「…癪な話だが、魅月さんの言う通りだしな。あのハゲ野郎の手柄で借りが返せるなら、仕方ねぇ。」
なかなか受け入れないメイルだったが、最後には観念したように、そして嬉しそうに笑った。
「ははは…まさか、こんな商売敵に出会うなんてね。事実は小説よりも奇なりとかってのは、よく言ったもんだよ。」
メイルは倒れたきり目覚めないラダンをラムバルガの警察へ引き渡し、その足で一度帰郷する事を決めた。
ラダンの懸賞金で、病気の妹に手術を受けさせるという。
「しかしほんの1度共闘しただけなのに、でか過ぎる報酬を貰っちまったね。この借り、いつかきっと返させてもらうよ。」
「…借りならこっちにもあるからな。次に会う時は、てめぇをあっさり吹っ飛ばしてやるぜ。」
「いや、そいつは『借り』違いだと思うけど…まあいいか。楽しみにしてるよ。坊ちゃんなら―」
「坊ちゃん、じゃねぇ。蒼空風刃だ。」
斜に構えていた風刃が腕組みを解き、メイルを真っ直ぐ見据えて名乗ると、全員が目を丸くして静まり返った。
仲間達はあの風刃が反感を抱く相手に一定の敬意を示した点で驚いたようだが、メイルやユナや王室の驚き方は少しばかり違っている気がした。
「…どうした。ただ名乗るのが、そんなに変か?」
「…ああ、失礼。それじゃ、改めて。フウジンなら、すぐそれくらいの腕になれるだろうさ。あたしも、負けないように鍛えておくよ。」
メイルは縛られたままのラダンを、僕達は立ち上がらせたユナを引き取り、いよいよ解散の時となった。
「皆さま、この度は大変お世話になりました。」
「メイルさまの物真似のようですが、皆さまには大きな恩義ができましたな。一朝一夕ではとても返し切れません。」
「今後、私共で力になれそうなことがございましたら、是非お申し付けください。できる限り協力致します。」
「ハハ、そいつはどうも。まア、なるべく手焼かせねエようにしとくゼ。」
「…ねえ、ユナ。王子様。何も言わなくていいの?これから1ヶ月は会えないんだよ?」
「…それ、気を利かせて言ってんのか?嫌がらせか?」
「え、普通に気を利かせたんですけど?」
「…この場合、いっそ会話させねぇで引っぺがす方が気が利いてると思ったけどな…世の中ってのは難しいもんだ…。」
「どうせ幾つになってもそうだよ。お前は特にな。」
「うるせぇ放っとけ馬鹿野郎!」
明らかに本気ではない怒声と拳を繰り出す風刃と、それを軽くいなした僕は、皆の笑いを買う。
「…僕は1ヶ月、ひたすら辛抱するのみですが…ユナさんは…。」
緩んだ空気に後押しされてようやく沈黙を破ったアルス王子だったが、言葉は続かなかった。
カオス=エメラルドに関わるのがどれだけ危険かは、アルス王子もよく知るところ。これが今生の別れになる可能性も、十二分にある。
「…大丈夫だよ、アルスくん!ジャボンの忍者はズル賢いの!危険をやり過ごして生き延びるの、大得意なんだから!ご両親とお姉さんにお許しもらえたら会いに来るから、また色々お話してね!」
「…はい。また会いましょう、ユナさん。」
満面の、しかし明らかに強がりの笑顔を浮かべたユナに、アルス王子も意地で微笑んでみせた。
「もう良いな?そろそろ行くぞ。」
「はい。」
「精々覚悟してやがれ。今回の礼に、この先たっぷりこき使ってやるからな。」
「はい。過労死さえさせられなければ、何なりと。」
「さーて、どうなるでしょうねー?」
「「「「させる気か!?」」」」
黒い笑顔で陽気にはぐらかす氷華君に男性陣総出で突っ込みを入れながら、僕達はファラーム城を去った。
「…お父様。あの、ソウクウフウジンと名乗られたお方ですが…。」
「…ああ。竜刃(りゅうじん)さまに似ておられた訳だな。」
特に王子の教育係でもあるシヴァの、悲しみと怒りの混ざった表情での小言は長かった。ガルシーさんとミルさんに止められていなければ、まだ数十分は続いていたかもしれない。
ガルシーさんを皮切りにミルさんとシヴァ、そして正座中のアルス王子とユナも僕達に土下座したところで、ようやく説教は一区切りとなった。
「…それにしても、アルス。そのユナ=ゾールという少女とは、どういう関係なのですか?」
「ああ…御紹介が遅れまして、失礼致しました。ユナさんは、僕の友人です。」
「友人?いつの間に出会っていたのです?」
「2ヶ月ほど前です。散歩をしていた際、白夜の泉で休んでいた彼女と出会いまして。」
「アルスく…王子様にちょっとお声がけしたら、世間話が弾んだもので…それからも何度か泉で会って、色々と話すようになりました。」
「色々と…?アルスよ。まさかとは思うが、町の機密事項などは喋っていないだろうな?」
「話してはおりませんが…ユナさんなら御存知かもしれません。彼女はジャボンの一員ですから。」
「まあ、ジャボンの?」
「…ああ…それで…。」
ミルさんや舞が納得したのとは対照的に、僕達は首を傾げていた。
「ジャボン?何それ?」
「その小娘みたく、風変わりな格好のヤツが集まってる隠れ里らしいよ。ニンジャ…だっけ?大昔、人間界にいたっていうスパイを現代で再興しようとしてるそうでね。」
「メイルさん、詳しいのですね。」
「いや、あたしも話に聞いただけだけどね。」
メイルが苦笑いする一方、アルス王子を除いた王室の面々は浮かない顔をしていた。
「…ユナ=ゾール。あなた、ファラームの情報を探るためにアルスに近付いたのではありませんか?」
「いいえ。王子様に出会ったのは偶然です。…正直に申し上げますが、王子様が仰った通り、私達ジャボンはファラームの情報をほとんど掴んでいます。それでも、改めて王子様から情報を引き出す必要があるとお考えになりますか?」
「…そう言われては、考えないとしか言えんな。」
「…では、もう1つ訊きます。あなたは…アルスと交際しようと考えていますか?」
「ああ、そこはご安心を。お互い、そういう目で見てはいませんから。」
「…そうですか。」
あっけらかんとした態度のユナにアルス王子も頷いたのを見て、シヴァは唇の端を微かに緩ませた。
「あれま?姫様、喜んでたりする?」
「…シヴァちゃん…ぶらこんだもんね…ふふ…。」
小声でのやり取りにお前が言うかと割り込む寸前だったが、無駄な労力なので飲み込んでおいた。
その後は僕達の意見も取り入れて貰いつつ、アルス王子とユナへの処分を決めた。
ファラームの刑法は人間界の日本をモデルにしており、2人の罪状は業務妨害罪、罰則は3年以下の懲役か50万円以下の罰金となっていた。
「しかし、王室にあるまじき不祥事ですからな。特例として、アルスをファラームから追放する、宝石収集を一定期間禁じるといった、法定刑にない罰をおまけする事も考えざるを得ないでしょう。」
なかなか出くわす問題ではないだけに、議論は難航した。
風刃や駆君やメイルが懲役3年をと望めば、氷華君は大迷惑な行いだったとはいえ反省しているのだから最短である1ヶ月の懲役か罰金刑で良いのではと唱える。
「ん〜…たっぷりお仕置きしてもらいてえのは同感だけど、それで二度と同じ事起こさねえって保証になるかね〜…?」
結局は今回の件で懲りているかどうかが全て。懲りていなければいずれ同じ事を繰り返すが、懲りているならこれきりの過ちで終わる。
そう語る紅炎の一言で、厳罰を望んだ駆君やメイル、更には僕や風刃さえも考えが揺れ出した。
最終的に、手持ちの宝石の処分によって工面する事と、1ヶ月間は宝石集めを自粛し学問と修練浸けの軟禁生活を送る事を条件に、アルス王子は罰金50万円の刑で済ませられた。
一方、共犯で同じ処分になるところだったユナは罰金を払える見込みがないからと自ら刑務所での労働を申し出たが、そこに舞が口を挟む。
「…この娘…執行猶予つけて…私達に…預からせて…もらえませんか…?」
カオス=エメラルド探しには情報がたくさん欲しい、ジャボンを味方に付けられれば心強いとの理由だった。
結果的にアルス王子を救った点では感謝しているが執行猶予はとミルさんが難色を示せば、舞は結果の話をするならユナが王子を連れ出したお陰でファラームはラダンに襲われずに済んだのではないかと語る。
「そんな…舞さまに似合わない詭弁です!ファラームをラダン=ベイルから守ったのは舞さまのお力であって、ユナ=ゾールの狂言誘拐ではないでしょう!そもそもアルスが全てを話していたなら、狂言誘拐などしておらずとも舞さまのような猛者が…!」
「…来てくれる人…いたかな…?…王子様が…ローガルスに行って…強盗に…睨まれました…殺されるかも…しれないから…助けてくださいって…言って…。」
シヴァは猛然と反発したが、舞の指摘にごく小さく呻いて押し黙った。
アルス王子が罪なき被害者と思われていた段階でも、捜索に名乗りを上げたのは僕達とメイルだけだった。まして全てが知られていれば王子の自業自得としか思われず、手を差し伸べる者などとても現れなかっただろう。
それは試験官として志願者を待ち続けたシヴァが、誰よりも身に染みている筈だ。
「…仰る通りですな。かしこまりました、舞さま。あなた方の監視の下、ユナ=ゾールに1年の執行猶予を付けましょう。」
アルス王子の軟禁期間中は一切王子に接触しない事も執行猶予の条件に加えられたが、ユナは僅かに眉を動かすのみで、大きな動揺は見せずに受け入れた。
「牢屋に入らずにお許しを頂けるなんて、恐れ多い幸せです。王子様共々寛大な処罰に止めてくださり、ありがとうございます。」
「…礼を言うなら、本当に甘い罰で済んだ時だろ。いちいち言うのも何だけど、そうなるかどうかは今後次第だぞ。お前も、王子もな。」
僕が念を押すと、ユナとアルス王子はその機会を貰えたから礼を言うのだと、揃って深々と頭を下げた。
「処罰の話はこんなところですかな。では、報酬をお渡しします。」
事前の約束通り、アルス王子が手に入れたカオス=エメラルドの欠片は僕達が譲り受けた。
ガルシーさん達は仕事を果たしたのだからやはり受け取ってくれと謝礼金も渡そうとして来たが、最初に金ではなくカオス=エメラルドを要求したのはこちらだからと、僕達は頑として断った。
どうせならメイルへの慰謝料にしてはどうかと意見したが、そのメイルもどんな名目であろうと仕事に失敗しておいて金だけ貰うなどあってはならないと辞退した。
「王子と小娘の始末も見届けさせてもらったし、そろそろ退散するよ。」
「あの、メイルさん。強盗ラダンの懸賞金ですが、貴女が受け取るのはいかがでしょうか?」
「…何を言い出すんだい。奴を倒したのはあんた達じゃないか。」
「舞さんがいらっしゃるまで私達が持ちこたえられたのは、メイルさんが一緒に戦って下さったからです。そのお礼という事で…。」
「…いいね…麗奈ちゃん…私も…そのことで…何か…お礼しないとって…思ってた…。」
「いや、あんた達、旅人なんだろ?あたしどころじゃなく、物入りだろうに…。」
「今の所は困ってないから、別に良いさ。必要になれば、どうにか稼いでやるだけだ。」
「…癪な話だが、魅月さんの言う通りだしな。あのハゲ野郎の手柄で借りが返せるなら、仕方ねぇ。」
なかなか受け入れないメイルだったが、最後には観念したように、そして嬉しそうに笑った。
「ははは…まさか、こんな商売敵に出会うなんてね。事実は小説よりも奇なりとかってのは、よく言ったもんだよ。」
メイルは倒れたきり目覚めないラダンをラムバルガの警察へ引き渡し、その足で一度帰郷する事を決めた。
ラダンの懸賞金で、病気の妹に手術を受けさせるという。
「しかしほんの1度共闘しただけなのに、でか過ぎる報酬を貰っちまったね。この借り、いつかきっと返させてもらうよ。」
「…借りならこっちにもあるからな。次に会う時は、てめぇをあっさり吹っ飛ばしてやるぜ。」
「いや、そいつは『借り』違いだと思うけど…まあいいか。楽しみにしてるよ。坊ちゃんなら―」
「坊ちゃん、じゃねぇ。蒼空風刃だ。」
斜に構えていた風刃が腕組みを解き、メイルを真っ直ぐ見据えて名乗ると、全員が目を丸くして静まり返った。
仲間達はあの風刃が反感を抱く相手に一定の敬意を示した点で驚いたようだが、メイルやユナや王室の驚き方は少しばかり違っている気がした。
「…どうした。ただ名乗るのが、そんなに変か?」
「…ああ、失礼。それじゃ、改めて。フウジンなら、すぐそれくらいの腕になれるだろうさ。あたしも、負けないように鍛えておくよ。」
メイルは縛られたままのラダンを、僕達は立ち上がらせたユナを引き取り、いよいよ解散の時となった。
「皆さま、この度は大変お世話になりました。」
「メイルさまの物真似のようですが、皆さまには大きな恩義ができましたな。一朝一夕ではとても返し切れません。」
「今後、私共で力になれそうなことがございましたら、是非お申し付けください。できる限り協力致します。」
「ハハ、そいつはどうも。まア、なるべく手焼かせねエようにしとくゼ。」
「…ねえ、ユナ。王子様。何も言わなくていいの?これから1ヶ月は会えないんだよ?」
「…それ、気を利かせて言ってんのか?嫌がらせか?」
「え、普通に気を利かせたんですけど?」
「…この場合、いっそ会話させねぇで引っぺがす方が気が利いてると思ったけどな…世の中ってのは難しいもんだ…。」
「どうせ幾つになってもそうだよ。お前は特にな。」
「うるせぇ放っとけ馬鹿野郎!」
明らかに本気ではない怒声と拳を繰り出す風刃と、それを軽くいなした僕は、皆の笑いを買う。
「…僕は1ヶ月、ひたすら辛抱するのみですが…ユナさんは…。」
緩んだ空気に後押しされてようやく沈黙を破ったアルス王子だったが、言葉は続かなかった。
カオス=エメラルドに関わるのがどれだけ危険かは、アルス王子もよく知るところ。これが今生の別れになる可能性も、十二分にある。
「…大丈夫だよ、アルスくん!ジャボンの忍者はズル賢いの!危険をやり過ごして生き延びるの、大得意なんだから!ご両親とお姉さんにお許しもらえたら会いに来るから、また色々お話してね!」
「…はい。また会いましょう、ユナさん。」
満面の、しかし明らかに強がりの笑顔を浮かべたユナに、アルス王子も意地で微笑んでみせた。
「もう良いな?そろそろ行くぞ。」
「はい。」
「精々覚悟してやがれ。今回の礼に、この先たっぷりこき使ってやるからな。」
「はい。過労死さえさせられなければ、何なりと。」
「さーて、どうなるでしょうねー?」
「「「「させる気か!?」」」」
黒い笑顔で陽気にはぐらかす氷華君に男性陣総出で突っ込みを入れながら、僕達はファラーム城を去った。
「…お父様。あの、ソウクウフウジンと名乗られたお方ですが…。」
「…ああ。竜刃(りゅうじん)さまに似ておられた訳だな。」
2024年08月29日
8月29日は誕生日・8年目
8月の終盤に、久し振りの今日は。
今日でまた1つ歳を取った、『暇人の独り言』管理人です。
相変わらず懐の中身は情けないままですが、いい歳になって来ると、どんな形であれ無事に生き延びているだけで幸福の極みだと感じます。
災害が絶えない上、海の外にはこの時代になって馬鹿な争いを起こした連中もいるだけに、尚更。
いつ尽きるか分からないのに今日まで続いた幸運に感謝し、またこの先も少しでも長く続く事を願いつつ、日々悔いのないように過ごしていければと思います。
本ブログでは最近、「【ネタバレあり】『BLEACH』の茜雫を語る」の記事がよく閲覧されているようです。
別に茜雫に関わる新しい動きがあったウワサも聞かないのですが、一体どうしたのやら?
『BLEACH』と言えば、新作ゲーム『BLEACH Rebirth of Souls』が制作されているそうで。
そこに茜雫も出てくれれば、彼女のファンにはありがたいですね。
管理人には買えそうもないですが。
今日でまた1つ歳を取った、『暇人の独り言』管理人です。
相変わらず懐の中身は情けないままですが、いい歳になって来ると、どんな形であれ無事に生き延びているだけで幸福の極みだと感じます。
災害が絶えない上、海の外にはこの時代になって馬鹿な争いを起こした連中もいるだけに、尚更。
いつ尽きるか分からないのに今日まで続いた幸運に感謝し、またこの先も少しでも長く続く事を願いつつ、日々悔いのないように過ごしていければと思います。
ところで…
本ブログでは最近、「【ネタバレあり】『BLEACH』の茜雫を語る」の記事がよく閲覧されているようです。
別に茜雫に関わる新しい動きがあったウワサも聞かないのですが、一体どうしたのやら?
『BLEACH』と言えば、新作ゲーム『BLEACH Rebirth of Souls』が制作されているそうで。
そこに茜雫も出てくれれば、彼女のファンにはありがたいですね。
管理人には買えそうもないですが。
2024年08月01日
光の翼 海姫の真価 あとがき
またまた久し振りに、今日は。
拙作『光の翼』を同人小説として売り出してみようかなどと考え始めている、『暇人の独り言』管理人です。
本ブログを含めて実に4か所に叩き込んでいると管理も大変だし、読まれたところでビタ一文の利益にもならないので、「それなら買われれば僅かでも儲かる形を…」と頭をよぎり始めています。
もっとも、「無料で公開してもロクに読まれないんだから有料にしたら間違っても読まれないだろ…」と思う気持ちも強く、実行するかは非常に怪しいですが。
さて。
先頃掲載した「海姫の真価」ですが、大男の強盗ラダンをまるで寄せ付けずあっさり倒した舞の活躍はお楽しみ頂けましたでしょうか?
余りに一瞬で片を付けてしまったため、サブタイトルの割に舞の力の全貌は伝わらないかもしれませんが、風刃達と傭兵メイルの計7人より腕が立つのは描けたかなと、作者としては思っています。
この辺の話を作った頃は例によって冗長に書いていたので、条例違反と狂言誘拐をしたアルス王子と共犯者ユナに接触し締め上げるだけの内容に1話分を費やす有様でしたが、そのくだりも今回の書き直しでラダン戦の決着にくっ付ける事ができました。
まだ長いだけの部分が何話か残っているので、それらも短く濃い内容に改めて行くところです。
では、大して濃いあとがきになりませんでしたが、今回はこれにて失礼致します。
猛暑の盛りですので、どうぞ御身体に気を付けてお過ごし下さい。
それでは、また。
拙作『光の翼』を同人小説として売り出してみようかなどと考え始めている、『暇人の独り言』管理人です。
本ブログを含めて実に4か所に叩き込んでいると管理も大変だし、読まれたところでビタ一文の利益にもならないので、「それなら買われれば僅かでも儲かる形を…」と頭をよぎり始めています。
もっとも、「無料で公開してもロクに読まれないんだから有料にしたら間違っても読まれないだろ…」と思う気持ちも強く、実行するかは非常に怪しいですが。
さて。
先頃掲載した「海姫の真価」ですが、大男の強盗ラダンをまるで寄せ付けずあっさり倒した舞の活躍はお楽しみ頂けましたでしょうか?
余りに一瞬で片を付けてしまったため、サブタイトルの割に舞の力の全貌は伝わらないかもしれませんが、風刃達と傭兵メイルの計7人より腕が立つのは描けたかなと、作者としては思っています。
この辺の話を作った頃は例によって冗長に書いていたので、条例違反と狂言誘拐をしたアルス王子と共犯者ユナに接触し締め上げるだけの内容に1話分を費やす有様でしたが、そのくだりも今回の書き直しでラダン戦の決着にくっ付ける事ができました。
まだ長いだけの部分が何話か残っているので、それらも短く濃い内容に改めて行くところです。
では、大して濃いあとがきになりませんでしたが、今回はこれにて失礼致します。
猛暑の盛りですので、どうぞ御身体に気を付けてお過ごし下さい。
それでは、また。
2024年07月19日
光の翼 飛躍の翼18 海姫の真価
「てめえもこいつらの仲間か?」
「…そうだけど…?」
「ふっ。なかなか良いタイミングで現れやがったな。」
舞が静かに答えると、ラダンは獰猛な笑みを浮かべた。
「ちょうどこの死に損ない共を始末するところだ。大人しく見物してりゃ、てめえは楽に殺してやってもいいぜ。」
「…封殺者が…目の前で…殺人予告されて…黙って…見てると…思う…?」
「何だ、そんなに苦しんで死にてえのか?だったら望み通りにしてやるよ!」
薄笑いしたままのラダンが、舞の首筋を目掛けて赤錆の斧を振るう。
しかし舞は、右手の親指と人差し指で簡単に受け止めてみせた。
「何!?」
「…危ない…なあ…こんな物…冗談でも…振り回すんじゃ…ありません…。」
「ぐおっ!!」
まるで紙飛行機を扱うような小さい動きで、巨漢のラダンが斧ごと軽く投げ飛ばされた。
ラダンは黒い屋根のロッジの壁で背中を強打し、ずり落ちる。
「ぐ…てめえ、その辺のザコ封殺者じゃねえな!何者だ!」
「…人の…門下生を…ざこ呼ばわり…しないで…。」
「封殺者が、てめえの門下生だと…?」
立ち上がったラダンの顔が、答えを察したように固まった。
「…私…封殺者…師範代…水川舞…。」
ラダンは言葉もなく驚愕を露わにしたが、すぐに呵々大笑する。
「は…はは…ははははは!!!てめえが噂の次代最強か!!!」
喜びに震え、舞に向かって突っ込んだ。
「まさか出くわす時が来るとはな!てめえ程のヤツを消せば、この連中みてえなゴミ共を100や200…いや、1000匹殺すよりずっと名が上がるってもんだ!」
巨体に似合わない俊敏さで距離を詰め、斧での連続斬りを仕掛ける。
「…盗みと…人殺ししか…できない男に…友達を…ごみなんて…言われる筋合い…ない…!」
一方で舞は、不愉快そうに唇を歪めつつ悠然とした動きで攻撃をかわしていたが、不意に立ち止まった。
「どうした、観念しやがったか―ぐっ!」
斧が届くと思ったところで、ラダンが転んだ。
舞に足を引っかけられたのだ。
「…くく。チャチな不意打ちとはいえこのオレを転ばせやがるとは、さすがに騒がれるだけはあるらしいな。」
ラダンは冷や汗を一滴浮かべながらも、あくまで凶暴な笑顔を崩さずに斧を構え直す。
「だが、図に乗るんじゃねえぞ。このラダン、千載一遇の好機を取りこぼしてやる程、甘くねえ。てめえは確実にここで殺す!」
「…一応…聞くけど…私に…何か…恨み…あるの…?…仲間を…捕まえられた…とか…。」
「はっ!ねえよ、そんなモン!てめえはオレの名を上げるための踏み台、ただそれだけだ!」
「…とことん…最低…!」
いよいよ嫌悪を露わにし、拳を握る。
「…これ以上…その顔…見たくない…あっさり…だうんさせてあげる…覚悟なさい…!」
「ははは、上等だ!やってみろ、根暗ヅラが!」
ラダンが斧を高々と掲げ、赤黒い光を宿らせる。
「また地崩撃か!」
魄力を集中しているだけで、微弱にではあるが辺りの地面を震わせていた。
炸裂させれば、僕達に浴びせたものとは比較にならない被害をもたらすだろう。
「舞さん、ラダンから距離を―」
麗奈が忠告するより速く、舞の拳がラダンの腹部に決まった。
「…が…。」
集められていた魄力が霧散し、斧からも禍々しい光が消える。
目を見開いたラダンはごく小さな呻き声を漏らすとそのままうつ伏せに倒れ、起き上がっては来なかった。
「…ばかな…男…強盗なんて…しなきゃ…こんな…かっこ悪いことに…ならなかったのに…ね…。」
つまらなさそうに独り言ちると、舞は長い黒髪をかきあげた。
「…舞ちゃん…そいつ、マジに気絶したの?」
「…みたい…だね…。」
「まさか…あンだけ殴っても斬っても倒れなかッたヤローを、一撃とは…。」
「…もう…みんなに…だいぶ…やられてたもんね…ぱわー全開…だったら…私1人じゃ…こんな…簡単には…。」
「…下らん世辞抜かすな。僕達が弱らせてなくても、同じだったろ…。」
悔しさと虚しさを精一杯堪えながら、それでも投げやりに言う。
「…いや…そんなこと…。」
「まあまあ、嵐兄さん!強盗はどうにかなったし、ひとまずめでたしめでたしじゃないですか!」
「相変わらず軽いな、てめぇは…。」
「何さ、その言い草!みんな殺されないで済んだんだから、ハッピーエンドでしょ!」
「…俺等が殺される危険を作った元凶共だけのうのうと逃げてやがるのが、ハッピーエンドか?」
「あっ。」
氷華君が口を開けて固まると、風刃は呆れを隠さず重い溜息を吐いた。
「…奴は当分起きそうもないね。今のうちに、改めて王子と小娘を確保と行こうか。」
「ああ。…でもあの時、弾みで逃げろなんて言ったのはまずかったな。どこに行ったやら…。」
「…大丈夫…村の入り口で…待たせてるよ…。」
「え、入り口で?」
舞が浅く頷いた。
聞けば舞は林の中で迷っていたところ、アルス王子とユナに会って状況を知ったらしい。
そこで、他人に危険を押し付けて逃げ隠れするのはどうかと思うと苦言を呈したところ、2人は村の入り口で待機すると答えたという。
舞は終わったことだし呼び出しちゃおうかとスマートフォンを取り出し、アルス王子に電話を掛けた。
「…もしもし…アルスくん…?…舞です…強盗は…やっつけたから…村の中…入って来て…うん…そう…黒い屋根の…ろっじの前…うん…はい…待ってるね…。」
「…ところで、どうやって迷ったんですか?あそこ、一本道なのに…。」
「…うっ…痛いところを…。」
電話が終わるや向けられた風刃の問いに、スマートフォンをしまった舞が顔を赤らめる。
「…私…方向音痴なんだけど…それでも…見通しが…良ければ…迷わないって…思って…とりあえず…林から…出ようとしてたら…いつの間にか…どこがどこだか…分からなくなって…。」
「…そうですか。」
「…風刃くんを…捜してた時も…そんな感じで…迷ってて…2回目に…なったら…酔うの…覚悟で…運んでもらえば…良かったかなって…後悔した…。」
「まさしく後の祭りだな…。」
「舞さま、皆さま…。」
僕が呆れて突っ込みを入れた時、アルス王子とユナが到着した。
「えっと、その…この度は…。」
伏し目がちに話し出したユナに構わず風刃が飛び出し、左手でアルス王子の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ…自分が何したか分かってやがるのか!!」
「ちょっ…止めて!狂言誘拐を考えたのはアルスくんじゃないの!アルスくんはものすごく反省してて―」
「知るか!どの道、元凶はこいつだろうが!」
ユナの弁護に耳を貸さず、風刃が王子を目掛けて拳を繰り出す。
後ろから手を伸ばし、その一撃を止めたのは、メイルだった。
「何のつもりだ、てめぇ!自分を殺してたかもしれねぇ奴を庇う気か!」
「…坊ちゃん。嫌な話だけど、あたし達が殺されかけたのはあたし達の力不足のせいだよ。」
「何だと…!?」
メイルに向き直った風刃は、思わずアルス王子から手を離していた。
「依頼を受けた以上は、どんな危険に出くわしたって力ずくで切り抜ける。できなかったら、最悪死ぬ。戦いの仕事は、それが全部さ。」
言葉に詰まった風刃が右手を握り締め、わなわなと震える。
「…敵に勝てなかったら、文句を言う資格もねぇってのか…!こんなふざけた真似した野郎共にも…!」
「おっと、言葉足らずだったね。あたし達が殺されかけたのと、王子様の狂言誘拐とは、責任者が別々さ。」
「…どういう事だ。」
「なに、単純な話だよ。王子様に『あんたのせいで殺されかけた』って言うのは違うけど、『何をバカなことやってくれてるんだ』って文句なら好きなだけどうぞって事さ。」
怒りと困惑が混ざった風刃の視線を受け流し、メイルはアルス王子を見やる。
「王子様が条約違反した挙句に隠蔽なんかしなきゃ、こんな騒ぎは起きなかったんだからね。そこには仕事の成否関係なく、一個人としてお説教しても構わないんじゃないかい?」
「…ん〜、俺様も耳がやべえかな。今の傭兵お姉さんの台詞、『自分がそうしたい』って聞こえたんだけど。」
「耳の心配ならいらないよ、赤髪のお兄さん。そう言ったんだからね。」
「…傭兵さんも…割と…頭…来てる…?」
「…この坊ちゃんには負けてるだろうけど、腹は立ってるかな。色々仕事受けて来て、依頼人に騙されたこともいくらかあったけど、依頼人まで躍らせられてたなんて初めてのケースだからね。」
腕組みをしたメイルが、微かに憤りの混ざった溜息を吐く。
「噂じゃ、アルス王子は若さに似合わず節度があるって聞いてたんだけど…なかなかのガセネタだったかな?」
「だから、違うってば!アルスくんはローガルスに行ったのを後悔してて、ご家族にもちゃんと全部話そうとしてたの!それを私が、『バレたらまずい』なんて言ったから…!」
「…ならお前が提案して協力したってだけで、条例違反も狂言誘拐も王子の意思って事だな?」
「…あ…。」
「…それじゃ…あなたに…全部…なすりつけて…アルスくんは…無罪放免…ってわけには…いかないね…。」
悲しげな声の舞から言い辛そうに告げられ、ユナは無言のまま力なく膝を突いた。
そこに、アルス王子が跪くようにして語り掛ける。
「…すみません、ユナさん。僕の愚行のせいで、あなたまで…。」
「…ううん。一番バカだったのは、私…おかしなマネしなきゃ、アルスくんに余計な罪を重ねさせないで済んだのに…。」
「ふん…覆水盆に返らずだな。」
風刃が冷然と放った追い打ちに、誰も物言いを付ける事はなかった。
「…皆さま。この度は大変ご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。それ以外、お詫びの言葉も見つかりません…。」
「私も…本当に、すみませんでした…!」
アルス王子とユナは、揃って深々と土下座した。
「御丁寧にどうも。ですが、御二方が一番お詫びをしなければならない方々は、ファラームにいらっしゃいます。…御存知ですね?」
「「…はい。」」
アルス王子とユナ、そして気絶したままのラダンを連れて、僕達はファラームへ向かった。
「…そうだけど…?」
「ふっ。なかなか良いタイミングで現れやがったな。」
舞が静かに答えると、ラダンは獰猛な笑みを浮かべた。
「ちょうどこの死に損ない共を始末するところだ。大人しく見物してりゃ、てめえは楽に殺してやってもいいぜ。」
「…封殺者が…目の前で…殺人予告されて…黙って…見てると…思う…?」
「何だ、そんなに苦しんで死にてえのか?だったら望み通りにしてやるよ!」
薄笑いしたままのラダンが、舞の首筋を目掛けて赤錆の斧を振るう。
しかし舞は、右手の親指と人差し指で簡単に受け止めてみせた。
「何!?」
「…危ない…なあ…こんな物…冗談でも…振り回すんじゃ…ありません…。」
「ぐおっ!!」
まるで紙飛行機を扱うような小さい動きで、巨漢のラダンが斧ごと軽く投げ飛ばされた。
ラダンは黒い屋根のロッジの壁で背中を強打し、ずり落ちる。
「ぐ…てめえ、その辺のザコ封殺者じゃねえな!何者だ!」
「…人の…門下生を…ざこ呼ばわり…しないで…。」
「封殺者が、てめえの門下生だと…?」
立ち上がったラダンの顔が、答えを察したように固まった。
「…私…封殺者…師範代…水川舞…。」
ラダンは言葉もなく驚愕を露わにしたが、すぐに呵々大笑する。
「は…はは…ははははは!!!てめえが噂の次代最強か!!!」
喜びに震え、舞に向かって突っ込んだ。
「まさか出くわす時が来るとはな!てめえ程のヤツを消せば、この連中みてえなゴミ共を100や200…いや、1000匹殺すよりずっと名が上がるってもんだ!」
巨体に似合わない俊敏さで距離を詰め、斧での連続斬りを仕掛ける。
「…盗みと…人殺ししか…できない男に…友達を…ごみなんて…言われる筋合い…ない…!」
一方で舞は、不愉快そうに唇を歪めつつ悠然とした動きで攻撃をかわしていたが、不意に立ち止まった。
「どうした、観念しやがったか―ぐっ!」
斧が届くと思ったところで、ラダンが転んだ。
舞に足を引っかけられたのだ。
「…くく。チャチな不意打ちとはいえこのオレを転ばせやがるとは、さすがに騒がれるだけはあるらしいな。」
ラダンは冷や汗を一滴浮かべながらも、あくまで凶暴な笑顔を崩さずに斧を構え直す。
「だが、図に乗るんじゃねえぞ。このラダン、千載一遇の好機を取りこぼしてやる程、甘くねえ。てめえは確実にここで殺す!」
「…一応…聞くけど…私に…何か…恨み…あるの…?…仲間を…捕まえられた…とか…。」
「はっ!ねえよ、そんなモン!てめえはオレの名を上げるための踏み台、ただそれだけだ!」
「…とことん…最低…!」
いよいよ嫌悪を露わにし、拳を握る。
「…これ以上…その顔…見たくない…あっさり…だうんさせてあげる…覚悟なさい…!」
「ははは、上等だ!やってみろ、根暗ヅラが!」
ラダンが斧を高々と掲げ、赤黒い光を宿らせる。
「また地崩撃か!」
魄力を集中しているだけで、微弱にではあるが辺りの地面を震わせていた。
炸裂させれば、僕達に浴びせたものとは比較にならない被害をもたらすだろう。
「舞さん、ラダンから距離を―」
麗奈が忠告するより速く、舞の拳がラダンの腹部に決まった。
「…が…。」
集められていた魄力が霧散し、斧からも禍々しい光が消える。
目を見開いたラダンはごく小さな呻き声を漏らすとそのままうつ伏せに倒れ、起き上がっては来なかった。
「…ばかな…男…強盗なんて…しなきゃ…こんな…かっこ悪いことに…ならなかったのに…ね…。」
つまらなさそうに独り言ちると、舞は長い黒髪をかきあげた。
「…舞ちゃん…そいつ、マジに気絶したの?」
「…みたい…だね…。」
「まさか…あンだけ殴っても斬っても倒れなかッたヤローを、一撃とは…。」
「…もう…みんなに…だいぶ…やられてたもんね…ぱわー全開…だったら…私1人じゃ…こんな…簡単には…。」
「…下らん世辞抜かすな。僕達が弱らせてなくても、同じだったろ…。」
悔しさと虚しさを精一杯堪えながら、それでも投げやりに言う。
「…いや…そんなこと…。」
「まあまあ、嵐兄さん!強盗はどうにかなったし、ひとまずめでたしめでたしじゃないですか!」
「相変わらず軽いな、てめぇは…。」
「何さ、その言い草!みんな殺されないで済んだんだから、ハッピーエンドでしょ!」
「…俺等が殺される危険を作った元凶共だけのうのうと逃げてやがるのが、ハッピーエンドか?」
「あっ。」
氷華君が口を開けて固まると、風刃は呆れを隠さず重い溜息を吐いた。
「…奴は当分起きそうもないね。今のうちに、改めて王子と小娘を確保と行こうか。」
「ああ。…でもあの時、弾みで逃げろなんて言ったのはまずかったな。どこに行ったやら…。」
「…大丈夫…村の入り口で…待たせてるよ…。」
「え、入り口で?」
舞が浅く頷いた。
聞けば舞は林の中で迷っていたところ、アルス王子とユナに会って状況を知ったらしい。
そこで、他人に危険を押し付けて逃げ隠れするのはどうかと思うと苦言を呈したところ、2人は村の入り口で待機すると答えたという。
舞は終わったことだし呼び出しちゃおうかとスマートフォンを取り出し、アルス王子に電話を掛けた。
「…もしもし…アルスくん…?…舞です…強盗は…やっつけたから…村の中…入って来て…うん…そう…黒い屋根の…ろっじの前…うん…はい…待ってるね…。」
「…ところで、どうやって迷ったんですか?あそこ、一本道なのに…。」
「…うっ…痛いところを…。」
電話が終わるや向けられた風刃の問いに、スマートフォンをしまった舞が顔を赤らめる。
「…私…方向音痴なんだけど…それでも…見通しが…良ければ…迷わないって…思って…とりあえず…林から…出ようとしてたら…いつの間にか…どこがどこだか…分からなくなって…。」
「…そうですか。」
「…風刃くんを…捜してた時も…そんな感じで…迷ってて…2回目に…なったら…酔うの…覚悟で…運んでもらえば…良かったかなって…後悔した…。」
「まさしく後の祭りだな…。」
「舞さま、皆さま…。」
僕が呆れて突っ込みを入れた時、アルス王子とユナが到着した。
「えっと、その…この度は…。」
伏し目がちに話し出したユナに構わず風刃が飛び出し、左手でアルス王子の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ…自分が何したか分かってやがるのか!!」
「ちょっ…止めて!狂言誘拐を考えたのはアルスくんじゃないの!アルスくんはものすごく反省してて―」
「知るか!どの道、元凶はこいつだろうが!」
ユナの弁護に耳を貸さず、風刃が王子を目掛けて拳を繰り出す。
後ろから手を伸ばし、その一撃を止めたのは、メイルだった。
「何のつもりだ、てめぇ!自分を殺してたかもしれねぇ奴を庇う気か!」
「…坊ちゃん。嫌な話だけど、あたし達が殺されかけたのはあたし達の力不足のせいだよ。」
「何だと…!?」
メイルに向き直った風刃は、思わずアルス王子から手を離していた。
「依頼を受けた以上は、どんな危険に出くわしたって力ずくで切り抜ける。できなかったら、最悪死ぬ。戦いの仕事は、それが全部さ。」
言葉に詰まった風刃が右手を握り締め、わなわなと震える。
「…敵に勝てなかったら、文句を言う資格もねぇってのか…!こんなふざけた真似した野郎共にも…!」
「おっと、言葉足らずだったね。あたし達が殺されかけたのと、王子様の狂言誘拐とは、責任者が別々さ。」
「…どういう事だ。」
「なに、単純な話だよ。王子様に『あんたのせいで殺されかけた』って言うのは違うけど、『何をバカなことやってくれてるんだ』って文句なら好きなだけどうぞって事さ。」
怒りと困惑が混ざった風刃の視線を受け流し、メイルはアルス王子を見やる。
「王子様が条約違反した挙句に隠蔽なんかしなきゃ、こんな騒ぎは起きなかったんだからね。そこには仕事の成否関係なく、一個人としてお説教しても構わないんじゃないかい?」
「…ん〜、俺様も耳がやべえかな。今の傭兵お姉さんの台詞、『自分がそうしたい』って聞こえたんだけど。」
「耳の心配ならいらないよ、赤髪のお兄さん。そう言ったんだからね。」
「…傭兵さんも…割と…頭…来てる…?」
「…この坊ちゃんには負けてるだろうけど、腹は立ってるかな。色々仕事受けて来て、依頼人に騙されたこともいくらかあったけど、依頼人まで躍らせられてたなんて初めてのケースだからね。」
腕組みをしたメイルが、微かに憤りの混ざった溜息を吐く。
「噂じゃ、アルス王子は若さに似合わず節度があるって聞いてたんだけど…なかなかのガセネタだったかな?」
「だから、違うってば!アルスくんはローガルスに行ったのを後悔してて、ご家族にもちゃんと全部話そうとしてたの!それを私が、『バレたらまずい』なんて言ったから…!」
「…ならお前が提案して協力したってだけで、条例違反も狂言誘拐も王子の意思って事だな?」
「…あ…。」
「…それじゃ…あなたに…全部…なすりつけて…アルスくんは…無罪放免…ってわけには…いかないね…。」
悲しげな声の舞から言い辛そうに告げられ、ユナは無言のまま力なく膝を突いた。
そこに、アルス王子が跪くようにして語り掛ける。
「…すみません、ユナさん。僕の愚行のせいで、あなたまで…。」
「…ううん。一番バカだったのは、私…おかしなマネしなきゃ、アルスくんに余計な罪を重ねさせないで済んだのに…。」
「ふん…覆水盆に返らずだな。」
風刃が冷然と放った追い打ちに、誰も物言いを付ける事はなかった。
「…皆さま。この度は大変ご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。それ以外、お詫びの言葉も見つかりません…。」
「私も…本当に、すみませんでした…!」
アルス王子とユナは、揃って深々と土下座した。
「御丁寧にどうも。ですが、御二方が一番お詫びをしなければならない方々は、ファラームにいらっしゃいます。…御存知ですね?」
「「…はい。」」
アルス王子とユナ、そして気絶したままのラダンを連れて、僕達はファラームへ向かった。
2024年05月18日
光の翼 赤錆の斧 あとがき
昼間から今日は。
拙作『光の翼』がどのサイトでもあまり読まれておらず、地味に気にしている『暇人の独り言』管理人です。
特に「カクヨム」が、先頃7ヶ月振りに更新してもほぼ無風でございました。
今時流行りの要素がない古臭い展開の上、世に言う「小説の作法」とやらも破っているのでちやほやされないのは仕方ないですが、新しい話を出しても反応されないのは流石に虚しくなります。
その点、「小説家になろう」は更新すると分かりやすくアクセスが増えるので、管理人のような自己満足志望の素人作家には特に向いているサイト…
…だったのですが、2024年3月のリニューアルで何とも使い辛い画面にされたもので、撤退してしまおうかとここ2ヶ月悩んでいるところです。
なろうといい、買収された某SNSといい、どうして悪い方向に変えていってくれやがるのか…
…さて。
本ブログでも久し振りの更新となった拙作『光の翼』ですが、最新話「赤錆の斧」を少しでもお楽しみ頂けましたでしょうか?
例によって冗長だったのを書き直すのに大苦戦したため、訪問者様の暇潰し程度にはなっていてくれと願います。
この話で厄介だったのは、風刃達と強盗ラダンの戦力差の描き方でした。
風刃達はあと一歩のところでラダンに勝てない役回りなので攻撃が効き過ぎても困るし、だからといって全く通じなかったら舞が着く前に殺されてしまうし…と、描き方に散々悩ませられたものです。
どうにか形にできて一安心はしていますが、読者様にとって説得力がある流れになっているのかどうか…
ちなみに作者が自分で気に入っている部分が、ラダンの「この世は取るか取られるか」思考と、それを元ネタに煽った氷華と駆の台詞です。
ラダンを悪しき芯と信念を持つ外道に出来た上、因果応報と言わんばかりにその思想を叩き返せて、なかなか良い気分でした。
構想段階には影も形もなく、話の流れで必要になったポッと出のキャラクターを、こんな風に濃く描く事になるとは。
本当なら続く舞とラダンの対決も同時に公開したかったのですが、3話分をまとめようとするともっと更新が止まりそうだったので、取り急ぎ「赤錆の斧」だけでも掲載しました。
現在、あーでもないこーでもないと悩みながら書いているので、御興味ある方はお待ち下さいますと幸いです。
それでは、また。
拙作『光の翼』がどのサイトでもあまり読まれておらず、地味に気にしている『暇人の独り言』管理人です。
特に「カクヨム」が、先頃7ヶ月振りに更新してもほぼ無風でございました。
今時流行りの要素がない古臭い展開の上、世に言う「小説の作法」とやらも破っているのでちやほやされないのは仕方ないですが、新しい話を出しても反応されないのは流石に虚しくなります。
その点、「小説家になろう」は更新すると分かりやすくアクセスが増えるので、管理人のような自己満足志望の素人作家には特に向いているサイト…
…だったのですが、2024年3月のリニューアルで何とも使い辛い画面にされたもので、撤退してしまおうかとここ2ヶ月悩んでいるところです。
なろうといい、買収された某SNSといい、どうして悪い方向に変えていってくれやがるのか…
…さて。
本ブログでも久し振りの更新となった拙作『光の翼』ですが、最新話「赤錆の斧」を少しでもお楽しみ頂けましたでしょうか?
例によって冗長だったのを書き直すのに大苦戦したため、訪問者様の暇潰し程度にはなっていてくれと願います。
この話で厄介だったのは、風刃達と強盗ラダンの戦力差の描き方でした。
風刃達はあと一歩のところでラダンに勝てない役回りなので攻撃が効き過ぎても困るし、だからといって全く通じなかったら舞が着く前に殺されてしまうし…と、描き方に散々悩ませられたものです。
どうにか形にできて一安心はしていますが、読者様にとって説得力がある流れになっているのかどうか…
ちなみに作者が自分で気に入っている部分が、ラダンの「この世は取るか取られるか」思考と、それを元ネタに煽った氷華と駆の台詞です。
ラダンを悪しき芯と信念を持つ外道に出来た上、因果応報と言わんばかりにその思想を叩き返せて、なかなか良い気分でした。
構想段階には影も形もなく、話の流れで必要になったポッと出のキャラクターを、こんな風に濃く描く事になるとは。
本当なら続く舞とラダンの対決も同時に公開したかったのですが、3話分をまとめようとするともっと更新が止まりそうだったので、取り急ぎ「赤錆の斧」だけでも掲載しました。
現在、あーでもないこーでもないと悩みながら書いているので、御興味ある方はお待ち下さいますと幸いです。
それでは、また。