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島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から15

6 まとめ
 
 受容の読みによる「写生と研究」という出力は、すぐに共生の読みの入力となる。続けて、データベースから信州の山に住む人々の人柄を写生した場面を考察すると、「共感と批判」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「島崎藤村と観察に基づく思考」というシナジーのメタファーが作られる。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

大山正・中島義明共編 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
島崎藤村 千曲川のスケッチ(解説 平野謙) 新潮文庫 2004
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015 
花村嘉英 日语教育计划书(上海分会)−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社2017
花村嘉英 「シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖」『中国日語教学研究会上海分会論文集』 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学 出版社 2018
花村嘉英 「川端康成の『雪国』に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ」『中国日語教学研究会上海分会論文集』華東理工大学出版社 2019 
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
山室静・関良一・剣持武彦 藤村詩集 日本近代文学大系 角川書店 1983

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から14

【連想分析2】

表3 情報の認知

表2 Aと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
表2 Bと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Cと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Dと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Eと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
D 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。

結果
 島崎藤村は、この場面で、山に住む人々から情報を取り込み、長野の土地柄を写生している。様々な人がいる中で理屈っぽいという直感がこの場面の分析を面白くしてくれる。そのため、問題解決と未解決が交錯する場面となっている。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から13

情報の認知1(感覚情報) 

 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
 
情報の認知2(記憶と学習) 
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、経験を通した学習となり、カテゴリー化される。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論) 
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から12

分析例

1 山に住む人々について記述している場面。
2 この小論では、「千曲川のスケッチ」の執筆脳を「共感と批判」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、研究のありなしに注目する。
3 長野の土地柄が学問好きな人々の集まりとなっている。
3 意味1 1喜2怒3哀4楽、意味2 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味3研究1あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
4 人工知脳1 共感1ある2なし、人工知能2 批判1ある2なし

テキスト共生の公式
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「写生と研究」を作る。
ステップ2 学習や観察から「共感と批判」という組を作り、解析の組と合わせる。

A 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
B  4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
C  4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
D  3哀+2聴覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。
E  4楽+1視覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から11

【連想分析1】

表2 言語の認知(文法と意味)山に住む人々

A 一体にこの山国では学者を尊重する気風がある。小学校の教師でも、他の地方に比べると、比較的好い報酬を受けている。又、社会上の位置から言っても割合に尊敬を払われている。その点は都会の教育家などの比でない。新聞記者までも「先生」として立てられる。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
B 長野あたりから新聞記者を聘へいして講演を聴くなぞはここらでは珍しくない。何か一芸に長じたものと見れば、そういう人から新智識を吸集しようとする。小諸辺のことで言ってみても、名士先生を歓迎する会は実に多い。あだかも昔の御関所のように、そういう人達の素通りを許さないという形だ。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
C 御蔭で私もここへ来てから種々いろいろな先生方の話を拝聴することが出来た。故福沢諭吉氏も一度ここを通られて、何か土産話を置いて行かれたとか。その事は私は後で学校の校長から聞いた。朝鮮亡命の客でよく足を留めた人もある。旅の書家なぞが困って来れば、相応に旅費を持たせて立たせるという風だ。概して、軍人も、新聞記者も、教育家も、美術家も、皆な同じように迎えらるる傾きがある。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
D こうした熱心な何もかも同じように受入れようとする傾きは、一方に於いて一種重苦しい空気を形造っている。強しいて言えば、地方的単調……その為には全く気質を異にする人でも、同じような話しか出来ないようなところがある。
意味1 3、意味2 2、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1
E それから佐久あたりには殊に消極的な勇気に富んでいる人を見かける。ここには極くノンキな人もいるが又非常に理窟ッぽい人もいる。
意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から10

5 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータは、列の前半(文法1から意味4)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「千曲川のスケッチ」のデータベースのカラム
文法1 態: 能動、受動、使役。
文法2 時制、相: 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 : 可能、推量、義務、必然。
意味1 喜怒哀楽: 喜怒哀楽、記事なし。
意味2 五感: 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味3 思考の流れ: 研究あり、なし。
意味4 振舞い: 身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「写生と研究」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の
認知1 感覚情報の捉え方: 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の
認知2 記憶と学習: 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の
認知3 計画、問題解決、推論: 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 共感・批判 エキスパートシステム: 人の考えや主張を自分も同様に感じたり理解したり、人物、行為、判断、学説、作品などの価値、能力、正当性などを評価検討する。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から9

 批判的思考の適用は、自分の持つ批判的な思考のスキルから最適なものを選択し遂行するというプロセスにより成立する。使用判断は、批判的思考をその状況で行うか否か判断し、表出判断は、行った批判的思考をその場面で表出するか否かを考える。
 一方に熱心な歓迎から同じような受入をする傾向は、ある時、地方的な単調という一種の重苦しさになってしまう。藤村の直観である。気質を異にする人でも同じような話をするし、また、理屈っぽい人もいる。人の心が激しいからであり、青年会の準備をするために激しい議論もあった。
 「山に住む人々」の場面で、(2)のモデルを考える。使用判断を実行し、批判的思考の適用では、都会を経験した藤村が第三者的に信州人の気質を写生し、人物の価値や能力を評価、検討しているため、表出判断では、この場面で表出するとなる。
 信号の流れは、購読と同様に、共生の読みでも何かの分析→直感→専門家である。藤村に関し、五感分析→思弁→エキスパートという流れで「共感と批判」という共生の読みを考える。「千曲川のスケッチ」では自然や文化の認識が重要な情報となるため、シナジーのメタファーは、「島崎藤村と観察に基づく思考」にする。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から8

 大山・中島(2012)によると、日本文化は全般的に人間関係の中での感情的なつながりを重視する。世の中には様々な情報が氾濫しており、目標を定めて情報を取り扱い合理的に判断できれば効果は上がる。こうした判断の土台となる思考が批判的思考である。批判的思考の認知プロセスは、使用判断→批判的思考の適用→表出判断の3項目からなる。

(2)批判的思考の認知プロセス
状況変数(目標、文脈)→1状況解釈→2使用判断(1と2使用判断プロセス)→3批判的思考スキルの探索・選択→4批判的思考スキルと適用(問題の明確化)→5表出判断→6批判的思考行動の構成(5と6表出判断プロセス)→7批判的思考のパフォーマンス(大山・中島2012)

 「千曲川のスケッチ」によると、長野は、学問を尊重する土地柄である。師範学校の応募者数が多く、小学校の教師も報酬が良く、新聞記者による講演会もある。無論、学者も尊重の対象であるため、長野を訪れた名士たちを歓迎する勉強会は多い。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より

島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から7

 そして、その事象が自発行動の反応の頻度を高めるときは、強化刺激または強化子となる。例えば、お腹がすけば食事が強化刺激であり、「千曲川のスケッチ」で見ると、旅を重ねる毎に発見があるため、発見が強化子となる。
 実際に自分で行動せずに、外的刺激や他者の行動を追うときは、観察になる。観察の場面で他者が強化される(代理強化)、または、他者の行動のみを観察(モデリング)する場合は、観察者の行動が変化する。広義に捉えた場合、これらは共にモデリングになる。「千曲川のスケッチ」についてまとめると、詩から散文へのコース変更を完成させるための研究が学習と観察に二分され、別れた学習が古典的と条件付きに分かれ、一方、観察が代理強化とモデリングに二分される。

(1)藤村の研究の樹形図
1研究→自発行動による学習と外的刺激や他者の行動を追う観察、
2学習→古典的と条件付き、
3観察→代理強化とモデリング

 学習、観察を経て問題解決に進む場合、思考が考察の対象になる。思考には、共感と批判があり、共感は、難易度を問わず自身の理解に近い場合、一方批判的で効果的な文脈は、専門書を読むような難易度の高いケースである。非効果的な文脈は、その逆で、お決まりの入出力とか嘘など難易度の低いケースである。

花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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