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2023年04月17日

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察25

参考文献

Allwood, J et al Logic in Linguistics, 1977(日常言語の論理学 産業図書 1979)
Benett, M A variation and extension of a Montague fragement of English, in Partee (ed), Montague Grammar, 119-163, 1976
Chomsky, N On the generative enterprise, 1982, 生成文法の企て「言語」1984.9−1985.9
Cooper, R and Parsons, T Montague Grammar, generative semantics and interpretive semantics, in Partee (ed), Montague Grammar, 311-362, 1976
Engel, U und Schumacher, H Kleines Valenz lexikon deutscher Verben, 1976
Engel, U Syntax der deutschen Gegenwartsprache, 1977
Engelen, B Untersuchung zu Satzbauplan und Wortfeld in der geschriebenen deutschen Sprache der Gegenwart, 1975
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ 推論といえるのか? 新風舎. 2005
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る ブイツーソリューション. 2022
Helbig, G und Schenkel, W Wörterbuch zur Valenz und Distribution deutscher Verben, 1969
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金子亨 法・様相などについて ドイツ文学74, 1−10 1985
Lewis, D General Semantics, in Partee (ed), Montague Grammar, 1-50, 1976
Löbner, S einführung in die Montague Grammatik, Gunter Narr, 1976
------- Intensionale Verben und Funktionalbegriffe, 1976
Martin, R,M Why I am not a Montague Grammarian, Theoretical Linguistics, 2, 147-157, 1975
Montague, R Universal Grammar, in Thomason (ed.), Formal Philosophy, 222-246, 1974
------- The proper treatment of quantification in ordinary English, in Thomason (ed.), Formal Philosophy, 1974, 247-270
Motsch, W et al Grundzügeeiner deutschen Grammatik, 1981
長尾真、淵一博 論理と意味 岩波書店 1983
Neugeborn, W Zur Analyse von Sätzen mit finiter Verbform + Infinitiv, in Schumacher (Hrsg.), Untersuchungen zur Verbvalenz, 1976, 66-75
野本和幸 フレーゲの言語哲学 勁草書房 1986
Partee, B Montague Grammar and Transformational grammar, in Linguistic Inquiry 6, 203-300 , 1975
------- Some transformational extension of Montague Grammar, in Partee (ed), Montague Grammar, 1976, 51-76
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論理文法研究会編 様相論理学 上智大学 1989.
坂井秀寿 日本語の文法と論理 勁草書房 1985
白井賢一郎 形式意味論入門 産業図書 1985
Thomason, R  Introductions, in Thomason(ed.), Formal Philosophy, 1-69, 1974
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内田種臣 様相と論理 早稲田大出版会 1979

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察24

(20)、(24)、(25)のもう一つの読み、即ち「あるプロセスの始まり、終了」を規定する樹系図及びILへの翻訳式は、モンタギューのオリジナルの理論から規則づけることはできない。
 この結果は、予期されたものである。なぜならば、様相因子が主語内的、主語外的とは生成意味論的な手法を改案し、表層統語レベルでの根拠づけを果たすために設けられた分析手段であり、表層に現れた言語現象に見られる曖昧性を取り、真理値の必要十分条件を定めるために設定されたモンタギューの内包論理に基づく意味解釈とは、本質的に異なるからである。
 しかし、この問題を解決する上で見込みがないわけではない。例えば、Cooper(1976)には、生成意味論とモンタギューの文法理論との折衷安が示されており、例として、文に現れる複数の読み(意図性、プロセスの変化)は、統語的に曖昧と考えず、つまり、単一の統語分析を考え、あくまで意味解釈の過程で厳密に分析されるべき問題となっている。
 この論文は、モンタギューの文法理論に対して決して否定的な立場にあるわけではない。言語学の目的の一つに、「ことばの意味に対する説明上妥当な記述を施すこと」というものがある限り、モンタギュー流の厳密な手法に基づく意味解釈の規定とは、それなりに意義があるからである。

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察23

(20)と同様に様相因子の係り具合により曖昧性が生じるbeginnen やaufhörenからなる文についてはどのように翻訳されるのであろうか。

(24) Das Kind beginnt zu sprechen.
(25) Das Mädchen hört auf zu weinen.

(24)Das Kind beginnt zu sprechen. 1
       △
   das Kind  beginnen zu sprechen 5
          △
      beginnen sprechen

翻訳
1 in(beginnen(sprechen))∈ das(Kind) ÜR1
2 in(beginnen(sprechen))∈ das(in(Kind))ÜR2
3 in(beginnen(sprechen))∈{PQ|∃x(ex(P)={x}⋀ x ∈P}(in(Kind))ÜR4
4 ∃x(Kind={x}⋀ x ∈{x| x∈beginnen(in(x∈sprechen))}ÜR5

(25)Das Mädchen hört auf zu weinen. 1
      △
 Das Mädchen aufhören zu weinen  5
           △
      aufhören weinen

翻訳
1 in(aufhören(weinen))∈ das(Mädchen)ÜR1
2 in(aufhören(weinen))∈ das(in(Mädchen))ÜR2
3 in(aufhören(weinen))∈ PQ|∃x(ex(P)={x}⋀ x∈P)}(in(Mädchen))ÜR4
4 ∃x(Mädchen={x}⋀ x ∈{x|x∈aufhören(in(x ∈weinen))}ÜR5

(24)と(25)の翻訳式から得られる意味解釈もやはり「意図性」を含んでいる。

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察22

3.2 内包論理への翻訳

 Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の主語への係かり具合により生まれる曖昧性がモンタギュー流の内包論理、即ち、文が真となるための必要十分条件を設定し、規定できるかどうか検討していく。欲しい結論は、ILの翻訳により得られた式が上記の曖昧性を定義しうるということである。
 尚、(20)は、Löbner(1976)における基本表現には含まれていないものから構成されている。しかし、範疇さえ考慮すれば問題はなかろう。(20)のILへの翻訳を考える。

(20)Heinrich fängt an zu singen. 1
       △
   Heinrich  anfangen zu singen 3
             △
         anfangen singen 5

翻訳
1 in(anfangen(singen))∈ Heinrich ÜR1
2 in(anfangen(singen))∈{P|in(Heinrich) ∈P} ÜR1
3  in(Heinrich)∈{x|x∈anfangen(in(x∈singen))}} ÜR5

 この翻訳式からなる意味解釈は、「意図性」が現れる。

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察21

 上述した分類によれば、beginnen(範疇TrVv)は、主語外延動詞とされている。しかし、先にも見たように、この動詞には様相因子の振舞いいかんで2通りの意味が考えられることから、修正が必要になる。
 即ち、beginnenが「あるプロセスの始まり」を表す場合は、確かに主語外延的な動詞と見なすことができる。しかし、「意図」をともなうと、前者に比してその表現内容に幅が生じ、主語内包動詞として振る舞うことになる。anfangen、aufhörenについても同様のことがいえよう。

<beginnen>様相因子
主語内的 → 主語内包的
主語外的 → 主語外延的

 ここで対象としているのは、あくまで(20)の形(E0 (+Anim))であり、その他のものは、意識していないためである。無論、同形の文全てに2通りの読みがあるわけではない。例、Seine Schwester beginnt, alt zu werden. (主語外延的)

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察20

 一方、2つの動詞群は、持続的な行為及びプロセスを表し、その際、主語には時間的な広がりがあり、その内包は、変化しないとされている。

(23)Der Bürgermeister kehrte zurück.

 (23)は、“Der Bürgermeister ist weggegangen.”という文を含意するためである。ILの表記では、∀x(x∈v→Konstant(x))となる。そして基本表現のうち主語内包動詞は、次の通りである。
 
V altern、einschlafen、arbeiten、zurückkehren
TrVn erkennen、verwöhnen、stören、beobachten、einschüchtern、begeistern
TrVsatz begreifen、verdrängen、wissen、glauben、wünschen
TrVv lernen、versuchen

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察19

3 モンタギュー文法からの考察

3.1 主格補足語に基づいた動詞の分類(Löbner 1976)

 Löbner(1976)は、モンタギュー文法のドイツ語への適応のみならず、動詞の範疇(V、TrVn、TrVsatz、TrVv)に属する基本表現と補足語の関係をモンタギュー流の内包、外延という概念を用いて分類している。しかし、ここでは、そのうち主格補足語に関するものをみることにする。本稿のテーマがそこにあるからである。その他の分類に関して簡単に触れるならば、例えば、TrVnに属する基本表現と目的語に見られる外延や内包に基づいたものがある。
 主語外延動詞と主語内包動詞に関するLöbner(1976)の説明は、次の通りである。主語外延の動詞群は、状態及び瞬時の行為を表し、主語に対して時間的な広がりを要請することなく、ある個体概念に該当する場合、抽出されたその個体概念と等しい外延を持つものにも当てはまらなければならない。
 ILの表記を用いれば、∀x∀y(x∈v ⋀ ex(x)= ex(y)→ y ∈v)あるいは∀y(∃x(x∈v ⋀ ex(x)= ex(y)) y∈v)となる。そして、主語外延動詞とは、基本表現のうち次のものである。

V frieren、husuten、lächeln、pfeifen、seufzen
TrVn begrüßen、finden、sehen、verfluchen
TrVsatz sagen、vertreten、schwören、versprechen、behaupten
TrVv beginnen、wagen

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察18

2.4 anfangen、beginnen、aufhören

 2.1の最後にEngel(1976)の上記3動詞に関する識別方法では不十分であるとし、その理由を例文(20)においてすら「あるプロセスの始まり」を表す場合があるとした。
 (20)の文が表すこうした意味上の曖昧性を説明するために、ラインヴァインの提示した概念、主語内的、主語外的を借用すると、(20)の文が「意図」をともなう場合は、様相因子が主語内的になり、「あるプロセスの始まり」を示す場合は、様相因子が主語外的になる。このことをまとめと、次のようになる。

     Normativergänzung     意味 様相因子
様相動詞 +Anim Abst(als Hum)   意図  主語内的
本動詞  Abst(als Hum) −Anim、Abst プロセス開始 主語外的

 ここで、<+ Anim、Abst(als Hum)、−Anim、Abst>は、Helbig und Schenkel(1969)の用語である。尚、Helbig und Schenkel(1969)について一言述べると、anfangen、beginnen、aufhören(aufhörenの記載は実際にない)の項で、zu不定詞句とdaß文が相応して書き換えが可能とされている点は適切ではない。なぜなら、先に特性Cに関して記したように、主語同定の関係にある場合、従属文には、主にzu不定詞句が現れ、daß文がそれと同レベルで下位構造になることは、とりわけ実用的なレベルではないからである。
 Anfangenに関する表2は、beginnenやaufhörenについても該当する。但し、Normativergänzungに現れる特性には違いが見られる。(Helbig und Schenkel 1969)。
 最後に問題となるのは、様相因子の動き具合である。先の図からでは、この点が説明されない。そこで、言語を統語上も意味上も曖昧性なく記していく、モンタギュー流の手法により、さらに検討してみることにする。

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察17

2.3 様相の意味論

 様相の意味論は、これまで主に話法の助動詞から研究がなされてきた。そのうちの一つにReinwein(1977)がある。ラインヴァインは、伝統的な話法の助動詞のそれぞれの読み(Primitivprädikat)を統語レベルでの分類(認識的epistemisch)、主語内的(intrasubjektiv)、主語外的(extrasubjektiv)と掛け合わせている。

話法の助動詞

können 認識的(可能)、主語内的(能力)、主語外的(許可)
müssen 認識的(必然)、主語外的(要求)
dürfen 認識的(可能)、主語外的(許可)
sollen 認識的(主張)、主語外的(意志)
mögen 主語内的(意志)
wollen 主語内的(意志)

 ここでいう認識的、主語内的、主語外的な統語構造とは、それぞれ、自動詞や他動詞のうち二価と三価のものに相応している。しかし、この表に示された話法の助動詞の読みが、2.1で列挙した動詞の意味合いとどれほど合致するのか調べてみると、pflegen、anfangen、anheben、beginnen、aufhörenには適合しない。

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察16

2.2 様相動詞に準ずる動詞

(21) Das Problem ist kaum zu lösen.
(22) Es bleibt noch viel für dich zu tun.

 (21)と(22)は、確かに意味上で様相を表している。しかし、それぞれが次のように書き換えられるため、特性C及び特性Gに違反することから、様相動詞には数えられないことになる。

(21)※ Das Problem kann kaum gelöst werden.
(22)※ Es muß noch viel getan werden.

花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性−モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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