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2019年08月25日

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分10

6 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃いものにしてくれている。

【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 日本成人病予防協会 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から 森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
井上靖 わが母の記 講談社文庫 2012

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2低い、標準偏差0.27低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.5普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Bの標準偏差数字が0のため、祖母の振舞いを描こうと思っている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 祖母の食後の様子。
A 4、視覚、直示、旧情報、解決 → 芳子が祖母を寝つかせる。 
B 5、視覚、直示、新情報、未解決 → 母は芳子にだけは寛容であった。
C 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 芳子が就寝時の祖母の様子を語る。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 祖母の寝る様子。
【場面の全体】
 視覚情報が6割ほどしかなく、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低い。従って、ここでは視覚以外の情報が役に立っている。

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分8

◆場面3

夕食後は、母は絨毯の上に座布団を敷いて座って、二時間ほど居間で過した。周囲の者の話に耳を傾けることもあれば、自分だけの世界に入っていることもあった。そのうちに眠気を催して、時々居眠りをし、その度に気付いては、ちょっとはにかんだ表情で着物の襟元に手を持って行ったりする。A2B1C2D2

母のこうした様子に気がつくと、芳子はさっと立ち上がって行って、
「さあ、おねんね」
と、母の手をとる。母が拒否すると、
「だめ、だめ、さあ、おねんね」A1B1C1D1

芳子は器用に母を立ち上がらせ、半ば抱きかかえるようにして二階への階段のほうへ連れて行く。母を寝かせつけるのは芳子の役目であり、彼女だけにできる特技であった。他の者がこんなことをしようものなら大変であったが、母は芳子だけには寛容だった。A1B1C2D1

昼間母が昂奮しているときは芳子でも手に負えず、却って母は芳子に対しては邪慳な態度をとったが、時に芳子は今夜はうまく行ったとか、失敗したとか言いながら、就寝時の母について話すことがあった。
A2B1C2D2

「ぱっぱっと素早くやるの。着物を脱がせ、寝巻きに着替えさせ、お蒲団の中に入れ、駆け蒲団の方のところを、上からぽんぽんと叩く。それから髪と、お財布と、海中電灯を揃えて、それを一応おばあちゃんに見せてから、ここに間違いなくおきますよと言って、枕元に置くの。そしてもう一度かけ蒲団の方のところをぽんぽんと叩く。ぽんぽんと叩いて上げないと落ち着かないらしい。そして廊下に出て、電灯のスイッチをひねって部屋だけ暗くして、暫くそこに立っているの。二、三分経っても、おきてこなかったら、もう大丈夫」
A1B1C2D1

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7

【カラム】
A平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
D平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.4普通、標準偏差0.5普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.5普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
登場人物の直示とそれに絡み未解決が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 5、視覚、直示、旧情報、未解決 → 老いは目立つが頭脳に損傷があるとは思わない。
A 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 何回も同じことを言うのに、祖母には納得して貰えない。
B 5、視覚、直示、旧情報、未解決 → 注意しても無駄。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 →何回も同じことを言う。
D 7、視覚以外、隠喩、新情報、解決 → 祖母が固執していると思ったがその後考え方が新たった。
【場面の全体】
 視覚情報が4割のため、通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6

◆場面2

結局母は四年ほど桑子と一緒に暮した。母の老いが特に目立ってきたのは東京へ来て二、三年経った七十八、九歳の頃からであった。老耄の徴候は父の他界前後から既にあり、あとになって考えてみると、いろいろと思い当るふしがないでもないが、その反面気性の烈しいところも目立って来ていたので、誰も母の頭脳の一部に損傷箇所があるとは気付かなかったのである。A1B1C1D2

最初に私たちがこれは鬱陶しいことになったと思ったのは、母がいま口に出したことを忘れ、何回でもおなじことを繰り返すことは、まあ、いいとして、その事実を絶対に母自身に納得させることができぬと知った時である。A2B1C2D2

「ほら、おばあちゃん、それはもう何回も言ったでしょう」
誰かが注意してもそれは無駄であった。母はいつもそんなハズはないと思い込んでいたし、よほど素直な時でも半信半疑の面持を見せるぐらいがせいぜいのところであった。A1B1C1D2

しかも、こちらの言うことを瞬間瞬間には受けとっても、それはただその瞬間だけのことですぐに忘れてしまうので、こちらとしては一瞬母の頭を掠め決してその心に何の痕跡をも残すことのない言葉を徒らに発射しているようなものであった。母は何回でも同じ言葉を口に出す。A2B1C1D2

それはちょうど毀れたレコードの盤が何回でも同じ言葉を繰り返しながら回転しているのに似ていた。その頃、私たちは母が何回も同じことを繰り返すことを、母のそのことへの執心によるものと解釈していたが、その後私たちは考え方を改めていた。A2B2C2D1

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分5

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.5 四分位範囲1
B平均1.0 標準偏差0 中央値1 四分位範囲1
C平均1.8 標準偏差0.4 中央値1.5 四分位範囲1
D平均2.0 標準偏差0 中央値2 四分位範囲2
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2低い、標準偏差0.25低い、中央値1.25やや低い、四分位範囲1低い
CD 平均1.9高い、標準偏差0.2高い、中央値]1.75高い、四分位範囲1.5普通
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
BとDのバラツキが小さくて、直示のジェスチャーが多く、また問題解決になっていることから、祖母はよく動いている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、直示、旧情報、解決 → 東京に移ってからの祖母は朝から晩まで同じことを繰り返す。
A 6、視覚、直示、新情報、解決 → 物忘れと同じことを繰り返していう症状は烈しくなっていた。
B 6、視覚、直示、新情報、解決 → 祖母は一部が壊れてしまっている。
C 6、視覚、直示、新情報、解決 → 壊れた部分と壊れていない部分が交互にやってくる。
D 7、視覚以外、直示、新情報、解決 → スリッパの音で祖母だとわかる。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は6割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚意外の情報が問題解決に効いている。

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分5

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲1.0
D平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2低い、標準偏差0.27低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.9高い、標準偏差0.22低い、中央値2.0高い、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
BとDのバラツキが小さくて、直示のジェスチャーが多く、また問題解決になっていることから、祖母はよく動いている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、直示、旧情報、解決 → 東京に移ってからの祖母は朝から晩まで同じことを繰り返す。
A 6、視覚、直示、新情報、解決 → 物忘れと同じことを繰り返していう症状は烈しくなっていた。
B 6、視覚、直示、新情報、解決 → 祖母は一部が壊れてしまっている。
C 6、視覚、直示、新情報、解決 → 壊れた部分と壊れていない部分が交互にやってくる。
D 7、視覚以外、直示、新情報、解決 → スリッパの音で祖母だとわかる。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は6割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚意外の情報が問題解決に効いている。

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

井上靖の「わが母の記」の多変量解析−クラスタ分析と主成分4

◆場面1
東京へ移ってからの母は同じ話を繰り返すことが一層頻繁になった。桑子は私の家へ顔を出す度に、そうした母親に手を焼く話をした。実際に壊れたレコード盤のように、朝から晩まで同じことを繰り返されていてはやりきれないであろうと思われた。A2B1C1D2

私は妹に息抜きをさせるような気持ちで、時々母を家へ迎えた。しかし、一晩泊ると、次の朝はもう妹の家へ帰りたがった。強引に引き止めておいても、三日とは続かなかった。私にも家の者たちにも母の物忘れと同じ話を繰り返す症状が来る度ごとに烈しくなっているのが判った。A1B1C2D2

「おばあちゃんはとうとう壊れてしまったな」
大学へ行っている長男が言ったことがあるが、実際に母を見ていると、壊れた機械といった感じだった。病気ではなく、一部が壊れているのである。全部が壊れているのではなく、一部が壊れているのであるから、壊れていない部分もあるわけで、それだけに取り扱いにくいところがあった。A1B1C2D2

壊れている部分と壊れていない部分とは交互に混じり合っていて、その見分けは難しかった。物忘れはひどかったが、忘れないで覚えているところもあった。A1B1C2D2

母は私の家に居る時は、日に何回となく私の書斎へ顔を出した。母独特のスリッパの音の立て方をして廊下を踏んで来るので、私にはすぐに母のやって来ることが判る。A2B1C2D2

花村嘉英(2019)「井上靖の『わが母の記』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール