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2019年10月14日

心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える5

3 まとめ

 三浦綾子の「道ありき」に登場する人物の満足度についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、満足度に関して差があることが分かった。

参考文献

大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018 
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」の執筆脳について 2019
三浦綾子 道ありき 新潮文庫 2004

心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える4

表2 具体度

言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを伝導の書にわたしは感じた。→大きい満足2、弱い満足1 綾子2、前川1

この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

1 最初は男女の満足度に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、綾子 1.5、前川 1.0になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう満足度の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値、満足度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
綾子 1.5、前川 1.0、よってt値=0.5。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.2にする。ここでは5%以上のため、帰無仮説を採択し、有意な差がないとする。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える3

2.3 「道ありき」の登場人物に見る男女の満足度の違い

 「道ありき」は、作者自身の肺結核による闘病生活を愛や信仰を交えて綴った自叙伝である。ここでは、この小論の研究テーマ、男女の満足度の違いについて、作成したデータベースを基に考察していく。

解答 男女の満足度の違い
表1 具体度
そんな思いがしきりにした。どうもウソッパチな姿に思えてならなかったのである。私が信者になったら、真実な祈りのできる、ほんとうの信者になろう、などとわたしは、傲慢な思いを持っていたのである。そしてその思いをわたしは、前川正にかくさず告げた。→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

彼は、「綾ちゃんは手厳しいな」
そういうだけで、それ以上には何も言わなかった。「クリスチャンってなんとお人好しでしょう。信じていないもの同士が、神はある神はあるといいあって、お互いに安心しているんだもの」→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

ある時はそんなことも言った。前川正は、そんなわたしに聖書を開いて、伝導の書を嫁とすすめた。何の気なしに始めたこの伝導の書に、わたしはすっかり度肝を抜かれた。「伝道者曰く。空の空、空の空なるかな。すべて空なり。非の下に人の弄してなすところの諸々のはたらきは、そのミニなんの益あらん。世は去り世はきたる。地は永久に保つなり」→小さい満足1、小さい満足1 綾子1、前川1

そこまでのわずかな一行半を読んだだけで、わたしの心はこの伝導の書にたちまちひきつけられてしまった。→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

「河はみな海に流れいる。海は満つることなし。目はみるに飽くことなく、耳は聞くに見つることなし・・。先になりしことは、また後に成るべし。非の下には新しきものあらざるなり。見よこれは新しきものと、指して言うべきものなるや。それはわれらの前に在りし世々に、すでに久しくありたるものなり・・前のもののことは、これをおぼゆることなし。後のもののこともまた後に出ずるものこれをおぼゆることあらじ」→大きい満足2、小さい満足1 綾子2、前川1

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える2

2.2 実験計画

【研究テーマ】
質問 男女で満足度の違い。
帰無仮説 男女で満足度に差がない。
対立仮説 男女で満足度に差がある。
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
 帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、三浦綾子の「道ありき」を題材にして男女の満足度の違いについて考えていく。 

2 心理学統計

心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する。

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

6 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

【参考文献】

片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014 
三浦綾子の「道ありき」 新潮文庫 2004
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 日语教育与日本学研究-大学日语教育研究国际研讨会论文集 華東理工大学出版社 2018  
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 
華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 日语教育与日本学研究-大学日语教育研究国际研讨会论文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」の購読脳について 2019 

三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分8

【カラム】
A平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.22低い、中央値1.5普通、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.7高い、標準偏差0.22低い、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
BとCの標準偏差が0のため、直示と新情報を中心に描こうと思っている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 精密検査の結果を報告する。
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 旭川の病院に通院する。 
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 正月三浦光世が見舞いに来る。
C 5、視覚、直示、新情報、解決 → 来年の正月の話もする。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 綾子は嫁に行くことになる。
【場面の全体】
 視覚情報が8割ほどであり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合に近い。従って、ここでは視覚の情報量が普通である。

花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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