アルコール度数が「9%」と高いにもかかわらず、ジュースのような口当たりが特徴的で、しかも安価だとして人気のサントリー「−196℃ストロングゼロ」。昨年の大みそか、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏が、「ストロングZEROは『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか。半ば本気でそう思うことがよくあります。私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません」とFacebookに投稿し、ネット上で話題を呼んだ。
確かに、ストロングゼロは、「飲むと嫌なことを忘れられる」「ヤバイ酒」などと言われるほど“酔える”として有名で、ネット上ではストロングゼロを暴飲することを“ネタ”のように扱う向きもある。他メーカーからも同様のアルコール度数が高い“ストロング系”アルコール飲料が発売され、ブームとなる中、松本氏は、その危険性をどのように捉えているのだろうか。今回、詳しく話をうかがった。
ストロングゼロで「リストカット」「飛び降り」も……
――Facebook投稿に、「私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません」とありましたが、「暴れる」とは具体的にどのような状態なのでしょうか。
松本俊彦氏(以下、松本) いつもの自分とは全然かけ離れた行動を取ってしまう、例えば“暴力的”になるのがその一例です。また、メンタルヘルスに問題を抱える患者さんが、つらい気持ちを紛らわせようとしてストロングゼロを飲み、前後不覚に陥って、リストカットをしたり、飛び降りようとしたりといった行動に走ることも多いのです。人に危害を与え、自分の安全も保てなくなるだけに、以前からストロングゼロに関しては「困ったものだ」と思っていました。
――気軽に購入できるアルコールで、そのような状態に陥ってしまうのは怖いですね。
松本 厚生労働省による多量飲酒者の定義は、「平均1日当たり日本酒に換算して3合以上消費する者」なのですが、アルコール度数9%のストロングゼロ500ml缶を2本飲むと、それだけで日本酒換算で軽く4合近い量になります。最近では、12%のストロング系チューハイも出ており、これだと500ml缶1本で日本酒2合半、2本ならば5合です。飲みやすいこともあって、多くの人が簡単に多量飲酒者の水準を超えてしまうでしょう。なお、この多量飲酒者は、さまざまな健康被害が生じるため、「医療費がかかる可能性が高い人」という捉え方をされています。
――ジュースのような口当たりでするする飲めるのに、実は相当な量のアルコールを含んでいるとは……。
松本 大前提として、アルコールは薬物なんです。薬物はざっくり、「中枢神経系を興奮させる薬物」「中枢神経系を抑制する薬物」「中枢神経の働きの質を変える薬物」の3つに分けられます。「中枢神経系を興奮させる薬物」の代表例は、強力なものだと覚せい剤やコカイン、身近なものだとニコチンやカフェインで、いわゆる“アッパー系”と言われます。一方で、「中枢神経系を抑制する薬物」は“ダウナー系”で、ヘロインやモルヒネといった麻薬、アルコール、それから精神科の治療で使う睡眠薬や安定剤もその例として挙げられます。軽く効いている時にはふわふわして不安が消えて楽しい気持ちに、もうちょっと量が多くなってくると、眠たくなってくる。最後に、「中枢神経の働きの質を変える薬物」は、大麻やLSDなどで、物がゆがんで見えたり、音がよく聞こえたりなど、知覚を変える性質があります。
――アルコールの仲間として、ヘロインやモルヒネ、睡眠薬、安定剤が挙げられると、「薬物」であるという実感を得ます。
松本 たまたま人間の生活習慣に、歴史的にも深く根付いているだけで、アルコールはれっきとした薬物。しかし多くの人が「アルコールは飲料の一種」と思っているのではないでしょうか。