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2020年12月06日
三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ5
5 まとめ
「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」にした。作家の執筆脳は、問題解決の場面で作家が思考を繰り返すため、これまで問題解決の場面だけを扱ってきた。一方、病跡学へ寄せる場合は、未解決の場面も考察対象に含めることにし、今回は作者がうつの症状の中で推論を続ける様子を考察した。購読脳の「虚無と愛情」と執筆脳の「虚無とうつ」には一応相互作用があるため、シナジーのメタファーとして「三浦綾子と虚無」が成立する。
病跡学の研究は、滑り出したところである。目的、効果、目標、メリットを見ていくと、他系列とのクロスした実績を作る際、人文と医学の組み合わせが最も遠い。遠いところで調節ができれば、調整力がついてきた証拠になる。また、もし研究実績を作り、メインの専門の実績と絡むようになれば(私の場合、計算文学や比較文学)、自分の研究が正しいという証拠になると期待できる。
さらに、研究対象の作家の数を増やして東西南北に持っていければ、文系のみの比較とは異なる共生に到達できる。例えば、三浦綾子の「道ありき」の他に井上靖の「わが母の記」、魯迅の「狂人日記」、そしてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」でデータベースを作成し、同じように執筆脳を考える。研究をマクロに調節できる証として人文、社会、理工、医学の系列がブラックボックスからグレーになり、地球規模とフォーマットのシフトからなる実績ができれば、文理共生による評価も次第に上がってくる。
今回のシナジーのメタファーは、狭義の意味で考察されている。一方、ミクロ、メゾ、クラウド、マクロからなる広義のシナジーのメタファーがある。ミクロでは機械翻訳や特許翻訳の実績が土台となり、メゾにはボトムアップで購読脳と執筆脳からなる3Dの箱が溜まる。クラウドからトップダウンで仮説や推定によりメゾのデータを束ねる指令が出て、マクロの結論が導かれる。
参考文献
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 ヘルスケア出版 2014
高橋正雄 うつ病者としてのマックス・ウェーバー 日本病跡学雑誌59(2000)22-31
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
牧野雅彦 マックス・ウェーバー入門 平凡社 2006
三浦綾子 道ありき(青春編2004、結婚編2003、信仰入門編2011)新潮文庫
「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」にした。作家の執筆脳は、問題解決の場面で作家が思考を繰り返すため、これまで問題解決の場面だけを扱ってきた。一方、病跡学へ寄せる場合は、未解決の場面も考察対象に含めることにし、今回は作者がうつの症状の中で推論を続ける様子を考察した。購読脳の「虚無と愛情」と執筆脳の「虚無とうつ」には一応相互作用があるため、シナジーのメタファーとして「三浦綾子と虚無」が成立する。
病跡学の研究は、滑り出したところである。目的、効果、目標、メリットを見ていくと、他系列とのクロスした実績を作る際、人文と医学の組み合わせが最も遠い。遠いところで調節ができれば、調整力がついてきた証拠になる。また、もし研究実績を作り、メインの専門の実績と絡むようになれば(私の場合、計算文学や比較文学)、自分の研究が正しいという証拠になると期待できる。
さらに、研究対象の作家の数を増やして東西南北に持っていければ、文系のみの比較とは異なる共生に到達できる。例えば、三浦綾子の「道ありき」の他に井上靖の「わが母の記」、魯迅の「狂人日記」、そしてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」でデータベースを作成し、同じように執筆脳を考える。研究をマクロに調節できる証として人文、社会、理工、医学の系列がブラックボックスからグレーになり、地球規模とフォーマットのシフトからなる実績ができれば、文理共生による評価も次第に上がってくる。
今回のシナジーのメタファーは、狭義の意味で考察されている。一方、ミクロ、メゾ、クラウド、マクロからなる広義のシナジーのメタファーがある。ミクロでは機械翻訳や特許翻訳の実績が土台となり、メゾにはボトムアップで購読脳と執筆脳からなる3Dの箱が溜まる。クラウドからトップダウンで仮説や推定によりメゾのデータを束ねる指令が出て、マクロの結論が導かれる。
参考文献
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 ヘルスケア出版 2014
高橋正雄 うつ病者としてのマックス・ウェーバー 日本病跡学雑誌59(2000)22-31
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
牧野雅彦 マックス・ウェーバー入門 平凡社 2006
三浦綾子 道ありき(青春編2004、結婚編2003、信仰入門編2011)新潮文庫
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三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ4
4 データベースからの分析
データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えていく。
【データベースのカラム】
文法1助詞、文法2態、文法3時制、相、文法4様相、意味1喜怒哀楽 、意味2五感、 意味3思考の流れ、意味4振舞い、医学情報 三浦綾子との接点、情報の認知1 感覚情報の捉え方、情報の認知2 記憶と学習、情報の認知3 計画、問題解決、推論、疾病脳と健常脳
【連想分析1 受容と共生のイメージ合わせ】
分析例
・入院して四カ月経過。微熱が続きカリエスの症状が出ている場面。
・この論文では、「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、虚無のありなしに注目する。
・意味1 1喜2怒3哀4楽、意味2 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味3 1虚無あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
・疾病脳(虚無でうつ)1ある2なし、健常脳(うつから回復)1ある2なし
テキスト共生の公式
・ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「虚無と愛情」を作る。
・ステップ2 うつ病の精神症状から「虚無とうつ」という組を作り、解析の組と合わせる。
【連想分析2 虚無とうつの認知プロセス】
・情報の認知1→情報の認知2→情報の認知3
三浦綾子は、この場面で医者との問診で外部から情報を取り込み、カリエスの症状を疑っている。医者の診断に反する見解のため問題未解決→推論となる。そのため、「虚無とうつ」という推論が続いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えていく。
【データベースのカラム】
文法1助詞、文法2態、文法3時制、相、文法4様相、意味1喜怒哀楽 、意味2五感、 意味3思考の流れ、意味4振舞い、医学情報 三浦綾子との接点、情報の認知1 感覚情報の捉え方、情報の認知2 記憶と学習、情報の認知3 計画、問題解決、推論、疾病脳と健常脳
【連想分析1 受容と共生のイメージ合わせ】
分析例
・入院して四カ月経過。微熱が続きカリエスの症状が出ている場面。
・この論文では、「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、虚無のありなしに注目する。
・意味1 1喜2怒3哀4楽、意味2 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味3 1虚無あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
・疾病脳(虚無でうつ)1ある2なし、健常脳(うつから回復)1ある2なし
テキスト共生の公式
・ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「虚無と愛情」を作る。
・ステップ2 うつ病の精神症状から「虚無とうつ」という組を作り、解析の組と合わせる。
【連想分析2 虚無とうつの認知プロセス】
・情報の認知1→情報の認知2→情報の認知3
三浦綾子は、この場面で医者との問診で外部から情報を取り込み、カリエスの症状を疑っている。医者の診断に反する見解のため問題未解決→推論となる。そのため、「虚無とうつ」という推論が続いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ3
3 病跡学へのアプローチ
高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学は、天才の精神分析を試みる狭義の意味で使用する。病理表現までも含む広義の意味は、この論文では扱わない。
M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかで育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンで非常勤講師そしてフライブルクで国民経済学の教授となる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。
牧野(2006)によると、第一次世界大戦の勃発後、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたためである。そして、政治活動の再開は、精神の病の回復を齎すことになった。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦君主との同盟による連邦国家の形式でドイツ帝国が作られた。
この論文では、うつ病者本人の発病による影響、周囲の対応、病の回復の三分類で「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、各段の内容がどの対処行動に該当するのかを考える。
@ 病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。
A 周囲にも葛藤が生じる。
B 回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
C 病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
D 人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。
【発病による影響】
◆17歳で小学校の教員になった綾子は、昭和21年3月、7年間の教員生活に別れを告げた。自分自身で教えることに確信が持てなくなったためである。6月1日、突如40度近い熱が出た。翌朝、目が覚めると、体中が痛くてリウマチだと思った。病院に行くと、医者もリウマチだと言い、ザルブロという薬を打ってくれた。(対処行動@)
◆来るべきものが来れば、誰でも自分のことを本気で大切に考えたりもする。前川正との話の中で、徹底的に身体を診断してもらうことにした。(対処行動A)昭和26年秋、綾子の体はいっそう痩せ、目が熱で潤み頬が紅潮し、37度4分の熱が続き血痰も出た。10月20日過ぎに旭川の病院に入院した。(対処行動B)
◆微熱があり、肩もこり、血痰も出た。背中の痛みは、ますますひどくなった。スリッパも履けず、このままだと下半身に麻痺が出て、失禁の症状になる。結局、背骨を結核菌が蝕むカリエスという診断がでる。(対処行動A)
【周囲の対応】
◆綾子は、酒もたばこもやめる。前川正は、教会所属のクリスチャンである。綾子も教会へ通い始め、前川に薦められて伝導の書に目を通す。一行半読んだだけで綾子の心は引き込まれた。当初は虚無的な見方があっても、キリスト教と仏教に共通する姿を発見したことが転機となり、綾子の求道生活は、次第に真面目になっていく。(対処行動D)
◆馴れた医師には注意が必要である。うっかりして針を血管に刺すと、空気が血管に入り空気栓塞が起こる。また、肋膜腔内に入れる針が、肺に達することがある。呼吸する度に空気が腔内に洩れて肺を縮めやがて死んでしまう自然気胸もある。(対処行動A)
◆死にたいと思っても死ねず、生きるために自分の意思を奮い立たせても、それ以外に何かが綾子の身体に加わっている。(対処行動C)
【病の回復】
◆前川正の喪が明けてから、綾子の病室を訪問する客の中に三浦光世という男がいた。旭川営林署の会計係である。死刑因と文通し、慰め力づけている人である。やはり腎臓結核の手術歴がある。(対処行動A)
◆三浦光世にノートを渡すと、必ず治るといって読んでくれた。三浦の手紙には、最愛なるという形容が綾子の名前についていた。愛の励ましのおかげで、綾子の体は元気になり、外出もできるようになった。(対処行動D)
◆昭和三十四年の正月、三浦の年頭の挨拶のとき、婚約式が1月25日に決まった。式が終わると、結婚式は5月24日になった。よく晴れた日曜日に教会堂で牧師の言葉に二人で深く頷いた。(対処行動D)
結果だけ見ると、発病による影響では、綾子の対処行動が@、A、B、Cとバラついている。しかし、周囲の対応から病の回復へ進んでいくと、対処行動はDが多くなる。従って、高橋(2000)が説くうつ病者本人の対処行動の流れに沿っている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学は、天才の精神分析を試みる狭義の意味で使用する。病理表現までも含む広義の意味は、この論文では扱わない。
M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかで育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンで非常勤講師そしてフライブルクで国民経済学の教授となる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。
牧野(2006)によると、第一次世界大戦の勃発後、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたためである。そして、政治活動の再開は、精神の病の回復を齎すことになった。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦君主との同盟による連邦国家の形式でドイツ帝国が作られた。
この論文では、うつ病者本人の発病による影響、周囲の対応、病の回復の三分類で「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、各段の内容がどの対処行動に該当するのかを考える。
@ 病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。
A 周囲にも葛藤が生じる。
B 回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
C 病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
D 人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。
【発病による影響】
◆17歳で小学校の教員になった綾子は、昭和21年3月、7年間の教員生活に別れを告げた。自分自身で教えることに確信が持てなくなったためである。6月1日、突如40度近い熱が出た。翌朝、目が覚めると、体中が痛くてリウマチだと思った。病院に行くと、医者もリウマチだと言い、ザルブロという薬を打ってくれた。(対処行動@)
◆来るべきものが来れば、誰でも自分のことを本気で大切に考えたりもする。前川正との話の中で、徹底的に身体を診断してもらうことにした。(対処行動A)昭和26年秋、綾子の体はいっそう痩せ、目が熱で潤み頬が紅潮し、37度4分の熱が続き血痰も出た。10月20日過ぎに旭川の病院に入院した。(対処行動B)
◆微熱があり、肩もこり、血痰も出た。背中の痛みは、ますますひどくなった。スリッパも履けず、このままだと下半身に麻痺が出て、失禁の症状になる。結局、背骨を結核菌が蝕むカリエスという診断がでる。(対処行動A)
【周囲の対応】
◆綾子は、酒もたばこもやめる。前川正は、教会所属のクリスチャンである。綾子も教会へ通い始め、前川に薦められて伝導の書に目を通す。一行半読んだだけで綾子の心は引き込まれた。当初は虚無的な見方があっても、キリスト教と仏教に共通する姿を発見したことが転機となり、綾子の求道生活は、次第に真面目になっていく。(対処行動D)
◆馴れた医師には注意が必要である。うっかりして針を血管に刺すと、空気が血管に入り空気栓塞が起こる。また、肋膜腔内に入れる針が、肺に達することがある。呼吸する度に空気が腔内に洩れて肺を縮めやがて死んでしまう自然気胸もある。(対処行動A)
◆死にたいと思っても死ねず、生きるために自分の意思を奮い立たせても、それ以外に何かが綾子の身体に加わっている。(対処行動C)
【病の回復】
◆前川正の喪が明けてから、綾子の病室を訪問する客の中に三浦光世という男がいた。旭川営林署の会計係である。死刑因と文通し、慰め力づけている人である。やはり腎臓結核の手術歴がある。(対処行動A)
◆三浦光世にノートを渡すと、必ず治るといって読んでくれた。三浦の手紙には、最愛なるという形容が綾子の名前についていた。愛の励ましのおかげで、綾子の体は元気になり、外出もできるようになった。(対処行動D)
◆昭和三十四年の正月、三浦の年頭の挨拶のとき、婚約式が1月25日に決まった。式が終わると、結婚式は5月24日になった。よく晴れた日曜日に教会堂で牧師の言葉に二人で深く頷いた。(対処行動D)
結果だけ見ると、発病による影響では、綾子の対処行動が@、A、B、Cとバラついている。しかし、周囲の対応から病の回復へ進んでいくと、対処行動はDが多くなる。従って、高橋(2000)が説くうつ病者本人の対処行動の流れに沿っている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ2
2 「道ありき」のLのストーリー
三浦綾子は、敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。虚無的生活は、人間を駄目にする。そんな時、医学生の前川正から聖書を薦められる。聖書の説教は、教訓のみならず、虚無的な物の見方も含み、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。綾子の求道生活が真面目になることもあり、「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。肺結核の発病による虚しい思いは、当時ピークに達し、思考の中にも虚無感が常にあったため、この作品の執筆脳を「虚無とうつ」にする。
この論文では、綾子のうつ病の症状を客観的に捉えるために、ツングの自己評価うつ病尺度(日本成人病予防協会2014)を適用する。それぞれの評価項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。
「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子は、敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。虚無的生活は、人間を駄目にする。そんな時、医学生の前川正から聖書を薦められる。聖書の説教は、教訓のみならず、虚無的な物の見方も含み、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。綾子の求道生活が真面目になることもあり、「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。肺結核の発病による虚しい思いは、当時ピークに達し、思考の中にも虚無感が常にあったため、この作品の執筆脳を「虚無とうつ」にする。
この論文では、綾子のうつ病の症状を客観的に捉えるために、ツングの自己評価うつ病尺度(日本成人病予防協会2014)を適用する。それぞれの評価項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。
「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ1
1 はじめに
三浦綾子(1922−1999)が自身の闘病生活を描いた「道ありき」は、24歳から37歳までの実生活を描いている。この論文は、「道ありき」に描かれた三浦綾子の病状からうつ病の様子を探ることにより、病跡学の分析を試みる。
病跡学の参考資料として日本病跡学会の論集59号を使用する。その中にあるマックス・ウェーバーのうつ病に関する論文(高橋2000)は、うつ病に対して患者や家族がどのように対処するのか、うつ病者の行動や周囲の反応から考察を試みている。この論文もうつ病者(作者)の発病による影響や虚無感、周囲の人たちの対応、そして婚約者との死別を乗り越え綾子が三浦光世と人生を再スタートする回復の場面を中心に作者の病跡について考察していく。
作家の執筆脳の研究は、基本的に人文と自然科学の調節である。まず、人文と情報の計算文学が来て、次に人文と医学から病跡学の考察となる。その際、理工や医学の専門家による購読の研究と内包の違いを説明するため、まず認知の柱をスライドさせて医学と調節し、次にフォーマットのシフトによるLの考察を試みる。信号の流れは、縦横共に分析、直感、エキスパートである。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子(1922−1999)が自身の闘病生活を描いた「道ありき」は、24歳から37歳までの実生活を描いている。この論文は、「道ありき」に描かれた三浦綾子の病状からうつ病の様子を探ることにより、病跡学の分析を試みる。
病跡学の参考資料として日本病跡学会の論集59号を使用する。その中にあるマックス・ウェーバーのうつ病に関する論文(高橋2000)は、うつ病に対して患者や家族がどのように対処するのか、うつ病者の行動や周囲の反応から考察を試みている。この論文もうつ病者(作者)の発病による影響や虚無感、周囲の人たちの対応、そして婚約者との死別を乗り越え綾子が三浦光世と人生を再スタートする回復の場面を中心に作者の病跡について考察していく。
作家の執筆脳の研究は、基本的に人文と自然科学の調節である。まず、人文と情報の計算文学が来て、次に人文と医学から病跡学の考察となる。その際、理工や医学の専門家による購読の研究と内包の違いを説明するため、まず認知の柱をスライドさせて医学と調節し、次にフォーマットのシフトによるLの考察を試みる。信号の流れは、縦横共に分析、直感、エキスパートである。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
2020年11月02日
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える8
4 まとめ
柴田翔の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「鳥の影」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
参考文献
柴田翔 鳥の影(解説 加賀乙彦)新潮文庫 1978
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」2020
柴田翔の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「鳥の影」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
参考文献
柴田翔 鳥の影(解説 加賀乙彦)新潮文庫 1978
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」2020
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える7
表3 情報の認知
A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、 情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
A:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
結果
柴田翔は、この場面で日常生活が病気や異常と重なることを主人公の一夜の言動から引いているため、購読脳の「見掛けの平和と不吉の兆し」から「兆候と行き詰まり」という執筆脳の組を引き出すことができる。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、 情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、 情報の認知3 2
A:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
結果
柴田翔は、この場面で日常生活が病気や異常と重なることを主人公の一夜の言動から引いているため、購読脳の「見掛けの平和と不吉の兆し」から「兆候と行き詰まり」という執筆脳の組を引き出すことができる。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える6
【連想分析2】
情報の認知1(感覚情報)
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
情報の認知1(感覚情報)
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える5
分析例
1 信江が則雄の財布を届ける場面。
2 この小論では、「鳥の影」の執筆脳を「兆候と行き詰まり」と考えているため、意味3の思考の流れ、兆候に注目する。
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3兆候@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @兆候、A行き詰まり
テキスト共生の公式
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「見掛けの平和と不吉の兆し」を作る。
ステップ2:正気から狂気へ移る過程には袋小路が待ち構えているため、「兆候と行き詰まり」という組を作り、解析の組と合わせる。
A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
B:[@視覚+A聴覚]+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
C:[@視覚+A聴覚]+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
D:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
E:@視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
1 信江が則雄の財布を届ける場面。
2 この小論では、「鳥の影」の執筆脳を「兆候と行き詰まり」と考えているため、意味3の思考の流れ、兆候に注目する。
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3兆候@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @兆候、A行き詰まり
テキスト共生の公式
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「見掛けの平和と不吉の兆し」を作る。
ステップ2:正気から狂気へ移る過程には袋小路が待ち構えているため、「兆候と行き詰まり」という組を作り、解析の組と合わせる。
A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
B:[@視覚+A聴覚]+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
C:[@視覚+A聴覚]+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
D:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
E:@視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@兆候+A行き詰まりという組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える4
【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ
A 外に出た彼のうしろで、入口のガラス戸がゆっくりと閉まった。彼の前には、人影の絶えた、暗い場末の繁華街があった。十メートルも行ったところの、小さな四つ辻で彼は立ち止った。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
B どちらを向いても、狭い路地がゆるやかに曲がりながら、明かりを消し戸を閉めたバーや食堂につきあたり、左右に折れて、その先は見えなくなっていた。夜の風に、映画館の前に建てられた宣伝ののぼりが、音を立てて鳴っていた。彼は、自分の帰っていくべき方向が判らなかった。意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
C 彼がそこに立っていたのは、どれ位の時間だったのだろうか。うしろで、さしても急ぎもせず、下駄を引きずって歩いてくる女の足音が聞えた。「あら、まだそこにいたの。間に合って、よかったなあ」。
意味1 1+2、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
D 振りむくと、信江が立っていた。信江は、お稲荷さんの狐のように、肩のところまで上げた右手に、彼の財布を持っていた。財布を持った彼女の手は、彼を招くように、ゆらゆらとゆらいだ。「忘れ物――」。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
E 信江は一言そう言うと、ゆっくり、やわらかく笑いかけた。信江の白い、平べったい笑顔が、則雄の前で、大きく拡がった。則雄は、それでも、まだ一瞬迷っていた。だが、次の瞬間、彼は、もう決して引き返すことのできない一歩を、信江の方へ踏み出した。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 2
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
表2 受容と共生のイメージ合わせ
A 外に出た彼のうしろで、入口のガラス戸がゆっくりと閉まった。彼の前には、人影の絶えた、暗い場末の繁華街があった。十メートルも行ったところの、小さな四つ辻で彼は立ち止った。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
B どちらを向いても、狭い路地がゆるやかに曲がりながら、明かりを消し戸を閉めたバーや食堂につきあたり、左右に折れて、その先は見えなくなっていた。夜の風に、映画館の前に建てられた宣伝ののぼりが、音を立てて鳴っていた。彼は、自分の帰っていくべき方向が判らなかった。意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
C 彼がそこに立っていたのは、どれ位の時間だったのだろうか。うしろで、さしても急ぎもせず、下駄を引きずって歩いてくる女の足音が聞えた。「あら、まだそこにいたの。間に合って、よかったなあ」。
意味1 1+2、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
D 振りむくと、信江が立っていた。信江は、お稲荷さんの狐のように、肩のところまで上げた右手に、彼の財布を持っていた。財布を持った彼女の手は、彼を招くように、ゆらゆらとゆらいだ。「忘れ物――」。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
E 信江は一言そう言うと、ゆっくり、やわらかく笑いかけた。信江の白い、平べったい笑顔が、則雄の前で、大きく拡がった。則雄は、それでも、まだ一瞬迷っていた。だが、次の瞬間、彼は、もう決して引き返すことのできない一歩を、信江の方へ踏み出した。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 2
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より