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2020年12月06日

三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ3

3 病跡学へのアプローチ

 高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学は、天才の精神分析を試みる狭義の意味で使用する。病理表現までも含む広義の意味は、この論文では扱わない。
 M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかで育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンで非常勤講師そしてフライブルクで国民経済学の教授となる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。
 牧野(2006)によると、第一次世界大戦の勃発後、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたためである。そして、政治活動の再開は、精神の病の回復を齎すことになった。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦君主との同盟による連邦国家の形式でドイツ帝国が作られた。
 この論文では、うつ病者本人の発病による影響、周囲の対応、病の回復の三分類で「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、各段の内容がどの対処行動に該当するのかを考える。 

@ 病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。 
A 周囲にも葛藤が生じる。
B 回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
C 病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
D 人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。

【発病による影響】
◆17歳で小学校の教員になった綾子は、昭和21年3月、7年間の教員生活に別れを告げた。自分自身で教えることに確信が持てなくなったためである。6月1日、突如40度近い熱が出た。翌朝、目が覚めると、体中が痛くてリウマチだと思った。病院に行くと、医者もリウマチだと言い、ザルブロという薬を打ってくれた。(対処行動@)
◆来るべきものが来れば、誰でも自分のことを本気で大切に考えたりもする。前川正との話の中で、徹底的に身体を診断してもらうことにした。(対処行動A)昭和26年秋、綾子の体はいっそう痩せ、目が熱で潤み頬が紅潮し、37度4分の熱が続き血痰も出た。10月20日過ぎに旭川の病院に入院した。(対処行動B)
◆微熱があり、肩もこり、血痰も出た。背中の痛みは、ますますひどくなった。スリッパも履けず、このままだと下半身に麻痺が出て、失禁の症状になる。結局、背骨を結核菌が蝕むカリエスという診断がでる。(対処行動A)
【周囲の対応】
◆綾子は、酒もたばこもやめる。前川正は、教会所属のクリスチャンである。綾子も教会へ通い始め、前川に薦められて伝導の書に目を通す。一行半読んだだけで綾子の心は引き込まれた。当初は虚無的な見方があっても、キリスト教と仏教に共通する姿を発見したことが転機となり、綾子の求道生活は、次第に真面目になっていく。(対処行動D)
◆馴れた医師には注意が必要である。うっかりして針を血管に刺すと、空気が血管に入り空気栓塞が起こる。また、肋膜腔内に入れる針が、肺に達することがある。呼吸する度に空気が腔内に洩れて肺を縮めやがて死んでしまう自然気胸もある。(対処行動A)
◆死にたいと思っても死ねず、生きるために自分の意思を奮い立たせても、それ以外に何かが綾子の身体に加わっている。(対処行動C)
【病の回復】
◆前川正の喪が明けてから、綾子の病室を訪問する客の中に三浦光世という男がいた。旭川営林署の会計係である。死刑因と文通し、慰め力づけている人である。やはり腎臓結核の手術歴がある。(対処行動A)
◆三浦光世にノートを渡すと、必ず治るといって読んでくれた。三浦の手紙には、最愛なるという形容が綾子の名前についていた。愛の励ましのおかげで、綾子の体は元気になり、外出もできるようになった。(対処行動D)
◆昭和三十四年の正月、三浦の年頭の挨拶のとき、婚約式が1月25日に決まった。式が終わると、結婚式は5月24日になった。よく晴れた日曜日に教会堂で牧師の言葉に二人で深く頷いた。(対処行動D)

 結果だけ見ると、発病による影響では、綾子の対処行動が@、A、B、Cとバラついている。しかし、周囲の対応から病の回復へ進んでいくと、対処行動はDが多くなる。従って、高橋(2000)が説くうつ病者本人の対処行動の流れに沿っている。

花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より

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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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