2020年12月06日
三浦綾子の「道ありき」でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ2
2 「道ありき」のLのストーリー
三浦綾子は、敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。虚無的生活は、人間を駄目にする。そんな時、医学生の前川正から聖書を薦められる。聖書の説教は、教訓のみならず、虚無的な物の見方も含み、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。綾子の求道生活が真面目になることもあり、「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。肺結核の発病による虚しい思いは、当時ピークに達し、思考の中にも虚無感が常にあったため、この作品の執筆脳を「虚無とうつ」にする。
この論文では、綾子のうつ病の症状を客観的に捉えるために、ツングの自己評価うつ病尺度(日本成人病予防協会2014)を適用する。それぞれの評価項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。
「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
三浦綾子は、敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。虚無的生活は、人間を駄目にする。そんな時、医学生の前川正から聖書を薦められる。聖書の説教は、教訓のみならず、虚無的な物の見方も含み、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。綾子の求道生活が真面目になることもあり、「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。肺結核の発病による虚しい思いは、当時ピークに達し、思考の中にも虚無感が常にあったため、この作品の執筆脳を「虚無とうつ」にする。
この論文では、綾子のうつ病の症状を客観的に捉えるために、ツングの自己評価うつ病尺度(日本成人病予防協会2014)を適用する。それぞれの評価項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。
「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でうつ病を考える−病跡学へのアプローチ」より
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/10389050
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック