2012年07月13日
深い森の物語8
こんなにひどい音なのに、しいたけ達は聞こえていないようだった。
しかし、皆怯えていた。今から食べられようとしていることに。
あるしいたけの目は、全てをあきらめたように、うつろだった。
その時、ミーサンの頭に友の笑顔が浮かんだ。
知らずのうちに、涙が流れた。
《あきらめて、たまるか…!》
頭にあったカチューシャを外し、両端のとんがった部分を両耳に押し
込んだ。
カチューシャのおかげで、少しノイズが小さくなったようだ。
ミーサンは、来た道の東方向に全速力で走り出した。
こうもりは、邪魔者がいなくなり、しいたけとの距離をぐんと縮めて
きた。
しいたけ達の悲痛な叫び声が上がった。
ミーサンは右手の三本の指でカチューシャを掴むと、手首の内側に
構えた。
《まだだ》
持つ手にじっとりと汗が滲む。
こうもりとしいたけの距離は、1mになった。
《今だ!》
手首の内側から、東側にいるこうもりに向け、カチューシャを放った。
カチューシャは、ピカピカ光りながら弧を描いて、吸い込まれるように
こうもりに命中した。
つづく
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