ところがその日本の戦略に最も欠けているのが、バックキャスティングという考え方です。
バックキャスティングとは簡単に言えば、「あるべき姿」を明確にして、それに向かうロードマップを描くことです。
目標を決めて、それに向かっていくことは同じなのですが、
その目標をAS-IS(現在)の問題を解決しようとするか、TO-BE(なりたい姿)を描いて、それに向かっていくかの違いです。
日本では2050年にどういう都市が必要なのか、どういう暮らしっぷりになっているのかまだ明確になっていません。
ところがすでに世界では「あるべき都市」が計画され、作られ始めています。
その中でも特筆すべきものの一つが「マスダール・シティ」です。
■ゼロ・カーボン・エミッション・シティ
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マスダール・シティはUAE(アラブ首長国連邦)に計画され、年初から建設が開始され始めています。
マスダール・シティはゼロ・カーボン・エミッション、つまり、
二酸化炭素排出がゼロとなることを目標として計画されています。
二酸化炭素の排出をゼロにするために、
(1)自動車の無い都市
(2)自然エネルギーを最大限利用
(3)ごみの完全リサイクル
(4)廃熱利用
(5)水の循環利用
などの特徴があります。
マスダール・シティはアブダビの郊外、およそ6.5km2のエリアに 5万人が住む都市として計画されています。
まず自動車の無い都市とするために、人口密度の高い住宅構造とし、どの家からも半径200m以内に公共交通手段の駅を用意しています。
公共交通には電動自動車や長距離移動用のLRT(Light Rail Train)が準備され、道路は実質的に歩行者のものとなるようです。
さらに電動外部からの自動車の乗り入れも禁止し、まちの入り口にビジター用のパーキングが準備されています。
砂漠地域の建設ですから、灼熱の大地とどう共生するかと言うことが問題ですが、エネルギー源には潤沢な太陽光発電や風力発電をつかい、都市の郊外のプランテーションで作られるバイオ燃料、太陽熱を集熱して得られるお湯、廃棄ごみの燃焼で得られる熱を再利用し、さらに、地熱ヒートポンプによって、地下の冷気が冷房に使われます。
風の通り道についても考えられており、海からの冷気を取り込み、砂漠からの熱風を遮るように方向や住宅が設計されています。
まさに、地球環境へのストレスを小さくし、持続可能な都市として、私たちが将来目指すべき都市像を作り上げようとしているのです。
■当然、問題点や懸念はある
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もちろん、このマスダールシティにはいろいろな問題があります。
都市の開発費は2兆円を超えますが、その金はオイルマネーです。
温暖化を助長する石油を汲み取って得られた金で、地球環境と共生する持続可能な都市をつくるということには、大きな矛盾があります。
さらに、計画されていることは都市のハードウェア的な部分だけで、ソフトウェア的なことには目を向けられていません。
ソフトウェア的とは、そこで生活する人のライフスタイルです。
いくら都市がカーボン・ニュートラルでも、中で住む人が海外からの輸入食品や輸入製品を使っていれば、都市の中で二酸化炭素はでていなくても、外での排出を助長していることになります。
また、この都市の隣には、空港が計画されています。
中での交通に最大限の注意を払っているのに、外にエネルギー消費の大きい空港や航空機があることも矛盾を感じます。
■それでも要注目のマスダール
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しかし、このような問題を考えても、この壮大な実験都市をつくる意義は大きいのではないでしょうか?
日本でこのようなことをしようとしても、場所にも費用にも困るでしょう。
潤沢なお金を使って、世界中の技術を呼び込み、人類の目指すべき姿を 一つの形としてつくり、実験してくれるのです。
「あるべき姿」を描けない日本は、マスダール・シティに学ぶべきことが多い、と考えます。
(以上は「"あーす"を変える 〜エコな暮らしのススメ〜」メルマガ参照による)
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