2018年06月05日
モンゴル帝国の統治
モンゴル帝国・社会
モンゴル帝国の支配地の統治とは、どの様な方策だったのでしようか?
モンゴル帝国は匈奴以来のモンゴリアの遊牧国家の伝統に従い、支配下の遊牧民を兵政一帯の社会制度に編成した。モンゴルにおける遊牧集団の基本的な単位は千人隊と云い、1000人程度の兵士を供出可能な遊牧集団を領する将軍や部族長が千人長に任命された。.
千人隊の中には100人程度の兵士を供出する百人隊、百人隊の中には10人程度の兵士を供出する十人隊と細かに置かれ、夫々の長にはその所属する千人隊長の近親の有力者が指名され、十人隊長以上の遊牧戦士がモンゴル帝国の支配者層である遊牧貴族と為る。千人隊長の内有力な者は複数の千人隊を束ねる万人隊長と為り、戦時には方面軍の司令官職を務めた。
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チンギス・カンとその弟達の子孫は「黄金の氏族」と呼ばれ、領民として分与された千人隊・百人隊・十人隊集団の上に君臨する上級領主階級と為り、モンゴル皇帝である大ハーンは大小様々なウルスの内最も大きい部分を持つ盟主であった。.
大ハーンや王族達の幕営はオルドと呼ばれ、有力な后妃毎にオルドを持つ。夫々のオルドにはゲリン・コウと呼ばれる領民が居り、オルドの長である皇后が管理した。
行政制度
モンゴル皇帝の宮廷にはケシクと呼ばれる皇帝の側臣が仕え、彼等は親衛隊を務めると共にケシクテイと呼ばれる家政機関を構成した。.
ケシクは箭筒士、太刀持ち、鷹匠、書記、門衛、料理番、掌酒係、車係、馬係、衣装係、駱駝飼い、羊飼い等様々な職制に分かれ、貴族の子弟や大ハーンに個人的に取り立てられた者が属した。この家政制度は他のジョチ家やトルイ家等の王家にも存在し、これ等の職種を担ったケシク達は各王家の当主であるカン達に近侍してウルスにおける諸事を司った。
モンゴル帝国は遊牧民の連合国家ではあるが、中央政府や占領地の統治機関は皇帝の直轄支配下に置かれるので、これらは側臣からの出向者によって形成された。
中央では側臣内のモンゴル貴族から任命された断事官が置かれ、行政実務や訴訟を担当した。その頂点に立つのが大断事官で、最初の大断事官はチンギス・カンの妻ボルテの養子シギ・クトクが務めた。地方では多くがモンゴル人から任命される監督官が都市毎に置かれ占領地の統治を管掌した。
そして、実務においてジャルグチやダルガチを助け、末端の文書・財務行政を担う重要な役職が書記である。書記は占領地の現地の言語に通じて居る必要があるので、漢民族、西夏人、契丹人、女真人等の漢人や、ウイグル人、イスラム教徒などの他宗教出身者が数多く参入した。
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qubiraiモンゴル皇帝であるカアンに仕える書記達は側臣の一員として主君の側近に仕え、被支配者に対する命令である勅旨を記録、翻訳し文書によって発給した。中央から発せられた命令はジャムチと呼ばれる駅伝制によって1日100km以上もの速さで帝国の幹線路を進み、速やかに帝国細部にまで行き届かせる事が出来た。
更に、モンゴル帝国は皇帝のみ為らず、王族や貴族、皇后のオルドにもケシクに準じる組織があり、その将校、領民や出入りの商人に至るまで様々な出自の者が仕えた。彼等の小宮廷にも皇帝と同じ様な行政機関が生まれ、言葉と呼ばれる命令を発する権力を持った。又、14世紀の初め頃までは王族達は自分の所領として分与された定住地帯の都市や農村に自分の宮廷からダルガチや徴税吏を派遣しその地方行政に関与していた。.
こうした行制度があったからこそ、広大なモンゴルと云う台地の中を生きる様々な民族を統治する琴が出来たと云える。特に宗教と為れば普通なら改宗する殊は先ず無い、それ以前に弾圧する様な事に為れば反乱の火種を巻く事に為る。こうした寛容な政策があったからこそ、遊牧民として暮らしていた人々は現れた時代の英雄に付き従っていたのだろう。
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経済
モンゴル帝国は、先行する遊牧国家と同様に商業ルートを抑えて国際商業を管理し、経済を活性化させて支配者に利益を挙げる事を目指す重商主義的な政策を執った。
チンギスハーン内陸の国や港湾国家は、一般に通過する財貨に関税を掛けて国際交易の利益を吸い上げ様とするが、モンゴル帝国は商品の最終売却地でのみ商品価格の三十分の一の売却税を掛ける様に税制を改めた。
遊牧民は生活において交易活動が欠かせ無い為、モンゴル高原には古くからウイグル人やムスリムの商人が入り込んでいたが、モンゴル帝国の支配者層は彼等を統治下に入れるとオルトクと呼ばれる共同事業に出資して利益を得た。
占領地の税務行政が銀の取り立てに特化したのも、国際通貨である銀を獲得して国際商業への投資に振り向ける為である。モンゴル帝国の征服がもたらしたジャムチの整備とユーラシア大陸全域を覆う平和も国際商業の振興に役立った。
モンゴル帝国の拡大と共にユーラシアを横断する使節、商人、旅行者の数も増加し、プラノ・カルピニ、ジョヴァンニ・ダ・モンテコルヴィーノ、マルコ・ポーロ、イブン＝バットゥータ等の著名な旅行家達が現れる。
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文化
モンゴル部族の伝来の宗教は素朴な天に対する信仰を基礎としたシャーマニズムであり、かつ仏教やネストリウス派のキリスト教、イスラム教を信仰する人々とも古くから接して来た為、神を信じる宗教を平等に扱った。この事からモンゴル帝国に服属した宗教教団は保護が与えられて宗教上の自治を享受する事と為った。
又、モンゴル高原を遠く離れて各地を支配したモンゴルの王侯達は、支配者層ではあったが人口の上では少数派であった為、現地の文化を徐々に取り入れ現地の宗教に帰依することも多い。ジョチ・ウルスやクリミア・ハン国ではイスラム教が広がり、ウズベク・ハン等はイスラム教に帰依した。
必ずしも王家の人々が同じ宗教に属している事では無いという事が、後の分裂騒動の遠因の一つに為るのでは無いだろうか。宗教上の考え方は大きく異なって来るので、そこで下手をすれば敵を倒すと云う事に繋がってしまえば、争いに少なからず関わって来てしまうだろう。
モンゴルはチンギス・カンの勅令・ジャサクと呼ばれる遊牧民の慣習法とチンギス・カンの勅旨・訓言を律法として固く守り、少数支配者であってもモンゴルの社会制度を維持した。
14世紀に入ると、モンゴル人達は次第に東方ではチベット仏教、西方ではイスラム教を受け入れて行くが、チンギス・カンのジャサクに基づく社会制度は極力維持され宗教的な寛容は保たれた。.
実用に役立つ異文化の摂取については排他性が薄く、学術や技術の東西交流を促進させた。この時代に西アジアには中国から絵画の技法が伝わって細密画が発達する。中国には西アジアから天文学等世界最先端のイスラム科学が伝えられ、投石機などの優れた軍事技術がもたらされた。
逆に中国では、モンゴルのケシク制度に適合しない科挙が廃れる等、儒教が余り重視され無かったが、儒学の中でも実用性を重んじる朱子学が地位を高め、14世紀に科挙が部分復活した時正式の解釈として採用される様に為る。
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モンゴルについて、実用的では無い哲学・宗教学には無関心で、バグダード、ハッラーンと云ったイスラム科学の栄えた大都市を徹底的に破壊し尽くし、これ等の都市では図書館、マドラサと云った施設は悉く破壊され、イスラム科学衰退の原因と為った、と一部では言われて来た。
しかしながら、近年ではフレグはニザール派の文書庫をジュヴァイニーに接収させ、又バグダード攻略前後にもイラク周辺でナスィールッディーン・トゥースィーに書物収集を命じてマラーガに建設した天文台とその足下の図書館に収蔵させ、マラーガは東西の学術交流の一大中心地だった事が認識される様に為り、旧来の「破壊者モンゴル」と云うだけのビジョンは修正されつつある。.
イルハン朝においてはフレグ時代からナスィールッディーン・トゥースィーによるアブドゥッラフマーン・トゥースィーの『星座の書』ペルシア語訳や、ラシードゥッディーンの時代には南宋時代の『王叔和脈訣』や『銅人』を用いた『ヒタイ人の医術なる珍宝の書』、『農桑輯要』を用いた農書もイルハン朝で著され、更には大元朝でもナスィールッディーン・トゥースィーが注釈を施したプトレマイオスの『アルマゲスト』、『ストイケイア』と云った天文学書やアストロラーベ等西方の文物がジャマールッディーン等によって招来された。
西方のマラーガ天文台と東方の回回司天台との天文学関係の交流は、やがて西方では『イルハン天文表』、東方では『授時暦』の成立に結実する。
ペルシア語・アラビア語の文学作品に挿絵を載せる伝統が本格的に定着するのもモンゴル帝国時代からであり、イランや中央アジアでのミニアチュールが中国絵画の影響を直接受けながらティムール朝やマムルーク朝以降も独自に発展して行った。
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モンゴル帝国の成立と衰退
インドのムガール帝国もイスラム化したモンゴル帝国である
モンゴル帝国の四大国の内イスラム化したイル・ハン朝やモンゴルの後継者であるティムール等について述べるにも、モンゴルの流れを抑える事は必要です。又、インドに成立したムガール帝国もイスラム化したモンゴル帝国です。
モンゴル以後の大きなイスラム帝国として、オスマン帝国・イラン王朝・ムガール帝国は欠かせません。これ等の王朝は、夫々異なったルートで近代化を果たして行く事に為ります。
世界最強の軍団だったモンゴル帝国
モンゴル人は馬で一日に1000kmを踏破したそうです。馬がどの位の速度を出せるのかは私は判りませんが、車で高速を走ったとしても1000kmと言ったら10時間は掛かります。増してや、舗装もされていない道路を馬でです。物凄い体力ですが、これが平均的なモンゴル人の能力だったのですから、広大な帝国領内の情報収集も可能だったと云う事なのでしょう。
モンゴル騎兵は当時、戦闘において世界最強だった分ですが、戦略・政略レベルで見れば情報伝達速度は、それに優る軍事力のアドバンテージと為り得ます。モンゴルの強さの一端がここにあります。
又、モンゴル軍は兵士と家族で構成されて 居ます。当然、軍団に家族が付いて来るという事は財産も一緒です。モンゴル人の財産と云えば家畜、取り分け羊です。詰り、前線にまで羊を連れて来て、通常どうりの生活を続けて居るという事です。
羊は、衣食住の前２つを賄って呉れる存在であり、羊の餌に為る草がある所であれば無補給で何処までも進む事が出来る訳です。詰り、情報と補給の２つの戦略要素が揃っていた処に、モンゴル兵士個々も精強と云う戦術要素も揃って居た訳で、これでは戦争に負ける筈がありません。
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こんなモンゴルですから、漢民族は彼らを「匈奴」とか「蒙古」とか呼び恐れました。万里の長城と云う巨大建造物は、彼等を含む遊牧民に対する防御壁です。中央アジアから南下する遊牧民は北インドのクシャーナ朝やペルシアや交易都市国家パルティアも苦しめます。
イメージとしてユーラシアのど真ん中に遊牧民が居て、その東に支那、南にインド、南西にペルシア等オリエント、西にロシアを置いて、ロシアの更に西にヨーロッパを置くと好いでしょう。
ロシアまで支配したモンゴル帝国
ロシアはヴァイキングの領域です。ヴァイキングと云うと北海や北大西洋のイメージでしょうが、メインはロシアです。ロシアにはデッカイ川が幾つも流れて居て、黒海やカスピ海とバルト海や北海は事実上繋がって居ました。彼等はロシアを網の目の様に走る河川を自分の庭として行き来していました。
このロシアとど真ん中の遊牧民以外は、全て農耕民族が築き上げた領域国家です。ヨーロッパのゲルマン人は元は農耕民族ではありませんが、ローマ帝国の領域を占拠すると文化的には同化して農耕民族の生活様式に為って居ます。この周辺を中央から脅かし続けたのが遊牧民族です。何処の国でも遊牧民族は恐怖の対象でした。
しかし、草原を住居とする遊牧民族は外に出て来て略奪はしても占領迄はしません。中国北部に国を建てたり、北インドやペルシアに侵入してみたり、ハンガリーやブルガリアで国家の真似事をしてみたりもしますが、基本的に自分達のテリトリーである草原に固執します。
しかし、遊牧民の軍事的優位は上で挙げた通り圧倒的です。これが崩れるのは近代に為って銃が発達して馬が無力化し、国民国家意識が出来て国家の兵士が誕生するのを待た無くては為りません。詰り、中世においては無敵だったのです。
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小さな部族の長であったテムジン
モンゴル高原は南半分がカラキタイの支配下、北半分が部族毎の抗争と云う状態でした。キヤト族のテムジンはケレイト族のオン・ハンと結んで北半分を統一し、最後にはオン・ハンを倒してモンゴル高原の北部を統一し、1206年には全モンゴル高原の部族を集めたクリルタイ（集会）によって、モンゴルの大ハーン（王）に為ります。チンギス・ハーンの誕生です。
この時点では未だ、新たな遊牧民国家が生まれただけに過ぎません。又、モンゴル高原南部は西遼（カラキタイ）の支配下でした。しかし、遊牧民国家は、エフタルや突厥の様に農耕民族国家に対して優位な攻撃力を持ち、屡々広域な帝国を築く場合があります。
チンギスは、長男のジョチ、次男のチャガタイ、三男のオゴデイに四千人の兵力を持つ遊牧民集団を与えます。遊牧民集団と云うのは兵力とそれを支える家族を含めた共同体で、それそのものが独立して草原を渉って行く能力があります。四千人の兵力を持つ遊牧民集団とは、四千人の兵士とそれを支える家族と財産全てを含みます。
これをウルスと云います。ウルスは、土地を所有する概念を持た無い遊牧民に取っての領土の様なもので、人と馬と財産で構成されます。
チンギス・ハーンと３人の息子は、ドンドンと領域を広げて行き西遼（カラキタイ）を滅ぼして、モンゴル平原を完全に統一します。その後、周辺の西夏、オイラト、トメト、カルルクを支配し、南シベリア、中央アジア迄勢力を広げます。
この爆発的な領土の増加に、家族連れで移動して行く方式では時間が掛かり過ぎる（次の占領地に行く為には、今の占領地を支配する家族と、次の占領地に向かう家族、詰り２倍に人口が増えるまで待た無くては為ら無い）為か、この頃当たりから少年兵を選抜して遠征に連れて行き、その土地の民を妻として同化して行くと云う形に占領政策を変更して行きます。
この方式は機動力も高く、又占領地に差し向けた少年兵の補充も十余年程度で出来るなど、領土拡大の速度を支える大きな力に為りましたが、被占領地の文化力に取り込まれて行くと云うデメリットもありました。
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インダス川やカスピ海を経てロシアへと上史上最大の大帝国へ
1211年からは金から満州と華北を奪い取り金は衰退します。1218年からは中央アジアの農業地帯を支配下に収めると、アフガンからイラン迄を支配するイスラム王朝ホラズム・シャー朝を滅ぼします。その後、モンゴルの勢力圏は、インダス川やカスピ海、南ロシアにまで至る様に為ります。
1227年にチンギス・ハーンが死ぬと、モンゴルは末子相続ですので（と云うか遊牧民は基本的に末子相続）四男のトルイがモンゴル軍ウルスの８割を相続します。トルイは、兄のオゴデイにハーンの位を与えモンゴル帝国の指揮権を与えます。長男ジョチは既に死んでおり、次男チャガタイもオゴデイをハーンに推した為、平和裏の権力委譲が果たされました。
オゴデイは1232年には金を滅ぼし、中国北部を征服します。その後、モンゴル高原の中央に首都カラコルムを建設し、大ハーンたるオゴデイは首都に留まり、部下の武将が遠征を行うと云うモンゴル帝国の侵略方式が固められます。又、税制度と駅伝制度が整えられ支配体制を固めます。
オゴデイは兄の息子で甥のバトゥを西方征服に派遣し、ロシア迄の全遊牧民を支配下に収め、ポーランド、ハンガリー迄脅かします。又、南方征服ではインド、イランを、西方征服では高麗までを征服し南宋を脅かします。世界史上、最大版図を誇るモンゴル帝国の出現です。
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孫の代から膨張は止まる
1241年にオゴデイが急死すると、翌年には兄のチャガタイも病死します。これで後継者争いが発生し、要約モンゴル帝国の膨張は止まります。チンギスの長男ジョチの息子バトゥと、チンギスの三男で前ハーンのオゴデイの息子グユクによる争いは東西分裂の危機を呼びます。
バトゥはロシアから欧州に至る地域を自ら征服した武将であり、西方の遊牧民は実質上はバトゥの支配下だったからです。２年後にはグユクは病死しますが、オゴデイ家とバトゥの戦いは終わりません。バトゥはチンギスの四男トルイの息子モンケをハーンに即位させ、チンギスの次男チャガタイの一族はオゴデイ家を支持し、モンゴル帝国の東西分裂の危機は続きます。
モンケは説得を試みようとしますが、ジョチの圧力に負けて強攻策に出る事と為り、オゴデイ家とチャガタイ家の有力者が自身の暗殺を計画したと濡れ衣をきせて、両家の殆どの男子を処刑してしまいます。オゴデイ家とチャガタイ家を粛清して権力を掌握したモンケは、モンゴル帝国を支那、中央アジア、西アジアの３つに分けて統治機構を再編成し、自らは中央アジア総督にして大ハーンと為り、弟のクビライに支那を、同じく弟のフレグに西アジアの総督を任じます。フレグは1258年にはアッバース朝を征服し、アフリカの除くイスラム帝国を全て支配下に置きます。
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身内の争いで分裂が始まる
1259年にモンケが病死すると、首都カラコルムの留守を預かっていた末弟のアリクブケはハーンに即位しようとしますが、支那のクビライもハーンと為り、モンゴル帝国は二人のハーンを持つ分裂状態に為ります。
一方、フレグはモンゴル帝国の主導権争いから早々に離脱し、イランに自立政権であるイル・ハン朝を建設します。このイル・ハン朝は、ロシアを実質支配して居たバトゥの弟で後継者のベルケと対立します。1264年にクビライがアリクブケを滅ぼして単独のハーンと為った時には、モンゴル帝国の西半分は大ハーンの支配の及ば無い土地に為ってしまっていました。
クビライは、フレグにイランとイラク支配を認めイル・ハン朝を公認すると、モンゴル帝国の同盟国として扱う様に為ります。その一方で、クビライは1276年に南宋を滅ぼして支那の支配者と為り、領土の拡張よりも安定的な支配を目指してモンゴル帝国を改変して行く事に為ります。
しかし、モンケの弾圧で有力者を失ったオゴデイ・ウルスとチャガタイ・ウルスも滅び去った訳ではありませんでした。チャガタイ・ウルスの当主バラクは、オゴデイ・ウルスの有力者カイドゥと結んでクビライに反乱を起こします。バラクの死後、反乱勢力にしてモンゴル高原と中央アジアの支配者と為ったカイドゥは、ジョチ・ウルスとも同盟を結び、ロシアを支配するジョチ・ウルスのキプチャク・ハン国、モンゴル高原を支配するオゴデイ・ハン国、中央アジアを支配するチャガタイ・ハン国と為って行きます。
1301年にカイドゥが死ぬと、カイドゥの子チャパルは部下のドゥアに説かれて、クビライの孫テムルと和睦します。その後、ドゥアはチャパルを追放して実権を握ると、オゴデイ・ハン国とチャガタイ・ハン国を併合してチャガタイ・ハン国として支配者と為ります。
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形ばかりの連合帝国による平和の時代
モンゴル帝国は、東アジアの元、中央アジアのチャガタイ・ハン国、ロシアのキプチャク・ハン国、イランから小アジアのイル・ハン朝の４つの国の連合政権と為ります。この時代、エジプトにはマムルーク朝、北インドにはデリー・スルタン朝が健在でした。
モンゴル帝国が再編されて安定期に入ると、陸路も海路も交易が盛んに為ります。モンゴル帝国は遊牧民の国家らしく移動の自由が保証され関税がありませんでした。交易ネットワークはその影響力を伸ばし、日本や東南アジア、インド、エジプト、ヨーロッパを含む、汎ユーラシアネットーワークと為ります。
モンゴルと言えば馬と草原がイメージされる為、陸路に注目が集まり勝ちですが、海洋交易に関しても歴代支那王朝の中でもトップクラスと言える程開拓をしています。当初は南宋を攻めるルートとしての海路を、安定期に入ってからは交易と交易路開発の海運が非常に盛んに為りました。後の明の永楽帝の鄭和の大航海事業は、大元ウルスの海路開拓があったればこその冒険大事業だった訳ですから。
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次代の明朝も大きな影響を受ける
余談ですが、明王朝全体で見ると海運禁止等交易処か渡航すら禁じる鎖国時代だったと言えますが、三代皇帝の永楽帝の時代を見れば鎖国処か、元の体制を受け継いだ大海運帝国でした。鄭和による６回の航海は、国家を挙げての大事業で、これが上手く行っていれば北米大陸は西海岸は支那が、東海岸は英仏が支配する様に為っていたかも知れないと私は考えています。
事実、明は南米に迄到達し、南極大陸の存在を確認しながらマガリャネス海峡も抜けて居ます。マゼランに先立つ事百年も前にです。鄭和の７回目の航海は、それ迄と違い西のメッカに行く為のもので、マレー・インド経由で、東アフリカへ到達しています。
永楽帝の没後に宦官が権力を握り鎖国政策へ突っ走る段に為ると、これら航海事業は支那の記録から抹消されてしまいますが、東アフリカへの遠征がイスラム側の記録で明確に残って居る為７回目の航海は有名ですが、アメリカ大陸への遠征は現地のインカやアステカの記録が見つかって居無い為、その詳細がわかっておらず知名度も低いのが残念に思えます。
コロンブスの発見の前にヴァイキングがアメリカ大陸に到達して居たと云うのなら、アメリカ西海岸にユーラシアから海路で初めて到達したのは、明であるとも言える訳です。
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支那が、天災までもが皇帝の徳の喪失と考える価値観です。ペストの流行で大元ウルスはモンゴルに追い返されました。永楽帝が首都を北京に移し紫禁城を建設したその年に、よりにもよって落雷から火災を起こして紫禁城が全焼する等と云う事件が無ければ、ヨーロッパのアメリカ大陸支配は無く、よってヨーロッパへの富の集積も無くなり何時までだっても世界の後進国のままで、支那こそが世界をリードする存在に為っていたかも知れませんし、寧ろ、1420年時点ではその可能性が高かったと言っても好いと思います。
永楽帝が半端な所で外征を辞めてしまうから外征失敗の赤字だけが膨大に残り、次の洪熙帝、宣徳帝は外征を一切禁止し船の新規建造すら禁じる政策に転換してしまい、鎖国時代に為って行く訳です。明は永楽帝までは、モンゴルの拡張スピリットを受け継いだ帝国だったと言って好いと思います。
閑話休題
小切手や為替と云うものは、イスラム帝国のアッバース朝の時代に発明されました。広大な帝国の端と端で取引を行うにあたって、重い金銀を運ぶのはコストも掛かりますし道中の危険もハンパではありません。
モンゴル帝国ではこれがもっと進んで、紙幣の原型と言えるものが登場します。為替も小切手も、それを発行する商人への個人的な信用で成り立ちましたが、紙幣は国家への信用で為り立ちます。モンゴル帝国と云う世界的な帝国は、そう言った国家への信用が初めて成立したとも言えます。
高度な製紙技術と印刷技術を持つ、支那を支配下に置いたのも、紙幣の誕生の後押しをしました。モンゴルにおいては塩が専売化されて居り、その権利を証券化したもの（塩引き）が金銀の代わりに流通して居たのです。証券と言えどそれそのものは紙であり、その紙を持つ者に帝国が塩の販売の権利を認めると云う保証、詰り帝国への信用がその証券に価値を与えて居たのですから、仕組みとしては紙幣と同じと言って好いかと思います。
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しかし、モンゴルの支配は長続きしません。統治機構の脆弱性や、税収システムの不備など色々と理由は考えられますが、1300年代前半と言えばペストが世界的に大流行した時代でもあります。
ペストはヨーロッパで発生しました。これはヨーロッパの衛生観念が全く為って無かったのが大きな原因です。ローマ帝国時代に完備されて居た上下水道は、ゲルマン人によって跡形も無く破壊され、都市においては糞尿は道端に山と打ち捨てられ、風呂に入る習慣すら無くしていたヨーロッパの不衛生が、ペストの様な伝染病を引き起こしたのは必然とも言えます。
モンゴル帝国は世界帝国でした。これが、ヨーロッパで発生した伝染病を数年の内に支那に迄伝える働きをしたのは大きな皮肉と言えるかも知れません。
イル・ハン朝では1335年にフレグの血統が断絶すると後継者が立たず20年後には解体してしまいます。キプチャク・ハン国は1359年にバトゥの血統が断絶し、遠縁の王子達が乱立して分裂して行きます。
チャガタイ・ハン国は、東西分裂の末に矢張り小部族単位に分裂して行き、元も続く天災は王朝の徳の無さと判断され1351年からの白蓮教徒の紅巾党が反乱を起こし、で領土をドンドン漢民族に奪われて行き、1368年朱元璋によって支那から追い出されてしまいます。以後、支那は明が支配し、モンゴル高原に戻った元は、以後、北元と呼ばれる様に為ります。
この時点をもってモンゴル帝国の世界史的地位は消失してしまいます。しかし、モンゴルの後継政権は世界中に残り、夫々が世界史上で大きな役割を果たします。
以上
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