2021年10月04日
岸田新首相が提唱する「令和版所得倍増計画」の落とし穴
岸田新首相が提唱する
「令和版所得倍増計画」の落とし穴
10/4(月) 6:01配信 10-4-3
〜岸田文雄前政調会長が今日(10月4日)招集された臨時国会で首相に指名される。岸田氏は「新自由主義の見直し」と「令和版所得倍増計画」を打ち出して居るが、この計画には大きな落とし穴が待ち構えている可能性が高い。
池田勇人元首相が提唱した所得倍増計画には、一般的に理解されて居る内容と現実には大きな乖離が存在して居るからだ〜
加谷 珪一 経済評論家 10-4-1
■ 分配が先か成長が先か
「令和版所得倍増計画」を掲げる岸田新総裁
岸田氏は総裁選を通じて「小泉内閣以降の新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張。「令和版所得倍増計画」に依る格差是正と中間層の復活を訴えて来た。
日本に於いて格差が拡大して居り、抜き差し為ら無い状況に為って居るのは紛れも無い事実で在る。特に日本の場合、超富裕層が更に資産を拡大させると云う米国で見られる様な上方向の格差では無く、低所得層の貧困化が一方的に激しく為ると云う下方向の格差で在り、その是正は容易では無い。
上方向の格差の場合、豊かに為り過ぎた超富裕層への課税を強化すれば簡単に再分配の原資を捻出出来る。処が下方向に格差が拡大して居る日本の場合、超富裕層は極僅かしか存在せず、此処に課税しても得られる税収は多寡が知れて居る。
再分配の原資を中間層に求めるしか方法が無く、実施すれば中間層からの猛反発が予想される。日本に於いて格差是正が叫ばれながら一向に実施され無かったのはコレが理由で在る。
岸田氏は「分配無くして次の成長は無い」と主張して居り、教育費や住居費の支援(介護士や看護師等公的な業務を想定して居ると観られる)賃上げ等を通じて国民の所得を増やし、これを消費拡大の原動力にすると説明して居る。
しかしながら、一連の支援を実施する為には原資が必要と為る。総裁選当日に行われた記者会見で「分配が成長に繋がるメカニズムとその原資」に付いて質問された岸田氏は「成長の果実が一部の人に留まって居る」「格差を是正する事で消費を拡大出来る」と述べ、少々矛盾した回答を行って居た。
「成長の果実が一部の人に留まって居る」と云う事は既に成長を実現して居り、その富を一部の国民が独占して居る事が問題と云う事に為る。コレは米国で見られる上方向の格差なので、富が集中して居る所に課税すれば原資は容易に捻出出来る。 だが今の日本はそうでは無く、成長そのものが実現出来て居らず、経済の貧困化に依って格差が拡大して居る。
介護士や看護師等公的職業の年収を大幅にアップさせたり、教育支援や住居支援を手厚くする事で消費を喚起したいので在れば当然財源が必要と為る。
岸田氏もこの事は好く判って居る筈で在り、今の状況で増税を言い出す事は出来無い為、成長に期待すると云うロジックに為らざるを得無いのだろう。
■ 池田勇人は完璧な政治家だった
岸田氏としては、成長する為の仕組みが「令和版所得倍増計画」と云う事に為るのだが、このキーワードは余り意味を為さ無い可能性が高い。その理由は、池田氏が過つて提唱した所得倍増計画の中には、所得を倍増させる具体的な施策は存在して居無かったからで在る。詰まり岸田氏に取って、参考にする施策が無いと云うのが現実なので在る。
所得倍増計画に依って日本の高成長が実現したと云うストーリーは、戦後の日本人に取って絶対的な常識と為って居る。だが現実の歴史は私達が抱くイメージとは大きく異なって居る。
説明する迄も無く、所得倍増計画と云うのは1960年に池田内閣が策定した長期経済計画で在り、同計画では1961年からの10年間で日本の実質GDP(国内総生産)を2倍にする(当時はGDPでは無くGNP)と云う目標が掲げられた。
この目標は僅か7年で達成して居り、多くの国民が豊かさを実感した(GDPが2倍に為れば単純計算で年収も2倍に為る)
では、池田内閣は具体的にどの様な施策でこの成長を実現したのかと云うと、その問いに対する明確な答えは存在して居ない。所得倍増計画と云うのは実は後付けの政策で在り、日本経済は自律的な高成長が続いて居た事から、10年間で所得が2倍に為る事は、計画策定時点に於いてホボ確実と云う情勢だった(詰まり日本経済は勝手に成長して居たに過ぎ無い)
10年間でGDPを2倍にする為には7%程度の成長が必要だが、1959年の実質成長率は11.2%、60年は12.0%で在り、7%と云う水準はトウに超えて居る。放って置けば近い将来、所得が2倍に為る事は専門家の目には明らかだった。
池田氏は大蔵官僚出身で経済に精通して居り、所得倍増に付いては当然の事ながら自身でも確信を持って居た筈だ。池田氏は経済的・客観的な事実を、絶妙なキャッチフレーズに転換し、自身の政権基盤を確立した。この点に於いて池田氏は正に吉田茂元首相の後継者で在り、天才的な政治家と言って良いだろう。
■ 所得倍増計画のウラに隠された本当の目的とは
池田氏の凄みはそれだけでは無い。策定された所得倍増計画を読むと、政府の過度な介入を避け、民間の自発的な経済活動を促進させると云った常識的な内容が列挙されて居るだけで在り、際だった施策が記されて居る訳では無い。
実は閣議決定された所得倍増計画には「所得倍増計画の構想」と云う別紙が在り、実はこの別紙が非常に重要な意味を持って居る。
別紙には、所得倍増計画とは別に農業近代化・中小企業近代化・後進地域の開発促進・公共事業の地域別分配の再検討と云った項目が並んで居る。勘の良い読者の方で在れば、これが何を意味して居るのかピンと来たのでは無いだろうか。
此処で示された各項目は、予算の重点配分リストで在り、高度成長に依って生まれた豊富な財源を、多くの利害関係者にバラ撒く事で、自民党の政権基盤を強化すると云う目的が在った。
詰まり所得倍増計画と云うのは、日本経済が自律的に高成長を実現し十分な財源を確保出来る見通しが立った事から、その果実を政権の基盤強化に大胆に利用すると云う政治的且つ野心的な取り組みと云う事に為る。
池田氏は岸田氏が率いる派閥(宏池会)の創設者だが、池田氏に依るこの大胆な戦略に依って現在の宏池会の基盤が作られた。こうした歴史を考えると、岸田氏(或いは宏池会のメンバー)が池田氏に対して強い思い入れを持つのは好く理解出来るものの、当時と今とでは決定的に状況が違う。
当時は日本経済が云わば勝手に成長して呉れたので、税収は面白い様に増えた。政権としては、その豊富な財源を政治的に利用すれば好く、国民もこうした再配分を大いに喜んだ。
処が今の時代は、肝心の成長が実現出来て居らず、お金をバラ撒く為の原資が無い。これ迄説明して来た様に、所得倍増計画と云うのは経済成長在りきのプランなので、それ自体で経済を成長させる事は不可能で在る。
岸田氏のプランを実現するには、大規模な国債増発や増税が必須で在り、実現のハードルは高い。
■ 派閥相乗りと云う事情から選択肢は限られる
近年、従来には無かった新しいテクノロジーが急激に進歩して居り、これからの時代に於ける成長エンジンと為るのは、脱炭素やAI(人工知能)と云った新しい技術で在る事はホボ間違い無い。経済を成長させ、分配の原資を確保する為には、先ずはこうした新分野への先行投資が必須と為るが、残念な事に岸田氏はこうした新産業への転換には余り積極的とは言え無い。
岸田氏は派閥相乗りで首相に為ったと云う事情が在り、多くの利害関係者の要求を受け入れる必要が在る。利害関係者の中には、産業面でのドラスティックな改革を望ま無い人も多く、総裁選で敗北した河野氏の様に、お構い無しで改革を遂行すると云うスタンスは取れ無いだろう。
そう為って来ると、再分配を実施したくても原資が無く、かと云って増税は選択出来ず、当面は国債増発で凌ぐしか選択肢が無く為って来る。国債増発は恒久的な財源には為り得無いので、継続した賃上げを実現するのは難しい。結果として岸田氏が提唱する所得再分配策は、小規模な形に落ち着かざるを得無いのでは無いだろうか。
加谷 珪一 1969年宮城県仙台市生まれ 東北大学工学部原子核工学科卒業後日経BP社に記者として入社 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ企業評価や投資業務を担当 独立後は中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事 現在は経済・金融・ビジネス・IT等多方面の分野で執筆活動を行って居る 著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング) 『感じる経済学』(SBクリエイティブ) 『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)等が在る
〜管理人のひとこと〜
現実の日本の経済を的確に表現し内実を嚙み砕き分析する・・・これは何も経済学者のみが行う仕事では無い。政治家や官僚や企業の首脳者達も大いに研究し、それに対する具体的な方策を日々練って居る筈である。これに関して色々な方策を調べるのだが、唯一れいわ新選組の山本太郎氏の掲げる政策コソが解決可能なものだと考える。
先ずは消費税を廃止しその分が国民への減税と為る。財務省が税収が不足すると云えば税制の見直しをすれば好い。所得税の累進課税を見直し企業に対する法人税も見直す・・・コレだけで十分お釣りも来る。そして、新たに国債を発行し中間層以下の所得の人達に毎月不足分を支給する・・・決して生活保護でも救済措置でも無い、憲法に則った「人間らしい生活の保障」を国家が履行するだけだ。
そして彼が云うのは「物価上昇が2%以上に為ったら徐々に支給額を減額する」これを続ければ、個人の所得が増える以上に国税が増収する・・・と。先ずは企業では無く個人所得を増やして消費に向かわせGDPを押し上げる。新たな産業は、脱炭素エネルギーの開発・促進に特化した政策で、少子化に依る人手不足を補う新たな産業・設備投資への促進を図る・・・来る総選挙で国民は何を選択するのだろうか。
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