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2021年09月16日

9・11から20年・・・何故タリバンは此処迄「衰え無い」のか




  《タリバン・新首相等幹部と対峙した日本人元外交官の証言》

  9・11から20年・・・

  何故タリバンは此処迄「衰え無い」のか



   文春オンライン 9/11(土) 11:12配信



  9-11-10.jpg
     
    2001年9月11日 2機目の飛行機が突入する瞬間の世界貿易センタービル コピーライトマークAFLO 9-11-10


 9・11同時多発テロから20年を迎えた今、古くて新しい問いが再び私達の前に立ち現れて居る。2001年の9・11を首謀した外国人オサマ・ビンラディンを匿った事でアメリカの攻撃を受け、政権崩壊に至った筈のアフガニスタンの〔タリバン〕が、追及の手を逃れ、散り散りに為り乍らも生き永らえ今回の復活劇へと急展開して居るのだ。

 私は、9・11の半年前に起きた〔バーミヤンの大仏破壊事件〕が、同時多発テロの〔プレリュード(前奏曲)〕だったと云う仮説に基づき、タリバンが国際テロ組織・アルカイダのリーダー、オサマ・ビンラディンに依って乗っ取られて行く道筋を取材した。
 それをNHKスペシャルとして放送し、書籍として『大仏破壊 ビンラディン、9・11へのプレリュード』(文春文庫 大宅壮一ノンフィクション賞受賞)にまとめた。  

 当事者で在るタリバンや、彼等を良く知るアフガニスタン人・パキスタン人、そして欧米人等を広く取材した中で、ストーリーの中心に据えたのが、日本人の国連外交官だった田中浩一郎さん(現・慶應義塾大学教授)だ。  
 9・11に至る数年間田中さんは、国連アフガニスタン特別ミッションの政務官として、数限り無い程タリバン政権下のアフガンに入り、その語学力を活かして今回の組閣で首相に選ばれたアフンド師を初め、30人を超えるタリバン幹部達と渡り合い様々な交渉を行って来た。
 タリバンを、その各個人の性質や行動パターンに至る迄熟知して居る貴重な存在で在る。本稿では、再び世界の前に登場して来たタリバンとは何者なのか、現在も研究者としてアフガニスタン情勢に付いてフォローを続けて居る田中氏に聞いた。


  9-16-20.jpg

                     高木 徹


                   ◆ ◆ ◆



    9-16-5.jpg 

          国連外交官だった田中浩一郎さん(現・慶應義塾大学教授)



 「謎の神学生」の正体

 高木 タリバンは、8月15日にアフガニスタンの首都カブールを電光石火の進撃で陥落させました。田中さんは、どの様にお感じに為りましたか。

 田中 実は、2002年の夏から「これは拙いな」と思い発信して居ました。アフガニスタンを「キチンとした形に整え無ければいけ無い」と云う国際社会が持って居た狙いが、9・11から1年足らずで別の処に持って行かれて行くのを現地で目の当たりにしたからです。それが20年掛けて此処迄来てしまった・・・と云う印象を持って居ます。

 高木 「別の処」に持って行かれたと云うのは、具体的にはどう云う事ですか。

 田中 2003年にアメリカがイラク戦争を遂行する訳ですが、それに向けてアフガニスタンに対する関心が、その1年前の2002年夏から急速に下降線を辿り始め、アフガニスタン国民の間で「コレって民主主義なの?」と感じてしまう様な事態が、アメリカに依って自ら作り出されて居たのです。
 この事は2002年6月に開催された、緊急ロヤジルガ(アフガニスタンに伝統的な〔全国長老・部族有力者会議〕の様な存在)でハッキリ出て来ました。

 アメリカは、ハミド・カルザイ(初代大統領)を国家元首にしようと云う方針をハッキリ持って居て、これに異を唱える人々をアメリカが脅して回ったのです。それを見て、アフガニスタンの人々に「結局、自分達の意見は聞いて貰え無い」と云う思いが広がってしまいました。  
 民主主義に付いて本当にヨチヨチ歩き以前、未だ乳飲み子ですら無かったアフガニスタンに於いて、民主的な体制を構築しようとする大プロジェクトが行き成り可笑しな方向に進んでしまった。民意に基づくのが民主主義の大前提の筈が、アメリカが寧ろ民意を封じ込める様な動きをした事で、大い為る幻滅をアフガニスタンの人々は感じてしまったのです。


 〈ロヤジルガは選挙で代議員が選ばれる訳では無いが一種の議会的なもので、これを活用する事で、正式な大統領選挙の準備が整う前に国家元首を選び、民主主義の第一歩と出来る・・・と当時捉えられて居た。
 田中さんに依れば、ロヤジルガの参加者の間で最有力だったのは、宮廷クーデターで廃位と為る迄その地位に在ったザヒル・シャー元国王だったが、英語堪能でアメリカとも話が出来るカルザイの国家元首就任にアメリカは強引に拘ったのだ〉


 「大い為る幻滅」は何故生まれたのか?

 田中 アメリカのブッシュ政権としては、2004年のアメリカ大統領選挙に向けてサクセスストーリーを欲した訳です。その為に、アフガニスタンの大統領選挙もギリギリ間に合うタイミングで行った。
 その結果「現地は万事上手く行って居り、何も修正する必要が無い」と云う自明の前提を作ってしまう事に為り、思考のトラップに陥ってしまった。これは日本の原発の安全神話・・・安全に作ったのだから安全を疑う議論自体が許され無い・・・と同じ構図です。そこから修正のタイミングを失ってしまいました。


 高木 ブッシュ政権の後を継いだオバマ政権で増派も行われましたね。

 田中 これだけの死者を出して多くの戦費を払ったアメリカには、非常にキツイ言葉に為りますが明らかに遣り方を間違えた。これは私も現場に行って見聞きして居ましたが、その増派が進む中で、兎に角色んな人にお金をバラ撒く。それに依って人々の忠誠心を買おうとする。
 これはアメリカがイラクでも遣って居た事ですが、少なくともアフガニスタンに於いては、そのお金の可成りの部分がタリバンに流れ、軍閥の長老格のポケットに入り、その後問題に為る汚職の元に為りました。


 中国・ロシアに利用されてしまった「テロとの戦い」

 高木 正直な処、私も含めてアフガニスタンへの注意関心が少し薄れて居た処に、予想外の早さでカブール陥落に為り、多くの人がショックを受けたと思います。そもそもアメリカが20年前に「アフガン戦争を始めた事自体が好く無かったじゃないか」と云う声も在ります。しかし、私はアノ9・11の後の状況ではアレしか選択肢が無かったと思って居るのですが。

 田中 アノ攻撃は、国連憲章に定められた個別的自衛権の行使・NATO憲章第5条に基づく集団的自衛権の行使を初め、法的な枠組を踏まえて居ます。只、相手が国家では無かった訳です。
 一つはアルカイダと云うテロ組織で、もう一つはタリバン政権と云う国家を名乗って居るけれども、国際社会に認知されて居ない政治運動体でした。特に前者に対して武力行使を行う事で、本当にテロを撲滅出来るのかと云うのは大きな疑問だったと思います。  

 又、その後の歴史の展開を見ると、この時の〔対テロ戦争〕と云う形は、中国とロシアには散々好い様に使われた。中国はウイグルの弾圧を〔テロとの戦い〕を理由に拡大させ、ロシアはチェチェンやダゲスタンのイスラム勢力の掃討にこの論理を使う様に為る。テロとの戦いと言いさえすれば全てが容認されてしまう〔聖域〕を作り出してしまいました。


 何故タリバンは「衰え無い」のか

 高木 この30年位の間、世界各地に様々なイスラム主義の暴力的な勢力が登場しました。〔アルカイダ〕〔IS〕やその分派組織、或いは東南アジアに於ける〔ジェマ・イスラミア〕等、夫々栄枯盛衰をして来たと思います。その中でタリバンは息が長い。
 1994年に突然アフガニスタンに現れた謎の〔神学生達(タリバン)〕は、1996年の首都占領から5年間〔タリバン政権〕をアフガニスタンに作りました。その時と同じ様な雰囲気のメンバーも重為って居る人達が2021年迄続いて来て一気に復権した訳です。その〔長持ち〕の原因に付いてどう思われますか?


 田中 それは、彼等の意識がブレ無いからだと思います。客観的に見て正しいかどうかは別にして、90年代の時も現在もそうですが、アフガニスタンは〔外国軍に依って占領されて居る〕と云う認識を彼等は持って居ます。
 その占領から解放する為に自分達は立ち上がり戦って居るのだと云う思いが在る。或る種のナショナリスティックな民族主義的な運動として勢いを保つ事が出来るのです。そして、此処は又非常に厄介な問題なのですが、それを支えるパキスタンと云う国家の存在が在る訳です。
 パキスタンは2001年の時もアメリカに対して面従腹背(めんじゅうふくはい)でしたし、それ以降はドンドン中国に靡(なび)いて行く事に依って、面従腹背以上にアメリカのコントロールの及ば無い状態に為って居る。この隣国がタリバンを匿い、隠れ家を提供し食事も与えて医療も与えて、偽のパスポート迄発行して、場合に依っては武器も提供して居たのだろうと考えられて居ます。


 高木 外国勢力からの祖国防衛と云う考え方は、アルカイダやIS等の〔グローバルジハード〕的な考え、詰まり彼等の言う処のキリスト教徒とユダヤ教徒の連合軍に対して世界で戦いを仕掛けて行くと云うコンセプトより、強い共感を得られると云う事でしょうか?

 田中 そうですね。或る種の地場勢力としての強さは在ります。例えばISのケースは、世界各地で様々な領域を占領して行きますが、結局ISは歓迎され無かった。ISは外から遣って来て、占領された人々は迫害されたり場合に依っては殺されたりした訳ですから。
 一方、タリバンの場合は同じアフガン人、場合に依っては同じ民族パシュトゥン人で在る事をベースに国土を解放させ様と云う思いで戦って居る。勿論、過去に酷い事を遣った事で反発や反感を受けても、もう少し親和性が在り得た訳です。  
 更にアメリカ軍を初め外国軍が誤爆を繰り返し、タリバンやアルカイダの摘発だと言って夜中に個人宅に押し入って無茶な捜査をする等、個人の権利侵害を平然と遣って行くに従って、アメリカへの反感が広がり、タリバンに対する同情心も作り出されました。


 知事でさえ映り込む事を許さ無かった「カメラ嫌い」達の変化

 高木 そのタリバンに依る今回のカブール制圧で多くの人が驚いて居るのは、彼等の広報戦略です。何人かの報道官が出て来て、テレビに対して立て板に水と云う風情で語って居ます。
 2001年以前のタリバンはテレビを〔悪魔の箱〕と言って禁止して居たので、此処は全く変わりました。しかも、その報道官達が、国際社会が今心配して居る事を正確に捉えて、それに対して逐一答える。詰まり、テロの基地に為るのでは無いか・女性の権利は如何為るか・少数民族は如何為るのか・・・等、次々と答えて行く姿に驚きながらも、その言葉を信じて好いのかと疑問にも感じます。


 田中 以前のタリバンは、テレビは疎か写真も撮らせ無かった。私も多くのタリバンと交渉しましたが、一緒に写った写真は持って居ません。親しく為っても写真の一枚も撮った事は無いのです。或る時に、アフガン南部・カンダハルの国連の事務所が爆破テロの巻き添えに為って、被害状況を確認する為に現場写真を撮りに行きました。
 そこに当時のカンダハル州知事だった隻脚(せっきゃく)のオジサンが居て、彼が一寸写り込みそうに為っただけで、彼はターバンの端で顔を隠しました。知事ですらそれ位写りたく無い訳です。   これは偶像崇拝を禁じる宗教的理由とされて居ますが、実は、アフガン人では無い人間がタリバンと称して紛れ込んで居るので、その怪し気な素性がバレ無い様に警戒して居る為だと現地では実(まこと)しやかに言われて居ました。  
 
 それに引き換え、現在のタリバンはメディアを通じて自分達の正当性を訴え、正統な政権として国際的に認知して貰う事を狙ってメディア戦略に力を入れて居ます。只、その言葉を額面通り受け止めて好いのかはナカナカ難しい。
 タリバンと云う組織の権力構造、更に報道官と為って居る人物の地位がどれ位かを考え無ければ為りません。その彼等にしても、人権尊重等に付いて語る時、飽く迄〔シャリーア(イスラム法)〕の下で、と条件を着けて居ます。


 アメリカの作り上げた「タリバンのナンバー2」と云う虚像

 〈それでは、現在のタリバンでは誰が権力を持って居るのか。20年前のタリバンは、創設者で絶対的なカリスマで在るオマル師が全権を掌握し、評議会で在る〔シューラ〕を率いて居た。そのオマル師は2013年に病死し、次の指導者も2016年に米軍の攻撃により死亡、その後は3代目と為る〔ハイバトゥラー・アフンドザダ師〕が指導者の座に着いたとされる。
 副官として、タリバンの最強硬派〔ハッカーニ・ネットワーク〕と云う武装集団を率いるシラージュッディン・ハッカーニ師、オマル師の息子で〔軍事委員会〕の長と呼ばれるヤクブ師、更には、カタールの首都ドーハの事務所にはバラダル師が配置されて居た。  
 この中で、最近の報道で好く見掛けるのがバラダル師。トランプ政権以来のアメリカとの交渉に出席し、最近は訪中して王毅外相と会談する等、タリバンの表に出て来るメンバーでは最高位と言える。国際舞台に姿を見せて居る為か〔穏健派〕とも言われる〉


 高木 近年のタリバンの権力状況に付いて、田中さんは如何見て居ますか?


    9-16-6.jpg


 田中 今のタリバンには、パキスタンのクエッタ・・・これはアフガニスタンのカンダハルに移りつつ在ると言われますが・・同じくパキスタンのペシャワル、カタールのドーハと3つの拠点が在りますが、このドーハ事務所がどれ位の発言力を持って居るのか好く分かりません。
 最近ドーハからカブールに入ったと言われるバラダル師を〔タリバンのナンバー2〕と言う事も在りますが、彼は複数居る副官の一人でしか無く、ナンバー2だと云うのは、アメリカの一方的な宣伝です。

 確かにバラダル師は、オマル師がタリバンを作った時からの盟友で、一時期その右腕と言われる地位に居たと観られますが、アレからもう20年経って居る。その間、8年余りパキスタン軍に捕らわれて居た。それが何時の間にかアメリカの差し金に依って釈放され、政治交渉のヘッドに為って居ました。詰まりアメリカが交渉の為、都合の好い人物を盛り立てて来たのです。
 彼を〔ナンバー2〕に仕立てる事はアメリカ側にはメリットが在る。タリバンからすれば、元々アメリカと交渉する事は本意では無いのですが、アメリカが早く出て行く様に仕向ける為には、交渉して居る様に見えた方が好い。詰まりタヌキとキツネの化かし合いを遣りながら、アメリカは全てが上手く行って居る様に見せて居るのです。こうした実情はバイデン大統領にも届いて居ないと思います。


 「日本で云えば〔織田信長〕と説明して居たが・・・」

 〔力が全て〕のタリバンに持ち得る「2枚の交渉カード」とは

 元国連アフガン特別ミッション政務官・田中浩一郎氏インタビュー#2 高木 徹

 「結局、タリバンは戦闘集団 力が全ての〔ヤクザの世界〕ですから」

 高木 8日に発表されたタリバンの「組閣」の内容をどう見て居ますか?
 田中 未だ最終承認で無いと示す為か大臣「代行」と云う言い方ですが、正直言って、それを見ると行政機構としては機能するとは思えません。ソモソモ、字が読めるか如何かも分から無い様なメンバーが宛がわれて居ますから。
 高木 以前からタリバンには「強硬派」と「穏健派」が居て、表に出て来るのは「穏健派」だが、結局は「強硬派」が力を持って居ると捉えられて来ました。

 田中 「強硬派」と云うよりは、私は「武闘派」と呼んで居ます。力が全ての世界、云わば〔ヤクザの世界〕ですから。米軍を追い出した今、その「武闘派」の意見が強い事は間違い在りません。
 今回「首相」に為ったアフンド師は、前回の政権では外務次官から外務大臣に為った人で、私は10回以上会って居ますが、彼の口から教条的な原則論以外の事を聞いた事がありません。今好くメディアに登場して居るバラダル師も「武闘派」として鳴らして居ました。
 今回の組閣では副首相と云う微妙な役職ですし、米軍が撤退した以上、タリバンに取ってこれ迄彼が遣って来た様なアメリカとの交渉はもう必要が無いと云う事でしょう。

 副官の一人だったハッカーニ師が内務大臣と云うのはブラックジョークの様に思えます。彼は云わば〔狂犬〕の様な存在です。アルカイダとも繋がって居ると言われますし、これ迄国内でも爆破テロとか暴力行為を遣って来て居た人が、これからは治安の維持を担当すると云うのですから。
 創設者オマル師の息子で今回国防大臣に為ったヤクブ師は知り合いではありませんが、少なくとも軍事委員会のヘッドだったと云う事は、話し合いで物事を解決しようとする人では無いでしょう。詰まりタリバンの上層部は「武闘派」に依って占められて居る。結局、タリバンは戦闘集団なのです。戦闘で相手を打ち負かす事を、いの一番に考えている。
 その彼等の第一のミッションは外国勢力を駆逐する事。第二のミッションは、アフガニスタンをシャリーア(イスラム法)に基づくイスラム国家に戻す事です。

 軍事的緊張状態が続けば、第一のミッションも残り続け「武闘派」の意見が常に強く出る。緊張状態が無く為れば様子は変わる筈ですが、国際的なタリバン嫌い・イスラム嫌いの脅威に晒されて居ると彼等が感じる限り、必然的に「武闘派」が主導権を握る状態が続くと思います。
 「武闘派」から主導権を奪う為には、国際社会がタリバンに対して融和的に為り、タリバン内の融和論を優勢にする必要が在るのですが、タリバンはイスラム法に基づいた国作りと云う方針は変えられませんし、国際社会も女性を初め人権問題を見逃す訳にはいか無い。その結果「国際社会から爪弾(つまはじ)きにされて居る」と云う彼等の〔被害妄想〕も止ま無いので、結局は「武闘派」が力を持ち続ける事に為るでしょう。


 〈今回の「組閣」メンバーの中で、田中氏が「納得が行く」と表現するのが、外相のアミール・ハーン・ムタキだ。拙著『大仏破壊』でも、武闘派の出身ながら国際社会の論理に理解を示し、強硬派とは異なり文化遺産の保護に動いた事を描いて居る〉

 田中 ムタキは前回の政権でも、オマル師から指名されて国連を仲介者とする和平交渉に当たって居ました。私達の言う事を咀嚼して、自分為りの考えを巡らせて居る様子が見て取れました。交渉の進め方に関する覚書にもタリバンを代表してサインした事があります。
 キルギスでウズベキスタンの武装勢力に囚われた日本人人質4人の解放に力を貸そうとして呉れた事も思い出されます。只、彼一人が政権を動かせる訳では無く、今後のタリバンの外交交渉がスムーズに進む事を意味して居る訳ではありません。


 「人々が動いて呉れ無ければ、結局は力に訴えるしか無いのです」

 高木 2001年迄の数年間、タリバン政権がアフガニスタンを一応「統治」して居た事に為って居ますが、その形に戻る事に為るでしょうか。

 田中 今回も銃をチラつかせて同じ事を遣ったら間違い無く国は動きません。アフガニスタンの人々の期待が当時とは違うレベルに達して居ます。2001年以前は、内戦で焦土と化し国として何も機能して居ない、安全も保たれ無いと云う状況でタリバンが出て来て、カブールを占領し政権を担うと云う事に為った訳です。
 当時も大臣や次官を決めたりして居ましたが、行政機構として実際にどれ位動いて居たのか正直疑問です。私も当時の外務省に出入りして居ましたが、職員も少なくガラガラでした。役人が最も多かったのは教育省ですね。教育省はマドラサ(神学校)を管轄するので、その数が結構在りますから、それで割と活気が在ったのかも知れませんが、他の省庁は人が居なかった。

 今タリバンは、前政権の協力者でも恩赦する等して、行政機構に勤めて居た人達を呼び戻そうとして居ますが、彼等だって、これ迄遣って来た事が全否定されるかも知れ無い環境の下にワザワザ戻ら無いと思います。在り得るとすれば、家族等を人質に取って無理やり働かせるパターンです。
 特に軍関係では在ると思います。2001年以前のタリバン政権はソ連製のミグ21戦闘機を数機持って居たのですが、タリバンは飛ばす能力が在りませんでした。それでアフガニスタンの旧共産党政権期の軍パイロットを探して来て、その家族を人質に取ってタリバンの為に働かせて、空爆させて居ました。
 そう云う事は又遣ると思います。今、タリバンは柔らかい顔で呼び掛けをして居ますが、号令に従って人々が動いて呉れ無ければ、結局は力に訴えるしか無いのです。


 民主主義に手を着けると「タリバンはタリバンで無く為る」

 高木 以前からハッキリして居る事が在って、タリバンは民主主義と云うものは全く採用しないですよね。

 田中 選挙と云う制度は認め無いですね。タリバンは、地元アフガニスタンで幾世紀にも渉り続いて居た意志決定機関〔ロヤジルガ(全国長老・部族有力者会議)〕ですら否定する訳です。ロヤジルガの代議員は、例えば長老格や部族長の様な人達が伝統的に選ばれる。処が、タリバンはそれすら〔非イスラム的〕と否定して居ました。彼等が求めて居たものは、ウラマー(宗教指導者)に依る会議です。
 詰まり、イスラム法・シャリーアに依る統治です。その「シャリーアを緩めます」と云ったらウラマー達が黙って無い。タリバンがシャリーアの厳格適用を辞める事は無理、と云うのが私の結論です。構造的に出来ない。そこに手を着けて市まったら、タリバンはタリバンで無く為ってしまうのです。


 〈2001年以前のタリバン政権時代から、タリバンのイスラム法解釈の強硬振りを象徴する存在として「勧善懲悪省(かんぜんちょうあくしょう)」と云う奇矯な名の省庁が在った。人々がイスラム法に違反して居ないかを取り締まる〔宗教警察〕で、銃を持って街頭をパトロールし、女性が身内の男性を帯同せずに歩いて居ないか、全身をスッポリ覆うブルカを着用して居るか、顎髭の短い男性は居ないか、音楽を楽しむものは居ないか等を見張った。
 アフガニスタン1,500年以上の文化遺産で在るバーミヤンの大仏像の破壊を命じたのも勧善懲悪省だ。そして、今回の組閣でコノ「勧善懲悪省」が復活し「大臣」が任命された。20年前を知る人々の「悪夢」が再び現実に為るのだろうか〉


 高木 現在のタリバンの指導者とされるハイバトゥラー・アフンザダ師は、どんな考えを持って居るのでしょうか。

 田中 ハイバトゥラーは90年代に一時、勧善懲悪省のトップだった人です。20年経って多少変わったとしても、彼はシャリーアの厳しい適用と、それが色濃く反映された社会制度を作る事に為るでしょう。私が注目して居るのが、組閣を発表したムジャヒド報道官が、会見の最後に「制度や法はこれから作って行くが、それ等が決まり発表される迄デモは禁止だ」と言った事です。
 この先、タリバン政権の考える事に反対する人々は、叩かれ銃で撃たれる事も在り得ると危惧します。彼等はそれを躊躇い無く遣るのです。

 実は、タリバンの中心に居た人で、此処数年で外された人が結構居ます。この人達の内の一部とは、僕も或る時迄メールの遣り取りが在りました。90年代のタリバンの遣り方に関して、間違えたと云う事を彼等は認識して居ました。或る種の反省や自省が在りました。
 その後も、彼等はタリバンに残って居たのですが、今回の組閣の30人以上のメンバーにも全く名前が出て来ませんでした。私が「良識派」と呼んで居る彼等が今表に出て来ない。この事からも、タリバンの中枢部では「武闘派」が優勢で、これ迄のタリバンの在り方に反省をする人達に対しては非常に冷たい事が推測されます。


 タリバンは〔織田信長〕なのか?

 高木 タリバンと云う存在は、日本人には分かり難いものです。敢えてタリバンと云う存在を日本の教育現場で若者達に説明すると、どんな存在なのでしょうか? 山賊とも違いますし、日本なら戦国時代の様なイメージでしょうか?


    9-16-7.jpg


 田中 難しいですよね。極端な言い方をすると、1994年に内戦状態のアフガニスタンを平定する為に出て来た当時のタリバンを例えるとすれば、例えば織田信長でしょうか。全国を平定して安定させようとしたとか、商業を発達させようとしたと云う観点で見ると、タリバンもそう云う要素も少し持って居ましたから。その過程では、織田信長は比叡山焼き討ち等の酷い事も沢山遣って居る訳で、それをどう捉えるかですよね。
 ただ、最近はドラマやゲームでも、織田信長は余りにヒーローとして描かれてしまって居ますから、その方向で勝手なイメージを膨らませるのは的外れに逸れて行くだけですし、特に今の若い世代の人達には例えとして適切では無いかも知れません。


 高木 アフガニスタンの人の多くは「本当はタリバンを歓迎して居る」と、日本でも言われる事が在りますが、実際はどうなのでしょうか?

 田中 都市部と農村部で相当受け止め方が違いますし、民族的な背景で言えば、何処の地方の話をして居るかに依っても変わって来ます。それでも「今のタリバンが、この20年間のアフガニスタン政府よりマシ」と確証を持って言うアフガニスタン人は圧倒的に少数派だと思います。
 外国の支援に依って成り立っては居ましたが「医療の機会は確実に増えたし、子供が学校に行ける機会も与えられた。前回のタリバン政権も実現したかったでしょうが、余りにも行状が悪く、外国人の活動に対して制約を設けた事で、十分に出来ませんでした」

 今回もタリバン政権が発足したと為れば、アフガニスタン政府の名前の着いた銀行の外国に於ける資産は、国連安保理の制裁に基づいてタリバンの資産として凍結の対象に為ります。詰まり遅かれ早かれ、アフガニスタンにはお金が無く為る事に為る。国の民生レベルも劣化して行くのは避けられ無いでしょうから、尚の事「タリバンの方が好い」と思えるとは考えられません。


 普通の個人が作り出す、度を過ぎて残虐な組織

 高木 タリバンも人としては普通の人だ、と云う言い方もされる事が在りますね。

 田中 同じ人間を個人として捉えた時と、組織の一員として捉えた時の、殆ど180度異為る様な態度をどう捉えるのか、と云う問題でしょう。タリバンも話せば普通の人だし、一人の人間に変わりは無く、彼等を悪の化身の様に見立ててアメリカ等が軍事攻撃する事は可笑しいと云う、タリバンに同情的な言説が或る。
 例えば、アフガニスタンでお亡く為りに為った中村哲さんの言葉も、その様なニュアンスで伝えられる事が在る。強(あなが)ち間違った評価では無いのですが、それに囚われると私は危ないと感じるのです。

 私の経験でも、タリバンは人の子だし人の親です。話をすれば一人の人間だと判る。彼等の中には心境や内情を吐露して呉れた人達も居ます。処が、その普通の人が、内戦の最中とは云え組織と為ると、途轍も無く残虐な事、人間のする所業では無い様な事を遣って退ける。
 少し話は逸れますが、第2次世界大戦の時のナチスの研究をした哲学者、ハンナ・アーレントが言った様に、個人としては普通の人が作り上げる全体主義やホロコーストの様な惨劇も歴史上在った訳です。こうした側面を直視しないと「タリバンとは何者か」と言う問いに向き合う事は出来ないと思います。
 タリバンに対する解釈に関して「普通の人」説が日本で独り歩きして「国際社会が軍事力で作り上げた〔民主主義の幻想〕を壊したタリバンに正義が或る」と結論付けてしまう事は避け無ければ為りません。


 タリバンに持ち得る「2枚の交渉カード」

 高木 先程のお話では、今後「強硬派」に勢いを着けさせ無い為には、日本も含めた国際社会も或る種の融和姿勢が必要だと云う事でしたが、同時に田中先生は、タリバン政権の国際的な承認は簡単にするべきでは無いと主張されて居ますね。

 田中 難しいバランスが求められます。政権の承認は国際社会が持って居る数少ないカードです。もう一つ在るのがお金ですが、これ迄のアフガニスタン政府に対して供出して来た様なお金が無条件に渡されるとタリバンに思われても困る。我々はタリバンに対して、殆どレバレッジ、詰まり彼等を動かすテコを持って居ない訳です。
 在るのは、政権の承認とお金の2枚のカードだけです。それ等は大切に使わ無いといけ無い。かと云って待って居るだけではいけませんから「エンゲージメント(関与)」し続ける事が必要です。アフガニスタンの国民が飢えて居る事は間違い無い。人道支援は続けて行く事も大事なポイントです。


 高木 此処迄のお話をお聞きすると、タリバンの下で、急速にアフガニスタン国内の状況が悪化する事も予想されます。この先どう為るのでしょうか。

 田中 このママでは、好くて90年代のタリバンが我が物顔で歩いて居た時代に戻るだけでしょう。もう少し悪く為ると、フェイルドステート(失敗国家)に為りかね無い。折角、これだけ世界の様々な人が関わって、医療や教育の向上や女性の社会進出等数字で見える成果も在った。それが消えてしまわ無い様に何とかしたい。
 結局はタリバンが、どう云う政治をするかです。国際社会は、彼等の首根っこを捕まえて「こうしろ」と指導する事は出来ません。他方、言葉でタリバンを誘導する事は未だで切るかも知れない。難しい事ですが、その努力を続けるしか無いと思います。



           9-16-21.jpg

                 高木 徹



















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