2021年04月02日
中国で「48万円のEV」が大ヒット 裏にある納得の理由 なぜ突然 売れ始めたのか
中国で「48万円のEV」が大ヒット 裏にある納得の理由
なぜ突然 売れ始めたのか
4/2(金) 6:40配信
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中国のEVの好調振りをリードする「宏光MINI EV(ホングワンミニ EV)」「約48万円」と云う驚きの価格で、生産が追いつか無い程大ヒット商品に為っている(出典:上汽通用五菱)
2020年後半から中国で突如として電気自動車(EV)が売れ始めている。その背景には、コロナ禍を契機にした意識とライフスタイルの変化がある。市場をリードして居るのは、「代歩車」と呼ばれる小型で低価格のEV。只、テスラ等の400万円前後の高級車も売れて居る。
代歩車では「クルマの玩具化」高級車では「クルマのデバイス化」が売れる鍵に為っている。中国政府が掲げる「2025年にEV化率20%前後」迄には、マダマダ乗り越え無ければ為ら無い課題はあるが、目標達成への道筋が確実に見え始めている。
中国で「突如として」売れ始めたEV
中国で2020年7月から電気自動車(EV)を中心にした新エネルギー車が売れて居る。その事実を多くの中国メディアが「突如として」と云う形容詞を使って報道している。自動車産業の業界団体である乗用車市場信息聯席会・CPCAの統計によると、2020年2月から6月迄はコロナ禍の影響により新エネルギー車の販売台数は前年割れと為って居たが、7月から売れ始め、中国政府が事実上の新型コロナ終息宣言を行った9月以降、記録を更新し続けている。
新エネルギー車とは、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)・ハイブリッド車(HEV)・その他の新エネルギー車の総称だが、85%程度がEV・15%程度がPHEVで殆どを占める。
コロナ前、中国の自動車市場・新エネルギー車市場の前途は明るいものでは無かった。自動車全体は、2017年の2887.9万台をピークに減少傾向が続いて居る。一方、これに入れ替わる様にして増える筈だった新エネルギー車も2019年は前年割れと為りEVシフトに黄色信号が灯った。それが2020年後半の需要急増で、2020年は136.7万台と記録を更新する事に為った。
「EVを買って後悔」消費者の心は離れていたのに何故?
突如としてEVが売れ始めた理由は、何よりもコロナ禍による消費者の意識とライフスタイルが変化したことが大きい。他人と接触する事無く移動出来るマイカーと云う移動手段が再評価されて居る。コロナ禍以前、消費者の自動車に対する関心は薄れて居た。特に若者の車離れが進んで居た。
中国の若い世代は1日に7.5時間もスマートフォンを使うとも言われる。運転をする時は、スマホが使え無いと云うのが最大の問題だった。一方で公共交通は、QRコードやNFC・非接触通信を使ってスマホで乗れる様に為り、シェアリング自転車やタクシー配車・ライドシェアもスマホから利用出来、簡易的なMaaS(マース)環境が実現出来ている。
更に、大都市では、曜日によってナンバー末尾による乗り入れ規制、深刻な駐車場難等の問題もあり、多くの若者が公共交通を使って、スマホを使う時間に当てたいと考える様に為って居た。
また、EVは航続距離の問題・バッテリー発火事故に対する不安等もあり、ガソリン車もEVも売れ無いと云うのが、コロナ前の中国における車市場だった。
中国の自動車関係メディアは「EVを買って後悔している」と云うオーナーの声を頻繁に取り上げている。最大の理由は、自動車特有の自由さが失われることだ。ガソリン車であれば「今日は天気が好いから山の方に行ってみよう」と云う気ママなドライブが楽しめる。しかし、EVではそうはいか無い。
事前に、充電ステーションの場所を調べて置き、ドライブルートを或る程度決めて置かないと、バッテリー切れで立ち往生する事に為る。多くのオーナーが「遠出をする回数が減った」と言う。
EVの欠点を打ち消せたワケ
これがコロナ以降に変わった。中国では新型コロナは終息したものの長距離移動は制限が掛けられ続けている。多くの都市で、省外等の長距離移動に関しては出発7日以内に検査を受けて陰性証明を取得することや、帰って来てからは7〜14日間の自己隔離を接触頻度の高い公務員や教員に課している。
この様な状況により「内循環」と呼ばれる現象が起きている。本来は、貿易の外循環と国内経済の内循環の二本立てで経済を回復させて行くと云う意味だが、移動制限の無い同一省内・市内でのレジャーで地元経済を回す意味でも使われる。
旅行アプリ「飛猪(フリギー)」の春節休みの間の観光地情報検索ランキングを見ると「上海ディズニーランド」「霊隠寺(杭州市)」「広州長隆野生動物世界」等、大都市を抱えている観光地が上位に来ている。
この他、フィールドアスレチック施設やスポーツアクティビティ施設なども人気で、多くの人が近隣の観光施設を訪ねる様に為っている。当初は仕方無くだったのかも知れないが、それが、近隣スポットを再発見することに繋がっている。
この様な近距離移動であれば、EVの航続距離の問題は余り考える必要が無く為り、EVの欠点が打ち消される。アフターコロナの意識変化とライフスタイルの変化がEVの特性と上手く噛み合う様に為ったのだ。
EVとガソリン車は見た目は似て居るが、本質的には異なるツールで、使い方も異なったものに為る筈だが、私達消費者はそうは考え無い。ガソリン車で出来る事でEVでは出来無い点を見付けては、それをEVの欠点として考え勝ちだ。それは、スマートフォンをPCと比較して「画面は小さいし、キーボードも着いていない」と嘆く様なものだ。
多くの自動車関係メディアが、EVメーカーの企業努力も評価して居る。コロナ以前は、どのメーカーもセダン1車種と云うパターンが多かった。これでは、消費者はEVと同クラスのガソリン車を比較検討する事に為る。どうしてもEVの欠点が目立ってしまう。
しかし、2020年に為ると、どのメーカーも、セダン・SUV等数車種を揃える様に為った。すると、消費者はEVの車種・EVメーカー間で比較検討をする事に為る。EVと云うカテゴリーの中で車種やグレードを選んで行ける様に為った。
約48万円のEVが大ヒット 「クルマの玩具化」が進行中
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五菱新能源鄭州体験センターでは、中国版Tik Tok「抖音」(ドウイン)等でライブコマースをしている。購入予約が出来、優待クーポンも配信されている。他の販売店も、夫々にドウインや快手(クワイショウ)等のショートムービー・SNSでの配信を積極的に行っている
EVの好調振りをリードして居るのは、A00級と呼ばれる小型車と中型車以上の2つのカテゴリーだ。A00級はホイールベースが2.0〜2.2mと云う小型車で、日本の軽自動車(ホイールベースは1.8〜2.5m程度)と好く似たクラスのEVだ。
このクラスでは、上汽通用五菱の「宏光MINI EV・ホングワンミニ EV」が、生産が追い着か無い程の大ヒット商品に為っている。カタログ航続距離は約120kmと短いが、2.88万元・約48万円と云う価格が歓迎されて居る。販売店のサイトでは、頭金0.86万元(約14万円)月々602元(約1万円)の36回払いのプランも用意されて居る。
エントリーモデルでは、暖房のみで冷房がついていない等色々割り切っては居るが、上汽通用五菱は、米ゼネラルモーターズ(GM)・上海汽車・五菱の合弁会社である為、品質に関してもGMの技術が活かされて居る。外装、内装はシンプルだが、デザインレベルは高い。
それが若者に受け入れられ、大胆な改造がチョットしたブームに為って居る。アニメキャラクターをアシラッタ所謂「痛車」や、六輪車に改造した宏光MINI EVがSNSやTikTokに大量に公開されている。まさにミニカーの改造と同じで、それを実車で行っている感覚だ。言う為れば「クルマの玩具化」が起きて居る。
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五菱新能源鄭州体験センターでは、中国版TikTokを通じて宏光MINI EVの改造車のムービーを盛んに配信している。改造が一種のブームに為って居り、各地で改造車オーナーの集会や、SNSへのアップロードが行われている
この様な小型車は「代歩車」と呼ばれて居る「歩く代わりに使う車」と云う意味だ。宏光MINI EV以外にも、長城汽車の「欧拉黒猫」猫をモチーフにした外観デザイン・長安汽車の「奔奔EV」合衆汽車の「哪吒V」SUVスタイルの小型車・等も人気に為っている。この様な小型EVが、公共交通の発達していない地方都市では通勤・買い物用に、大都市では改造アイテムとして売れている。
テスラなど400万前後でも売れるEV カギは「デバイス化」
新エネルギー車市場を台数ベースでリードして居るのは代歩車だが、販売額ベースでけん引をして居るのが中級車から高級車のカテゴリーのEVだ。このクラスでは、テスラのモデル3を筆頭に、テスラ、BYD、ニーオの3社に人気が集中している。
テスラは25万元・約410万円から、BYDは22.98万元・約380万円から、ニーオは35万元・約580万円からと決して安く無い。だが、それが売れている。その鍵に為って居るのが「クルマのデバイス化」だ。
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大ヒット商品と為っている宏光MINI EVを筆頭に、黒猫・奔奔などの代歩車が健闘して居る一方、テスラ、BYD、ニーオ等の中型車から高級車のクラスのEVも売れている 出典:乗用車市場信息聯席会(CPCA)の統計より作成
人気の的に為っているのが、3社共に「オートパイロット機能」だ。テスラのモデル3にオートパイロットオプションをつけると6万元(約100万円)の追加出費となるが、多くの人がこのオプションを選択する。
BYDもDiPilot・ニーオもNIO Pilotと云うオートパイロット機能を搭載し、一定条件下でのオートステアリングなどが可能に為って居る。
テスラのモデル3では、ドライバーポジションを10人迄記憶する機能がある。ワンタップで、その人のシート位置・ミラー位置等に設定して呉れる。乗り降りする時は、シートを下げハンドルを引っ込め、乗り降りし易くして呉れる。
更に、話題に為っているのがスマートサモン機能・召喚機能だ。駐車場等で、スマホから呼び出せば自動運転で車の方が自分の目の前に来て呉れると云うものだ。今、EVを購入している消費者は、本革シートや天然木ステアリングでは無く排気量や空力特性でも無く、こう云う「機能」に高級感を感じている。
また、大型タッチディスプレイを搭載し、5G通信・車内Wi-Fi・音声操作によるSNS・音楽・映像サブスク・ARナビ(カメラ撮影した実風景にナビルートをオーバーラップ表示する)も常識に為って居る。機能を割り切って価格を抑えている代歩車ですら、専用スマホアプリからバッテリー残量を見られたり、上位モデルでは音声操作可能なタッチディスプレイが装備されている。
Z世代(中国では95年以降生まれの20代前半)に対して行った、自動車に関するアンケート調査「中国Z世代自動車購入傾向調査」(OPPO他)には面白い設問がある。(調査時期は2020年10月)それは「貴方に取っての自動車を表すのに適している言葉を選んでください」と云う質問で「移動ツール」と云う言葉が最も多く為った。
しかし、他の世代の回答よりもZ世代の回答が多い順に並べると、1位が「テクノロジーデバイスのひとつ」2位が「スマート機能のある移動空間」に為る。詰り、Z世代は、自動車を自動車では無くスマホの延長線上にあるデバイスとして見ている。「走るスマホ」だと云う認識なのだ。
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「あなたに取っての自動車を表すのに相応しい言葉は?」を選択肢から選ぶ設問の答えで、Z世代の回答割合が他世代に比較して大きいものから並べた (出典:「中国Z世代自動車購入傾向調査」(OPPO他)より作成)
「2025年に20%前後」達成も見えて来た
EVが「突如として」売れたのは、コロナ後の消費者の意識の変化とEVの特性が上手くシンクロをしたことも大きいが、EVメーカーが車種を増やし選択肢を広げ、デバイス化を進める等の努力をした面も大きい。各EVメーカーは、ガソリン車とEVは似て非なるものと位置付け、EVを商品として成熟させようとしている。
2020年11月、国務院は「新エネルギー車産業発展規則の配布について(2021-2035)」を発表し、その中で新エネルギー車販売割合目標を「2025年に20%前後」としている。
新エネルギー車(乗用車)を自動車販売台数で割ったものを仮に「EV化率」(注1)として計算してみると、現在のEV化率は5.40%と為る。後5年で20%に乗せる為には、更にEVシフトを加速させて行く必要がある。
注1:商用EVの販売台数の統計が無い為、ここで算出した「EV化率」は公式なものでは無く、飽く迄も目安と為る。
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分子に「新エネルギー車乗用車販売台数」分母に「自動車販売台数」として計算した「EV化率」の推移。
2018年から自動車販売台数が減少し始めた為、EV化率が上がり2020年後半の販売増により、更にEV化率が上がった (出典:中国汽車工業協会(CAAM)、乗用車市場信息聯席会(CPCA)の統計より作成)
EVが売れていると言っても、それは20台に1台程度のこと。マダマダ、新しい物好きな人が代歩車を買い、経済的に余裕のある人がテスラなどのEVを購入している状態に過ぎない。これを5台に1台がEVの状態にするには、一般の消費者にEVを如何に普及させるかに懸かっている。
それにはマダマダ幾つものハードルを越え無ければ為らない。とは言え、中国で本格的なEVシフトが始まる起点に為る可能性は十二分にある。
特に注目をして置く必要があるのは、2019年迄の中国のEVシフトは補助金やEV製造割合の義務付けなど政策誘導による部分が大きかったが、アフターコロナのEVシフトは、消費者が自らの意思で選び始めて居ると云う事だ。
或るメディアは、このEV需要の急増は「突如として」では無く、EVメーカーの企業努力が実り始めたもので、必然なのだと論評している。
以上
〜管理人のひとこと〜
フーム・・・と唸ってしまう、本当に中国と云う国は・・・と、心から感嘆せざるを得ない。好い意味でも悪い意味でも、世界の最先端をひたすら突き進む・・・誰かに批判されようと難癖を着けられようと、一度決めたら簡単には引き下がら無い。実質的に目的に近づけば好いのであって、徒に飾られた誉め言葉も名誉も不要だ。確かに世界人口の5分の一を占める絶大な人的資源は、全ての経済行為の循環(作って売る〜環境保護)を一国で補えられる規模を持つ・・・絶対的な力なのである。
「2025年に20%前後」のEVシフトをやり遂げられるのは、世界では中国だけに可能な事なのかも知れない。この目標達成で何か大きな利益を生むとは考えられ無いが、目標への実行力=国力と考えれば、世界一の称号を得たに等しいかも知れない。
日本の軽自動車も目覚ましい発展を続け、自動車販売のトップを走り続けている。その特異な努力と云えば涙ぐましいものだ。最先端の電子機器を備え、各種の新技術を積極的に取り入れて居る。が、その分価格が急上昇して居る。売れているので中古価格も高価格で維持している。
しかし、高くて好いものを作るのは当たり前、安くても好いものが作れるのは、自国で完結出来る消費循環環境を持つ中国だけなのかも知れ無い。中国の持つ環境で売れるものを作れば、それがそのママ世界標準と為り、黙っていても全世界に販路を広げられる。こんな国と喧嘩しても勝て無い・・・残念だが仲良く遣るしか無い。
以上
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