2020年04月11日
それでも実効性疑わしい 安倍政権の感染症対策
それでも実効性疑わしい 安倍政権の感染症対策
〜JBpress 舛添 要一 4/11(土) 6:01配信〜
舛添 要一 国際政治学者
4月7日、遂に緊急事態宣言が発令された。この宣言発出が遅すぎたかどうかに議論が集中して居るが、問題は、コレが予想された様な効果を生むかどうかなのである。日本は同調圧力の強い国で異論を許さ無い。緊急事態宣言に反対しようものなら非国民だと非難される。しかし、コノ宣言に至る迄の経過・宣言発令後の政府や東京都の反応には問題が多い。
「クラスター潰し」に注力で、市中感染対策が疎かに
第一に、正確な感染者数が把握されて居るかと云う事である。毎日東京都が発表する感染者数のグラフとPCR検査実施件数のグラフを比較すれば、両者に正の相関関係が有る事は確かである。PCR検査を増やせば感染者数が増えるのは当然である。
これ迄、日本は感染者も死者も少なく抑えて来たが、それはクラスター対策が一定の効果を上げた為である。しかし、それに重点を置き過ぎた為に市中感染対策を怠って来た。端的に言うと、PCR検査を余り実行し無かったのである。
患者が出ると、その濃厚接触者のみを検査する・・・そう云う態勢を取って来たが、その陰で検査もされずに放置された市中感染者が急増して居たのである。軽症だったり症状が無かったりするので分から無い。阪神の藤浪晋太郎投手が嗅覚喪失の症状で陽性が判明した為、この兆候が出た元気な感染者が捕捉し易く為った。森三中の黒沢かずこもその1人だが、それでも再三PCR検査を求めたが拒否され続けたと云う。
これが実態で、安倍首相はPCR検査を一日に2万件に増やすと言って居るが、今は未だ4,000件しか実行して居ない。
何故ドライブスルーのPCR検査を導入し無いのだろうか。時間も短縮出来効率も上がるし、院内感染の防止にも為るのである。今の保健所の体制だと、ドライブスルー方式を導入し無い限り、2万件の実現は無理である。
この様に、総理の掛け声だけが先行し、実行が伴わ無い内に次の問題が発生すると云う泥縄式の対応が目立つ。此処に来て感染者の急増に驚いて緊急事態を宣言したが、それは、クラスター潰しに専念し、PCR検査をせずに市中感染を放置して来たツケなのである。
実は、シンガポールも全く同じ状況である。日本と同様に感染者の増加を低く抑える事に成功し、コロナ対策の優等生として高く評価されて来た。その手法は日本と同じクラスター潰しだった。日本よりも狭いシンガポールの方が水際作戦に成功する可能性が高いのだが、結局はウイルスは検疫の壁を突破して侵入して来たのである。日本とシンガポールの両国は、最早クラスター対策だけではウイルスに勝ち抜け無い事を示して居る。
何故、トリアージュは行われ無かったのか
第二の問題は、患者のトリアージュを行い、重症者と軽症者を分ける事である。私は、厚労相として2009年の新型インフルエンザに対応した経験からその必要性を何度も主張して来た。具体的には、重症者は感染症指定病院で、中程度の患者は一般病院で、そして軽症者はホテル等の収容施設で措置する事である。
3月初めには、厚労省もその旨の指示を出して居る。処が、これ迄国も東京都も何も手を打たずに来たのである。緊急事態宣言発令迄、1カ月の時間を失って居る。
安倍首相の緊急事態を宣言した理由の第一は、医療体制の崩壊であり「このママ放置して居たら医療が崩壊する」と悲痛な声を挙げて国民の感情に訴えた。では、国も東京都も、コノ1カ月間何をして来たと云うのだ。自分達の無作為も棚に上げて、国民に「協力しろ」と訴えて居るが、上述した様に、症状に応じて三等分し受け入れ先を確保して居れば病床不足等心配無かった筈である。
日本医師会も東京都医師会も、その点でモッと積極的に、そしてモッと早く行政に働き掛けて置くべきでは無かったのか。厚労省のトリアージュ方針が出てからも直ぐに動か無かったではないか。
ホテル等でも不足すれば、有明の五輪選手村には5,600戸が在る。その他、ビッグサイトを初め、五輪関連施設には潤沢なスペースが在る。もし、それでも収容が困難に為れば、症状の無い様な感染者には自宅待機をお願いすれば好い。兎に角、PCR検査をキチンと行わ無ければ、対策の建て様が無いでは無いか。
緊急事態宣言は「空気で動く」日本人の気質頼みと云う実態
第三の問題は、緊急事態宣言の効果である。緊急事態に為っても欧米の様な都市封鎖はしない。その事は、宣言を出した時に安倍首相が明言して居る。そして、今迄とは変わら無いと云う事を強調した。しかし、それでは何の為に宣言を出したのか判ら無い。諸外国も、その様な疑問を呈したし、WHOも、これ迄の政策を変更しないのかと訝って居る。
法律上は、土地や建物の収用が出来るし、医薬品等をメーカーに売り渡す様に命令する事が出来る様に為る。これ等に従わ無い場合の罰則が有るし、又補償も受ける様に為って居る。しかし、外出や大規模イベントは自粛の要請や指示のみで、禁止令では無く罰則も補償規定も無い。その為、これ迄の政府や都道府県の要請と余り変化は無い。
要するに心理的効果のみだと云う事である。日本人は政府の指示には忠実に従うので、緊急事態宣言と云うだけで、欧米の禁止令と同じ様な効果を持つ。又「世間の目を気にする」癖・・・詰り集団主義的な同調圧力に対しては弱い国民である。
その様な日本人の国民性を必ずしも理解しない国々にしてみれば、今回の緊急事態宣言の意味が分から無いであろう。更に言えば、同調圧力が押し寄せる国では異論を許さ無く為る。緊急事態宣言に異を唱える者に対しては非難が集中する。
世論調査をしても、今回の宣言に賛成する者が90%以上であり、宣言が遅過ぎたと云う者が70%に及んで居る。宣言に依って経済活動が窒息させられる事のマイナス・人権侵害等に付いては議論すら許され無い雰囲気である。
マスコミの報道姿勢にも依るが、太平洋戦争に突入した大日本帝国の総動員体制・大政翼賛会を思い出させる世間の空気である。空気で動くのが日本国民の特色なのであろう。
政治的パフォーマンスの場に為りつつあるコロナ対策
第四の問題は、休業補償等の対策である。緊急事態宣言の発出に伴って、対象と為った地域を管轄する知事に大きな権限が与えられる。しかし、休業要請し無ければ為ら無い業種の指定に付いて東京都と国との間で見解の相違がある。
その背景には、休業を余儀無くされる事業者に対してどの様な補償を与えるかと云う問題が解決出来無い事がある。
4月8日、担当の西村康稔大臣は、緊急事態宣言の対象と為った7都府県知事に、休業要請を2週間程見送る様に打診したと云う。それは、外出自粛の効果を見極めてからにしたいからだ。しかし、2週間後に感染が収束する兆しが見えたら、結局は要請をし無いと云う事に為り兼ね無い。
安倍首相は、国民に対して、人との接触を8割絶つ事を要求したが、一方で、西村大臣は休業指定に消極的であり、それでは8割もの接触削減が出来るのであろうか。批判を受けて、9日夜、西村大臣と小池都知事は会談し大きな方針は一致したと云うが、結局は両者の妥協の産物が出て来るに過ぎない。因みに、この2人はパフォーマンスにバカリ力を注いで居り肝腎の具体的政策を立案するのは苦手の様である。
政府は、108兆円の緊急経済対策の中に全て必要な措置を講じて居るとするが、それでは十分では無い。しかも、所得減の世帯への30万円現金給付案にしても、条件が厳しく本当に生活保障として機能するのかどうか不明である。
今回の緊急事態宣言は5月6日迄の1カ月間で在るが、もしそれ迄に感染が収束して居なかったらどうするのか。人々の不安は高まるばかりである。今回は、正に生活保障が必要なのである。感染防止を徹底させる為らば、業種や所得の多寡を問わず、広く補償する事が大事である。
以上の4点を考えただけでも、この内閣に危機管理能力が在るとは思え無いのである。
<お知らせ> 舛添要一YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』では、新型コロナ問題についても集中的に解説して居ます。
舛添 要一 国際政治学者 1948年 福岡県に生まれる 1971年 東京大学法学部政治学科を卒業し 同学科助手 パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員・ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員等を歴任後 東京大学教養学部政治学助教授 1988年 舛添政治経済研究所を設立 2001年 参議院議員に初当選 2006年からは参議院自民党の政策審議会長を 2007年からは厚生労働大臣を務める 2010年4月 新党改革の代表に就任 2014年2月 東京都知事に就任 2016年6月 都知事辞職 現在は、テレビのコメンテーターや執筆などで活動中 近著に『ヒトラーの正体』『舛添要一スマホ時代の6カ国語学習法!』2008年 モロッコのアラウイ王朝勲章グラントフィシェ 2016年 フランスのレジオン・ドヌール勲章コマンドゥールを受章
以上
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