2020年04月09日
安倍首相 緊急事態会見での「場違いな笑顔」に見える想像力の欠如
安倍首相 緊急事態会見での「場違いな笑顔」
・・・に見える想像力の欠如
〜ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 4/9(木) 6:01配信〜
危機対応に欠かせ無いのは「想像力」安倍首相は記者会見で、図らずもこの想像力の欠如を露呈してしまった Photo:JIJI
緊急事態宣言発令を受けて実施された首相官邸での記者会見。安倍首相は時折、緊張感溢れるシーンに似つかわしく無い笑みを一瞬浮かべた。時間にしてホンの数秒。しかし、この「不自然な笑い」の背景を考えて行くと、安倍政権の「危機対応能力の欠如」が透けて見える。
ノンフィクションライター 窪田順生氏
記者会見で安倍首相が 一瞬見せた不思議な笑顔
4月7日、首相官邸で開催された会見は、これ迄に無い重苦しい空気に包まれて居た。日本で初めてと為る「緊急事態宣言」が発令され、内閣総理大臣が国民に対して「戦後最大の危機」を呼び掛けると云う会見なのでそれも当たり前である。
感染し無い様に間隔を空けて椅子が並べられた記者席からは、様々な質問が飛ぶ。何時解除されるのか・モッと早くに決断すべきだったのではないか・休業を要請する業種の人達の補償はどうするのか・・・そんなシビアな遣り取りが続く中で、安倍首相が場違いの様な笑顔を見せるシーンがあった。と云っても、時間にして2〜3秒の事で、直ぐ神妙な顔着きに戻ったので「思わず笑ってしまった」と云う方が正確かも知れ無い。
国民にモッと緊張感を持って欲しいと訴え無くてはいけ無い立場であり、日本中の人々が注目をして居るこのタイミングで有るにも関わらず、何故安倍首相の緊張の糸はプツンと切れてしまったのか。その答えは、笑った直前に投げ掛けられた質問にある。
ジャーナリストの江川紹子氏
オウム真理教の報道でも知られる著名なジャーナリストの江川紹子さんが、外出自粛要請と云っても結局、強制では無いので1週間位したら、ダレて来るのでは無いかと云う懸念を口にして、続く形でコンな質問を投げ掛けて居た。
「そう為った時に引き締めの為、警察に要請して・・・例えば、職務質問等を活発化させると云う事は有り得るのか、有り得ないのか」
神妙な顔で聞いて居た首相の表情が緩んだのは、丁度江川さんの口から「職務質問」と云うワードが飛び出した時である。では、何故首相はこの「職務質問」と云う響きに思わず笑みを溢してしまったのか。
一般庶民の目線からすれば、史上初の緊急事態宣言が出され、お上から極力外出をするなと云うお触れが出て居るのだから、もしそれに従わ無い者はドンな目に遭うのかと云うのは当然知りたい処だ。他所の国の様に、警察がパトロールで取り締まって違反者に罰金を課す等と云う事は、日本では法律的に不可能だと云う事は我々も何と無く判って居る。しかし「お願い」だけでは不要不急の外出をする人達を抑える事も難しい。
為らば、現行の「職務質問」等を拡大させて、繁華街に出歩いて居る人間を「不審人物」扱いする等の一種の嫌がらせを強化して、外出の自粛を促して行くのでは無いかと云うのは、権力の監視をするジャーナリスト為らば当然行き着く。その様な意味では、江川さんが投げ掛けた「職務質問」と云う質問は真っ当なものなのだ。
江川さんの質問への 笑いは「呆れ笑い」ではないか
しかし、首相は笑ってしまった。何故なのかと云うのは、ご本人にしか判ら無い事なので、此処からは飽く迄筆者の勝手な想像でしか無いが、恐らく「この大変な時にピントのズレた質問し無いで呉れよ」と云う感じの呆れ笑いだったのではないか。
何故そう思うのかと云うと、謝罪会見等社会の厳しい目に晒される絶対に笑ってはいけ無い会見で、思わず笑みが零れてしまうスポークスパーソンと云うのは、往々にしてその様なパターンが多いからだ。
筆者は報道対策アドバイザーとしてこれ迄、企業の経営者や官僚、更には政治家迄、様々な方達の記者会見を裏方としてサポートをして来た。ソコで気付いたのは、世間の常識と掛け離れた暴言や失言をしてしまう人達と同じ位、会見中にヘラヘラしてしまう人が多いと云う事だ。
例えば、社会から大ヒンシュクを買って居る不正が発覚して、その背景を説明する為に会見を開催した。責任者として真摯にお詫びを伝え無くてはいけ無いのに、記者の質問を受けて居る最中に、半笑いで答えてしまい「反省して居るとは思え無い」等と叩かれてしまうのだ。
では、この原因は何か。実際に笑ってしまった人に理由を聞いたり、その様な会見を分析して観た処、大きく分けると以下の3つのパータンに分類される。
(1)信頼関係が出来て居る記者からの質問で、遂何時ものノリで笑う「親しみ笑い」
(2)触れて欲しく無い都合の悪い話題に斬り込まれたので、動揺を隠す為に笑う「愛想笑い」
(3)コチラが想定して居た方向と余りにズレた質問に拍子抜けして笑う「小馬鹿にした笑い」
その中でもダントツに多いのが(3)の「小馬鹿にした笑い」だ。コレは特に不祥事企業の会見等で多い。こう云う問題が起きた企業の会見には、その企業を担当する記者や業界紙の記者以外にも社会部の記者やフリーランスのジャーナリスト、ワイドショー等のレポーターなどが押し掛ける。
彼等は、それ迄この企業やこの業界の取材をした事が無い様な「一見さん」なので、その会社の基本的なビジネスモデルやその業界の常識を知ら無い。詰り、日々取材をして居る経済部の記者や業界紙記者が絶対にし無い様な、ピントのズレた質問が飛んで来るのだ。
勿論、会見を開催してメディアを集めて居るのは企業側なので、ドンな質問にも真摯な姿勢で丁寧に答えて無くてはいけ無い。が、中にはソコで呆れて笑ってしまう経営者等も多いのだ。
江川さんの質問を 「揚げ足取り」としか思え無いのか
実際、筆者もこれ迄、この手の質問を受けた経営者等から「何でマスコミの質問ってアンナ低レベルなんですか?」とか「会見来る前に責めてもう一寸、コッチの事を勉強して欲しいですよ」何て愚痴を聞かされたのは1度や2度では亡い。
今回、首相のアノ笑いに関しては(1)の「親しみ笑い」の可能性は可成り低い。江川さんは政権に厳しいスタンスで知られて居り、何処かのマスコミ幹部の様に、チョイチョイ一緒に首相とメシを食うとか、そういう話は聞いた事が無いからだ。
(2)の「愛想笑い」もややビミョーで「外出自粛に強制力が無い」と云う事は首相も再三繰り返して居るので、行き成り夜警国家の様に為るとは考え難い。職質頻度が高まるにしても、ハロウィンやサッカーW杯のバカ騒ぎで出動したDJポリスの様な「お願いベース」を経て尚、厳しいと云う状況に為ってから後の話なので、この時点で首相がそこ迄アワワと取り乱すとは考え辛いのだ。
そう為ると、矢張り(3)の「小馬鹿にした笑い」で有る可能性が高い。そして、筆者がそう考えるもうひとつの理由は、最近の安倍首相には、自分を批判する相手に対して「小馬鹿にした笑い」をする様なクセが強いからだ。
判り易いのが今年2月、辻本清美議員が定番のモリカケ・桜を見る会等を引き合いに首相に退陣を求める様な質問をした事を受けて、安倍首相が「意味の無い質問だよ」とヤジった時だ。この時の映像を見ると、安倍首相の顔は怒りで歪んで居ると云う感じでは無く半笑い・・・要するに小馬鹿にして居るのだ。
こう云う首相の強めのクセを見る限り、江川さんの「職務質問」と云う言葉に対して笑ってしまったのは、辻本議員の時と同様に「意味の無い質問だよ」と思ったからなのではないか。
実際、首相がその様に受け取って居たのでは無いかと思われる様なシーンが有った。江川さんは会見で2つの質問をした。「職務質問」に付いて聞いたのは2番目の質問だったのだが、安倍首相は最初の質問に回答をして、この2番目の質問をコロッと忘れて居た。周囲に促されて「アッ、警察ですね」と慌てて回答をした。要するに「職務質問」と云うのは首相に取って、ウッカリスルーしてしまう程、取るに足らぬ「些細な問題」だったのだ。
と言うと「ソレの何処が悪い!日本人が一丸と為ら無きゃいけ無い時に、警察がどうしたとか揚げ足取りの様な批判は何の意味も無い。首相が呆れるのは当然だ!」と云う愛国心溢れる方達も多いと思うが、もし本当に首相がこう云うスタンスで「職務質問」を考えて居るのだとしたら可成りマズい。
先程も申し上げた様に、国民に取っては「外出自粛に従わ無かったらどう為るんだろう」と云うのは、極自然な疑問だ。こう云う事をまさか聞いて来るとは思わ無かった・揚げ足取りの様な質問だ・・・と首相を初め政府の人間が考えて居るとしたら、それは彼等が国民の不安をそれ程イメージ出来て居ないと云う事である。要するに「想像力が欠如」して居るのだ。
想像力が欠けたトップは 危機対応で失敗をする
緊急事態下で「想像力の欠如」が恐ろしい事態を招くと云うのは、1万人を越す死者が出て居るアメリカを見れば好く判る。ご存じの様にトランプ大統領は当初、新型コロナを「風邪の様なもの」として、この様な事態に為る事を全く想像して居なかったのだ。希望的観測に引き摺られる事無く、最悪の事態をイメージして迅速に決断・行動をする・・・詰り、危機管理とは「想像力」の勝負でもあるのだ。
では、どうすれば安倍首相、そして政府に「想像力」を持って貰えるのか。色々なご意見は有るだろうか、筆者は江川さんの様なフリーランスの記者をモッと沢山会見場に入れて、今回の様に首相を呆れ笑いさせる様な質問をドシドシして貰うべきだと思う。それに依って「世の中にはこう云う考え方をする人達も居るんだな」と気付いて頂くのだ。
先程、不祥事企業の会見で、社会部記者やフリーランスが、その会社や業界の常識と掛け離れたレベルの低い質問をすると述べた。が、その一方で、その様な常識を知らぬが故、問題の本質を突いた様な質問をすることも少なからず有る。
何故かと云うと、経済部の担当記者や業界紙の記者と云うのは、その会社との距離が余りに近かったり、その世界の常識を好く知って居るだけに、何処か「仲間」の様に為ってしまう。要するに「ムラ社会」の一員に為るので、プロレスラーがロープに投げられたら、戻って相手の技を受け無くてはいけ無い様に、相手がスラスラと答えられる予定調和的な追及しか出来無く為ってしまうのだ。
この辺りの構造的欠陥が特に顕著なのが政治取材だ。テレビで矢鱈と政権擁護をする、政界取材歴ウン十年みたいなジャーナリストがイラッシャる様に、政治取材の極意とは、権力者と如何にズブズブ・・・では無く「親密」に為るかと云う勝負である。
親しく為れば政権中枢の情報が貰えて特ダネが書ける。しかし、その反面で情報を貰う為には、余り辛辣な批判は出来無く為る。その様な「依存」が強く為って行くと、何時の間にやら「仲間」に為る。政治ジャーナリストが、或る日突然、政治プレイヤーに為って選挙に出馬したりするのはその為だ。
「ムラ社会」化を防ぐ為に フリー記者の参加を増やすべきだ
当たり前だが、こう云う「ムラ社会」では自浄作用が働か無い。だからコソ、江川さんの様な「ムラ」の外の人間が必要なのだ。勿論、時には政府からして見れば「何でそんな捻くれた質問ばっかりするんだ!」とキレたく為る様な質問も飛んで来るだろう。それに対応する為に余計な仕事も増えるかも知れない。
だが、そのデメリットを遥かに超える「外の世界の考え方を知る」「世の中にはこう云う考え方をする人間も居るのだ」と云う事を知るメリットが有るのだ。P・H・ドラッカーは、組織がファシズムに陥って暴走をし無い為にはフィードバックが必要だと説いて居る。フィードバックとは「組織の外から情報を得てそれを学習する」と云う事である。
そう考えてみると、実は記者会見と云うのは最高のフィードバックの場なのだ。組織の外に居る多種多様な人々の考えを「質問」と云う事で得られるからだ。
緊急事態下では組織がファシズムに走り易いと云うのは、先の戦争で我々は身を以て体験して居る。「鬼畜米英を打ち負かす為」「戦地で戦う兵隊さんの為」と云う言葉の下で体制批判が許されぬ空気が醸成され「ムラ社会」の同調圧力の中で生きて来た学歴エリートや政治家を暴走させてしまった。
実は今もその空気が生まれつつ有る。「国民が一丸と為ってウイルスとの戦いに勝つ為」「治療現場で頑張る医療関係者の為」と云う言葉の下「頑張って居る政府の批判は控えるべき」と云う声が高まって居るのだ。
確かにこのタイミングで、モリカケだアッキーだと云う話をするのは頂け無い。だが、国民の安全・自由・人権・経済的な補償等に関しては可笑しな事が有れば、矢張り可笑しいと叫ば無いと、過つての日本の様に批判を許さぬファシズムが台頭する可能性がある。
過去の教訓を真摯に受け止め、安倍首相や日本政府は「戦後最大の危機」の今だからコソ、記者会見と云うフィードバックを重視して頂きたい。
窪田順生(くぼた・まさき)ノンフィクションライター テレビ情報番組制作・週刊誌記者・新聞記者・月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら 報道対策アドバイザーとしても活動 これ迄200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など 『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞
以上
【管理人のひとこと】
窪田順生氏は、可成り抑えトーンダウンして文章を綴って居る様だ・・・確かにこのタイミングで、モリカケだアッキーだと云う話をするのは頂け無い・・・と仰るが果たしてそうだろうか。管理人としては、全てコロナ禍を理由にして他の安倍批判を抑える・政府批判を忖度し制御する事の方が恐ろしいと感ずるのだが。お陰でアッキーの徒な口出しが基で起きた「森友自殺事件」が又や有耶無耶にされそうな気配である。
未曽有宇のコロナ危機を理由に全ての言論を自ら抑え込む風潮コソ、戦前の自己抑制的な報道姿勢へと通ずる恐ろしさを孕んで居ると思う。他国と比較して余りにも姑息なコロナ対策にも「批判を抑える」事が有っては為ら無い筈で、無能な政府にはドンドン批判するべきだろう・・・
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