2020年04月01日
トヨタの鈍いコロナ対策が示す「リーダー不在」と云う日本の大問題
トヨタの鈍いコロナ対策が示す
「リーダー不在」と云う日本の大問題
〜現代ビジネス 井上 久男 3/31(火) 6:31配信〜
ジャーナリスト 井上 久男
「即効薬」には為ら無い
トヨタ自動車は、直接取引している部品メーカー等仕入れ先・サプライヤーへの今年4月以降の値引き交渉を一旦中止する。トヨタでは毎年2回部品の仕入れ価格を見直し、1%未満で値下げ要求をして居た。しかし、新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受けて、サプライヤーの仕事も減っており、それに配慮した形だ。7月以降に再交渉する計画と云う。
値下げの一旦見送りは、トヨタと直接取引する、所謂一次下請けが対象。或る一次下請け部品メーカーの関係者は「値下げ要求を見送る代わりに、我々一次下請けに対して〔二次下請けに無理な値引き要請をし無い様に〕との意味が含まれて居る」と説明する。
自動車産業の下請け構造は、一次・二次・三次・・・と階層的に連なっており裾野が広い。一次下請けにはデンソーやアイシン精機等上場大企業が多いが、階層が下がって行く程中小企業が増え、経営体力が弱い処も多い。
サプライチェーン・供給網の頂点に立つトヨタが値引き要請を一旦中止する事で、値引き要請の「連鎖」を止め、弱小の下請け企業の経営に配慮する狙いが有ると見られる。只、こうしたトヨタの「配慮」が、三次や四次等の下位層の下請けに「即効薬」として効く訳では無い。
新型コロナウイルスの影響により、トヨタは北米に在る14工場の生産再開を当初計画の4月6日から同20日に先延ばしする他、国内主力工場の一部も4月半ば迄稼働を停止させる。欧州でも稼働停止に追い込まれており、世界規模で大減産を強いられて居る。
当然、こうした大減産は下請け企業の仕事量減少にも繋がる。特にこれから大変なのが資金繰りだ。トヨタの下請けの中には海外進出して居る処が多く、現地で従業員を採用して居る。経営体力の弱い中小企業が現地で資金繰り対応出来るかが、今後大きな課題として浮上するだろう。
過つて発揮したリーダーシップ
今回の新型コロナウイルスによる事業活動への打撃は、2008年のリーマンショック時を上回るのではないかとの見方もある。当時トヨタは、日銀理事からトヨタフィナンシャルサービス副社長に天下って居た平野英治氏等が動いて財務省や経産省に働き掛け「小泉改革」の後、政府系金融機関が先進国向け融資を出来無く為って居たのを変更させた。
その狙いは、海外で事業を展開する下請け企業向けの融資を素早く行う為だった。下請け企業が経営破綻に追い込まれれば、生産体制が正常に復帰した際に、サプライチェーンが分断されてしまい、戻したくても戻せ無く為るからだ。
発言力のあるトヨタが動けば、役人や政治も動く。トヨタ系への優先融資では無く、下請け企業全般に配慮した、言わば産業基盤を維持する為の判断であった。これを誰も「官民癒着」とは呼ば無いだろう。当時のトヨタには産業界のリーダーとしての自覚があったし、何より行動力があった。
その原動力と為ったのが「外の声を聞く力」だったと筆者は考える。こうした行動が執れる企業だったからコソ、莫大な利益を上げても妬まれず、社会からはトヨタに対する一定の尊敬の念が有ったと思う。
しかし、今のトヨタは内向きに為り「外の声を聞く力」が衰えて居ると、日頃から筆者は感じて居る。こうした危機的な状況に在る今こそ、リーマンショックの時の様な産業構造に目配せしたトヨタのリーダーシップが問われて居るのではないだろうか。
対策は具体性が肝心だ
今回の新型コロナウイルスに関して政府は、リーマンショック時を上回る大規模な経済対策を行う方針を示して居るが、金額だけが先行して具体的に何を遣るのかその内容が乏しい。今重要なのは「直ぐに何を遣るか」だ。
自動車産業の下請けだけに限らず、大打撃を被って居る飲食店も中小企業が多い。コンサートや公演等が中止に追い込まれて居る芸術家も死活問題だ。様々な業界に対して、政府は「直ぐに具体的に何を遣るか」を打ち出すべきだ。
これは自助努力を怠って、政府に負んぶに抱っこと云う話では無い。今回のケースは自助努力の範囲を超えて居ると思う。しかも「命」に関わる問題である。国民の生命・財産を守るのは政府の大きな仕事の筈だ。
経済的支援に限らず、新型ウイルスの感染者がこれ以上増え無い様にする為の感染防止策も、逐次的に対策を打つのでは無く、例えばパチンコやカラオケの営業停止等強制力の有る施策を一気に打ち出す局面に在るのではないか。特に大都市部での強い感染抑止策が求められて居る。
「まとめ役」不在と云う不安
只、具体策が直ぐに打ち出せ無いのは、単に政府の責任だけとも言え無いのではないかと筆者は考える。政府が具体策を示せ無いのは、逆に各界のリーダーが具体的に何をすべきかを示せて居ないからではないか。経営者が皆「小物」に為り、自分の会社・組織さえ良ければ好いと云った利己的な人が増えて、業界の声を纏めて牽引して行く真のリーダーたる人物が居なくなって居るのではないかとさえ勘繰ってしまう。
真のリーダーとは、危機に陥って居る時にコソ、その先の展望を具体的に示せる人だと思う。更に言えば、具体的な展望を示す為に、現場で何が起こって居るかを的確に捉え、真摯に現状を分析して直ぐに行動に移せる人だと思う。具体的な展望があるからコソ、今、具体的に何をすべきかが明確に打ち出せるのだ。
先述した感染防止の為の強制的な施策を行って、一時的に営業被害が出ても、明確に保障する事が打ち出されて居れば、その業界も納得する筈だ。新型コロナウイルスへの対応を見て居ると、政治にも産業にも芸術にも、日本から真のリーダーが消えてしまったのではないかと思ってしまう。
人類の知恵が有れば、何れウイルスの問題は解決するだろう。今回の騒動から見えて来た日本のリーダー不在の方が、寧ろ暗い気持ちに為って来る。
井上 久男 ジャーナリスト 1964年生まれ 1988年九州大卒 NECを経て1992年朝日新聞社に中途入社 経済部で自動車や電機産業などを担当 2004年に独立 現在は主に企業経営や農業経営を取材し講談社や文藝春秋社・東洋経済新報社等の各種媒体で執筆する他 講演活動も行って居る
主な著書に『自動車会社が消える日』(文春新書)『会社に頼らないで一生働き続ける技術 生涯現役40歳定年のススメ』(プレジデント社)『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)『トヨタ愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)
2005年大阪市立大修士課程(社会人大学院)修了 2010年同博士課程単位取得退学 2016年4月から福岡県豊前市政策アドバイザーに就任
以上
何故 金融危機は繰り返すのか?
〜Wedge 塚崎公義 3/31(火) 12:23配信〜
経済評論家 塚崎公義氏
〜金融危機は過去に何度も繰り返されて来ましたし、今後も繰り返されるだろうと塚崎公義氏は心配して居ます。新型コロナの影響で世界経済が深刻な不況に突入して居ます。金融危機を心配する人も増えて来た様なので、金融危機に付いて数回のシリーズで考えてみたいと思います。今回は第1回で「金融危機は繰り返す」です。
本稿は、飽く迄もリスクシナリオとして金融危機を論じるものであり、決してメインシナリオとして金融危機を予想して読者を不安に陥れ様と云うものではありません。過度な懸念は不要ですので、落ち着いてお読み頂ければ幸いです〜
金融危機は繰り返す
古来、金融危機は何度も繰り返されて来ました。最近だけでも日本のバブル崩壊後の金融危機・ホボ同時期に発生したアジア通貨危機・リーマン・ショック・ギリシャ政府の破綻危機・・・等々が起きて居ます。今後に付いても、何時か必ず繰り返されるでしょう。それが今次新型コロナに起因するもので無い事を祈りますが、その可能性は否定出来ません。
典型的な金融危機は、バブル崩壊に依って金融機関が巨額の損失を被る事で起きる訳ですが、それ以外にも様々な原因が考えられます。大不況に拠る倒産増加で銀行の損失が巨額に為る場合も有り得ます。大不況に依る税収減で政府の財政赤字が膨らんで債務危機が生じる場合も有るでしょう。今次不況の程度にも依りますが、欧米経済の深刻な状況を見ると起き無いとは言えません。
対外債務を抱えた途上国がドルの返済に窮する場合も有るでしょう。米ドルが不足して居ると言われて居ます。そう為ると、米銀が途上国に貸して有るドルの返済を要請するでしょう。そう為ると途上国が窮するかも知れません。
日本に付いても、銀行がゼロ成長とゼロ金利で疲弊して居ますから、金融危機が起こら無いとは限りません。ゼロ成長とゼロ金利の銀行への影響に付いては拙稿『ゼロ金利とゼロ成長に苦悩している地銀決算』を御参照頂ければ幸いです。
不良債権の増加で貸し手が疑心暗鬼に
バブル崩壊や不況で不良債権が増加すると、貸し手が疑心暗鬼に為り、資金供給を慎重化させます。借り手企業への貸出に慎重化するのみ為らず、他の銀行への資金提供にも慎重に為るのです。「信用力に若干問題があるが、他の銀行も貸して居るから大丈夫だろう」と思われて居た所に、各行からの返済要請がき始めると各銀行は不安に為ります。
「他の銀行が回収する前に我々が回収しよう」と考えて回収する銀行が増えると、一層多くの銀行が焦って回収する事に為る訳です。これに依り、材料が仕入れられ無かったり給料が払え無かったりする借り手が増え、倒産が増えるかも知れません。
普通は信用力に問題が有る所から順番に返済要請が来る訳ですが、稀にはデマが流れる事で、全く健全な借り手の所に返済要請が殺到して倒産してしまう事が有るかも知れません。健全な銀行に対する取り付け騒ぎ等はその一例ですね。
借りられても金利が高いと利払いが負担
資金繰りに困った借り手は「高い金利を払いますから貸して下さい」と頼むかも知れません。貸し手は「リスクは有るが、高い金利が貰えるなら」と考えて貸すかも知れません。しかし、話は簡単ではありません。
仮に資金を借りられても、他の貸し手達は「あれ程高い金利を払わないと、誰も貸して呉れないのか。アノ借り手は本当に危ないのかも知れない」「あれ程高い金利を払い続けたら、利払い負担で資金繰りが破綻するのではないか」等と考えて、一層慎重に為るかも知れません。
金融機関が自分の資金繰りを心配
金融機関相互に疑心暗鬼に為ると、金融機関が自分の資金繰りを心配する様に為ります。「他行から借りられ無かったらどうしよう」と云う訳ですね。銀行は相互に巨額の貸し借りをして居ますから、他行から一斉に資金を引き揚げられると資金繰りに窮する懸念が有る訳です。
赤字の金融機関が増えて来ると、預金者達が不安に為るので、デマに依る取り付け騒ぎが発生する可能性も高まります。そう為ると銀行は「金庫に現金を積み上げて置かないと不安だ」と考える様に為り、貸出等に慎重に為ります。それに依り、資金が借りられ無い借り手企業が困るのみ為らず、他の銀行が一層自分の資金繰りを気にして貸出に慎重に為る・・・と云う悪循環も生じる訳です。
自己資本比率規制が有るので貸し渋りせざるを得無い
銀行には自己資本比率規制が課せられて居ます。これは条約なので、主要国の銀行に共通するものです。内容は、大胆に簡略化すれば「銀行は自己資本の12.5倍迄しか貸出を行なっては為ら無い」というものです。
銀行の貸し倒れ損失が膨らみ、赤字に為ると自己資本が減ります。すると銀行は減った自己資本の12.5倍迄しか貸出が出来ないので貸出を絞ります。黒字が続いて何の問題も無い借り手が突然返済を求められたりする訳です。「貸し渋り」「貸し剥がし」と呼ばれる現象です。
借り手は何も悪くありませんが、貸し手の銀行も意地悪で貸し渋りをして居る訳ではありません。法律に従って居るだけです。しかし、借り手は銀行を恨みます。それは仕方無い事なのですが、それが問題の解決を困難にするのです。
「銀行に増資させて、政府が引き受ければ、銀行の自己資本が増えるから貸し渋りをしなくて済む様に為る」と考えて政府が予算を用意しても、貸し渋りを受けた中小企業が「銀行を助ける為に税金を使うのは許さ無い」と反対するからです。
対外債務を抱える途上国の通貨が売られる
経常収支が赤字で海外からの借金をして居る国は、米国の銀行が貸し渋りをすると借金を返す為にドルを買って返す事に為ります。そう為ると、返済の為のドル買いがドルの値段を押し上げます。すると、最初に返した人は良いのですが、次に返す人の負担が重く為ります。
次々と返済の為のドル買いがドルを値上がりさせて行くので、最後に返す人は1ドルを返すのに巨額の自国通貨が必要と為り破産してしまうでしょう。こうして、米国の金融危機は、世界中の途上国経済に大きな打撃を与える事に為り兼ねないのです。
日本は少子高齢化で救われる面も
この様に、金融危機は様々な経路で発生し拡大します。そう為ると、当然ながら日本経済にも甚大な悪影響が及ぶ事に為るでしょう。最も心の支えとしては「金融危機が起きても世界の景気が悪化しても、日本経済への影響は従来より小さい」と云う事が挙げられるでしょう。
少子高齢化により日本の景気変動が小さく為って居ますから。詳しくは、拙稿『少子高齢化で日本の景気変動が小さくなる理由』を御参照頂ければ幸いです。
本稿は以上です。繰り返しに為りますが、本稿はリスクシナリオであり、筆者の予測では有りません。過度な懸念は不要だと思います。尚、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係ありません。又本稿は、厳密性よりも理解し易さを重視して居る為、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承下さい。
塚崎公義 経済評論家 1981年東京大学法学部卒 日本興業銀行(現みずほ銀行)入行 主に経済調査関連の仕事に従事した後 2005年に退職して久留米大学へ 現在は久留米大学商学部教授であるが 当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なって居るものである為 現職欄には経済評論家と記すものである
著書に『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数
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