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2020年02月06日

【今をつなぐ】「ヤッホ、ヤッホ」の声が消える? 人口43人の集落で伝統のクマ狩りが存続危機




 





 【今をつなぐ】 「ヤッホ、ヤッホ」の声が消える?

 人口43人の集落で 伝統のクマ狩りが存続危機


            〜FNN.jpプライムオンライン 2/6(木) 20:03配信〜


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                新潟県村上市の山熊田集落


 山形県との県境、朝日連峰に連なる山々の間に在る新潟県村上市の山熊田集落。厳しい自然と向き合う山の暮らしの中で、クマ狩を始めとする伝統文化が大切に受け継がれて来た。
 しかし今、ここに暮らすのは僅か16世帯43人。過疎化が進み、猟師は足ったの4人と為ってしまった。存続の危機に向き合いながらも、生き物の命に対する敬意や誇りを背負い、伝統を守り続けるムラの営みを追った。


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          正月は猟師が集まり、全員で「おのぼり」を行う

 集落の伝統を守る為、厳しい雪山で行う狩猟

 山熊田の猟師、58歳の大滝国吉さんは、猟師の頭領の家で行われた新年会に参加して居た。国吉さんは30年以上クマと対峙して来た山熊田のベテラン猟師だ。そこでは山熊田ならではの儀式『おのぼり』が行われて居た。捕らえたクマの霊を慰め、その年の大猟を祈るものだ。上座に座る頭領から左右に分かれ、コップ一杯に注がれた清酒を2杯飲み干して行く。

 1月、国吉さんは雪が積もった山の中へ猟銃を持って向かった。木の穴の中に居る冬眠中のクマを狙うアナグマ猟だ。予めクマの居そうな木を調べ、穴に居るかどうかを見て歩く。この日、朝から雪山を何度も昇り降りし、5箇所も回ったが、クマを見付ける事は出来なかった。

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            木の穴の中にクマの姿は無かった

 何故雪深く厳しい山に入り、狩りに行くのだろうか。

 「それが自然だからだ。環境が厳しくても、獲物を取る為には、そう云う厳しさがあって初めて捕れる話。楽な事だけでは到底出来無い。昔の文化、狩りを村中で遣って居た時代が有ったから、今ココにこの集落が残って居る。その事を確り繋げて行くと云う気持ちもある」

 国吉さんは、山の暮らしを愛し、狩猟に対する哲学を持って居る。

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             クマの肉は参加者で平等に分け合う

 狩猟の伝統を背負うが、次の世代が居ない悩み

 或る日、山熊田の猟師仲間がアナグマ猟でクマを仕留めた。体重150 kg にも為るオスのクマを慣れた手付きで捌(さば)いて行く。肉は同じ重さにして人数分に分けられ、持ち帰る際にはクジを引いて公平に為る様にすると云う。山熊田では山の恵みを猟の参加者で平等に分け合う仕来りが今も続いて居るのだ。
 その理由に付いて「うちの集落は陸の孤島みたいな小さな集落で、自分達で助け合うと云う精神なんで」と話す国吉さん。その後猟師達は皆で集まり山の恵を頂く。今日食べるのは熊の肉を入れた味噌仕立ての鍋と、丸毎茹でたクマの舌だ。

 「命を貰うと云う事は、矢張り最後迄責任を持っていか無いといけ無い事。クマをチャンと大切に、皆で責任を持って食べる処迄遣ると云う事が一番肝心だと思います」

 獲った以上は、皆で食べて供養する。ソコには、狩猟の伝統を背負う誇りや、生き物の命に対する敬意が秘められて居た。その狩猟の伝統を受け継ぐ山熊田の猟師達だが、今、過疎化と云う問題に直面して居る。

 「昔から続いて来たクマ狩りの伝統を引き継いで、何とか頑張ってる次第です」と話すのは、山熊田で最年長の猟師、74歳の大滝幸男さんだ。「何とか今の若い人達に頑張って存続して行って貰いたい。でも残念な事に若い人達が居ないんだよね」と続ける。

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            1965年頃には30人余りの猟師が山熊田に居た

 1965年頃、クマを仕留めムラに帰って来た男達に、子供達が嬉しそうに駆け寄って居る写真がある。この頃、山熊田の猟師は30人余り。しかし高齢化や若者の流出等により猟師は減少し、今は50代が3人、70代が1人と、足った4人に為ってしまった。
 国吉さんは「うち等も大分歳に為って来て、若い人が居ないんでね。このママ行くとうち等の世代で終わりかなと云う寂しい気持ちも持って居る」と目を伏せた。山熊田で最年少の高校生がこの春学校を卒業。遂にムラに高校生以下の住民は居なく為った。

 1年で最も大切な巻狩りの結果は・・・

 4月、国吉さん達山熊田の猟師は、1年で最も大切にする春のクマ狩りに臨む。冬眠明けのクマを集団で追う伝統の猟“巻狩り”が行われるのだ。勢子(せこ)が声を上げてクマを追い上げ、待ち場と呼ばれる山の頂上で撃ち手が仕留める。山には勢子達の「ヤッホヤッホ」と云う声がコダマし、ムラに春の訪れを告げる。

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                  伝統の猟“巻狩り”

  雪がどれだけ消えたか、猟場を下見する国吉さんは「コレを一年中待ってたんさ。クマが何処から出て来るか、それを考えるだけでもワクワクするよ」と話すが、去年の春は、約20年振りにクマが捕れ無かった。参加者も経験者も年々少なく為り、撃ち手の居る待ち場迄クマを上手く追い上げられ無く為ってしまったと云う。

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              入念に猟銃の手入れをする国吉さん

 巻狩りの伝統を取り戻したい山熊田の猟師とその仲間総勢14人は猟場へ向かった。道中、猟師達が慌ただしく動き始めた。向かいの山にクマを見付けたのだ。早くも訪れたチャンス。しかし移動するクマを囲み、巻狩りの陣形を整える余裕は無い。しかしライフルを構えても、距離が遠く引き金を引け無い。そうこうする間にクマは逃げ仕切り直しと為った。猟場に入ると、雪の上にクマの足跡が無いか必死に見て回る。

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 「カクマピラ(山の地名)居たぞ多分。カクマピラを巻く様な配置をしなければいけ無いぞ」無線で仲間に呼びかける。「駄目だ駄目だ、アガリト(山の地名)へ行った」足跡を辿り懸命にクマの行方を追うも、又も見失ってしまった。日没から逆算するともう時間が無い。クマは確認出来ないが、巻狩りの陣形を組む事に為った。
 国吉さんの役割はモクラ。モクラとは猟場で一番高い峰のこと。全体を見渡して指示を出すの役割も意味する。山頂付近には撃ち手の猟師が到着し、木陰に隠れクマを待ち構える。

 「ヤッホ!ヤッホ!」勢子が谷底から声を挙げ、巻狩りが始まった。しかし勢子が幾ら声を上げてもクマは姿を現さ無い。クマは捕れ無いのか、猟師達が諦め掛けたその時。

「バーン」 猟場に1発の銃声が響いた。「捕れたぞ!」国吉さんが満面の笑みを見せた。「オテンガラ(お手柄だ)!」クマを仕留めた猟師を称える山熊田伝統の言葉が零れた。崖の様な山を駆け下りると、横たわる大きなクマの姿があった。山熊田はクマを授かったのだ。伝統の巻狩りでは無かったものの、クマが捕れた事に安堵の思いが広がって居た。

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 「アチコチで足跡は見付けたけど、ナカナカ姿が見付から無かった。皆が諦め切れ無くて、意地を出してこの峠まで来たから、好い結果が挙がった」

 全員の力で大きなクマが捕れた

 要約桜が咲いた4月末の山熊田で、クマ祭りが2年振りに開催された。猟師達はこのクマ祭りでしか行わない伝統の儀式に臨んだ。“山の神様”とするトチノキと、ムラの公民館の前の二手に分かれ、神様に感謝の気持ちを捧げるのだ。

 「ヤーッホ!」「ヤーッホ!」

 山からムラへムラから山へ、クマ狩りの時と同じ声が3回往復した。春の訪れを告げる“鳴り声”が、山熊田に再び響いた。国吉さんに山熊田がどんなムラか聞いた。

 「そんな事は判ら無い。只、俺はココに住んで、住み好い自分の家だと思って居るし、何処にも無い世界一の家だと思ってるから、ココを絶対残したいと思ってるだけだ」

 山熊田の伝統がこの先も残って行くのか、それは誰にも分から無い。只、この村に生きる人達の営みが、私達に失った何かを問い掛けているのは確かだ。この小さなムラに、これからも伝統の春が訪れることを願う。
 

 【今をつなぐ】この記事はNST新潟総合テレビで2019年5月に放送した番組を再構成した読み物です。日本の市町村の内、およそ半分は若者が流出し高齢化も進む「過疎」に直面して居ると言われます。
 FNN.jpプライムオンラインとYahoo!ニュースによる連動企画記事では、こうした地域を活気づかせ様とする人々の奮闘や思いを通して、過疎地域の問題に付いて改めて考えます。




 




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