2020年01月21日
ゴーン逃亡劇で日本は悪者か 欧米メディアの見方を「デーブ・スペクター」が解説
ゴーン逃亡劇で日本は悪者か
欧米メディアの見方を「デーブ・スペクター」が解説
〜デイリー新潮 1/20(月) 11:31配信〜
米は冷笑、仏は同情的!?
日本人は海外の反応を非常に気にすると言われる。2019年12月、日本時間の31日に「私は今レバノンに居る」との声明を出したカルロス・ゴーン被告(65)の逃走に関する報道はその代表例だろう。
試しに編集部のパソコンを使い、検索エンジンに「日本人 海外 反応 気にする」と入力し、ニュースを探してみた。するとトップ10本の内何と3本が、ゴーン被告に関する記事だった。勿論PC毎に違う結果が出る訳だが、表示順のリストをご紹介して置く。
◆「ゴーン被告記者会見・日本の当局は何故効果的な反論が出来ないのか」(YAHOO! ニュース:1月13日 ※江川紹子氏の署名記事)
◆「劇的な脱出に成功したゴーン被告 海外はどう見て居るか」(Forbes JAPAN:1月5日 ※ピーター・ライオン氏の署名記事)
◆「ゴーン被告『逃亡正当化』日本の司法制度“痛烈批判” 『保釈中の逃走』法改正の動き」(MBSニュース:1月9日)
因みに他の7本はプロレス、外国人労働者、サッカー、カジノ問題とバラバラであり、時事性が低い記事もある。ゴーン被告のニュースが3本も表示されるのは、矢張り突出して居る。どれ程日本人が“前代未聞の逃走劇”に付いて、海外の評価を知りたがって居るか一目瞭然だ。
そうしたニーズに応えた記事の1つに、共同通信が1月9日に配信した「ゴーン被告会見、報道様々 各国メディア、肯定や皮肉」が有る。レバノンに8日で開かれた会見を海外メディアがどう報道したかと云う記事だ。
《カルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで8日行った記者会見に付いて、各国メディアの報じ方は様々だ。フランスのフィガロ紙は、陰謀で投獄された後、脱獄して報復に出るアレクサンドル・デュマ作の物語に例え「現代のモンテ・クリスト伯(巌窟王)は全世界を魅惑する」と報道。レバノン英字紙デーリー・スターは、被告が「長く待ち望んだスピーチ」を行ったと伝えた。
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は、スクリーンに資料を映しながら説明する様子を「企業のプレゼンテーションの様」としつつ「文字が小さ過ぎて誰も読め無かった」と皮肉交じり》
ルノーの本社があるフランスは同情的、アメリカは意外に冷笑的・・・こんな傾向があるのかと読者は推測する訳だが、実情はナカナカ見えて来ない。
欧米の報道内容を総まとめ
日本人としては、次の様な疑問を持って居るのではないか。
「海外メディアはゴーン被告と一緒に為って日本を“人質司法の国”と批判するキャンペーン報道を繰り広げて居るのではないか?」
「逃亡劇を詳細に報じ、日本の出入国管理は穴だらけとバカにして居るのではないか?」
「ゴーン被告の妻、キャロル・ナハス容疑者(53)に同情し、日本を批判する報道を繰り広げて居るのではないか?」
そこでデーブ・スペクター氏に取材を申し込んだ。デーブ氏はニュース番組でコメンテーターを務めて居り、海外番組の買い付け等も行って居ることから、海外メディアの報道に詳しい。当然ながらゴーン被告に関する報道も高い関心をもってウォッチして居る。
デーブ・スペクター氏
「結論から言えば、日本の人質司法をセンセーショナルに批判する様な報道は行われて居ないに等しいですね。元々日本と欧米の報道では、相当な温度差があるのです。欧米のメディアは、ゴーン被告の逃亡を事件としてでは無く経済ニュースとして取り上げて居ます。日本は逃げられた側ですから、社会部が事件として大きく報道して居ます。嫌、今や芸能ニュース並みの扱いかも知れません(笑)」
アメリカの場合なら、ゴーン被告のニュースを報じて居るのは、自国のウォール・ストリート・ジャーナル、ブルームバーグ、そしてイギリスに本社を置くロイターと云う経済メディアが中心だ。記者と読者の関心は「ルノーと日産の将来は今後、どう為るのか?」がメインだと云う。
「ドラマチックな逃亡劇ではありましたが、そもそもルノーに高い関心を持って居るのはフランス人だけでしょう。アメリカ人は日産の車が大好きですし、欧州車はドイツ車もイタリア車も人気があります。しかし、ルノーの車がアメリカ国内を走って居る処は余り見た事がありません。日本とフランスを除けば、カルロス・ゴーンと云う人物に対する関心はそれ程高く無いのです」
こうした欧米の報道姿勢は、ゴーン被告にも好ましい状況だと云う。彼の主張の根幹は「ルノーと日産の合併を阻止する為に日本政府が動き、日産社内のクーデターを検察が応援した」だ。このストーリーに、海外の経済メディアも高い関心を持って居る。
「テレビ東京が会見に出席を許された事が大きな話題を呼びましたが、同じ理由だったと思います。『ワールドビジネスサテライト』(平日・23:00)は経済ニュースが中心で、検察のリーク報道を流す番組ではありません。ゴーン被告は『アノ番組なら、自分の主張に関心を示す筈だ』と判断したのでしょう」
“手記”と“映画”の制作が進行中!?
レバノンでの会見が行われる前は「政治家の名前が暴露されるのではないか」と、日本でも高い関心を集めて居たが、結局の処ゴーン被告は「レバノン政府に迷惑を掛けたく無い」として名前を伏せた。ゴーン被告が「ルノーと日産の合併を阻止する為に日本政府が動き、日産社内のクーデターを検察が応援した」と訴えて居るのは前に見た通りだが、デーブ氏も「耳を傾けるべき主張だと思います」と理解を示す。
「特捜部の立件対象は、全て日産社内で解決出来るものばかりです。日産の調査でゴーン氏の不透明な金の流れを明らかにした上で解任し、民事訴訟で返還請求をすれば済む話でしかありません。
しかし、ルノーと日産の間で行われて居たことは、日本政府とフランス政府の戦争であり、ロッキード事件級のスキャンダルだった筈なのです。この問題を追及しない日本の野党には、強い失望を覚えて居る程です」
会見で政治家の名前を暴露し無くとも、手記に書く手はある。それが映画やドラマ化されれば、ゴーン氏には巨万の富が転がり込むかも知れない・・・こうした観点での記事も頻繁に報じられて居る。
◆「ゴーン被告、ネットフリックスと独占契約 仏紙報道」(朝日新聞デジタル:1月3日)
◆「ハリウッド関係者と面会 ゴーン被告、逃走前に映画の相談―米紙」(時事ドットコムニュース:1月4日)
◆「ゴーン被告が本を出版へ 海外メディアで主張を展開も」(NHK NEWS WEB:1月9日)
朝日新聞デジタルの「仏紙」とあるのは、高級紙のルモンドだ。しかし、ネットフリックス側は直ぐに、「契約ない」と否定したが、信じる人は少無い様だ。
「ネットフリックスは世界中で人気ですし、オリジナルの映画とドラマシリーズも制作して居ます。実際に放送されるのは“氷山の一角”で、無数の企画書が書かれ映画化権を取得し、大多数はボツに為ります。そう云う意味で云えば、ゴーン被告の人生に関心を持た無い担当者は居ないと思います。ネットフリックスなら、日本とフランス・ブラジルと中東諸国、そしてアメリカでのヒットが見込めるので、権利を確保しようとしても全く不思議はありません。但し、実際に制作して公開されるかは未知数です」
TBS NEWSが1月13日に報じた「ゴーン被告、“逃亡劇”のハリウッド映画化に前向き」の記事と動画は、アメリカのCBSテレビがゴーン被告に行ったインタビューを紹介したものだ。これによるとゴーン被告は、今後の見通しに付いて、次の様に語ったと云う。
《アメリカのハーバード法科大学院や投資家のイベント等多くの講演依頼が来て居るとした一方で、何か固定された役職に就く事は考え難く、在ったとしても投資分野に為るだろうとの見通しを語りました》
デーブ氏も「私はゴーン被告の今後を、母国のレバノンで半ば引退に近い状態に為ると思います」と予測する。
「ゴーン被告は1954年生まれで、今年の3月で66歳に為ります。ビル・ゲイツさんは1955年生まれで、今は64歳。彼の引退が発表されたのは2008年でした。今やIT業界では30代のリタイアも珍しく無く為りました。手段は問題が在りましたが、ゴーン被告は逃亡した事で故郷に帰り、妻と生活を共にする事が出来ました。再起を期して経営の表舞台に戻るとは考え難く、安穏とした日常生活を選ぶのではないでしょうか」
新潮社 2020年1月20日 掲載 以上
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