2020年01月10日
有罪率99%の背景に検察官の裁判官化? ゴーン被告が糾弾した検察の問題点とは
有罪率99%の背景に 検察官の裁判官化? ゴーン被告が糾弾した検察の問題点とは
〜AbemaTIMES 1/10(金) 18:33配信〜
ゴーン被告
英語・フランス語・アラビア語等を駆使し、約2時間30分に渉って持論を展開したカルロス・ゴーン被告。自身の逮捕が多くの共犯者達による陰謀だったと潔白を訴えると共に、日本の検察や司法制度に対する批判を繰り返し、自身の逃亡を正当化した。
朝日新聞やテレビ東京・小学館を除き、日本メディアの多くが締め出される中で参加した海外メディアからは、ゴーン被告の言動を評価しない声も有る一方「日本の司法の暗い片隅に光を投げ掛ける」(英ガーディアン)「乱暴な逮捕や長期の勾留等この事件の根底にある彼の真実を伝える機会だった」(仏フィガロ紙)等、日本の司法制度に関する厳しい意見も見られる。
こうした事態を受け、森まさこ法相は会見を開いて「主張すべき事があるので有れば、我が国の刑事司法制度において、正々堂々と公正な裁判所の判断を仰ぐ事を強く望む」と異例の反論に踏み切った。
メディアの反応は
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は
「自白偏重で有罪率99%、風呂は週2回で妻に会え無い、クリスマスに1人・・・等と云う話は分かり易く強いので、ナカナカイメージとしてはヒックリ返り難い。日本の司法はこんなに酷いと云う印象が欧米に伝わったと思う。
そこで日本としては『日本の司法は大丈夫だ』と言うより 『我々の社会に公正さを取り戻すんだ』と主張した方が効果的ではないか。何故なら、ゴーン被告はグローバル企業のリーダーとして、分断と格差の象徴の様な人物に為って居るからだ。
実際、富裕層やアッパーミドルが読むフィガロ紙の読者アンケートでは、77%が逃亡は正しかったと云う結果に為って居るが、一方、フランスで取材をして居たジャーナリストの記事によれば、格差問題で闘って居るイエローベスト運動の人達の反応は、ゴーンざま見ろでは無くゴーン酷いだ。
又、レバノンでも富裕層からは英雄扱いされて居るが、反政府運動で戦って居る人達も居て、彼等もゴーン被告に対しては批判的だ」
とコメント。慶應義塾大学の若新雄純特任准教授も
「世界における日本の司法と云う問題に為った事に対して如何に答えるかが大事なのに、法務相と検察が出したコメントは『日本において裁かれなさい。無実なら言い返しなさい』と云う事で、非人道的だとされた容疑者への扱いの部分に付いては反論し無かった。言われっパナしに為って居るのではないか」
と話した。元日経新聞論説委員で、法制審議会特別部会委員の安岡崇志氏は、
「もう少し具体的に俺はこんな目に遭ったと説得力を持って言って呉れるのではないかと期待して居たがそれは無かった。面白いなと思ったのは、検察の取り調べ中に早く自白しろ。容疑を認めろ。認め無かったら家族に累が及ぶぞと云う様なことを言われたと云う話だ。
今時、そんな言い方で調べるのかと思ったし、逮捕容疑を認めたと云う調書は取らせて居無い筈なので、仮にゴーン氏が日本に戻って来て裁判が開かれたとしても、言った・言わ無いが続く」
との見方を示す。その上で、
「今の日本の司法は、世界に冠たるものだと云う考えの専門家や法務省関係者・議員は多いが、世界標準では取り調べの時に身柄を拘束すると云う事は無い。調べの中で自白調書を取らせず、黙秘や否認を続ける限り、ズッと拘置所を出られ無い。
平野龍一と云う刑事法学者が1985年に発表した『現行刑事訴訟法の診断』と云う有名な論文の末尾に『我が国の刑事裁判は可成り絶望的である』と云う有名な言葉があり、取り調べの為の身柄拘束は欧米の水準からすれば堪え難いものだと指摘して居る。
もっと言えば、それよりも遥か昔の明治35年には、或る弁護士が『刑事被告人の待遇』と云う文章の中で『有罪判決が確定する迄は、無辜の良民として扱わ無ければいけ無い』と書いて居る」と指摘。
「取り調べ時の弁護士立会いに付いて、法制審の特別部会でも最初の10回位は議題に上ったが、その後、意見の対立が激しいから辞めて置こうと云う事に為り、改正法の話には出て来なくなった。人質司法の問題についても、もう少し慎重に勾留を認める・起訴後の保釈をゆるやかに認めるべきだと云う意見が出たが、結局は今までの基準を再確認すると云うだけで前進はゼロだった」と振り返った。
落合氏
元検事の落合洋司弁護士は「ゴーン氏の件に付いて言えば、囚われの身で出られ無かった訳では無く、一定の制約があるにしても保釈に為って居り、弁護団が着いてキチンと裁判で主張が出来る状態にあった。それにも関わらず逃亡してしまった。
それは無いのでは無いか、と云うのが日本の国内の見方としては多いと思う。一方で、ゴーン氏なり、海外のマスコミが指摘して居る日本の司法の問題点に着いては当たって居る処も少なからず有ると思う。実際、これ迄も国連から勧告を受ける等、批判されて来て居るが、法務省や検察庁がグローバルスタンダードとの比較において日本はどうなのか、と云う発想で反省する事をして来なかったし、我々は法令に基づき、我々の遣り方で遣って居るのだ、と制度自体の問題点を認めようとし無かった。
只、今回の会見を受け、認めようとし無ければしない程相手とのズレが広がり、突かれる度合いが強まって行くと思う。司法制度自体を変える為には法制審議会なりが動いて、国会に刑事訴訟法の改正案を出さないといけ無い。しかし法務省の幹部は結局、皆検事だ。そう云う組織なので、検察の力を弱める様な改革と云うのはソモソモ遣ろうとしない」
と話す。また、ゴーン被告が訴えた「有罪率99%」の問題に着いて佐々木氏は「普通は警察が捕まえて地検に持って行き検察が起訴する。しかし、特捜事件は東京地検・大阪地検が行き成り逮捕して起訴する。特に今回の様な特捜事件は、逮捕されて有罪に為る率が99%だ。しかも特捜は近年余りにも力が強く為り過ぎて、非常に横暴に為って居ると言われて居る」
と疑問を投げ掛ける。落合氏は、
「現状では捜査段階で強力な捜査が行われるので、尚且つ起訴するに当たってはハードルを高くして居る。詰まり、検察段階で相当数がフィルタリングされ、これは有罪に持ち込むのが難しいと云うものに付いては、ドンドン不起訴にして居ると云う事だ。
だから伊藤詩織さんの問題の様に、民事では損害賠償請求が認められて居て、被害者がどうしても起訴して欲しいと言って居る事件であっても、刑事事件では慎重過ぎる位に為って不起訴にして居る面はあるだろう。有罪に為って居る率だけを見ると、如何にも歪んで居る様に見えるが、そこはトータルで見ていか無いといけ無い」と説明。
各国の司法制度
そして「只、確かに警察が送って来る事件の場合、検事はチェックしようと云う目で見るので、難しい点が有れば補充捜査も指示するし、ダメだったら不起訴にする。しかし特捜部による、所謂独自捜査の場合、自分達でドンドン遣ってしまうので、それをチェックする処は無い。
裁判所の令状に付いても、捜査をチェックして出して居る訳では無いので検証する人は居ない。その点、アメリカには大陪審と云って、捜査自体をチェックするシステムがあるし、フランスには予審判事と云う人が居て、裁判官が捜査自体を主体的に遂行して行く制度がある。それが無い為、日本の独自捜査は一度暴走し始めると止めど無く暴走して行く。
又、アラユル証拠を見て有罪に為ら無いと云うものをドンドン不起訴にして行くと云う事は、一審の前に検察が裁判官の様な立場で裁いてしまうと云う事でもあり、裁判がその判断を検証し、刑の重さを決めて行くだけの場に為って居るとも言える。
平野先生の論文にも「それは裁判と言え無い」と書いてある。しかし日本の場合、起訴されると云う事自体本人に取っては非常に痛いので、慎重に確認する事自体がいけ無いとは言い難い。それでも罪名や被害者の居る・居ない等によって、或る程度は思い切ってこれは裁判を受けて貰おうと、極め細かく遣り方にして行く事は必要なのではないか」とした。
AbemaTV『AbemaPrime』より 以上
【管理人のひとこと】
AbemaTVの記事は、大いに公正で公平な見方だと思う。検察や法務省が「日本の司法が悪かった」とは口が裂けても言え無いのは判るが、余りにも官僚的で高圧的で一方的過ぎる。確かにこの様な不祥事を「恥ずかしい・・・」との本音で言えたら正直なのに、この様な失態に狼狽(うろた)え慄(おのの)き乍ら、強弁で誤魔化そうとするのが見て居て痛ましく情け無い。
「言いたい事があれば裁判で堂々と反論しなさい!」とは、マルで刑が確定した事を前提とする言い方であり、ゴーン氏は「その裁判を受けて居る状況・・・身柄拘置・仮釈放に対しての諸条件」に不満で人権に劣ると怒って脱失を決意したのだ。その人に向かって「逃げずに裁判を・・・」とは、逃げ果(おお)せた被告人に向かって「逃げるな!」との追い台詞に過ぎず意味の無い「犬の遠吠え」に似た空しい限り。
日本の検察・裁判に関わる人権問題は、以前から世界(国連)から批判され何度も勧告・是正を指摘されている。それには深く善処せず、法曹界の批判も交わし旧態を続けて来た。何度かの改革のチャンスが在ったにも関わらず、今でも明治時代そのママの風潮が続いて居たのでは無かろうか。この機会に、日本の司法・裁判制度が開かれた世界の模範的なものに為るのならゴーン様々である。
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