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2019年08月19日

愛車とお別れした日のこと。

車を持ったことのある人なら、
同じ思いをしたかも知れない。

僕がかつて、車を持っていたときに、
何よりも辛かった日。

それは
愛着のある車を手放し号泣したあの日。



どこにでもある、中古の軽自動車だった。

当時、もともとカツカツだった僕の生活が
精神状態の悪化とともに苦しくなり、
毎月の駐車場代も負担となっていった。

迫る次の車検費用がとても出せないことから、
車検を通さず、涙ながらにお別れすることになった。



次の車検の日、それがきみと一緒にいられるリミット。
1年ほど前から、何となく予感はしていた。

実の家族と上手くやれず孤立無援、
懸命に一人暮らしするので精一杯だった僕は、

お別れするなら行ける場所にはとことん行ってやろうと、
出せる遠出の計画をすべて出し切ることにした。

人間と、もの。それがわかっていてなお、
行った先で見た景色、空気を共有したいと、
”二人”での旅と勝手に思い走り続けた。



お別れする前夜、最後のドライブに行った。

きみを停めてある駐車場、この夜が明けて
次の夜が来る頃は空っぽになってるんだと思うと、
運転中に涙がぽろぽろと溢れてきた。

僕にもっと稼ぐ力があれば、
すぐに精神が崩れて仕事が続かなくなることがなければ、
きみとお別れせずにもっと一緒にいられたのにと、

まだ走れるのに自分の都合で所持できなくなったことを
激しく悔やんだ。

ごめんね、ごめんね、僕はきみにとって
決して良い持ち主ではなかったねと何度も繰り返した。

別れたくない、と叫んでいた。



無事故、無違反、免許はゴールド、
最高速度50キロ、”超”がつくほどの安全運転。

急発進や急ブレーキをせず、
車体に負担をかけないように乗ってきたが、
不覚にもパンクやガス欠で複数回、JAFのお世話になった。

コンビニやドラッグストアの駐車場に避難し、
JAFを待ったあの時間。

一度だけ交差点の真ん中で立ち往生し、
周りに大迷惑をかけてしまったあの時間。

苦い思い出が次々と蘇り、またごめんねを繰り返した。



大雪が降った翌日、ただの雪山になった愛車の救出に、
必死で雪かきをしたこともあった。

マイナス10度を下回る日が続くと
エンジンがかからなくなる恐れがあるので、
毎朝毎晩エンジンをかけては、車内でだらだらした。



あたたかい季節に遠出しては、車中泊したこともあった。

軽自動車は当然広くなく、充分に足を伸ばせはしないが、
その狭さも僕にとっては心地よかった。

シートを倒して寝るのは初めこそ痛かったが、
徐々にあの硬さに慣れ、熟睡できるようにすらなった。

親と言い合っては家を飛び出した夜も、
絶妙な狭さの空間は寝ぐらになってくれた。



思いつきの弾丸旅行にたくさん行き、
海を見たい、自然に浸りたいという思いつきにも
付き合ってくれて、一緒に景色を見た。

きみが居なかったら絶対に行かなかった場所、
乗せなかった人、運ばなかったもの、

ものに感情移入をかなりしてしまう僕は
あまりにも多くの思い出を作り過ぎてしまった。



最後のドライブから帰り、いつもの駐車場に停めた時、
すっかり夜が更けていた。

運転中に嫌というほど号泣したから、
もうさすがに大丈夫だろうと思ったが、
惜別の思いで、車からしばらく降りられなかった。

これまでいっぱい運んでくれてありがとう、
楽しかったよ、幸せな時間だったよ、
運転席から見る景色が大好きだったよ、

ごめんねではなく、ありがとうになった会話は
しばらく続いた。

また、ぽろぽろ泣いていた。



1キロくらいの引取り先へ
愛車を運転して持って行く当日、
寂しさにかられながらエンジンをかけた。

すると、いつもの起動音ではない、
弱弱しいエンジン音が聞こえたかと思うと、
エンジンの異常を示すランプが点灯した。

アクセルを踏んでも30キロ出ない。

それどころか前後にガクガクと揺さぶられ、
引取り先に辿り着けるかも危うい状態だった。

突然だが、明らかにエンジンがおかしくなっていた。



あまりにもタイミングが絶妙過ぎる、きみの故障。

あぁ、もしかしてきみは、限界だったのかなぁ。

前日の夜、最後のドライブに連れて行ってくれたのは、
もしかすると最後の力を振り絞って、気丈に振舞って、
僕とのラストランを安全に過ごさせてくれたのかなぁ。

本当はもう疲れ果てて、眠りたかったけど、
そんなお別れはしたくないと思ってくれたのかなぁ。

やっと到着した引取り先をあとにする時、
そんな偶然の重なりがまた僕を、涙に暮れさせた。



ONE PIECE の名場面で、限界を超えた麦わらの一味の船
ゴーイングメリー号が仲間救出に成功した直後に
崩れ落ちてしまうシーンがある。

限界を超えていたはずの愛車がそんな素振りを見せず、
お別れするその日になって急に故障したのは、

きっとメリー号と同じように
最後まで僕を安全に運ぼうとしてくれたのかと思うと、
愛車とメリー号がどうしても重なって見えた。

走行距離13万6千キロ、
大切な相棒の、見事な生き様だった。
おれは今 奇跡を見てる
もう限界なんかとうに越えてる船の奇跡を

長年船大工をやってるが
おれはこんなにすごい海賊船を見たことがない

見事な生き様だった


『ONE PIECE』44巻 430話 より



人、もの、出逢いがあれば必ず別れがある。

そんなことはわかってる。

深過ぎる思い入れと愛着は
相手がものだろうと涙を溢れさせる。

好きな時に好きな場所に行けなくて不便、
これで維持費にかかっていた分をどうこうできる、
手放す時にそんな打算は消し飛んでいた。

ただ、お別れの悲しみと寂しさで、
溢れる涙を受け入れるしかなかった。



わりと古い年式の中古車だったから、
次の買い手を待つのではなく、
廃車にされてしまったかも知れない。

僕はあえて、その後の運命を聞かなかった。

自分に稼ぎと力がなかったせいで廃車に…
という後悔の念はとめどなく押し寄せた。



だけど、お詫びの言葉ばかり浮かんで来ても、
最後は無理やりお礼の言葉に変えた。

月並みで、シンプルな言葉に。

「今までありがとう。」


posted by 理琉(ワタル) at 23:28 | TrackBack(0) | 生き方

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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