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2023年02月25日

【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』5 -最終話-

PART4からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
主人公
有坂 桃羽(ありさか とわ)
 24歳、社会人2年目、一人暮らしのフリーター
 新卒でブラック企業へ就職するも心身を壊し退職
 人生に絶望し、無気力な毎日を送っていたが、
 突然、3回の人生やり直しチャンスが訪れる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5.あなたは、幸せになりたいですか?

『おはようございます。坊っちゃん。』

「執事…さん…?」
「おはよう、ございます。」

『安らかな寝顔をしていましたね。』
『王族として、良い人生を送れましたかな?』

「…はい。とても…。」

『本来、3回目の人生で納得いただければ、こちらへ戻ってきません。』
『ゆえに、坊っちゃんは深層心理で選んだんです。』
『現代の自分を生きたい、と。』


「ええ…今なら、よくわかります。」

執事はにこりと微笑んだ。

『そうですか。』
『愛する人ができ、偉業を成し遂げ、王族として生きるよりも、今のご自身が良いと?』

「はい。今の僕は、昔のどんな王族よりも贅沢に生きているから。」

『ほう。それはどういうことですかな?』

「現代は安全で、ご飯が食べられて、病気になっても治療できます。」
「当たり前にあると思ってましたが、決してそんなことはなかった。」
「人は簡単に死ぬし、すべてを手に入れても誇れない人生もあった…。」
「僕は持っているものを見ずに、足りないものばかり探していたと気づいたんです。」


『…成長しましたな。』
『ではお聞きしましょう。』

『人生の”勝ち組”と”負け組”は、いつどこで決まると思いますか?』

「…人生の勝ち組も、負け組も、決まることはないと思います。」
「あるとすれば、勝ち負けは他人や、社会の常識が決めるんじゃありません。」
「地位やお金がどうだろうと、僕自身が納得できるかどうかで決まるんです。」



--


『3回目の人生で、すばらしい哲学者に出逢ったそうですな。』

「ええ。今のドイツあたりの街で。」
「彼の言葉は、僕が現代に戻る背中を押してくれました。」

 ”たった1度でも魂が震えるような体験があれば、
 もう1度この人生を歩みたいと思えるだろう”


「彼自身、自分と人生に絶望していたように見えました。」
「ですが、瞳の奥には強い意思を感じたんです。」
「本当に…不思議な魅力の持ち主でした。」

『そうですか…。』
『3回の人生で、魂が震えるほどのすばらしい経験は、できましたか?』

「…はい、できました!」

『では、最後にお尋ねします。』
『人生の勝ち組に、なりたいですか?』


「…いえ。」

「もう1度、負け組の僕を生きたいです。」



--


にこり。

『坊っちゃん、立派になられましたな。』

「執事さんがチャンスをくれたおかげです。」
「本当に、ありがとうございます。」

『お役に立てて何よりです。』

「本当に、あなたは何者なんですか?」

『ははは。坊っちゃんにお仕えする、しがない執事ですよ。』

僕は苦笑いしながら言った。

「正体を明かしてはくれないんですね。」

『まあまあ。それはこの先の人生の、お楽しみということで。』

「ふふッ、わかりましたよ。」
「コーヒー、もう1杯もらえますか?」

『ええ、お待ちください。』

コーヒーの程よい苦味が、身体に染み渡る。
本当に、このお店の雰囲気は心地よい。


「僕、このお店、気に入ったんです。」
「これからも通わせてもらいますね。」


『いつでもいらしてください。』
『美味しいコーヒーをご用意して、お待ちしております。』




ーーーーー



あの不思議な体験から1年が過ぎた。
僕は今もフリーター生活をしている。

生活レベルは最低限だが、
増えた自由時間を使って色々なことを始めた。

かつては無趣味だったが、
今では1人旅やサークル活動に熱中している。

読書の習慣もなかったが、読み始めるとおもしろい。

本で学んだことをブログで発信してみたり、
プログラミングや動画編集を学んでみたりと、
副業も充実してきている。

彼女はまぁ…石器時代以来いない…。

もしも正社員や高収入、既婚、
社会的地位が高いことを”勝ち組”と呼ぶのなら、僕は対極にいる。

だが、僕は以前のように劣等感に悩まなくなった。


誰かと比べるのを止めた途端、楽しいことが増え、
少しずつ人生を肯定できるようになってきた。

アメリカ大陸を”発見”しようと、
誰もが羨む身分に生まれようと、
足りないものを数える限り、劣等感は消えない。


それを肌で知ったからだろう。


--


あの喫茶店には、今も通っている。

休日の午前中、
コーヒーを飲みながらゆっくりするのが楽しみだ。

執事さんが何者なのかは、未だにわからない。

3度も人生のリセットボタンを押せるのだ。
神さまか、それを超越した力を持った何かだろうか。

それとも、僕の夢だったのか。
今となっては些細なこと。

彼は行きつけの店のマスター、それでいい。
きっと、僕の”負け組”人生が終わる頃にわかるだろう。

彼が何者だろうと、僕にとっては恩人だ。
彼は僕に、幸せになる方法を教えてくれたんだから。

『幸せになる方法は、目の前の小さな幸せに気づくこと』だと。



ーーーーーENDーーーーー



『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話

PART1 -あなたは、人生の勝ち組になりたいですか?-

PART2 -人生やり直し1回目:石器時代編-

PART3 -人生やり直し2回目:大航海時代編-

PART4 -人生やり直し3回目:19世紀東欧編-


⇒参考書籍















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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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