2023年02月24日
【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』4
⇒PART3からの続き
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主人公
・有坂 桃羽(ありさか とわ)
24歳、社会人2年目、一人暮らしのフリーター
新卒でブラック企業へ就職するも心身を壊し退職
人生に絶望し、無気力な毎日を送っていたが、
突然、3回の人生やり直しチャンスが訪れる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『王子は本当に、読書が好きなのね。』
「はい、お母さま。」
「僕はこうしてのんびり過ごすのが好きです。」
3回目の人生は19世紀、東欧。
僕はとある王国の第1王子として、
穏やかな生活を送っていた。
名君と名高い現国王の父。
優しさと慈愛に満ちた母。
2人は、現代の僕が手に入れ損ねた
「両親からの愛情」を惜しみなく注いでくれた。
過酷な労働も争いもない。
穏やかな日々に幸せを感じていた。
父は公務が忙しくても、
家族との時間を大切にする人だった。
休暇を取っては家族で色々な国へ旅行し、
多くの外交官や学者、アーティストを僕に紹介してくれた。
中でも印象的なのは、
現代のドイツ領にある国で会った、1人の哲学者だった。
彼には不思議な魅力があった。
何もかも諦めたように見えて、瞳の奥には意志の炎が燃えていた。
「そうだ…こうして、穏やかに暮らせたら、それでいい。」
僕は今度こそ、安楽な一生を送れると信じて疑わなかった。
ーーーーー
数年後。
「お母さま…ウソだと言ってください…!」
「目を開けて!!」
永遠と思われた幸せは、
母の病死によって崩れ始めた。
父は家族の前では気丈に振る舞った。
どれだけ公務に忙殺されても、
これまで通り、家族のことを気にかけてくれた。
だが、支えを失ったショックは大きかった。
そして、父の憔悴が誰の目にも明らかになった折、
王室には新たな王妃が迎えられた。
再婚相手は、とある名家の未亡人。
早くに夫を亡くし、息子が1人いる。
こうして僕に義理の弟ができた。
一般家庭なら”異母兄弟”として仲良くすればいい。
だが、このときの僕には考えが及ばなかった。
自分が
「王位継承権:第1順位」であること。
義弟は、もしも僕がいなくなれば
「王位継承権:第1順位」になれるということを。
ーーーーー
『王子様、ちょっと我々と一緒に来てもらいます。』
『おとなしくしていれば、悪いようにはしませんので。』
ある夜、
自室で寝ていた僕は見知らぬ男たちに迫られた。
わけもわからないまま僕は連れ去られ、
街外れの古い塔へ幽閉された。
(突然、何なんだ…?)
父が再婚して数ヶ月、大きな変化は特になかった。
継母は連れ子である義弟を溺愛していたが、
僕や父に対しても優しく接してくれた。
父も少しずつ元気を取り戻し、
僕らはこのまま立ち直れるはずだった。
塔の外からは連日、行き交う人々の話し声が聞こえてきた。
『国王様は、変わってしまわれた…。』
『お優しい方だったのに…。』
父が突然、圧政を敷く暴君になったというのだ。
急に税金を跳ね上げ、強引な徴兵制で軍備を整えた。
税金を払えない者への処罰は重く、国民の生活は一気に悪化した。
(お父さまがそんなことをするはずがない)
(あの人はいつでも、国民の生活を第一に考えていたはずだ!)
塔内での数ヶ月は、そう信じる気力を僕から奪っていった。
ーーーーー
「新国王誕生」
「政治補佐に皇太后」
東欧の平和な国へ、激震が走った。
父が王座から引きずり降ろされ、
義弟が新国王へ、継母が実質的な摂政へ就任した。
これは、継母による国家乗っ取り計画だったのだ。
溺愛する息子を次期国王にし、自らは権力のトップに座るという。
『これでわかりましたか?元・王子様。』
毎日、僕に食事を運んでくる男は言った。
『あんたには気の毒だが、こっちも仕事なんでね。』
『恨むなら、王族として生まれたご自分を恨むんだな。』
「父は…国王は無事か?!」
『それは国民が決めるんじゃないかい?』
『まぁ、あれだけ民を苦しめたんだ。』
『少々、お怒りを買っててもおかしくないよな。』
「父と…国王と会わせてくれ!」
『そいつはできねぇ相談だ。』
『皇太后様へ頼むんだな。』
「…くッ…!」
『ああ、そうそう。こいつは独り言だが…。』
「?!」
『せっかく”第2王子”が王位継承したんだ。』
『第1王子が生きてちゃ、都 合 が 悪 い よなぁ。』
ーーーーー
数ヶ月後、
「元・国王、処刑」というニュースが流れた。
そして僕にも、同じ運命の足音が聞こえてきた。
執行人よ、安心してほしい。あなたが手を下すまでもない。
幽閉生活で衰弱した僕は、もうじき父の元へ逝けそうだから。
外から聞こえる話し声と、例の男たちが滑らせた口から、
僕は真実を知った。
父が突然、暴君となったのは、
息子である僕を人質に取られていたからだ。
継母が雇ったギャングに、僕を誘拐させる。
その命を盾に、継母の言うように政治システムをいじる。
「いくら家族でも、息子1人のために国民の生活を犠牲にはできない」
父はそう言って、継母の政治への介入を拒んだそうだ。
それでもすぐに王座を降ろされなかったのは、
父の評判を地に落とし、義弟への王位継承を自然にするため。
王が在位である限り、
『国民には、矢面に立っている人間が決めたように見えるから』だ…。
--
(これが…王族に生まれた者の宿命か…。)
(なんだ…死ぬまで安楽な生活なんて…幻想じゃないか…。)
薄れゆく意識の中で、僕は自分の思慮の浅さを笑った。
王族に生まれることは、
権力争いの渦中に生まれることを意味するのだ。
望むと望まざるにかかわらず、
その地位に群がる者や、奪い取ろうとする者たちの欲望にさらされる。
簒奪者に命を脅かされる恐怖や、
失政による国民からの罵声と隣り合わせなのだ。
(お父さま、お母さま…もうじき、そちらへまいります…。)
(今度は、しがらみのない世界で…)
(平穏に、暮らしましょう、ね…。)
(…。)
ーーーーー
⇒PART5 -最終話-へ続く
●執筆中●
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主人公
・有坂 桃羽(ありさか とわ)
24歳、社会人2年目、一人暮らしのフリーター
新卒でブラック企業へ就職するも心身を壊し退職
人生に絶望し、無気力な毎日を送っていたが、
突然、3回の人生やり直しチャンスが訪れる
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4.人生やり直し3回目:19世紀東欧編
『王子は本当に、読書が好きなのね。』
「はい、お母さま。」
「僕はこうしてのんびり過ごすのが好きです。」
3回目の人生は19世紀、東欧。
僕はとある王国の第1王子として、
穏やかな生活を送っていた。
名君と名高い現国王の父。
優しさと慈愛に満ちた母。
2人は、現代の僕が手に入れ損ねた
「両親からの愛情」を惜しみなく注いでくれた。
過酷な労働も争いもない。
穏やかな日々に幸せを感じていた。
父は公務が忙しくても、
家族との時間を大切にする人だった。
休暇を取っては家族で色々な国へ旅行し、
多くの外交官や学者、アーティストを僕に紹介してくれた。
中でも印象的なのは、
現代のドイツ領にある国で会った、1人の哲学者だった。
彼には不思議な魅力があった。
何もかも諦めたように見えて、瞳の奥には意志の炎が燃えていた。
「そうだ…こうして、穏やかに暮らせたら、それでいい。」
僕は今度こそ、安楽な一生を送れると信じて疑わなかった。
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数年後。
「お母さま…ウソだと言ってください…!」
「目を開けて!!」
永遠と思われた幸せは、
母の病死によって崩れ始めた。
父は家族の前では気丈に振る舞った。
どれだけ公務に忙殺されても、
これまで通り、家族のことを気にかけてくれた。
だが、支えを失ったショックは大きかった。
そして、父の憔悴が誰の目にも明らかになった折、
王室には新たな王妃が迎えられた。
再婚相手は、とある名家の未亡人。
早くに夫を亡くし、息子が1人いる。
こうして僕に義理の弟ができた。
一般家庭なら”異母兄弟”として仲良くすればいい。
だが、このときの僕には考えが及ばなかった。
自分が
「王位継承権:第1順位」であること。
義弟は、もしも僕がいなくなれば
「王位継承権:第1順位」になれるということを。
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『王子様、ちょっと我々と一緒に来てもらいます。』
『おとなしくしていれば、悪いようにはしませんので。』
ある夜、
自室で寝ていた僕は見知らぬ男たちに迫られた。
わけもわからないまま僕は連れ去られ、
街外れの古い塔へ幽閉された。
(突然、何なんだ…?)
父が再婚して数ヶ月、大きな変化は特になかった。
継母は連れ子である義弟を溺愛していたが、
僕や父に対しても優しく接してくれた。
父も少しずつ元気を取り戻し、
僕らはこのまま立ち直れるはずだった。
塔の外からは連日、行き交う人々の話し声が聞こえてきた。
『国王様は、変わってしまわれた…。』
『お優しい方だったのに…。』
父が突然、圧政を敷く暴君になったというのだ。
急に税金を跳ね上げ、強引な徴兵制で軍備を整えた。
税金を払えない者への処罰は重く、国民の生活は一気に悪化した。
(お父さまがそんなことをするはずがない)
(あの人はいつでも、国民の生活を第一に考えていたはずだ!)
塔内での数ヶ月は、そう信じる気力を僕から奪っていった。
ーーーーー
「新国王誕生」
「政治補佐に皇太后」
東欧の平和な国へ、激震が走った。
父が王座から引きずり降ろされ、
義弟が新国王へ、継母が実質的な摂政へ就任した。
これは、継母による国家乗っ取り計画だったのだ。
溺愛する息子を次期国王にし、自らは権力のトップに座るという。
『これでわかりましたか?元・王子様。』
毎日、僕に食事を運んでくる男は言った。
『あんたには気の毒だが、こっちも仕事なんでね。』
『恨むなら、王族として生まれたご自分を恨むんだな。』
「父は…国王は無事か?!」
『それは国民が決めるんじゃないかい?』
『まぁ、あれだけ民を苦しめたんだ。』
『少々、お怒りを買っててもおかしくないよな。』
「父と…国王と会わせてくれ!」
『そいつはできねぇ相談だ。』
『皇太后様へ頼むんだな。』
「…くッ…!」
『ああ、そうそう。こいつは独り言だが…。』
「?!」
『せっかく”第2王子”が王位継承したんだ。』
『第1王子が生きてちゃ、都 合 が 悪 い よなぁ。』
ーーーーー
数ヶ月後、
「元・国王、処刑」というニュースが流れた。
そして僕にも、同じ運命の足音が聞こえてきた。
執行人よ、安心してほしい。あなたが手を下すまでもない。
幽閉生活で衰弱した僕は、もうじき父の元へ逝けそうだから。
外から聞こえる話し声と、例の男たちが滑らせた口から、
僕は真実を知った。
父が突然、暴君となったのは、
息子である僕を人質に取られていたからだ。
継母が雇ったギャングに、僕を誘拐させる。
その命を盾に、継母の言うように政治システムをいじる。
「いくら家族でも、息子1人のために国民の生活を犠牲にはできない」
父はそう言って、継母の政治への介入を拒んだそうだ。
それでもすぐに王座を降ろされなかったのは、
父の評判を地に落とし、義弟への王位継承を自然にするため。
王が在位である限り、
『国民には、矢面に立っている人間が決めたように見えるから』だ…。
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(これが…王族に生まれた者の宿命か…。)
(なんだ…死ぬまで安楽な生活なんて…幻想じゃないか…。)
薄れゆく意識の中で、僕は自分の思慮の浅さを笑った。
王族に生まれることは、
権力争いの渦中に生まれることを意味するのだ。
望むと望まざるにかかわらず、
その地位に群がる者や、奪い取ろうとする者たちの欲望にさらされる。
簒奪者に命を脅かされる恐怖や、
失政による国民からの罵声と隣り合わせなのだ。
(お父さま、お母さま…もうじき、そちらへまいります…。)
(今度は、しがらみのない世界で…)
(平穏に、暮らしましょう、ね…。)
(…。)
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⇒PART5 -最終話-へ続く
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