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2018年02月08日
謝罪を回避できる「誤報」、できない誤報
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本日は、新聞記事の書き方の第7回目として、文末の特徴について説明します。
昨日紹介した毎日新聞の記事を改めて例に挙げます。
格安旅行会社「てるみくらぶ」(東京都渋谷区、破産手続き中)を巡る詐欺事件で、破産を見越して個人資産を隠したとして、警視庁捜査2課は7日にも、同社社長の山田千賀子被告(67)=詐欺罪などで起訴=を破産法違反(詐欺破産)の容疑で再逮捕する方針を固めた。
この「方針を固めた」という表現に注目してください。
新聞記事でよく目にすると思います。
この表現は「誤報」になることを回避するためによく使われます。
てるみくらぶの社長は実際に7日に再逮捕されたので、もちろん毎日新聞は胸を張って取材力を誇ればいいわけですが、もし再逮捕されなかったらどうなるでしょうか。
「記事を出した時点では再逮捕する方針だったが、きちんと決めたわけではなかったし、後になって状況が変化した」という言い訳ができる、というのが「方針を固めた」という表現を使う本音です。
でも、読者の立場で考えるとかなり苦しい言い訳に見えるかもしれません。
見通しが当たった記事を例にとって説明していても分かりにくいので、極めて誤報に近い記事だったにも関わらず、「固めた」のおかげで誤報扱いになっていない例を紹介します。
同じく毎日新聞の少し前の記事を例に取ります。以下は8月28日の一面トップに掲載された記事の内容です。https://mainichi.jp/articles/20170828/ddn/001/030/010000c
習氏後継に側近・陳氏内定 最高指導部入り
【北京・浦松丈二】秋の中国共産党第19回党大会で、習近平国家主席(64)の最側近として知られる陳敏爾(ちんびんじ)・重慶市党委書記(56)が党中央委員(約200人)から2段跳びで最高指導部の政治局常務委員会(7人)入りし、5年後に任期を終える習氏の後継者に内定する人事が固まった。複数の中国筋が27日明らかにした。
この記事は、「内定する人事が固まった」であって、「人事が決まった」ではありません。中国共産党大会は10月に開催されたので、約2カ月も前に日本のメディアによる隣国の最高指導部人事の「スクープ」として注目されました。
しかも、毎日は党大会開催直前の10月17日の段階で、「陳氏、中国副主席に内定」という記事をネット上に出しています。8月段階で報じた陳敏爾氏が政治局常務委員に昇格し、国家副主席に就任することが「内定した」としており、「内定する人事が固まった」よりもさらに強いトーンになっています。
https://mainichi.jp/articles/20171017/k00/00m/010/097000c
しかし、実際はこの2本の記事が伝えた見通しは間違っていました。
陳敏爾氏は政治局常務委員になることはありませんでした。国家副主席はまだ交代していませんが、どうやら別の人物が就任する可能性が濃厚なようです。
「誤報」が判明したとき、毎日は次のように書きました。https://mainichi.jp/articles/20171026/k00/00m/030/075000c
中国の習近平指導部の2期目がスタートした。江沢民元総書記、胡錦濤前総書記が2期目に入る際には次世代指導者を最高指導部の政治局常務委員入りさせて経験を積ませてきた。だが、今回は次世代指導者が入らなかった。一時は常務委員会入りが内定した陳敏爾(ちん・びんじ)・重慶市党委書記(57)ら第6世代指導者の登用が見送られた背景には激しい権力闘争があった。
「記事を書いた時点では正しかった」という言い訳の典型的な例です。
しかし、新聞の一面で世界に先駆けて、大国である中国の人事を書くとなると、相応の覚悟が必要です。この言い訳では、その覚悟が感じられません。
毎日は8月の記事も10月の記事も、取材源は「中国筋」としています。
この「筋」のいかがわしさについては前に「『消息筋』って誰のこと?」という記事で私は指摘しました。
他の日本メディアは、毎日新聞ほど確定的に陳敏爾氏の昇格と習氏の後継者内定について書いていませんでした。
香港をはじめとする海外メディアも毎日新聞のような形では陳敏爾氏の昇格について伝えていなかったようです。
それにしても、どうして10月にもダメ押しするような記事を書いたのでしょうか。よほどこの「中国筋」が信頼できると判断したのでしょうが、結果的には取材不足のまま書き飛ばしたと言わざるを得ません。
ところで、本日の産経新聞一面には、「おわびと削除」という記事が載っています。
http://www.sankei.com/affairs/news/180208/afr1802080005-n1.html
昨年12月に沖縄で起きた車6台の多重事故で一時意識不明となった米海兵隊員が「日本人男性を脱出させた」と報じた記事について、取材不足による誤報であったことを認めたものです。
産経の記事は沖縄の新聞社である琉球新報と沖縄タイムスが「(海兵隊員が脱出させたと)報じていない」と批判していたわけですが、これについても謝罪しました。
検証記事を見ると、海兵隊のコメントを得たものの、「沖縄県警に取材しなかった」という致命的なミスを認めています。
交通事故を記事にするためには、警察に取材することが必須です。
当事者の言い分を記者がいくら聞いても、事故の真相を究明するには限界があります。
事故に関する科学的な証拠を採取して分析する能力は警察にしかありません。これは警察が好きであろうがなかろうが、事実です。だから、記事を書く前に警察に確認しないといけません。
過ちを認めたことは評価しますが、お粗末ですね。
このところ、産経が読者層としている勢力の中から「沖縄2紙は偏向している」という見方が提起されています。今回の産経の失敗は、「読んでもらえる記事」を書こうという意識が強く働き、肝心の取材の基本をおろそかにしたのでしょう。
せめて、「県警は『海兵隊員の行動について確認できていない』としている」という一文があれば、救いがあったかもしれません。
それにしても、事実確認を怠って、他のメディアを非難するというのは職業倫理が問われますね。
各メディアの中でも、特に産経新聞を読む醍醐味は、敬意を抱きながらも疑いのまなざしでよく記事を読み込むことにあります。
根拠なき誹謗中傷は論外ですね。
引き続き質問をお待ちしています。
下のコメント欄にお書きください。
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新聞記事でよく目にすると思います。
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てるみくらぶの社長は実際に7日に再逮捕されたので、もちろん毎日新聞は胸を張って取材力を誇ればいいわけですが、もし再逮捕されなかったらどうなるでしょうか。
「記事を出した時点では再逮捕する方針だったが、きちんと決めたわけではなかったし、後になって状況が変化した」という言い訳ができる、というのが「方針を固めた」という表現を使う本音です。
でも、読者の立場で考えるとかなり苦しい言い訳に見えるかもしれません。
見通しが当たった記事を例にとって説明していても分かりにくいので、極めて誤報に近い記事だったにも関わらず、「固めた」のおかげで誤報扱いになっていない例を紹介します。
同じく毎日新聞の少し前の記事を例に取ります。以下は8月28日の一面トップに掲載された記事の内容です。https://mainichi.jp/articles/20170828/ddn/001/030/010000c
習氏後継に側近・陳氏内定 最高指導部入り
【北京・浦松丈二】秋の中国共産党第19回党大会で、習近平国家主席(64)の最側近として知られる陳敏爾(ちんびんじ)・重慶市党委書記(56)が党中央委員(約200人)から2段跳びで最高指導部の政治局常務委員会(7人)入りし、5年後に任期を終える習氏の後継者に内定する人事が固まった。複数の中国筋が27日明らかにした。
この記事は、「内定する人事が固まった」であって、「人事が決まった」ではありません。中国共産党大会は10月に開催されたので、約2カ月も前に日本のメディアによる隣国の最高指導部人事の「スクープ」として注目されました。
しかも、毎日は党大会開催直前の10月17日の段階で、「陳氏、中国副主席に内定」という記事をネット上に出しています。8月段階で報じた陳敏爾氏が政治局常務委員に昇格し、国家副主席に就任することが「内定した」としており、「内定する人事が固まった」よりもさらに強いトーンになっています。
https://mainichi.jp/articles/20171017/k00/00m/010/097000c
しかし、実際はこの2本の記事が伝えた見通しは間違っていました。
陳敏爾氏は政治局常務委員になることはありませんでした。国家副主席はまだ交代していませんが、どうやら別の人物が就任する可能性が濃厚なようです。
「誤報」が判明したとき、毎日は次のように書きました。https://mainichi.jp/articles/20171026/k00/00m/030/075000c
中国の習近平指導部の2期目がスタートした。江沢民元総書記、胡錦濤前総書記が2期目に入る際には次世代指導者を最高指導部の政治局常務委員入りさせて経験を積ませてきた。だが、今回は次世代指導者が入らなかった。一時は常務委員会入りが内定した陳敏爾(ちん・びんじ)・重慶市党委書記(57)ら第6世代指導者の登用が見送られた背景には激しい権力闘争があった。
「記事を書いた時点では正しかった」という言い訳の典型的な例です。
しかし、新聞の一面で世界に先駆けて、大国である中国の人事を書くとなると、相応の覚悟が必要です。この言い訳では、その覚悟が感じられません。
毎日は8月の記事も10月の記事も、取材源は「中国筋」としています。
この「筋」のいかがわしさについては前に「『消息筋』って誰のこと?」という記事で私は指摘しました。
他の日本メディアは、毎日新聞ほど確定的に陳敏爾氏の昇格と習氏の後継者内定について書いていませんでした。
香港をはじめとする海外メディアも毎日新聞のような形では陳敏爾氏の昇格について伝えていなかったようです。
それにしても、どうして10月にもダメ押しするような記事を書いたのでしょうか。よほどこの「中国筋」が信頼できると判断したのでしょうが、結果的には取材不足のまま書き飛ばしたと言わざるを得ません。
ところで、本日の産経新聞一面には、「おわびと削除」という記事が載っています。
http://www.sankei.com/affairs/news/180208/afr1802080005-n1.html
昨年12月に沖縄で起きた車6台の多重事故で一時意識不明となった米海兵隊員が「日本人男性を脱出させた」と報じた記事について、取材不足による誤報であったことを認めたものです。
産経の記事は沖縄の新聞社である琉球新報と沖縄タイムスが「(海兵隊員が脱出させたと)報じていない」と批判していたわけですが、これについても謝罪しました。
検証記事を見ると、海兵隊のコメントを得たものの、「沖縄県警に取材しなかった」という致命的なミスを認めています。
交通事故を記事にするためには、警察に取材することが必須です。
当事者の言い分を記者がいくら聞いても、事故の真相を究明するには限界があります。
事故に関する科学的な証拠を採取して分析する能力は警察にしかありません。これは警察が好きであろうがなかろうが、事実です。だから、記事を書く前に警察に確認しないといけません。
過ちを認めたことは評価しますが、お粗末ですね。
このところ、産経が読者層としている勢力の中から「沖縄2紙は偏向している」という見方が提起されています。今回の産経の失敗は、「読んでもらえる記事」を書こうという意識が強く働き、肝心の取材の基本をおろそかにしたのでしょう。
せめて、「県警は『海兵隊員の行動について確認できていない』としている」という一文があれば、救いがあったかもしれません。
それにしても、事実確認を怠って、他のメディアを非難するというのは職業倫理が問われますね。
各メディアの中でも、特に産経新聞を読む醍醐味は、敬意を抱きながらも疑いのまなざしでよく記事を読み込むことにあります。
根拠なき誹謗中傷は論外ですね。
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