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2018年02月01日
記事の中身は見出し次第 新聞記事の書き方1
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本日からしばらく新聞記者がどのようにして記事を書くのかについてお伝えします。
あくまで私個人の経験に基づいているので、すべての新聞社の記者全員に当てはまることばかりではないかもしれないことをご理解ください。また、用語は新聞社や地域によって微妙に異なりますが、ここでは新聞協会に従います。http://nie.jp/newspaper/feature/
取材を一通り終えた後、「さあ、これから書くぞ」となったときに、記者は何をするでしょうか。
いきなり本文に手を付ける人もいるのですが、私は「見出し」を考えました。記事の内容がどれだけ良くても、見出しが悪ければ、記事全体が悪い評価を受けてしまうからです。
今日の新聞からその具体例を取り上げてみます。
見出しとは、皆さんもご存じのように新聞記事の内容が一目で分かるように付けられたタイトルに当たるものです。
小説の題は抽象的でどんな話なのか全く想像できないものがありますし、学術論文であれば極めて長く難解な用語を使ったものもあります。
しかし、新聞の見出しは簡潔でしかも中身が分かるように考えられています。
最終的な見出しを決定するのは、整理部という紙面のレイアウトを担当する部署です。だから、記者は厳密に考える必要はないのですが、私は見出しを重視していました。
というのも、記事の中身は読まないけれど、見出しは必ずすべて確認するという人がいます。見出しを見て気になった記事についてはしっかりと読むという人が大半でしょう。私自身もそうです。
自分が苦労した成果を多くの人に知ってもらうためには、まず見出しがしっかりしていないといけません。
最終的には整理部員が決定するとはいえ、見出しがしっかりしていると、記事の執筆もスムーズに進みます。
なぜなら、先に見出しを決めるということは、自分が取材した大量の情報の中から、最も大事な一つの要素を取り出すことになるからです。家を建てるときに柱を先に組むのと同じです。
自分の頭の中を整理せず、やみくもに何となく書き始めてしまうと、あれも大事、これも大事でしまりのない原稿になってしまいます。若手の頃はそういうことがよくあり、上司に叱責されました。
新聞の見出しを考えるのと同じような発想をしていると、面接でも役立つと思います。
皆さんが面接を受けるとき、相手の質問の意図を捉えて、最初に端的に答えた後、その理由や背景を説明すれば、かなり印象が良くなると思います。
さて、本日の新聞から具体例を挙げましょう。
日本経済新聞一面を見ると、トップ記事として「米ゼロックスを買収」が掲載されています。この部分を「主見出し」といいます。
その横に、「袖見出し(脇見出しとか二本目の見出しと呼ばれることもあります)」として「富士フイルム、日米統合」とあります。
これだけ読めば、「日本企業の富士フイルムが米国企業のゼロックスを買収して経営統合される」ということが分かります。(ここでは日米のゼロックスの歴史については省略します。関心のある方はご自分で記事を読んだり、調べたりしてください。でも、企業名だけはきちんと確認しておいてください。「富士フイルム」です。「イ」は小さな「ィ」ではありません。企業名にはこのような間違えやすい表記があるので気を付けてください)
でも、記事の中身を見ると、複雑な株式のやり取りが書かれています。前文(記事の冒頭部分のこと。「リード」ともいいます)の書き出しは、次のようになっています。
富士フイルムホールディングス(HD)は31日、米事務機大手のゼロックスを買収すると発表した。富士フイルムHDがゼロックス株の50.1%を取得する。同時に共同出資会社の富士ゼロックスをゼロックスが完全子会社化する。
企業買収に関する原稿を書こうとすると、手続きの細部をしっかり詰めて、数字を間違えないようにしないといけません。この記事では「50.1%」が重要ですね。読み進むと、どのように株を持ち合って、最終的に富士フイルムが経営統合するのかが分かります。
原稿執筆の段階で、記者の頭の中は細かいデータで一杯になっています。しかも、最も重要で具体的なものは何かと考えたときに、頭が整理できていないと、「富士フイルム、米ゼロックス株50.1%取得へ」とやりかねません。「そんな分かりにくい見出しを付けるわけがない」という声が聞こえそうですが、時間との競争で書いていると焦りもあり、変なことをやってしまうことはよくあるのです。
だからこそ、私自身は記事を書く前にできるだけ頭を冷やして見出しを考えるようにしていたのです(でも、それができるようになっていたのは、「中堅」と呼ばれるようになっていた頃です。「若手」のうちからできていれば、良かったのですが…)。
ところで、同じ内容の本日付の朝日新聞の記事を見てみましょう。日経とは少し違う見出しになっています。
朝日の一面には「日米ゼロックス統合へ 富士フィルム 国内外1万人削減」という見出しが出ています。
リードは「富士フイルムホールディングスは31日、米国の事務機器大手ゼロクスを買収すると発表した。両社が出資する複合機大手の富士ゼロックスは、買収する米ゼロックスの完全子会社にして経営統合する」となっています。
もちろん日経と記事の内容は同じなのですが、見出しだけを見ると、日経と朝日は印象が異なります。
「統合」とは「いくつかのものを一つにまとめること」の意味ですね。
つまり、朝日の見出しに従えば、「日本と米国のゼロックスが経営統合され、その効果により富士フイルムで働く日本と海外の1万人の社員を減らすリストラが行われる」ということしか分かりません。これでは、「富士フイルムがゼロックスの親会社になる」という重要な事実が抜けていることになります。「米ゼロックスが富士フイルムを買収する」という反対の意味に解釈することもできます。
最近の富士フイルムと米ゼロックスの経営状況をよく知っている人であれば、「日米ゼロックス統合」という言葉を見て、「富士フイルムが米国のゼロックスを買収する」と理解できるかもしれません。しかし、朝日の読者の何割が、そのことを知っているでしょうか。
私は知りませんでした。かつて「コピーする」という意味で「ゼロックスする」という言葉を使っていたことを私は覚えています。英語の辞書にも、xeroxという動詞のこの用法(to make a copy of a document using a Xerox or other copying machine)が載っています。
若い人には想像できないでしょうが、かつてのゼロックス社とは、世界の複合機メーカーの中でも圧倒的なトップ企業でした。古い世代にとっては、いくら今の富士フイルムが世界的な超優良企業であっても、「あのゼロックスを買収するとは…」という思いがあります。
朝日の見出しでは、重要な事実関係が抜け落ちているだけでなく、その驚きを読者と共有することもできません。
しかも、朝日の記事は、内容が分かりにくいのです。
買収の手順が2段落目に書いてあります。
まず富士フイルムが、子会社の富士ゼロックスから75%の出資を引き揚げ、米ゼロックスが出資比率を25%から100%に変更。続けて富士フイルムは米ゼロックスが発行する新株を約6700億円で買い取って50.1%出資する。
正確なのでしょう。しかし、いきなり複雑な手続きを書いても、読者には伝わりにくいですね。
これに対して、日経は2段落目に富士フイルムHDとゼロックスの経営者の発言を紹介し、買収の意義について書いています。その上で、株式のやり取りが書かれています。書き方も丁寧で分かりやすいですね。しかも、ちょうどその株式売買が書かれている部分の隣に今回の経営統合に関する分かりやすいグラフィックが載せられています。日経と朝日では企業買収に対するニュース価値の判断が異なるので、仕方がないところだとは思いますが。
ところで、日経の見出しが絶妙なのは「米ゼロックスを買収」であって、「米ゼロックス買収」ではないことです。
見出しは短ければ短いほどよいので、ひらがなの部分はできる限り削ります。だから、日経も朝日も「買収する」「統合する」「削減する」ではなく、「買収」「統合」「削減」となっています。
こういうわけで、助詞も省略する対象になるのですが、助詞は重要な意味を含むので、省略できないことも多々あります。
日経の見出しの「を」を取って、「米ゼロックス買収」としてしまうと、私のように「ゼロックスとは世界一の複写機メーカー」という思い込みがある人間は「米ゼロックスが富士フイルムを買収した」と勘違いしてしまう可能性があります。
日経と朝日で同じ内容で、一見すると似たような見出しなのに、どれだけ異なるかが分かっていただけたでしょうか。
見出しというのは非常に重要なので、実はまだ説明することがあります。
明日以降に続きを書きます。
最後になりますが、このブログの記事の最初にある「タイトル」は「見出し」ではありません。
私は、今回説明した新聞の見出しの付け方とは異なる発想で「タイトル」を付けています。
というのも、このブログはもともとが新聞社を志望する就活生の方を読者として想定しています。
しかも、毎日少しずつ読んでいただくことが前提です。
だから、新聞の見出しというよりは、本の目次に近いもの考えて、ブログ記事に「タイトル」を付けています。
とはいえ、「この見出しだと読まれるだろうな」と思ってタイトルを付けた記事はたくさんの人に読んでもらっていますね。
やはり「見出し」は大事です。
引き続き質問をお待ちしています。
下のコメント欄にお書きください。
日中、気になったニュースをリツイートしたり、つぶやいたりしています。
https://fanblogs.jp/sagamimuneo/
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本日からしばらく新聞記者がどのようにして記事を書くのかについてお伝えします。
あくまで私個人の経験に基づいているので、すべての新聞社の記者全員に当てはまることばかりではないかもしれないことをご理解ください。また、用語は新聞社や地域によって微妙に異なりますが、ここでは新聞協会に従います。http://nie.jp/newspaper/feature/
取材を一通り終えた後、「さあ、これから書くぞ」となったときに、記者は何をするでしょうか。
いきなり本文に手を付ける人もいるのですが、私は「見出し」を考えました。記事の内容がどれだけ良くても、見出しが悪ければ、記事全体が悪い評価を受けてしまうからです。
今日の新聞からその具体例を取り上げてみます。
見出しとは、皆さんもご存じのように新聞記事の内容が一目で分かるように付けられたタイトルに当たるものです。
小説の題は抽象的でどんな話なのか全く想像できないものがありますし、学術論文であれば極めて長く難解な用語を使ったものもあります。
しかし、新聞の見出しは簡潔でしかも中身が分かるように考えられています。
最終的な見出しを決定するのは、整理部という紙面のレイアウトを担当する部署です。だから、記者は厳密に考える必要はないのですが、私は見出しを重視していました。
というのも、記事の中身は読まないけれど、見出しは必ずすべて確認するという人がいます。見出しを見て気になった記事についてはしっかりと読むという人が大半でしょう。私自身もそうです。
自分が苦労した成果を多くの人に知ってもらうためには、まず見出しがしっかりしていないといけません。
最終的には整理部員が決定するとはいえ、見出しがしっかりしていると、記事の執筆もスムーズに進みます。
なぜなら、先に見出しを決めるということは、自分が取材した大量の情報の中から、最も大事な一つの要素を取り出すことになるからです。家を建てるときに柱を先に組むのと同じです。
自分の頭の中を整理せず、やみくもに何となく書き始めてしまうと、あれも大事、これも大事でしまりのない原稿になってしまいます。若手の頃はそういうことがよくあり、上司に叱責されました。
新聞の見出しを考えるのと同じような発想をしていると、面接でも役立つと思います。
皆さんが面接を受けるとき、相手の質問の意図を捉えて、最初に端的に答えた後、その理由や背景を説明すれば、かなり印象が良くなると思います。
さて、本日の新聞から具体例を挙げましょう。
日本経済新聞一面を見ると、トップ記事として「米ゼロックスを買収」が掲載されています。この部分を「主見出し」といいます。
その横に、「袖見出し(脇見出しとか二本目の見出しと呼ばれることもあります)」として「富士フイルム、日米統合」とあります。
これだけ読めば、「日本企業の富士フイルムが米国企業のゼロックスを買収して経営統合される」ということが分かります。(ここでは日米のゼロックスの歴史については省略します。関心のある方はご自分で記事を読んだり、調べたりしてください。でも、企業名だけはきちんと確認しておいてください。「富士フイルム」です。「イ」は小さな「ィ」ではありません。企業名にはこのような間違えやすい表記があるので気を付けてください)
でも、記事の中身を見ると、複雑な株式のやり取りが書かれています。前文(記事の冒頭部分のこと。「リード」ともいいます)の書き出しは、次のようになっています。
富士フイルムホールディングス(HD)は31日、米事務機大手のゼロックスを買収すると発表した。富士フイルムHDがゼロックス株の50.1%を取得する。同時に共同出資会社の富士ゼロックスをゼロックスが完全子会社化する。
企業買収に関する原稿を書こうとすると、手続きの細部をしっかり詰めて、数字を間違えないようにしないといけません。この記事では「50.1%」が重要ですね。読み進むと、どのように株を持ち合って、最終的に富士フイルムが経営統合するのかが分かります。
原稿執筆の段階で、記者の頭の中は細かいデータで一杯になっています。しかも、最も重要で具体的なものは何かと考えたときに、頭が整理できていないと、「富士フイルム、米ゼロックス株50.1%取得へ」とやりかねません。「そんな分かりにくい見出しを付けるわけがない」という声が聞こえそうですが、時間との競争で書いていると焦りもあり、変なことをやってしまうことはよくあるのです。
だからこそ、私自身は記事を書く前にできるだけ頭を冷やして見出しを考えるようにしていたのです(でも、それができるようになっていたのは、「中堅」と呼ばれるようになっていた頃です。「若手」のうちからできていれば、良かったのですが…)。
ところで、同じ内容の本日付の朝日新聞の記事を見てみましょう。日経とは少し違う見出しになっています。
朝日の一面には「日米ゼロックス統合へ 富士フィルム 国内外1万人削減」という見出しが出ています。
リードは「富士フイルムホールディングスは31日、米国の事務機器大手ゼロクスを買収すると発表した。両社が出資する複合機大手の富士ゼロックスは、買収する米ゼロックスの完全子会社にして経営統合する」となっています。
もちろん日経と記事の内容は同じなのですが、見出しだけを見ると、日経と朝日は印象が異なります。
「統合」とは「いくつかのものを一つにまとめること」の意味ですね。
つまり、朝日の見出しに従えば、「日本と米国のゼロックスが経営統合され、その効果により富士フイルムで働く日本と海外の1万人の社員を減らすリストラが行われる」ということしか分かりません。これでは、「富士フイルムがゼロックスの親会社になる」という重要な事実が抜けていることになります。「米ゼロックスが富士フイルムを買収する」という反対の意味に解釈することもできます。
最近の富士フイルムと米ゼロックスの経営状況をよく知っている人であれば、「日米ゼロックス統合」という言葉を見て、「富士フイルムが米国のゼロックスを買収する」と理解できるかもしれません。しかし、朝日の読者の何割が、そのことを知っているでしょうか。
私は知りませんでした。かつて「コピーする」という意味で「ゼロックスする」という言葉を使っていたことを私は覚えています。英語の辞書にも、xeroxという動詞のこの用法(to make a copy of a document using a Xerox or other copying machine)が載っています。
若い人には想像できないでしょうが、かつてのゼロックス社とは、世界の複合機メーカーの中でも圧倒的なトップ企業でした。古い世代にとっては、いくら今の富士フイルムが世界的な超優良企業であっても、「あのゼロックスを買収するとは…」という思いがあります。
朝日の見出しでは、重要な事実関係が抜け落ちているだけでなく、その驚きを読者と共有することもできません。
しかも、朝日の記事は、内容が分かりにくいのです。
買収の手順が2段落目に書いてあります。
まず富士フイルムが、子会社の富士ゼロックスから75%の出資を引き揚げ、米ゼロックスが出資比率を25%から100%に変更。続けて富士フイルムは米ゼロックスが発行する新株を約6700億円で買い取って50.1%出資する。
正確なのでしょう。しかし、いきなり複雑な手続きを書いても、読者には伝わりにくいですね。
これに対して、日経は2段落目に富士フイルムHDとゼロックスの経営者の発言を紹介し、買収の意義について書いています。その上で、株式のやり取りが書かれています。書き方も丁寧で分かりやすいですね。しかも、ちょうどその株式売買が書かれている部分の隣に今回の経営統合に関する分かりやすいグラフィックが載せられています。日経と朝日では企業買収に対するニュース価値の判断が異なるので、仕方がないところだとは思いますが。
ところで、日経の見出しが絶妙なのは「米ゼロックスを買収」であって、「米ゼロックス買収」ではないことです。
見出しは短ければ短いほどよいので、ひらがなの部分はできる限り削ります。だから、日経も朝日も「買収する」「統合する」「削減する」ではなく、「買収」「統合」「削減」となっています。
こういうわけで、助詞も省略する対象になるのですが、助詞は重要な意味を含むので、省略できないことも多々あります。
日経の見出しの「を」を取って、「米ゼロックス買収」としてしまうと、私のように「ゼロックスとは世界一の複写機メーカー」という思い込みがある人間は「米ゼロックスが富士フイルムを買収した」と勘違いしてしまう可能性があります。
日経と朝日で同じ内容で、一見すると似たような見出しなのに、どれだけ異なるかが分かっていただけたでしょうか。
見出しというのは非常に重要なので、実はまだ説明することがあります。
明日以降に続きを書きます。
最後になりますが、このブログの記事の最初にある「タイトル」は「見出し」ではありません。
私は、今回説明した新聞の見出しの付け方とは異なる発想で「タイトル」を付けています。
というのも、このブログはもともとが新聞社を志望する就活生の方を読者として想定しています。
しかも、毎日少しずつ読んでいただくことが前提です。
だから、新聞の見出しというよりは、本の目次に近いもの考えて、ブログ記事に「タイトル」を付けています。
とはいえ、「この見出しだと読まれるだろうな」と思ってタイトルを付けた記事はたくさんの人に読んでもらっていますね。
やはり「見出し」は大事です。
引き続き質問をお待ちしています。
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