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2021年01月27日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,34

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,34





「夜の八時に行水を使わせる。海水浴で日に焼けたのがまだ直らない。丁度海水着を着ていた所だけが白くて、後は真っ黒で、私もそうだがナオミは生地が白いから、余計カッキリと眼について、裸でいても海水着を着ている様だ。

お前の体は縞馬の様だと言ったら、ナオミはおかしがって笑った。・・・・・・」



それから一月ばかり立って、十月十七日の条には、

「日に焼けたり皮が剥(は)げたりしていたのだがだんだん直ったと思ったら、かえって前よりつやつやしい非常に美しい肌になった。



私が腕を洗ってやったら、ナオミは黙って、肌の上を溶けて流れて行くシャボンの泡を見つめていた。

『綺麗だね』と私が言ったら、『ほんとに綺麗ね』と彼女は言って、『シャボンの泡がよ』と付け加えた。・・・・・・」



次に十一月の五日、

「今夜始めて西洋風呂を使って見る。馴れないので、ナオミはつるつる湯の中で滑ってきゃっきゃっと笑った。

『大きなベビーさん』と私が言ったら、私の事を『パパさん』と彼女が言った。・・・・・・」



そうです。この「ベビーさん」と「パパさん」とはそれから後もしばしば出ました。

ナオミが何かをねだったり、だだを捏(こ)ねたりする時は、いつもふざけて私を「パパさん」と呼んだものです。



「ナオミの成長」と、その日記委はそういう標題が付いていました。ですからそれを言うまでもなく、ナオミに関した事柄ばかりを記したもので、やがて私は写真機を買い、いよいよメリー・ピクフォードに似て来る彼女の顔を様々な光線や角度から映し撮っては、記事の間のところどころへ貼り付けたりしました。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。




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