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2021年01月26日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,31


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,31





で、ナオミのように撫で肩で、頸が長いものは、着物を脱ぐと痩せているのが普通ですが、彼女はそれと反対で、思いのほかに厚みのある、たっぷりとした立派な肩と、以下にも呼吸の強そうな胸を持っていました。



ボタンを嵌めてやる折に、彼女が深く息を吸ったり、腕を動かして背中の肉にもくもくと波を打たせたりすると、それでなくともハチ切れそうな海水服は、丘のように盛り上がった肩の所に一杯に伸びて、ぴんと弾けてしまいそうになるのです。



一と口に言えば、それは実に力の籠(こも)った「若さ」と「美しさ」の感じの溢れた肩でした。

私は内々その辺りにいる多くの少女と比較して見ましたが、彼女の様に健康は肩と優雅な頸とを兼ね備えているものは外にないような気がしました。



「ナオミちゃん、少うしじッとしておいでよ、そう動いちゃボタンが固くって嵌まりゃしない」

と言いながら、私は海水服の端を摘まんで大きな物を袋の中に詰めるように、無理にその肩を押し込んでやるのが常でした。



こういう体格を持っていた彼女が、運動好きで、お転婆だったのは当たり前だと言わなければなりません。

実際ナオミは手足を使ってやることなら何ごとに依らず器用でした。



水泳などは鎌倉の三日を皮切りにして、後は大森の海岸で毎日一生懸命に習って、その夏中にとうとうものにしてしまい、

ボートを漕いだり、ヨットを操ったり、いろんな事が出来るようになりました。



そして一日遊び抜いて、日が暮れるとガッカリ疲れて

「ああ、くたびれた」



と言いながら、ビッショリ濡れた海水着を持って帰って来る。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。











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