2021年01月23日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,25
「痴人の愛」本文 角川文庫刊 vol,25
と、彼女はその獅子ッ鼻の先を、ちょいとしゃくって意を得たように笑いました。
悪く言えば小生意気なこの鼻先の笑い方が彼女の癖ではありましたけれど、それがかえって私の眼にはたいへん利口そうに見えたのです。
以上、第3章 完
■■四■■
ナオミがしきりに
「鎌倉に連れてッてよう!」
とねだるので、
ほんの二三日の滞在のつもりで出かけたのは八月の初めごろでした。
「なぜ二三日でなけりゃいけないの?行くなら十日か一週間ぐらい行っていなけりゃ詰まらないわ」
彼女はそう言って、出がけに一寸不平そうな顔をしましたが、何分私は会社の方が忙しいという口実の下に郷里を引き揚げて来たのですから、それがバレルと母親の手前、少し具合が悪いのでした。
が、そんなことを言うと、帰って彼女が肩身の狭い思いをするであろうと察して、
「ま、今年はニ三日で我慢をしてお置き、来年は何処か変わった所へ連れて行ってあげるから。ね、いいじゃないか」
「だって、たった二三日じゃあ」
「そりゃそうだけれども、泳ぎたけりゃ帰って来てから、大森の海岸で泳げばいいじゃないか」
「あんな汚い海で泳げやしないわ」
「そんな分らないことを言うもんじゃないよ、ね、いい児だからそうおし、その代わり何か着物を買ってやるから。そう、そう、お前は洋服が欲しいと言っていたじゃないか、だから洋服を拵えてあげよう」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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