2021年01月23日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,24
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,24
「おッ母さんが縫ってくれたの」
「内の評判はどうだったい、見立てが上手だと言わなかったかい」
「ええ、言ったわ、悪くはないけれど、あんまり柄がハイカラ過ぎるって、」
「おッ母さんがそう言うのかい」
「ええ、そう、内の人たちには何にも分りゃしないのよ」
そう言って彼女は、遠い所を見つめるような眼つきをしながら、
「みんながあたしを、すっかり変わったって言ってたわ」
「どんな風に変わったって?」
「恐ろしくハイカラになっちゃったって」
「そりゃそうだろう、僕が見たってそうだからなあ」
「そうか知ら。一遍頭を日本髪に結って御覧って言われたけど、あたしイヤだから結わなかったわ」
「じゃあそのリボンは?」
「これ?これはアタシが仲店へ行って自分で買ったの。どう?」
と言って、頸をひねって、さらさらとした油気の無い髪を風に吹かせながら、そこにひらひらと舞っている鴇(とき)色の布を私の方へ示しました。
「ああ、よく映るね、こうしたほうが日本髪よりいくらいいか知れやしない」
「ふん」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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