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2021年01月21日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,17


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,17



勿論私の郷里の方へも、今度下宿を引き払って一軒家を持ったこと、女中代わりに十五になる少女を雇い入れた事、などを知らせてやりましたけれど、彼女と「友達の様に」暮らすとは言ってやりませんでした。



国の方から身内の者が訪ねて来ることはめったにないのだし、いずれそのうち、知らせる必要が起こった場合には知らせてやろうと、そう考えていたのです。



私たちは暫くの間、この珍しい新居にふさわしいいろいろの家具を買い求め、それらをそれぞれ配置したり飾り付けたりするために、忙しい、しかし楽しい月日を送りました。



私はなるべく彼女の朱みうを啓発するように、ちょっとした買い物をするのにも自分一人では決めないで、彼女の意見を言わせるようにし、彼女の頭から出る考えを出来るだけ採用したものですが、元々箪笥だの長火箸だのと言う様な、ありきたりの世帯道具は置き所の無い家で在るだけ、従って選択も自由であり、どうでも自分らの好きなように意匠を施せるのでした。



わたしたちは印度更紗の安物を見つけて来て、それをナオミが危なっかしい手つきで縫って窓かけに作り、芝口の西洋家具屋から古い籐椅子だの、テーブルだのを捜して来てアトリエに並べ、壁にはメリー・ピクフォードを始め、アメリカの活動女優の写真を二つ三つ吊るしました。



そして私は寝道具なども、出来る事なら西洋流にしたいと思ったのですけれど、ベッドを二つも買うとなると入費がかかるばかりでなく、夜具蒲団なら田舎の家から送ってもらえる便宜が在るので、とうとうそれはあきらめなければなりませんでした。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。













































































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