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2020年06月29日

星々の舟 村上由佳著 文春文庫

人は、人との関係性を認識することによって人となる。家族もそうだし、学校や会社もそう、子供会や町内会だってそう。そこで社会性を身につけて、社会的人格が作られる。でも、その社会性なるものが単なる幻想だったとしたら。この世の中というものが壮大な夢であったとしたら。その夢が醒めた時に、人は、人との関係をやはり欲するのか。

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祖母の死をきっかけに、祖父、息子娘、孫、の人生の出来事が連作形式で語られる。そこで浮き彫りにされるのが人との関わり。社会性という表面的な関わりではなく、血という根源的な関わりをもとに家族という単位を紐解いていく。どうしようもなく結びついてしまう血のつながり。これは現代社会に対するアンチテーゼであり、同時に果てしなく想うロマンでもある。

作者の筆力で読後感はすっきりしているものの、目の奥にドロリとしたしこりを残す作品。

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完全なる首長竜の日 乾緑郎著 宝島社文庫

面白かった。

「このミス」大賞を受賞しているんだけど、ミステリーかと言われたらちょっと首をひねるかも知れない。ミステリーやホラーのヘビーな読み手だったらすぐ見破れそうな設定は、陳腐という謗りを受ける危険性もはらんでいる。実際、アイディアにしろストーリーにしろ目新しさは無い。謎解きをするにはあまりにも単純で、哲学や心理学はツールとして使われているに過ぎない。この作品の見るべきところはそこではないだろう。

物語は、最初から最後までたゆたっている。作中で時系列は無意味なものになっていくが、上下を180度ひっくりかえしても音楽として成立している楽譜のように、逆に読んでいってもこの作品の価値は変わらないだろう。それぞれの事象はストーリーの推進力にならずに、ただそこにあるだけだ。池に波をたてても、そこに浮いている葉は波に押し流されるわけでもなくただ波間に揺れるだけのように。

ちょっと不思議な味わいの作品。

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神去なあなあ日常 三浦しをん 徳間文庫

ある日突然林業の村神去村に放り込まれることになった主人公の平野勇気。彼の一人称形式で神去村の住民や風俗が描かれていくうちに、勇気にとって神去村はとても大事な土地になっていく。

帯に「林業エンタテインメント小説の傑作」とあるように堅苦しい小説ではないので、とても面白く読み進むことができる。主人公勇気の成長物語としても面白い。

ところが、一筋縄でいかない奥の深さを持ってるのがこの作者の特徴。

まず、明らかにはされていないが、勇気が村に来る時のルートや村の立地を考えると神去村は熊野にある。熊野といえば、中上健次が生涯をかけて土地と血族を書いた場所であり、言うまでもなく世界遺産でもあり、神様の住むところ。作者はこの舞台を設定することで、物語の根底に重厚さや荘厳さを敷くことに成功している。そして、「よそ者」である勇気が住民に受け入れられていく過程で、文化人類学的なキーパーソンが各所に配置されている。また、クライマックスである第四章の描写は、大江健三郎「同時代ゲーム」の一場面と非常に似通っている。「同時代ゲーム」の舞台も四国の山であり、そこも神様の住むところだ。

これらのことを、十分な筆力を持つ作者が意識しないわけはない。神との関わりの中から、土地と血の問題が浮き上がる。

このテーマでシリアスなものを、この作者で読んでみたいと思った。

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夜行観覧車 湊かなえ 双葉文庫

通勤電車で気軽に読めそうなものを、と購入。とはいえ、あまりにも全体として薄すぎ。クロフツから刑事コロンボに至る倒叙推理のフォーマットではあるんだけど、帯にある「どこの家庭でも起こりうること」とは「誰でも想像できること」であると見透かされた時点で、エンタテインメントとしては失格なんではないか。実際、事実の方がもっと狂気をはらんでいるでしょう。

確かに読ませる筆力はあるものの、私の読みたい物語はこれではない。

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まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん 文春文庫

人を殺めた記憶に脅かされた頃がある。そんなことはないはずなんだけど、夢にまで出てきて寝るのが恐ろしかった。
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まほろ市というから架空の街の話。最初はなんか安っぽいテレビドラマみたいだなと思わせるのが作者の手で、軽妙な語り口で表層を描くことで人の心をえぐりこむ。日本の私小説の伝統だ。

人は多かれ少なかれ心の中に闇を持っている。それとうまく付き合うようになるのが大人になるということだろう。自分に欠落したものがあると発見すると、人は恐れおののく。まあしょうがないやと忘れる努力をすることくらいしかできないが、時々それを武器とする覚悟を持った人がいる。まさに作者がそれで、この作品でも中盤までのストーリーテラーぶりに騙されると、後半で舌舐めずりしていた鋭利な刃にバッサリやられる。そのおかげで心の奥底にしまいこんでいた闇を思い出してしまった。まったく罪な人だ。

直木賞も納得の一冊。

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ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦 角川文庫

「日本SF大賞受賞作」に惹かれて購入。

小学四年生のアオヤマ君の、ほのぼのとした日常の中に、突然不思議な現象が起こり、そして避けようのない重大な問題が横たわるようになる。しかし、いくら重大な問題でも、アオヤマ君にとっては、クラスにいじめっこがいるとか、街の川の源泉はどうなっているんだろうとかと、問題としては同列だ。さすが小学生、世界が狭い(笑)。そしてアオヤマ君が問題のまわりをうろうろするだけで(アオヤマ君はきわめてマジメなんだけど)物語は終焉を迎えてしまう。

うーん、この物語世界、なんか既視感がある。収束しないメタファー、価値の転倒、トリックスターの存在。

もちろん、アオヤマ君と友達やお姉さんたちの紡ぐ物語を望郷の思いで読むこともできるけど、かなり意識的に設計された物語だとも思われる。「ペンギンは何かの意味をまとっているんだろうか」と考えた途端に、作者の仕掛けたパラドックスに迷いこんでしまう。ペンギンはペンギンでしかない。

夏目漱石、大江健三郎、村上春樹と続く系譜にある一冊。

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重力とは何か 大栗博司 幻冬舎新書

面白かったです。相対性理論から量子力学、超弦理論までを平易に解説してくれます。それぞれの理論の概要をつかんでおくとより理解が深まるんですが、難しい数式がいっさい出てこず、巧みな例えと随所に出てくる科学者のエピソードで一気に読めてしまいます。

そして著者もはじめに書いていますが、終わりがけにひとつの大きな仕掛けがあります。ネタバレ厳禁なのでこれ以上書きませんが、「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティ)「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ)級のカタルシスです。

現代物理学は哲学的な部分もあるので(書内にプラトンやニーチェも登場します)、文系の方にもお薦めです。もしかしたら、余計な先入観が無いだけ想像力豊かに読めるかもしれません。

またこの著者、若い。若くて頭が良くて文章もうまい。二個上だもんなあ、それに比べて自分は…というのは無しにして(笑)。

とにかく、こんな良質なエンタテインメントとして成立している科学解説書を読んだのは久しぶりです。是非ご一読を。

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薔薇の名前(上) [ ウンベルト・エーコ ]

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薔薇の名前(下) [ ウンベルト・エーコ ]

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レッド・ツェッペリン 「IV」

言わずと知れた「天国への階段」の入ったツェッペリンの4枚目のアルバム。

高校生の頃はギター小僧だったので、天国への階段は当然コピーしました。基本的にはパープル大好きリッチー大好きだったんですが、ストラトで天国への階段を弾いてもなんとも雰囲気が出なかったので、そのためにグレコのレスポールモデルを買った覚えがあります。日本人ですから、形から入るんです。

でも、実はこのアルバムの中で一番好きなのは「ブラック・ドッグ」。まず、ツェッペリンはどれもそうなんですが、ギターのリフがカッコいい。で、ドラムが入ってくると、拍の表と裏がわかんなくなって、気持ち悪くて気持ちいい。また、ジミー・ペイジのギターが突っ込んで早くなってくのに、ジョン・ボーナムのドラムが重くて合ってんだか合ってないんだかと思ってると、頭が合うところでバチっと決まってカ・イ・カ・ン(古い)。

ジョン・ボーナムのドラム、好きでしたねー。高校一年の年にジョン・レノンとジョン・ボーナムが亡くなってるんですが、ジョン・レノンに比べるとジョン・ボーナムの扱いが小さくて、一人憤ってましたね。ジョン・ボーナムの方がスゲー人だろうよ、って。

ジョン・ボーナムが亡くなって、急激にツェッペリン熱が冷めていったんですが、今聴くとハズレのアルバムが無いですね、ツェッペリンって。

まったくもって、奇跡のバンドです。あー、ギター弾きたくなった。

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とみたゆう子 「COLOURS」

30年以上前に、FM愛知で「とみたゆう子のマインドスケッチ」という深夜番組がやっていて、大学の受験勉強の傍ら聞いていました。

おしゃべりをしながらかけるのが、ホール&オーツやREOスピードワゴンだったので聞いていたんですが、とみたゆう子自身の曲ももちろんかけてました。

名古屋ローカルの深夜番組なので、投稿すると採用されるんですよね。オールナイト・ニッポンでは一回も読まれたことなかったのに、採用されるともらえるとみたゆう子のサイン色紙が5枚くらいたまりました。

で、LPを買って、クリスマス・コンサートにも行き(受験生なのに)、大学に入ってからは実際に収録しているところに会いに行き、まあ、結構なファンでした。

4枚目のLPを出してから、ぷっつりと消息を聞かなくなって、残念だなあと思っていたら、MEG-CDというオンデマンドのCDにラインナップされたとのこと。おお!しかも上位にランクインしてるらしい。おお!

このアルバムは、とみたゆう子のファースト・アルバムで、時代なのかピーキーな音作りですが、曲や演奏は割と良いです。もうこの頃からセンチメンタル・シティ・ロマンスがバックをやってたのかな。

そして、何と言っても「とどけ・愛」。高校生の頃の甘酸っぱい思い出が蘇ってきます。ああ、恥ずかしい。

最近コンビニで、「とどけ・愛」が店内にかかってて驚いた覚えがありますが、とみたゆう子復活の兆しなんですかね。

↓LPやCDは廃盤になってるので、ベスト的なやつを。

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コージー・パウエル 「サンダー・ストーム」

残念ながら、1998年に30才の若さで自動車事故で亡くなったコージーの、ソロアルバム2作目。

なんといっても参加ミュージシャンが凄い。ジェフ・ベック、ゲーリー・ムーア、ジャック・ブルース、ドン・エイリー、渋いところでバーニー・マースデン。

考えてみれば、ジェフ・ベック・グループでキャリアをスタートして、レインボーやマイケル・シェンカー・グループ、ホワイトスネイクから果てはエマーソン・レイク&パウエルと、そりゃ、大物の知り合いも多いだろうなという感じ。確かに、それぞれのバンドでコージーがドラムを叩いてる曲がすぐ頭に浮かびます。

このアルバム、ドラマーのソロ・アルバムとしてだけでなく、ロックのアルバムとしても名盤の中の名盤。一曲目の「キャット・ムーヴス」からして、聴いて一発でわかるジェフ・ベックのギターがスイングしてます。ノリノリです。

あれだけのバンドを渡り歩いて、各々のバンドで評価されて、一声かければみんなが集まってくれる。きっといい人だったんでしょうね。

コージーの手クセの「ズチャッチャッチャッチャッ」が頭を離れなくなったので、おしまい。

コージー・パウエル / サンダーストーム(SHM-CD) [CD]

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なかなかやん
音楽大好き、読書大好き。いろいろ聴きます。DTMなんかもやります。作曲もします。小説も書いてみたいです。
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