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2020年06月29日

まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん 文春文庫

人を殺めた記憶に脅かされた頃がある。そんなことはないはずなんだけど、夢にまで出てきて寝るのが恐ろしかった。
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まほろ市というから架空の街の話。最初はなんか安っぽいテレビドラマみたいだなと思わせるのが作者の手で、軽妙な語り口で表層を描くことで人の心をえぐりこむ。日本の私小説の伝統だ。

人は多かれ少なかれ心の中に闇を持っている。それとうまく付き合うようになるのが大人になるということだろう。自分に欠落したものがあると発見すると、人は恐れおののく。まあしょうがないやと忘れる努力をすることくらいしかできないが、時々それを武器とする覚悟を持った人がいる。まさに作者がそれで、この作品でも中盤までのストーリーテラーぶりに騙されると、後半で舌舐めずりしていた鋭利な刃にバッサリやられる。そのおかげで心の奥底にしまいこんでいた闇を思い出してしまった。まったく罪な人だ。

直木賞も納得の一冊。

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