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2020年06月29日

神去なあなあ日常 三浦しをん 徳間文庫

ある日突然林業の村神去村に放り込まれることになった主人公の平野勇気。彼の一人称形式で神去村の住民や風俗が描かれていくうちに、勇気にとって神去村はとても大事な土地になっていく。

帯に「林業エンタテインメント小説の傑作」とあるように堅苦しい小説ではないので、とても面白く読み進むことができる。主人公勇気の成長物語としても面白い。

ところが、一筋縄でいかない奥の深さを持ってるのがこの作者の特徴。

まず、明らかにはされていないが、勇気が村に来る時のルートや村の立地を考えると神去村は熊野にある。熊野といえば、中上健次が生涯をかけて土地と血族を書いた場所であり、言うまでもなく世界遺産でもあり、神様の住むところ。作者はこの舞台を設定することで、物語の根底に重厚さや荘厳さを敷くことに成功している。そして、「よそ者」である勇気が住民に受け入れられていく過程で、文化人類学的なキーパーソンが各所に配置されている。また、クライマックスである第四章の描写は、大江健三郎「同時代ゲーム」の一場面と非常に似通っている。「同時代ゲーム」の舞台も四国の山であり、そこも神様の住むところだ。

これらのことを、十分な筆力を持つ作者が意識しないわけはない。神との関わりの中から、土地と血の問題が浮き上がる。

このテーマでシリアスなものを、この作者で読んでみたいと思った。

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