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2023年07月20日
私だけの特捜最前線→90「掌紋300202!〜叶刑事の出生の秘密と父子の物語」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は「掌紋300202!」を紹介します。このドラマは、500回を超える特捜最前線のなかでも屈指の名作と言われ、脚本の長坂秀佳氏による直球勝負のストーリーがとても印象的なドラマです。
主演は叶刑事(夏夕介)で、父も母も知らない孤児という設定だった叶の出生の秘密が明らかになり、それに伴った代議士の父親(山内明)との愛憎劇が繰り広げられていきます。
代議士が持つノートをめぐって
政界の贈収賄を記録したノートが代議士の手に渡り、代議士は特殊な金庫に保管していました。特命課はノートの提出を求めますが、代議士は頑としてはねつけます。
代議士は4年前から密かに「手形の主」を探していました。その手形は昭和30年2月2日に生まれた我が子のものでした。そして、手形の主が叶刑事であることが判明したのです。
代議士が父親だとわかり、動揺する叶。父親への敬慕の裏返しからか、強引な捜査に出ます。代議士がノートを使って、政界工作を働くのではないかとみたのです。
その様子を見ていた秘書(東啓子)は、叶を呼び出し、代議士が私利私欲ではなく、政界浄化のために必死に取り組んでいることを告げ、息子として父親に相対してほしいと懇願します。
代議士の事務所を訪れた叶と秘書でしたが、何者かに雇われた殺し屋(天本英世)が潜入し、代議士を脅していました。叶が撃たれる寸前、代議士が急な動きをしたため、殺し屋は代議士を射殺したのです。
殺し屋は叶ともみあいになって窓から転落死しますが、叶たちが訪れる前に時限爆弾を金庫の中に放り込んでいました。駆け付けた神代課長(二谷英明)らは、金庫を開けなければならなくなったのでした。
金庫の暗証番号の秘密
ここからがドラマのハイライトになります。金庫は6ケタの暗証番号を入力し、午前と午後の8時ちょうどに、その番号が合っていれば開くというダブルセキュリティーの構造になっていました。
暗証番号を知っているのは代議士だけ。時限爆弾は8時2分にセットしてあり、金庫を開きさえすれば、爆弾を止めることができます。神代課長は叶、橘刑事(本郷功次郎)、桜井刑事(藤岡弘、)に推理するよう命じます。
叶は「自己中心的な男なので、自分の生年月日を使っている」と断言し、桜井は「最後は金しか信じないので、メインバンクの口座番号ではないか」と推理します。
一方、代議士が撃たれる瞬間の隠しカメラの映像を何度も見ていた橘は「一番大事に思っている日を番号にした。すなわち300202」と言って、叶の顔を見ます。つまり息子の誕生日だと考えたのです。
その根拠を求められた橘は「人の親としての私の直感だ」と答え、さらに代議士には父としての情愛があったとし、その証拠がビデオに写っていた「叶を助けるために自分が撃たれた」という行動だったと言い切ります。
桜井も「考えを撤回し、橘さんを支持する」と言い、神代課長も「(私の意見も)橘と同じだ」と断言します。激しく動揺する叶。ですが、その番号を入力すると、金庫は解錠したのでした。
最初から最後まで「父と子」が基軸
ストーリーは非常に単純で分かりやすく、最初から最後まで一本道で突き進んでいきます。そんなドラマの基軸になっていたのが「父と子」。つまり息子である叶と父親である代議士の関係だったのです。
政治家という極めて権限の強い立場にある代議士が、一介の刑事の任意同行に応じ、弁護士もつけずに一人で聴取を受けた・・・橘が「叶の誕生日」だと推理した根拠となるできごとでした。
伏線となるセリフを神代課長が叶に告げています。それは「父親は腹を痛めていない分、いつまでも父親になろうと努力する」。代議士も、探していた息子が叶だと分かり、父親になろうとしたのでしょう。
解錠した金庫にはノートだけでなく、「息子の手形」が大事にしまわれていました。それを手にし、父親の真意が理解できた叶は「これで、自分の過去を切ることができます」とつぶやきます。
すると橘は「そんなお芝居のようなセリフしか吐けんのか」と戒め、「死んだオヤジに腹を割ってやれ」と言葉をかけます。橘自身、自分の息子との確執を抱えているので、代議士の思いが痛いほどわかっていたのでしょう。
天才肌の桜井が探り当てるようなトリックではなく、「父と子」という基軸に沿った金庫の番号のカラクリは、余計にこのドラマを印象深いものにしてくれました。長坂脚本おそるべしです!
このドラマのゲストは、山内明さん、東啓子さん、天本英世さんの3人だけしかキャスティングされていません。特命課もカンコが出番なし、船村、紅林、吉野も出演場面わずかと徹底しています。
殺し屋役の天本英世さんは、まさにはまり役という感じでした。「太陽にほえろ」でもクールな殺し屋を演じていたほか、仮面ライダーの死神博士としてもおなじみですね。
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2023年07月13日
私だけの特捜最前線→89「誘拐 ホームビデオ挑戦状!〜ビデオテープに映し出されたトリックとは」
※このコラムはネタバレがあります。
今回も5周年記念作品として放送された「誘拐 ホームビデオ挑戦状!」を紹介します。放送されたのは1982年9月で、ホームビデオがようやく一般に普及し始めたころでした。
当時とすれば最新機器でしたので、ドラマの中ではビデオの特性に着目したトリックなどもふんだんに盛り込まれています。そんな懐かしさとともにドラマを見ていくことにしましょう。
ビデオテープを使って要求する犯人
誕生日に幼女が行方不明になりました。その数時間後、母親宅に1本のビデオテープが投函されます。映像には縛られた幼女の姿、そして売れっ子評論家の後妻となった母親の姉が写っていたのです。
犯人は評論家が後妻にプレゼントした宝石を要求します。特命課は「必ず取り戻しますから」と頼み込み、後妻は宝石を持って犯人の指定した場所に立つことを志願したのです。
犯人が現れないまま時が過ぎていきます。その時、近くで交通事故が起き、そちらに関心が向けられていた瞬間、宝石は訓練されたシェパート(犬)によって奪い去られてしまったのです。
宝石を手にしたはずの犯人でしたが、幼女を返そうとはしません。実は、宝石はイミテーションだったのです。評論家には「すぐに取り返すと言っていた特命課に責任がある」と言い放たれてしまいます。
犯人から送られてきた4本のビデオテープを丹念に見直しながら、幼女を監禁している場所を少しずつ特定していく特命課。また、犯人が大衆の面前で評論家に罵声を浴びせられた青年だったことも判明します。
シェパードを使って再び宝石を奪おうとした犯人でしたが、張り込んでいた叶刑事らに阻止されます。逃げたシェパードを追跡し、ついに幼女の監禁先を突き止めたのでした。
ビデオテープに映るトリック
ドラマの見どころは、ビデオテープのメッセージに隠されたトリックを見破っていくところでしょう。犯人がビデオ編集に詳しいマニアックな人物という設定だからこその見せ場とも言えます。
その一つが幼女の後ろに映っている窓の外の映像。東京タワーを目印に捜査員が場所を探しますが見つかりません。それもそのはず、窓枠と風景を別々に撮影したものを合成していたからです。
今ではソフトさえあれば誰でも簡単にできますが、あの頃は一般の人には考えもつかないような技術だったわけです。それを見破ったのはメカニックに詳しい桜井刑事(藤岡弘、)でした。
桜井はさらに、窓枠そのものが合成であり、実際の監禁場所には窓がないことを突き止めます。それを受け、橘刑事(本郷功次郎)は2本目のビデオにだけ壁のシミがあることを発見し、場所の特定につなげていったのです。
ビデオ以外のトリックでは、シェパードを犯行に使っていたという視点も面白いです。誘拐時に幼女を脅かす手段にしたり、手に持っていた宝石の袋を奪わせたりと、なかなか手が込んでいます。
そのシェパードを追い詰め、見事に手なずけたのが叶刑事(夏夕介)。特捜最前線では一貫した犬好きというキャラになっていますが、その設定を見事に生かしたシーンと言えるでしょう。
橘が示した「人の命の重さ」
このドラマはトリックの部分に目がいきがちですが、人間性の部分にもクローズアップしています。その顕著なシーンが、捜査に行き詰った特命課のなかで、橘刑事が起こした行動に見られます。
手にプレゼントの包みを持つ橘。その意図について「不吉なことを考え、つい弱気になってしまう。この誕生プレゼントを俺は渡してみせる。あの子を救い出してからな」と、若手刑事たちに語るのです。
橘は、母一人子一人の母親が娘を案じる気持ちをを誰よりも理解し、「人命より重いものは無い」と考えていました。だからこそ「絶対に救出する」という気持ちを奮い立たせたかったのでしょう。
高価な宝石が大事だからと、義理の妹の娘の命がかかっているにもかかわらず、あえてイミテーションを渡した評論家。それが人間の弱さであり、エゴでもあり、やみくもに非難すべきではありません。
評論家の行為があったからこそ、橘の信念、もっと言うならば脚本家や演出家の主眼である「人の命は地球よりも重い」というテーマを、より一層際立たせてくれたのだと思います。
ちなみにラストでは、橘にならった特命課全員がプレゼントを置いていくシーンを描いています。後味の悪いストーリーが多い特捜最前線のなかでも、すがすがしいエンディングと言えますね(笑)
ドラマで幼女役を演じているのは子役時代の岩崎ひろみさん。大人になってからもNHK連続テレビ小説や大河ドラマに出演するなど、本格派の女優として活躍するようになります。
恐怖におののいたり、泣き出したりするだけでなく、犯人の男をにらみつける演技は、なかなかの芸達者ぶり。岩崎さんの熱演あってのドラマだといっても決して過言ではありません。
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2023年06月29日
私だけの特捜最前線→88「橘警部逃亡!〜橘警部のハードボイルドかつスリリングなドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
今回紹介するのは「橘警部逃亡!」というドラマ。もちろん主演は橘警部(本郷功次郎)で、ハードボイルドなドラマは橘主演作のなかでも指折りの傑作と言っていいでしょう。
情報を漏らしていたスパイは?
覚せい剤組織壊滅を目指す特命課と新宿中央署は、何度となく摘発に失敗していました。橘は「合同捜査本部に出席する中央署の3人の幹部のなかにスパイがいる」とみて、スパイのあぶり出しに乗り出します。
スパイを知っていると思われる売人を、あえて中央署に連れて行った橘ですが、売人はスパイを恐れて自殺を図ってしまいます。とっさに橘は「自分が殺した」と芝居を打ったのです。
橘は3人の幹部の直属部下の刑事(山田吾一)を密かに呼び出し、スパイが誰かを探ろうとします。しかし、橘を殺人犯として追う中央署によって阻止され、橘は逃亡しました。
組織に単身乗り込んだ橘は、組織の組長から「桜井を撃て」と命じられます。これもスパイの入れ知恵だったようで、橘は不本意ながらも桜井刑事(藤岡弘、)を狙撃し、組織の信用を得ることに成功します。
そこに現れたスパイ・・・実は部下の刑事だったのです。橘は機転を利かせて特命課にスパイの正体を知らせ、組織だけでなく、その上にいた陰の大物まで一網打尽にしたのでした。
4回の発信音の意味は?
このドラマのハイライトは二つあります。その一つが「スパイが誰かを知らせる方法」でした。橘は、3人の幹部と常に行動を共にしていた部下の刑事がスパイであることを特命課の秘密電話で知らせます。
もちろん、直接言葉で教えるわけにはいきません。そこで橘は、4回発信音を鳴らして切り、それを2回繰り返します。神代課長(二谷英明)らメンバーは、4回の発信音の意味を考えます。
4丁目・・・4番地・・・と推理する中で、カンコ(関谷ますみ)の「4番目のなんとか」との発言でひらめいた叶刑事(夏夕介)は「4番目の男ということでは」と叫び、スパイの正体を見破ったのです。
正直なところ、ドラマに登場する3人の幹部は脇役俳優が演じており、部下の刑事に山田吾一さんをキャスティングしていれば、スパイが刑事(山田さん)であることは一目瞭然です。
それでもドラマ後半までスパイの正体を明かさず、橘が正体を知ったうえで、どのように特命課に伝えようとするのか。そうした興味を引き付ける長坂秀佳脚本は見事の一言に尽きます。
絶対的な信頼関係の橘と桜井
もう一つのハイライトは「橘が桜井を狙撃する」というショッキングな展開です。同じ釜の飯を食った同僚を撃つ橘の心境、そしてワナと知りながら標的になる桜井・・・まさに息をのむシーンです。
橘は狙撃の名手ですが、一発で仕留めなければならない極限状態でも、急所を外して撃ち抜くというのは驚くべき腕と言えます。それを可能にしたのも、微動だにしなかった桜井の度胸あってのことでした。
撃たれた桜井は収容された車のなかで「橘さんを信じていたよ」とつぶやきます。出会った当時の確執を乗り越え、捜査活動を通じて培ってきた驚くべき信頼関係といっても過言ではありません。
一方の橘は組織を一網打尽にした直後、真っ先に桜井が入院している病院に駆けつけます。ベッドで寝ている桜井の手を握り、おそらく心の中で「すまない」「ありがとう」とつぶやいていたに違いありません。
その表情を見ながら、桜井は微笑みを見せながらうなづきます。ここでも二人の信頼関係の厚さが伝わってきます。看病していたカンコが涙する気持ちと同じように、感動で胸が熱くなるシーンでしたね。
ちなみに「橘警部逃亡!」は、前回紹介したおやっさん主演のハワイロケシリーズ同様、放送5周年記念作品として放送されました。
※前回のコラムもぜひご覧ください
私だけの特捜最前線→87「望郷、望郷U〜二つの事件と船村父娘のドラマを同時進行させた話」
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2023年06月22日
私だけの特捜最前線→87「望郷、望郷U〜二つの事件と船村父娘のドラマを同時進行させた話」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は、特捜最前線の放送5周年記念作品として前後編で放送された「望郷 凶悪のブルーハワイ!」と「望郷U 帰らざるワイキキビーチ!」を紹介します。
「望郷」前後編は、30年前の事件と現在進行形の事件に加え、おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)と娘の香子(木村理恵)のドラマという「二本立てのストーリー」になっています。
ハワイを舞台に事件が展開
30年前に殺された若い女性の白骨死体と少年少女が写った古い写真が発見されます。当時女性の夫だった男は無期懲役の服役犯で、妻殺しの容疑がかけられますが、脱獄を図ってハワイへと逃亡してしまうのです。
男はハワイ移民の日系人二世で、幼なじみだった同じ日系人二世の女性(楠田薫)に会うために逃亡したことが分かりました。女性は夫を戦争で亡くした後、孤児を引き取って育てる慈善活動をしていたのです。
男は警察官から拳銃を奪い、スタジアムに立てこもりましたが、現地警察の一斉発砲によって負傷して逮捕されます。しかし、入院していた病院から再び逃走し、今度は何者かに殺された姿で発見されたのです。
神代課長(二谷英明)はじめ、特命課全員がハワイに集結し、男を殺した犯人を追うとともに、30年前の事件の真相究明に乗り出します。そして、女性が30年前の殺人を犯した疑いがあることを突き止めました。
男を殺した犯人(西田健)は女性に育てられた孤児で、女性の犯行が表ざたにならないように男を殺したのでした。特命課によって追い詰められた犯人は、バスジャックをした挙句、人質を取って立てこもったのです。
その人質が船村の娘・香子でした。飛び出そうとする船村を橘刑事(本郷功次郎)が必死で止め、女性は人質を離して出てくるよう呼びかけます。しかし、隙を突いた現地警察によって犯人は射殺されてしまったのでした。
日本を捨てられなかった女性
ドラマで一方のテーマになっているのが「ハワイの日本人移民」の歴史です。ドラマの中で、男や女性らが口ずさむ「ホレホレ節」のもの悲しい歌詞とメロディーが効果的に演出されています。
「ホレホレ節」は、移民一世の人たちが砂糖耕地での厳しい労働環境を歌った労働歌です。そんな重労働に耐えてきたハワイ移民ですが、太平洋戦争に巻き込まれ、人生を大きく狂わせた人も少なくありません。
男と女性は婚約者でしたが、戦争によって男は送還され、女性はハワイに取り残されます。終戦後間もなく、女性が男を頼って来日した時、男は別の女と結婚していました。女性は嫉妬から殺人を犯してしまったのです。
女性は国外逃亡したとして公訴時効(当時15年)停止の対象となっていました。ハワイでの永住権があったため、ハワイ(アメリカ)で裁判を受けることもできましたが、女性は日本への帰国を選択しました。
船村は「日本を捨てきれなかったんだろうなあ」と、女性の心情を図ります。そして、時効制度に対する皮肉を込めながら、神代課長に「罪を悔い、やり直そうとした・・・30年間ですよ」と語るのです。
航空機内で日本の領空に入った時、船村は逮捕状を読み上げながら女性に手錠をかけます。カンコ(関谷ますみ)がそっとハンカチで手錠を覆い隠し、船村は複雑な表情を浮かべるのでした。
船村から娘婿へのメッセージ
もう一つのテーマが「船村父娘のドラマ」です。香子は妻子ある男性と結婚する意志を船村に告げます。大反対する船村に「一生に一度だけ父さんの言うことを聞かない子供になる」と言い放ち、家を出てしまいます。
妻子と別れ、ハワイで香子と新生活をしようとした男性でしたが、起業するための全財産を詐欺で失ってしまいます。子供を宿していた香子にも中絶を促しますが、香子は産む決意をするのです。
捜査でハワイ入りしていた船村ですが、香子にも男性にも接触しません。しかし、香子が捨てた(あるいは落とした)「お守り」を拾い、ハワイにいる間、ずっと持ち歩いていたのです。
人質から解放されたものの、意識を失っていた香子を救急車内で男性とともに見守る船村。船村を父親と知らない男性は「俺のために父親と別れたことが、どんなにこいつを苦しめたのか・・・」と懺悔します。
船村は「しっかり頑張って、この地に根を張るんだよ」と励まします。ハワイ移民の苦難の歴史を知ったからこそ、出てきた言葉であり、同時に義理の父親としての厳しくも温かい励ましでもありました。
その時、香子が無意識につぶやいた言葉を聞き、思わず「お守り」を握らせた船村を見て、男性は香子の父親だと悟ったに違いありません。「お父さんと言ってるんですよ」と告げたのでした。
見どころの多かった「望郷」前後編
さて今回は前後編ということで、さまざまな見どころがありました。ストーリーには直接関係ありませんが、ちょっと紹介しておきます。
ハワイに逃亡した男を追うため、神代課長は船村とカンコを派遣します。船村は目をシロクロさせ、「自分が行きます」と真っ先に手を挙げた吉野刑事(誠直也)は、「なぜカンコが?」と不満をぶちまけます。
即座に神代課長は「高杉君は英語ができる」と答え、船村の通訳の任にあたるためだと示唆します。しかし本当は、船村を娘に会わせるための「特命」を受けての派遣でもあったのです。
部下たちの前ではあくまでも業務命令に徹しつつ、船村への温情あふれる配慮を忘れない神代課長。プライベートに関する調査を任されることが多いカンコへの信頼もかなり高いのでしょう。
そのカンコですが、ハワイでは背中のほとんどが見えるセクシーな服を着ていました。唯一の女性レギュラーである関谷ますみさんのサービスカットといったところでしょうか(笑)
もう一つ、昭和の時代を思わせるシーンがありました。男がスタジアムに立てこもった際、射殺も持さない姿勢を見せた現地警察の指揮官に対し、船村が「撃たないでください」と必死に懇願した場面です。
指揮官は承諾したものの、部下たちに対して「先に撃つな。だが、相手は日本人だ。真珠湾を忘れるな(リメンバー・パールハーバー)」と叫んだのです。その指揮官も日系人だったのにもかかわらず・・・
塙五郎氏の脚本通りだったのか、天野利彦監督の演出だったのか、定かではありませんが、終戦から40年に満たないという昭和の時代だったからこそ、あえて指揮官のセリフに加えられたのではないかと思います。
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2023年06月15日
私だけの特捜最前線→86「リミット1.5秒!〜かつてのライバル、桜井と元刑事の差は何だったのか」
※このコラムはネタバレがあります。
今回紹介する「リミット1.5秒!」は、桜井刑事(藤岡弘、)主演の正統派刑事ドラマとも言えるようなハードボイルドな作品となっており、最後の最後まで手に汗握る展開のドラマです。
桜井を拉致する元刑事
路上で拉致された女性(音無真喜子)からと思われる電話を受けた桜井刑事は、指定された場所へと向かったまま消息を絶ちます。特命課の刑事たちが懸命に探していた頃、桜井と女性はある場所に監禁されていました。
桜井を監禁したのは、8年前まで同僚だった元刑事(川地民夫)。当時、彼は拉致監禁事件に巻き込まれ、極限状態に置かれたなかで侵入してきた警官を犯人と間違えて撃ってしまいます。
元刑事は警察の査問委員会で停職の懲戒処分となりました。その決定に対し、「直後に事件現場へ来た桜井が自分に不利な証言をしたためだ」と誤解したまま、元刑事は辞職して姿を消していたのです。
桜井の監禁はその復讐で、元刑事は「これは裁判なんだよ、桜井」と薄笑みを浮かべます。仲間である右足を引きずる男が、一緒に監禁されている女性を激しく痛めつけます。桜井にはそれが耐えられません。
別室に連れ込まれた女性の悲鳴が、桜井をどんどんと追い込んでいきます。桜井は、あの時の元刑事と同じように精神的なダメージを受け、極限状態に達しようとしていたのです。
桜井をワナにはめる元刑事
特命課の捜査によって元刑事の所在が明らかになります。一筋縄ではいかないと考えた神代課長(二谷英明)は、あの時の事件の調書を持参して元刑事のもとを訪ねました。
神代は「拳銃を持つ者は冷静で客観的な判断が求められる。君ほどの腕前だったなら、1秒あれば判断できたはずだ」と語ります。しかし元刑事の復讐心を覆すことはできません。
元刑事は、監禁中の桜井に対して「俺にわびろ」と命じます。しかし桜井もまた、「冷静で無い者は拳銃を持つべきではない」と言い切ります。そこで元刑事は、最後のワナを仕掛けるのです。
尾行中の吉野刑事(誠直也)の右足を狙撃し、病床の吉野の元に「監禁場所に一人で来い」という脅迫状を送り付けた元刑事。あの時と全く同じ状況をセッティングし、桜井を試そうとしたのでした。
仲間の男と同じように、右足を引きずりながら単身乗り込んできた吉野。女性に促され、拳銃を構える桜井刑事・・・だが彼は、元刑事とは違い1秒を待つことができ、ワナにはまらなかったのでした。
桜井と元刑事との差とは
このドラマは、拉致監禁という極限状態の姿を演じた藤岡弘、さんの熱演と、冷酷な復讐鬼ぶりを見せてくれた元刑事役の川地民夫さんの名演技に尽きると思います。
ともにエリート刑事として切磋琢磨したライバル。二人の差は、どんな極限状態であっても冷静な判断ができたか、できなかったか、だけでした。そのことを元刑事のラストのセリフが物語っています。
クライマックスで、踏み込んできた男(吉野)を冷静に見極め、引き金を引かなかった桜井。元刑事は「1秒の負けだ。だが、この1秒の差は大きい」と、ようやく自分の非を認めたのでした。
元刑事は犯罪を犯すようなダーティーな人物ではなく、あくまでも自分の正当性を証明したかった、それを桜井に認めさせたかっただけでした。実の妹を使って、痛めつけられる女性の演技をさせてまでも・・・
その女性役は、当時の人気女優だった音無真紀子さんが演じています。ドラマ終盤で真相が明らかにされるまでの痛めつけられぶりも、迫真の演技だったと言えるでしょうね。
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私だけの特捜最前線→85「女未決囚408号の告白!〜母親と娘の愛憎に切り込む桜井刑事」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は「女未決囚408号の告白!」をご紹介します。主役は桜井刑事(藤岡弘、)で、公判直前の殺人事件に対し、謎として残された点を推理しながら事件の真相に迫っていくという話です。
幼女の謎の言葉の意味は?
夫を刃物で刺し殺した女性(中村晃子)を逮捕、送検した特命課。検察も起訴し、初公判が開かれようとした時、謎として残された2点が引っ掛かる桜井刑事は、独自に再調査を行います。
1点目は両手で握っていた刃物に指紋が8本しか残っていなかったこと。もう1点は事件直後に女性がどこかへ電話をかけるのを目の前で見ていた幼女の謎の言葉「メリーさんのひつじ」でした。
幼女は「電話がメリーさんのひつじを歌ったの」と言い、桜井が「それは男の声?女の声?」と聞くと、「電話の声」と返したのです。この謎の意味がどうしても分かりません。
女性は4人姉妹の長女で、木彫り職人の母親(佐々木すみ江)とは犬猿の仲でした。事件の1年前には、家族全員が集まる中で母親にナイフを突きつけ、火のついたタバコを投げ捨てるという悪態を見せていました。
桜井は拘置所にいる女性に連日面会し、真相を探ろうとします。しかし、女性は桜井に罵声を浴びせるだけ。激しい怒りを誘ってしまったことから、ついに桜井は面会中止へと追い込まれてしまいます。
女性と母親の真相に切り込む桜井
特命課の調べで、女性が母親にナイフを突きつけた出来事の前日、母親の夫が眠る墓所の近くで一家5人が焼死する火事が起きていたことがわかり、火事の直前に母親が墓参りに来ていたことも判明しました。
その姿を女性が目撃していたこと、母親が普段から煙管を吹かしていたこと、そして殺された夫が何らかのネタで母親を脅そうとしていたこと・・・こうした状況をもとに、桜井は一つの推理を導き出します。
それは「女性が夫を殺した理由は、母親を守るためだった」。表向きには憎しみ合っていた女性と母親ですが、実は心の底で深く結びついていました。その立証となったのが「メリーさんのひつじ」だったのです。
夫を殺した女性は、母親の元に電話をかけますがすぐに切ってしまいます。思い直してリダイヤルを押し、もう一度電話をかけようとしますが、やはり母親が出る前に切ってしまったのです。
ミレドレミミミと鳴ったリダイヤル音こそが、幼女が聞いた「メリーさんのひつじ」でした。さらに女性の関係者の中で、このリダイヤル音となる電話番号の持ち主は母親宅だけだったのです。
母親と娘の真の姿を映像で見せる
この作品は、謎解きの部分も面白かったのですが、何といっても母親と娘(女性)との関係性を分かりやすく描いた点にあります。脚本の長坂秀佳氏も、監督の天野利彦氏も見事としか言いようがありません。
ドラマ中盤過ぎに、母親と娘が同じしぐさをするシーンを対比するように演出しています。例えば、枕を軽くたたく癖とか、タオルを干すときのしわ伸ばしであるとか、お茶を飲む時に一礼する姿とか・・・
口ではお互いを罵っている母娘ですが、そうした場面を流すことで絆の深さを見せつけてくれました。終盤には、女性が幼いころ、母親のしぐさを真似する姿を見せる「感涙もの」のシーンもあったほどです。
面会を拒否する女性に対し、桜井は手紙で自分の推理について書き記しながら、「真相が分かっても量刑は変わらないかもしれません。でも、心が違います」と訴えかけます。
推理が正しいことの証明として、凶器の握り方を示してほしいと書き残した桜井。裁判に出廷する直前、桜井の前で女性はゴルフクラブの握り方をしてくれます。桜井の気持ちが通じたラストシーンでした。
母親役を演じた佐々木すみ江さんといえば、2008年の大河ドラマ「篤姫」に主人公の養育係「菊本」役として出演しています。
主人公が将軍家に嫁ぐことになった時、菊本は「自分のような身分の者が養育係と知れたら面子が立たない」と案じ、自害することで自分の存在を消してしまったのです。
遺言となった「女の道は一本道でございます」という言葉は、その後の篤姫こと天璋院の生涯を決定づけていきました。脇役でありながら、主役級に負けない強烈な印象に残ったことが記憶に残っています。
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2023年05月25日
私だけの特捜最前線→84「殺人トリックの女!〜白川由美さんゲスト出演も夫婦共演せず」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は第350回記念作品「殺人トリックの女!」をご紹介します。このドラマは何といっても、ゲストに二谷英明さんの妻である白川由美さんが登場したのが全てだと言い切ってもいいでしょう。
白川さんは東宝のスター女優として活躍中、当時日活のスターだった二谷さんと結婚。二人はおしどり夫婦として評判だったそうです。娘は、女優から実業家に転身した二谷友里恵さん。
二谷英明さんの看板ドラマだった特捜最前線で、白川さんがゲスト出演するというのは大きなトピックスだったでしょう。白川さんは法歯学者の冷泉教授役として出演しています。
裏の裏をかいた巧妙なトリック
荒川で男性の遺体が発見されます。自殺か他殺か不明でしたが、男性の衣服にヘロインが縫い付けられていたことから、麻薬組織に関係がある人物とみて特命課が捜査に乗り出しました。
現場検証にやって来たのが、神代課長(二谷英明)と因縁浅からぬ法歯学者の冷泉教授(白川由美)。冷泉教授の洞察力や分析力は確かなものがありますが、なぜか特命課を目の敵にしているのです。
冷泉教授によって、被害者は多摩川で殺害された疑いがあることがわかり、被害者も特定されます。さらに歯の治療痕の捜査によって、歯科大学病院の男性助教授が容疑者として浮上しました。
ところが、神代課長の指摘によって「女の仕業と見せかけた男」の裏をかいた「女の犯行」だと見破ります。そして、新たに容疑者として浮かび上がったのが、次期教授争いをしていた女性助教授だったのです。
冷泉教授によってトリックを次々と暴かれていく女性助教授。そして決定的な物的証拠を突きつけられ、ついに自白に追い込まれます。女性助教授は「男に負けたくなかった」とつぶやくのでした。
神代課長VS冷泉教授のバトル
このドラマは、長坂秀佳氏脚本の真骨頂とも言えるトリックに次ぐトリックの連続で、正直なところ、最初に見た時は冷泉教授のトリック破りを理解するのに苦労したほどです(苦笑)
それ以上に見どころだったのは、神代課長VS冷泉教授のバトルです。実はこのドラマで二人は直接共演していません。電話を通じたやり取りが一度だけあったきりです。
物証を積み重ねながら、犯人像を絞り上げていく冷泉教授。その結果「男性助教授が犯人ではないか」という結論を導き出します。ところが神代課長は「メモ書き」という形で冷泉教授に忠告するのです。
「策士策に溺れ、知将知に溺れる」「犯人に法医学知識あり」「ヘロインの意味は何か」。とくに、冷泉教授が見落としていたヘロインの謎を解いていく過程で、女性助教授の犯行が立証できたのでした。
今回は直接対決がありませんでしたが、第419回「女医が挑んだ殺人ミステリー!」では、神代VS冷泉が見られます。すなわち、おしどり夫婦の共演というわけです。いつかご紹介したいと思っています。
冷泉教授に対抗する吉野と紅林
別なお楽しみとして、冷泉教授と特命課員との対決シーンも見逃せません。とくに吉野刑事(誠直也)と紅林刑事(横光克彦)は、かなりの対抗意識を燃やしていました。
吉野刑事は現場検証の場で早くも衝突。検視結果報告の場では、自殺と決めつける吉野に対し、「自殺だとしたら、ずいぶん難しい死に方をしたものですねえ」と冷静に論破されてしまいます。
捜査で冷泉教授とコンビを組まされた吉野は、神代課長を敵視する冷泉教授に対し、「うちの課長は男です」と擁護する熱弁を振るいますが、冷泉教授はサラリと聞き流してしまうのでした。
紅林刑事は冷泉教授に「理詰めで皮肉っぽい口」をききます。しかし、ヘリコプターを操縦させられた挙句、「ただ乗ってみたかっただけ」と軽くあしらわれてしまいます。
単純で一本気な吉野は、冷泉教授の人間性にひかれていきますが、紅林の方は「法歯学だか何だか知らないが・・・」などと、なかなか認めようとしません。このあたりの二人の対比もなかなか面白いですね。
ちなみにおやっさん(船村刑事、大滝秀治)と橘刑事(本郷功次郎)は、触らぬ神に祟りなしという姿勢に終始しています。これは「年の功」とでも言うべきサラリーマンの知恵なのでしょうか(笑)
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2023年05月18日
私だけの特捜最前線→83「パパの名は吉野竜次!〜子役が人間味あふれる吉野をサポート」
※このコラムはネタバレがあります。
今回はタイトルでも分かるように、吉野刑事(誠直也)主演の「パパの名は吉野竜次!」をご紹介します。と言っても、本当の主役は竜太役で出演した子役(岩淵健)だと思っています(笑)
吉野を「パパ」と慕う子供
高速道路で6歳の男の子が保護されました。彼が父親を吉野竜次だと話したことから、特命課に届けられてきます。そして、身に覚えがなく面食らう吉野刑事に「パパぁ」と抱きつくのです。
調べたところ、男と一緒にいる母親から「吉野のところへ行け」と放り出されたことが分かりました。さらに子供には長い間虐待を受けたと思われる傷が全身にあったのです。
男が手配中の暴行犯と分かり、吉野は子供に母親のことを問い詰めます。子供は吉野を父親だと思っていましたが、吉野が「俺は君の父親じゃない」と叱り飛ばすと、ついに母親の名前と住所を告白したのです。
翌朝、子供は吉野の家から姿を消します。そして母親は、吉野が所轄署に居た時、コインロッカーに生まれたばかりの赤ちゃんを捨てようとした当時16歳の少女だったことも分かりました。
吉野は、子供を捨てて男と逃げた母親を許せず、神代課長(二谷英明)に「俺が育てます」と宣言します。しかし、子供と母親が再会し、親子の絆の深さを見せつけられた吉野は、寂し気な思いで見守ったのでした。
吉野の人間的な魅力が随所に
この回は、誠直也さん演じる吉野刑事の人間ドラマと言い切っていいほど、吉野がクローズアップされています。DVDシリーズでは、吉野主演作は数少ないのですが、そのなかでもこの作品は名作と言っていいでしょう。
ドラマの前半は、父親にされて面食らいながらも、子供の面倒を一生懸命見ようとする吉野のコミカルさが見られます。しかし、事実が徐々に分かってくると、次第にシリアスに変わっていきます。
吉野は母親である少女と出会った時、彼女に「神様は必ず見ているし、助けてくれる。この子は君以外に頼れる人間はいない」と諭し、父親が誰だか分からなくても、子供を育てるように促していました。
その少女の存在を完全に忘れていた吉野は「俺が言った言葉は恥ずかしい」と忘れていたことを猛省します。一緒にいたおやっさん(大滝秀治)は「忘れない人間などいない」と慰めるのです。
女が「あの子はロッカーで死ぬはずだったんだ」とうそぶいていたことを聞き、怒りに震える吉野。そして嫌がる女を無理やり引きずって、子供が入院している病院に連れて行く吉野・・・
吉野刑事は一本気で直線的な描かれ方をされがちですが、この作品では心根の優しいナイーブな一面も見せてくれます。脚本は竹山洋氏が手掛けていますが、竹山氏はのちに吉野刑事殉職編も書いています。
それから、何といっても子役の岩淵健さんの演技が素晴らしく、ドラマを盛り立ててくれています。とくに、母親を最後までかばい続ける場面は、涙なしには見られないでしょう。
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2023年05月04日
私だけの特捜最前線→82「少年はなぜ母を殺したか!〜舞台は裁判所の法廷内だけという斬新な演出のドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は後期の異色作ともいえる「少年はなぜ母を殺したか!」を紹介します。なぜ異色かと言うと、最初から最後まで裁判所の法廷でドラマが展開するという斬新な演出だったからです。
被告人は有罪か無罪か。法廷で繰り広げられる検察側と弁護側の対決に、神代課長(二谷英明)ら特命課の面々をどうやってかかわらせるのか。脚本の長坂秀佳氏の腕の見せどころでもあります。
被告人は有罪か、無罪か
被告人は21歳の男性。女性検事(関弘子)による冒頭陳述は「被告人はマリファナや野球賭博に狂い、それを見とがめた母親といさかいになって殺してしまった」とし、被告人も起訴事実を認めています。
法廷に神代課長ら特命課のメンバーが入場します。裁判では出番なしのはずなのに、なぜでしょう。その答えは、女性弁護人(山口果林)が「被告人は無罪」と言い切ったことにありました。
特命課は、被告人の供述と実際の行動との間におかしな点があるとして、検察から再調査却下を言い渡されたのにもかかわらず、独自に捜査を始め、被告人にはアリバイがあることを突き止めていました。
おやっさん(船村刑事、大滝秀治)らが弁護側証人となって、捜査で得た矛盾点を語っていくのですが、女性検事は反対尋問でことごとく退けます。そして、論告求刑で「無期懲役」と断言したのです。
ところが最終弁論で、特別弁護人として神代と叶刑事(夏夕介)が加わり、新たな証人に立った桜井刑事(藤岡弘、)と橘刑事(本郷功次郎)によって、衝撃の事実が突き付けられたのです。
桜井と橘の捜査で、マリファナと野球賭博に狂っていたのが実は母親のほうだったと判明。だが、被告人は涙を流しながら「違う」と反発します。なぜか・・・実は、真犯人は父親(石濱朗)だったのです。
母親の真実が暴かれた家族は
このドラマは、裁判所の法廷だけで1話完結するという斬新な演出に目がいってしまいがちですが、被告人と父親、母親、妹や弟をめぐる家族愛の部分がとても印象的なストーリーになっています。
母親の乱行を知っていた被告人は、そのことを父親にも妹弟にも隠し通そうとします。事実を知って怒りのままに母親(妻)を殺してしまった父親の罪までも一身にかぶろうとしたのです。
ラストシーンで証言台に立った父親が犯行を自白したことで、すべてが明らかになってしまいます。父親は、被告人がなぜ身代わりになったのかを独白していくのです。
被告人は「母が悪人としてさらされるのは耐えられない。あんな母でも、自分にとって優しい、女神のような母さんだった。母の名誉を守るために罪をかぶる」と、父親に告げたそうです。
それは同時に、心臓に病気を持つ父親が収監されることには耐えられないだろうという気遣い、同じように母を慕う妹弟に真実を知られたくないという思いが混ざり合ったものでもありました。
被告人が無罪となっても、誰一人として喜ぶ者はいません。家族たちは当然ですが、女性弁護士も、特命課の面々も同じです。ゆえに、今回のドラマも超激辛のラストで終わってしまいました。
特命課を「弁護側」にした演出
もう一つの見どころは、警察機構にある特命課が「弁護側」に立って、被告人の無罪を証明した点にあります。検察側で犯罪を立証する展開よりも、かなりハードルが高い展開だと思われます。
特命課を積極的に裁判にかかわらせるため、弁護士資格の無い者が被告人の弁護活動をできる「特別弁護人」という仕組みを使っています。これは刑事訴訟法に規定されており、神代の切り札でもありました。
検察が起訴に持ち込んだ犯罪を、あえて独自の再捜査に踏み切った理由として、証人尋問に立った紅林刑事(横光克彦)は「組織としてより、人間としての道を取るという神代の方針だ」と言い切っています。
ストーリー解説で書いたように、事件の真相を知って利を得る者は誰もいません。しかし特命課は「真実を追及することこそ、刑事の務め」という原点を守り、供述の矛盾を突き崩すことにしたのです。
極論かもしれませんが、初動捜査をした所轄署や検察が、被疑者の自白ばかりを優先させたがゆえに「一つ間違えれば冤罪を生み出しかねない事態に陥っていた」ということを言いたかったのではないでしょうか。
弁護士役の山口果林さんは、特捜最前線では他の作品にも同じ役柄で出演しています。関弘子さんの眼光鋭い検事役がドラマを引き締めてくれましたし、父親役の石濱朗さんの独白シーンも素晴らしかったです。
なお、ドラマが法廷だけを舞台としていたため、母親役はキャスティングされていません。女優によっては先入観を持たれてしまう可能性もあったので、この点でも見事な演出と言えるでしょうね。
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2023年04月27日
私だけの特捜最前線→81「ナイター殺人事件!〜昭和の家族の風景を描いた作品」
※このコラムはネタバレがあります。
今回紹介する「ナイター殺人事件!」は、昭和の高度成長期だからこそ作れたドラマと言ってもいいでしょう。その時代を知る者には、懐かしくもある家族の風景が描かれているからです。
事件は、叶刑事(夏夕介)が引っ越してきた高層住宅団地で起きます。ストーリーを解説する前に、ドラマ中盤で吉野刑事(誠直也)が見た「団地の光景」について触れます。
吉野の言葉を借りると、「どの家庭にも父親がいて、母親がいて、子供が1人か2人いて、テレビの置き場も座る位置も一緒で、見ている番組はナイター中継」。そして「まるで画一的だ」とつぶやくのです。
画一的といえば、高層住宅団地は間取りも同じ。昭和の時代、テレビは一家に一台、チャンネル権は父親にあり、ナイター中継は巨人戦。ドラマでも、王貞治選手が登場する場面が再三写されていました。
銃の暴発事故、実は計画的殺人だった
さて、ストーリー解説を始めます。事件は、王選手がホームランを打った瞬間に起こります。子供がいたずらしていた銃が暴発し、向かいの棟に住む男性の頭を銃弾が直撃するという事故が発生します。
叶刑事は、男性の葬儀後の妻の行動に不審を抱き、捜査を開始します。事情聴取での子供の父親の供述と、子供が銃で遊んでいた行為にも矛盾点が見つかり、事故ではなく事件だったという確信を持つのです。
やがて、男性には一戸建て住宅資金のために生命保険がかけられていることがわかり、父親は子供の育児に振り回されていて「逃げた妻の代わりになる女性が欲しい」と思っていたことも判明します。
利害関係が一致した妻と父親には男女関係もあり、事故に見せかけた殺人の疑いが濃くなってきました。しかし、二人とも「カーテン越しでは家の中は見えない」「過失致死による事故だ」と頑強に否定します。
ここで、吉野刑事の「画一的な家族」という言葉がヒントになります。叶刑事は、茶の間で男性の座る位置に、あらかじめ照準を合わせておき、ナイター中継のクライマックスで狙撃するトリックを見破ったのです。
特命課によって、妻と父親は逮捕されました。後に残された父親の子供が、ぼんやりと外を眺めている姿を見て、叶刑事は「醜い事件に巻き込まれ、子供が宙に浮いてしまった」と複雑な表情を浮かべるのでした。
トリックを見破った叶刑事の鋭さ
このドラマは、叶刑事の洞察力と推理力が存分に発揮された回でした。とくに、銃の暴発に見せかけたトリックを見破っていく過程では、叶刑事の鋭さが際立つように描かれています。
非常によくできたストーリーだったのですが、腑に落ちない脚本・演出もあります。それは、叶の自宅の隣に住む浪人生の存在です。彼は引っ越し当日から「うるさい」と苦情を吐くような胡散臭い人物でした。
浪人生は、実は空き巣の常習犯で、事件当日も空き巣狙いに失敗した直後、父親が銃を撃つ瞬間を目撃していました。それをネタに父親を脅迫し、口止め料を要求するのです。
最後は、父親と浪人生がもみ合いになり、そこに妻が加わったところで、特命課が3人を取り囲み、一網打尽にするという展開。事件の全面的な解決という点では、スッキリしたのかもしれません。
ですが、あえて言うならば、浪人生の役どころが必要だったのかどうか。叶刑事がトリックを鮮やかに見破ったのであれば、そこから事件解決へと導いていく方が良かったのではないかと思えてなりません。
ちなみに、妻役は水島彩子の名前で活動していた頃の奈良富士子さん、父親役は小坂一也さんが演じ、浪人生役として、後半の特捜最前線で準レギュラーとなった梅原正樹さんが出演しています。
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