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2022年11月10日

私だけの特捜最前線→60「面影列車!〜紅林刑事は母と再会できたのか?」

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※このコラムはネタバレがあります。

前回のコラム59で、紅林刑事(横光克彦)の母親探しのドラマについて紹介しました。結局、別人だったわけですが、その続編というか、完結編にあたるのが第315回「面影列車!」です。

私だけの特捜最前線→59「母・・・・・・・・・〜紅林刑事が語る母への思い、子への思い」

紅林の母の消息は?

紅林が昔逮捕し、更生した男性と妻が殺されて発見されました。男性は「紅林に恩返しができる」と話していたそうで、何かを知らせるために静岡県から上京してきたのだと、紅林は推測しす。

夫婦には子供がいました。紅林がちょうど、母親と生き別れになったのと同じ年代です。葬式でも無邪気にふるまっていたのですが、両親のお墓で泣きじゃくりながら土を掘り返す姿を紅林は目撃します。

すがりついて泣きじゃくる子供に対し、紅林は「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」と言ってなぐさめます。どうしてこの言葉が出てきたのか、彼自身もわかりませんでした。

捜査をしていくうち、男性は紅林の母親の消息について手がかりをつかんだらしいことが分かります。紅林にとって男性の足取りを追うことは、同時に生き別れの母親に会える可能性も示唆していたのです。

ところが、母親はすでにこの世の人ではありませんでした。30年近く思い続けていた再会がかなわず、墓前で涙にくれ、あの子供と同じように墓の土を掘り返そうとする紅林。

その時、紅林の脳裏に「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」という言葉が浮かんできます。なぜだか分かりません。ですが、この言葉に励まされ、悲しみをこらえて捜査を続行します。

母親が残してくれた「形見」

母親は、1年前に交通事故で亡くなっていました。母親は、身寄りのない子を養女に引き取って育てていたこともわかりました。つまり、紅林にとっては血のつながらない妹がいたのです。

兄と名乗る男とともに上京した妹のもとを紅林らは訪ねます。しかし、妹は紅林を兄とは信じず、追い返してしまいます。紅林には母親の形見が何一つなく、母親の子であることを証明できなかったのです。

にせものの男は、母親の保険金目当てで妹に接近したのではないかと判明。妹が男と落ち合うだろうと見越し、特命課は妹を尾行して大井川鉄道のSL列車を追跡します。

妹は保険金の通帳をだまし取られ、殺されかけましたが、すんでのところで逮捕されます。信じていた兄がにせものだったと知り、妹は泣き崩れてしまいます。紅林が妹に寄り添った時、あの言葉が浮かんできたのです。

「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」。それを聞いた妹は「兄さん?」と驚き、その言葉が母親の口癖だったと話しました。幼い紅林の心に刻み込まれていた母親の形見だったのです。

母と子の深い絆を描いた名作

このドラマの肝は、なんといっても「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」という言葉です。母親の言葉だということは想像がつきましたが、兄と妹を結びつけるキーワードにしたのは見事です。

ドラマのストーリーにひねりはなく、最初から「紅林の母親探し」が軸になっていたことは分かりました。秀逸なのは、紅林ら特命課がどうやってそこにたどり着くかという過程を丹念に追っている点だと思います。

紅林の母親への思いは、前回作「母・・・・・・・・・」の取調室のシーンで切々と語られ、容疑者への激しい言葉としてぶつけられていました。それだけに、紅林がお墓を見た時の無念さは想像に難くありません。

一方で、母親の方も、生き別れになった紅林への思いが、手掛かりとなった「絵馬」に託された願いから浮き彫りになりました。絵馬には「再会祈願」と記されていたのです。

紅林の母親は、どんな思いで絵馬を託していたのでしょうか。いつか必ず会えると信じていたに違いありません、それだけに、交通事故という不慮の死は無念だったことでしょう。

特捜最前線らしい激辛なストーリーなのですが、たとえ離れ離れであっても母と子の深い絆は決して切れるものではない・・・そんなメッセージを強烈に訴えかけた名作と言えるでしょう。

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2022年11月03日

私だけの特捜最前線→59「母・・・・・・・・・〜紅林刑事が語る母への思い、子への思い」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介する第257回「母・・・・・・・・・」は、幼い時に生き別れになった母親を探している紅林刑事(横光克彦)の話が軸になっています。紅林は、母親との再会を果たせたのでしょうか?

殺人を自首した女性は紅林の母親か?

母親の消息を知っていると匂わせる男が、紅林刑事を喫茶店に呼び出しましたが、姿を現しません。男を探していた紅林は、男が殺されているのを発見し、現場から立ち去る60歳くらいの女性(楠田薫)を目撃します。

女性は、群馬県の小さな診療所の医師(久米明)の妻であることが判明します。医師は、免許を持っていない偽医者であることを紅林に告白し、妻が生き別れになった子供を見守るため、東京に行ったと話します。

やがて、ある大学教授の助手が重要参考人として連行されます。その直後、紅林の自宅に女性が現れ、「私はあなたの母です。男は私が殺しました」と自首したのです。その言葉に紅林は動揺します。

しかし、女性の突然の自首に不審を抱いた紅林は、女性が過去に務めていた病院を探します。生き別れになった子供がいたことは事実でしたが、それは紅林ではなかったことが判明するのです。

女性と紅林の母親は、ある病院で同僚でした。女性は、生き別れの子供の代わりに、幼い紅林を可愛がっていたそうです。ただ、母親のその後の消息については分かりませんでした。

紅林が「母の思い」を語る

助手を取り調べる特命課ですが、助手は容疑を否認し「犯人が自首したそうじゃないか」と詰め寄ります。そこに、手錠をかけられた女性が現れますが、女性は頑として「私がやった」と言い張るのです。

紅林は女性の心情を語ります。「人は嘘をついてもいい時がある。母が子供をかばうために嘘をつくのならば」。女性は犯行現場を目撃し、助手が連行されるのを見て、自首してきたのでした。

助手こそが、女性が生き別れた子供だったのです。すべてを悟った助手は、観念して犯行を自供します。「助教授になったら会いに行くつもりだった」と涙し、女性にすがりつこうとしますが・・・

紅林は二人の間に割って入り、「甘ったれるな。お前に俺の気持ち、お母さんの気持ちが分かるか。お前の汚れた手で、この人を触らせるわけにはいかん」と厳しく言い切ったのでした。

「医師」とは何かにも一石を投じる

親子の絆をテーマにした作品が多い特捜最前線のなかで、紅林刑事には「生き別れの母親を探す」というモチーフが用いられ、今回の作品は約1年後の完結編に向けたプロローグという位置づけになっています。

しかし、母親探しという面ばかりを追わず、事件の背景となった太平洋戦争中の731部隊の闇をえぐり、女性が夫とともに小さな村で献身的な医療活動をしてきたことをエッセンスに加え、ドラマに厚みを持たせています。

731部隊で秘密研究をさせられてきた大学教授の一人は「戦争の責任は個人が負うべきものではない」と持論を口にし、「研究のおかげで日本の医学が進歩した」とまで言い切っています。

面会していた船村刑事(大滝秀治)が、思わず「先生、正気ですか?」と驚いたほどでした。まだ、戦争の深い傷跡を抱える人が多かった昭和の時代らしい、強烈なメッセージ性あるシーンだったと思います。

一方で、医師免許がないにもかかわらず、村のために献身的に尽くしてきた男性。取調室のラストシーンで神代課長が「村人からたくさんの減刑嘆願が出ている」と話し、助手に罪を償って後を継ぐよう諭しています。

男性役を名優の久米明さんが演じたのも、見事なキャスティングと言えます。温かみのある人柄とともに、偽医者を隠し通さざるをえなかった苦悩など、見事に演じ切っていました。

最後に予告になりますが、次回の「私だけの特捜最前線」では、紅林刑事の母親探し完結編となるドラマを紹介する予定です。

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2022年10月27日

私だけの特捜最前線→58「ストリップスキャンダル!〜特捜屈指の超激辛かつ後味の悪いストーリー」

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※このコラムはネタバレがあります。

辛口で後味の悪いドラマが多い特捜最前線にあって、この回「ストリップスキャンダル!」は、タイトルからは想像できないような超辛口ぶりと、あまりにも虚しい後味の悪さで、他に追随を許しません。

エリート警部補はなぜ転落したのか

ストリップ劇場で踊り子の相手をしていたとして現行犯逮捕されたのは、エリート警部補(風間杜夫)でした。懲戒免職となってしまい、夜の街で飲んだくれる姿をおやっさん(船村刑事、大滝秀治)は目撃していました。

警部補の行状はストリップだけにとどまらず、風俗店にも通い詰めていた「いい加減な男」(叶刑事談)。さらに、自分の手柄のため、組織の店のホステスにスパイ活動をさせ、情報を得ていたことも発覚したのです。

船村は、エリート警部補のあまりの醜態ぶりに「何か裏があるのではないか」と疑い、調べ始めます。すると、警部補が逮捕される少し前に、失踪していた恋人(有吉ひとみ)が自殺していたことが分かりました。

やがて、警部補の周辺にいた女たち、つまり自殺した恋人、店のホステス、風俗店の風俗嬢が、同一人物だったことが判明。恋人は、若き日の警部補に法律の勉強を教えながら、励まし続けてきた女性だったのです。

恋人を失った警部補は、組織の組長への復讐を企てていました。「ハレンチ刑事になり、殺人犯になることで、彼女に償いをする」という、すさまじき警部補の執念と贖罪の思いの前に、船村は立ちはだかったのでした。

描写シーンを書けないほど激辛

このドラマが超激辛だとする理由は、恋人の残酷な運命にあります。あまりにも酷すぎる描写は、最初に見た時にはショックが大きすぎました。文字にすることは、はばかられるので書くことができません。

警部補は「失うものは何もない」「後戻りはできない」と、鬼気迫る表情で恋人の復讐に燃えます。単身立ち向かった船村は、最初こそ諭すような口調でしたが、ついには腕づくでも止めようとするのです。

雨の中で、警部補と船村は格闘します。最初は「腕力ではかなわない」と言っていた船村ですが、復讐に向かおうとする警部補に必死に食い下がります。互いの執念がぶつかり合った名場面といえます。

ついに船村を振り切った警部補は、潜入に成功した組織のオフィスに向かい、組長に拳銃を突きつけます。しかし、間一髪間に合った船村が組長の前に立ちはだかり、内偵捜査で踏み込んだ特命課によって阻止されます。

組長は特命課に逮捕されますが、復讐を遂げられなかった警部補は船村に向かって「きさま、正義の味方のつもりか!」と怒鳴り散らします。船村は、ただ黙ってその叫びを聞くだけ・・・後味の悪いドラマはここで終わりました。

風間杜夫さんの名演技

ドラマでは、なんといっても警部補役の風間杜夫さんの演技が光ります。前半の堕落しきった男から、復讐への執念を見せる表情、そしてラストの鬼気迫る姿・・・見事にドラマを引き立ててくれました。

名優の大滝秀治さんとのシーンが多いドラマで、あの大滝さんを向こうに回した演技は、風間さんもまた、名優になり得ることを証明したような気がします。この翌年、映画「蒲田行進曲」が上映されるわけです。

そんな名作なのですが、令和の世のテレビでは絶対放送されない作品になっています。ひとつは、私が書くことすらはばかられた恋人の描写。これは、ノーマライゼーションや残酷表現の両面で問題になるでしょう。

もう一つは、風俗店の表記の問題です。あえてストレートには書きませんでしたが、この風俗店は昭和の時代に、某国と同じ表記がされていたのです。映像にも看板が何度も出てきますので、さすがに流せませんね(苦笑)

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2022年10月20日

私だけの特捜最前線→57「レスポンスタイム3分58秒!〜紅林刑事の鋭い推理はドラマを面白くしたのか?」

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※このコラムはネタバレがあります。

タイトルの「レスポンスタイム」とは何か? 答えは「警察が110番通報を受けてから、現場に駆け付けるまでの時間」のことです。この解説を冒頭で行ってから、ドラマが始まっていきます。

パトカーが女性と接触事故を起こし、女性側と警察側との言い分が食い違ったことから、真相究明のため特命課に捜査が命じられます。パトカーを運転していたのは、紅林刑事(横光克彦)の高校の同級生だったのです。

実況見分のあと、謹慎を命じられたはずの同級生がパトカー勤務についていることが、所轄署の無線交信で判明。パトカーは、女性が2人組の男に連れ去られた事件の現場へと急行していたのです。

紅林らも現場へ急ぎますが、現場では同級生ら警察官2人が射殺されているのが発見されます。ただ、連れ去った男は2人だったはずなのに、現場からは別の第三者の靴跡が見つかり、謎が深まるのです。

捜査の結果、同級生はパトカーの巡回警ら中に、何者かをパトカーに乗せていた疑いが浮上。現場で何らかのアクシデントがあり、何者かが警察官の所持する拳銃で2人を撃ったと判明しました。

紅林は、所轄署からの事件通報をパトカーが受信した時間から逆算し、同級生がどのようなルートで巡回警らをしていたか探ります。そして、犯人をどこで、いつごろ乗せたのかが徐々に絞り込まれていったのです。



この事件では、紅林の推理がさえまくり、結果として推理通りの展開でドラマが進んでいくのです。ただ、そのことが「謎解き」の部分では物足りなかったうえ、予定調和っぽく感じられてしまいました。

例えば、第三者の存在について、紅林は早い段階からパトカーに同乗していた人物が怪しいと推理します。ここは一捻りして、あらゆる可能性を示唆させ、視聴者を惑わす展開も狙ったらよかったと思いました。

逆に言うと、捻ったところが少ない分、犯人逮捕までのストーリーは一本道で進み、見ている側からすると分かりやすいドラマだったようです。同級生が死ぬ直前に聞いた無線の通信内容にも泣かされます。

ちなみに、同級生役を演じたのは北條清嗣さんで、特捜最前線では何度もゲスト出演しています。

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2022年10月13日

私だけの特捜最前線→56「殺人メロディーを聴く犬!〜ワンコの名演技とギターの名演奏が光る」

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※このコラムはネタバレがあります。

叶刑事(夏夕介)は犬好きという設定になっていたようですが、その代表的なドラマの一つが「殺人メロディーを聴く犬!」です。この回に登場するワンコの「演技」は素晴らしく、陰の主役だろうと思っています。

叶刑事の犬への愛情

前半は、犬を執拗に狙っている正体不明の男のサスペンスと、瀕死の状態だった犬を看病し、愛情を注ぐ叶の姿という好対照なシーンが交互に登場します。犬がギターの音に反応したことからドラマが進展していきます。

犬は、ギター弾きの青年が飼っていました。しかし、トラブルから男に殺されてしまいます。犬は何日もかけて犯人の後を追い続けていました。まるで、青年の敵討ちを取るかのような執念を見せていたのです。

叶がなぜ、この犬に愛情を注いでいたのかが分かるシーンがあります。この犬の賢さを説く叶に対し、懐疑的な特命課員たち。神代課長(二谷英明)は犬の忠誠心について、外国での事例を説明しました。

すると吉野刑事(誠直也)は「それは血統書付きの犬の話だ」として、「雑種はしょせん雑種。名犬にはなれんよ」と叶に言います。その言葉に叶は、絞り出すかのように「俺も雑種ですよ」とつぶやくのです。

叶は、雨の公園にたたずみ、男にひどい目に遭わされた犬に、自分の生まれ育ってきた境遇を重ね合わせていたのです。犬はラストで息絶えてしまいます。叶は悲しみをこらえながら、亡骸を車に乗せたのでした。

音楽担当のルナ憲一さんが出演

このドラマでは、犬とともにキーワードになっているのがギターです。飼い主の青年役として出演していたのが、ギタリストのルナ憲一さん。現在もコンサートを開催するなど音楽活動を続けていらっしゃいます。

公式サイトによると、ルナ憲一さんは作曲家の古賀政男さんに見いだされてアントニオ古賀さんの内弟子となります。特捜最前線には担当プロデューサーから声が掛かって、音楽と演奏を担当していたそうです。

このドラマでは、ルナ憲一さんのギター演奏が随所にBGMとして挿入されています。場面に合わせて、時には情熱的な響きであったり、時には哀愁漂うメロディーであったりと、ドラマを盛り上げていました。

劇中では、ほとんどセリフがありませんでしたが、ギターテクニックを披露するシーンが挿入されており、ちょっとした見どころでもあります。

ルナ憲一さんの公式サイトです

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2022年10月06日

私だけの特捜最前線→55「バラの花殺人事件!〜映画のワンシーンを演出した見事なラスト」

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※このコラムはネタバレがあります。

この回の主役は、おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)ですが、事件の主役となるのは、元俳優の老人(岩城力也)です。元俳優は、船村が若いころ感銘した映画の主人公だったという設定でした。

胸にバラの花を捧げられた被害者

チンピラが殺され、胸にバラの花が一輪置かれていたというシーンから始まります。チンピラから子供を助けた女性が、執拗に付きまとわれた挙句、乱暴されそうになったため、とっさに殺してしまったと疑われます。

ドラマの前半は、女性を疑う所轄署と、女性の身の潔白を証明しようという船村という構図で進んでいきます。やがて第2の事件が発生。この被害者も胸にバラの花が置かれていたのを見て、船村はふと思い出します。

それは「薔薇の復讐」という映画で、船村は刑事になりたての頃に見たといいます。映画のストーリーに似た展開を見せる二つの事件。主人公を演じた元俳優の姿を目撃した船村は、元俳優の消息を探し当てます。

そして第3の事件が発生し、元俳優の動機を特命課が解明します。映画のラストから居所を推理した他の刑事たちとは別に、船村は一人撮影所へと向かいます。そこに元俳優が姿を現したのでした。

船村は「バカなことをしたものだ」と、映画の刑事と同じセリフを吐きます。すると元俳優は「俺がやらなかったら、誰がやるんです?」と返します。船村は映画のラストシーンを自ら演じ、元俳優を逮捕したのでした。

奥が深い長坂秀佳脚本

このドラマが秀逸だと思うのは、事件現場や女性が子供を助けたシーンに、元俳優が姿を現してのにもかかわらず、まるでエキストラの一人であるかのように何気なく映しているところです。

船村が映画のことを思い出してから、徐々に元俳優の存在を目立たせていき、事件の核心へと向かっていく演出は見事の一言。しかも、女性の勇気ある行動が、彼の動機につながっていくよう仕立てているのです。

さらに、元俳優役に岩城力也さんを起用したアイデアも素晴らしいです。岩城さんは、端役で何度も特捜最前線に出演しているので、前半部で画面に映し出されたとしても、視聴者は先入観を持って見ることはありません。

船村と元俳優のラストシーンのセリフも、その前に元俳優の部屋で、船村がセリフを回想している場面で聞かせておくことで、「バカなことをしたものだ」という言葉が、唐突な印象を与えないようにしています。

さすがは長坂秀佳脚本と言わしめるような、奥が深いドラマだと思います。もちろん、大滝秀治さん、岩城力也さんの名演技が、脚本と演出の見事さを支えていることは言うまでもありません。

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2022年09月29日

私だけの特捜最前線→54「撃つ女!〜サイドストーリーが本編になっていく演出の見事さ」

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※このコラムはネタバレがあります。

第309話「撃つ女!」は、裁判所の前で被告の男を拳銃で撃ち殺す女性(島かおり)と、それを止めようとして間に合わなかったおやっさんこと船村刑事(大滝秀治)という、衝撃のシーンで始まります。

倒置法を用いることで強烈なインパクトを与え、視聴者に「なぜ、この女性が殺人に及んだのか」「女性がどうやって拳銃を手に入れたのか」という理由を、ドラマの中でたどってもらおうとの演出です。

偶然、拳銃を手に入れた女

警官が拳銃を奪われるという事件が発生し、容疑者と思われる男をマークするため、特命課はマンションを張り込みます。男の部屋の隣に引っ越してきたのが女性で、船村は捜査への協力を依頼するのです。

女性は、事件で使われる拳銃に異様な関心を持っており、とくに残りの弾数をしきりに気にしていました。船村は次第に、女性に対して違和感を覚えますが、事件と直接関係がないため、深追いはしませんでした。

やがて犯人は、部屋に戻ってきたところを逮捕されますが、拳銃は持っていません。船村の違和感は、次第に「嫌な予感」に変わり、さらに女性の身辺を調べていくうちに「確信」へと変わっていくのです。

女性は、犯人が拳銃を隠すところを偶然目撃して拳銃を入手し、殺された娘の復讐をするために、被告の男を狙っていました。すべての謎が解けたとき、ドラマは冒頭の銃撃のシーンへと移っていくのでした。

女は意図して殺人を犯した

女性が銃撃したところで終わらないのが特捜最前線というドラマの醍醐味です。取調室で女性は、拳銃が手に入ったことを「神様って、この世にいるんだなと思いました」と、晴れ晴れとした表情で語ります。

橘刑事は「それは違う」と否定し、船村も「法律は人間が理性を守るための約束事なんだ」と諭します。しかし女性は「その約束事が間違っていたら!」と語気を強めます。船村には返す言葉もありません。

神代課長から「殺意の有無」を聞き出すよう促された船村は、もう一度女性と向き合います。「自分のやったことがわかっていたのか?」との問いかけに、女性は「殺してやろうと思った」と言い切ったのでした。

被告の男は、裁判で無罪もしくは情状酌量される可能性がありました。それを許せなかった女性が犯した殺人は、確信犯だけに重罪に問われます。この不条理こそが、ドラマの真の見せどころだったのです。


女性役を演じた島かおりさんは、ドラマ前半の感情を押し殺したような姿、拳銃を奪って被告を射殺する時の鬼気迫る表情、そして取調室でのどこか満足そうな笑みと、見事に演じ分けています。

おやっさんこと大滝秀治さんが、いつもどおり感情むき出しな「動」の演技ならば、島さんは「静」の演技。サイドストーリーをいつの間にか本編に持っていく演出も素晴らしく、特捜の中でも名作の一つと言えるでしょう。

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2022年09月22日

私だけの特捜最前線→53「天才犯罪者・未決囚1004号!〜切れ味鋭い橘刑事のトリック破りの推理」

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※このコラムはネタバレがあります。

特捜最前線の中でも屈指の天才的犯罪者(梅野泰靖)が、さまざまなトリックや偽装工作をして、最終的には犯罪から逃れようとしますが、そのトリックを橘刑事(本郷功次郎)が見事に暴いていくというドラマです。

脱獄し、証拠隠滅を図ろうとする男

男は過去、3人の妻を亡くしていますが、男の犯行だという立証ができず、不審死として処理されました。そして、4人目の妻である会社社長が、地震で落下した彫刻で頭を打って死亡する事故が発生します。

ところが、男は「自分が事故を装って殺した」と自首したのです。橘刑事は「今回だけ自首したのはなぜか」と疑い、その真意を探るため、男が収監された刑務所に犯罪者として潜入します。

橘は、男の一挙手一投足を観察し、彼が脱走する気であることを見抜きます。男は橘の推理通り、雨の日に高梯子を使って刑務所の壁をよじ登って逃げます。橘たちは男を追跡し、脱走の意図を見つけようとしました。

刑務所内で男は、事件の証拠品が残っていることに気づき、隠滅を図ろうとしたのです。それを見抜いた橘は、先手を打って男を逮捕しました。ところが、その証拠品は逆に男が無実であることを示す物証となったのです。

男には、裁判で無罪を勝ち取るための「切り札」があり、証拠品と「切り札」がそろったことで、男と愛人関係にあった社長秘書が自白に追い込まれてしまいます。事件は一応決着がついたことになるのですが・・・

天才犯罪者VS橘刑事の頭脳戦

このドラマは長坂秀佳脚本だけあって、非常に細かく練り上げられたストーリーになっています。とくに、一見不可解に見えて、実は計算し尽くした行動をする犯罪者の男と、橘との「頭脳戦」は非常に見ごたえがあります。

男の巧妙なトリックやアリバイ工作に対し、橘は難解なパズルを一つずつ解くように暴いていきます。しかし男は、二重三重のトリックを仕掛け、「自分が犯人ではない」証拠を積み上げていくのです。

狡猾な男のワナにかかり、おやっさん(船村刑事)までもが騙されるなど、特命課はあわや冤罪を犯すところでした。それでも橘は、男の矛盾点を丹念に捜査し、ついに「切り札」を崩す決定的な事実をつかむのでした。

秘書が自供した後、「してやったり」と声を殺した憎々しい笑いを見せる男。仮釈放された男を待ち受けていた橘のニヒルな表情。トリックを破ったクライマックスのシーン・・・どれも素晴らしかったです。

もちろん、頭脳犯を演じた梅野泰靖さんの演技が、ドラマを引き立てていたことは言うまでもありません。冒頭から橘刑事の本郷功次郎さんと対峙していたので、ラストの「対決」シーンは見どころでしたね。

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2022年09月15日

私だけの特捜最前線→52「逮捕志願!〜手錠をかけられてお礼の言葉を口にする男性の真意とは」

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※このコラムはネタバレがあります。

この話は、息子を殺した犯人だと名乗り、「逮捕してほしい」と訴える初老の男性に対し、叶刑事(夏夕介)が状況証拠や物証を積み上げて、男性の犯罪を立証できるかというところに視点が置かれています。

事件は15年前に発生し、連続通り魔殺人事件の被害者の一人として、シンナー中毒の男に有罪判決が下っていました。男はこの事件も自供しており、すでに死亡しています。つまり「解決済み」だったのです。

初老の男性は「息子を通り魔の真似をして殺した」と主張します。最近、妻に先立たれ、今こそ自首すべき時と考えたのですが、所轄署は相手にしません。叶刑事は単独で事件の再捜査をしますが、困難を極めました。

男性を伴って何度も実況見分を行い、ついに有力な状況証拠を見つけ出します。しかし、神代課長(二谷英明)は「公判維持のためにも物証が必要だ」と指摘し、特命課全員で捜査にかかることになったのです。

そして、決め手となる物証も発見。息子と妻の墓前でハーモニカを吹き、手を合わせていた男性に、叶は手錠をかけます。男性は「ありがとうございました」と頭を下げ、安どの表情を見せるのでした。

長坂脚本とワンチームの特命課

刑事ドラマでは、「犯人ではない」と訴える真犯人を追い詰めたり、逆に無実を証明したりというパターンがほとんどですが、脚本の長坂秀佳氏は「犯行を立証することで男性を救う」というストーリーにしました。

長坂氏は、当時の公訴時効だった15年というタイムリミットを設定し、「時効になってしまうと男性は生きていないだろう」と叶に言わせることで、ドラマに切迫感を出させる演出をしていました。

厳しくも温かい特命課のチームプレーも随所に見られます。状況証拠を示す叶に対し、「できる限り意地悪な見方でお前を否定する。それを打ち破る物証を持ってこい」と桜井刑事がゲキを飛ばすシーンが印象的です。

橘刑事は持ち前の地道で丹念な証拠探しに奔走し、紅林刑事は物証に対して悲観的になる叶に「あきらめるな」と励ましの言葉をかけます。特命課が神代課長を中心とした「ワンチーム」であることがわかります。

また、このドラマは何といっても、初老の男性役の織本順吉さんの名演技なしには語れません。逮捕してもらえない歯がゆさや、息子や妻をいとおしく思う気持ちなど、哀愁漂う男の姿を見事に演じています。

幼い息子が好きだったというハーモニカのメロディーは、「鈴懸の径」という灰田勝彦さんが昭和17年に発売した歌だそうです。

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2022年09月08日

私だけの特捜最前線→51「高層ビルに出る幽霊!〜婦警というプライドとも戦ったカンコの奮闘」

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※このコラムはネタバレがあります。

「高層ビルに出る幽霊!」は、特命課の紅一点として、6年半にわたってレギュラー出演した高杉幹子婦警ことカンコ(関谷ますみ)が主役を務めた回で、特捜最前線で時々放送されたホラーっぽいストーリーです。

亡霊に追い詰められるカンコ

特命課は、神代課長はじめ、刑事たち全員が連続殺人事件で出張しており、カンコは留守を任されていました。そんな時、ビル内の一室で不審な男女が抱き合っているのをカンコは目撃してしまいます。

警察の寮に戻ったカンコのもとに「小学校の屋上に来い」という女からの電話が入ります。カンコが向かうと、女は「あなたを怨むわよ」と言いながら、胸にナイフを突き刺し、屋上から飛び降りたのです。

カンコが所轄署員とともに現場に戻ると、女の死体は姿を消していました。事件後からカンコの前に、たびたび女が亡霊のように現れ、次第にカンコは精神的に追い詰められていきました。

ドラマの前半は、カンコが女の亡霊に悩まされるというホラー仕立ての展開。しかも、女が消えた謎を解くため、屋上から飛び降りて確かめようとし、おやっさん(船村刑事)から怒鳴られる場面も。

そんなカンコの姿を見て、叶刑事(夏夕介)が解明に乗り出します。飛び降り自殺も亡霊も、劇団出身の女が仕掛けたトリックだったと見抜き、カンコの話が事実であったことを立証したのです。

ドラマの中で、カンコは「私は婦警だ」と何度も口走ります。カンコを単なる内勤警察官としてではなく、エリート集団である特命課の一員だということを印象付ける作品になったと感じました。

関谷ますみさんが体当たりの演技

カンコの亡霊騒動と、特命課が追う連続殺人事件は密接なつながりがあったのですが、ここではストーリーに触れず、カンコ役の関谷ますみさんの体当たりの演技について語ってみたいと思います。

カンコは、男女を目撃したビルの一室に単独で乗り込みます。そこは臨時休業中の歯科医院で、連続殺人事件の主犯の男が、誘拐した女性を監禁していました。カンコは女性を救い出し、脱出を図ったのです。

メスを持って追いかける男にキックを浴びせ、護身術で投げ飛ばし、消火器の粉を浴びせるカンコ。男の刑事たちも顔負けのアクションシーンが続いていき、関谷さんの熱演ぶりがうかがえます。

カンコは男にメスを振りかざされ、服を切り刻まれて窮地に追い込まれますが、寸でのところで刑事たちが男を取り押さえます。カンコは精根尽き果てて倒れ込み、ドラマはエンディングとなりました。

なお余談ですが、冒頭にカンコが更衣室で服を着替え、ブラジャー姿を見せるシーンがあります。どうしても脱ぐ必要がある場面なのかと言えばそうではなく、今のドラマだったら演出されないでしょう。

そういえば、「太陽にほえろ」でも、シンコこと関根恵子さんが下着姿になるシーンがありました。男向けの「サービスカット」が欠かせなかったのも、昭和という時代を物語っていると言えますね(苦笑)

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マイケルオズ@フリーランスライター
「特捜最前線」がマイブームになっているオヤジです。リアルタイムの頃は津上刑事より若かったのに、今はおやっさんよりも年長者になりました(苦笑)
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