2016年05月06日
憲法 平成19年度第1問
A市の条例は、日本国籍を有さない者(以下「外国人」という)の公務就任権を侵害するものであり、違憲無効ではないか。
公務就任権の法的性格について、国民は主権者(前文1項、1条)として参政権(15条)を有しており、参政権の一環として認められるという説がある。また、幸福追求権(13条)の一環とする見解もある。しかし、公務と言っても継続的に行われ社会的機能分担の性質を有するので憲法上の職業に該当すると解せるから、22条1項によって保障されると解するのが正当と考える。
もっとも、公務は通常の職業と異なり、その就任権は参政権的性質を有するから、職業選択の自由が一般的に服する公共の福祉(22条1項)による制約以前に、公務の特殊性に基づく保障範囲の制限があると解する。そして、公務の特殊性の内容として、国の政治的意思決定権が国民に存するという国民主権原理(前文1項、1条)より、国の政治的意思決定に関わる公務には国民(すなわち日本国籍を有する者。10条、国籍法参照)が就任することが憲法上要請されていると言える。したがって、外国人には国の政治的意思決定に関わる公務への就任権は保障されていないと解される。
そうすると次に問題となるのは、市職員が国の政治的意思決定に関わる公務を担うかである。市職員は地方公共団体の行政の執行(94条)を担う者である。その職務内容は、多岐にわたるが、「地方自治の本旨」(92条)として地方公共団体は独自の事務を行うという団体自治権限が憲法上保障されていることから、自治事務(地方自治法2条2項)が原則である。もっとも、地方公共団体はそもそもその組織及び運営に関する事項が法律事項(92条)であるから、法定受託事務として国の事務も担う。また、事実上国の職員との人事交流もある。したがって、多岐にわたる公務をあえて分類すれば、市職員の多岐にわたる職務内容のなかには、国の意思決定に関わる公務と、そうでない公務の二種類がある。ただし、それらは市職員の業務の中で混然としており、確固たる線引きが困難なものである。
そうすると、憲法上の規範たる国民主権からは、日本国籍を有さない市職員に国の政治的意思決定に関わる公務をさせることの禁止にとどまるから、日本国籍を有さない者を市職員として採用しても、国の政治的意思決定に関わる業務をさせなければ許されるし、そうすることが職業選択の自由の観点からも望ましいと言える。しかし、前述のように国の意思決定に関わる公務とそうでない公務は混然一体としているから、採用の段階で日本国籍を有することを条件とすることも、いちいちそのものに担当させる業務が政治的意思決定の性質を有するかどうかを確認する判断を省略して市行政の円滑な運用をするために合理的な措置であるから、それが条例の根拠に基づくものである限り、許されると解する。
したがって、A市の条例は合憲である。
これに対して、市議会は憲法上の機関であり(93条)、市議会議員の選挙権は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」であるから、法律事項である(92条)。そして、市議会議員の仕事は条例を制定することであるが、条例には自治条例と委任条例があり(地方自治法14条1項、同2条2項)、委任条例は国の意思決定の結果制定された法律に基づくものであるから、当然に国の政治的意思決定に関わる内容を含む。市議会議員の選挙権は、このように政治的意思決定に関わる条例を必然的に制定する代表者を選ぶ行為であり、市職員のように、国の意思決定に関わらない業務のみを担うという柔軟な態様ができない性質のものである。そのため、国民主権原理より、その権利を行使するのは国民すなわち日本国籍を有する者に限られる。したがって、市議会議員の選挙権に国籍要件を貸している法律は合憲である。
このように、A市の条例と市議会議員の選挙権に国籍要件を定めた法律の違いは、国民主権原理に抵触する業務とそうでない業務を分割できるか否かにある。前者は分割可能だが、業務の円滑という要請から採用段階で国籍要件を貸すことも条例に根拠を有する限り許され、後者は分割不可能であるから当然に合憲だと私は考える。 以上
公務就任権の法的性格について、国民は主権者(前文1項、1条)として参政権(15条)を有しており、参政権の一環として認められるという説がある。また、幸福追求権(13条)の一環とする見解もある。しかし、公務と言っても継続的に行われ社会的機能分担の性質を有するので憲法上の職業に該当すると解せるから、22条1項によって保障されると解するのが正当と考える。
もっとも、公務は通常の職業と異なり、その就任権は参政権的性質を有するから、職業選択の自由が一般的に服する公共の福祉(22条1項)による制約以前に、公務の特殊性に基づく保障範囲の制限があると解する。そして、公務の特殊性の内容として、国の政治的意思決定権が国民に存するという国民主権原理(前文1項、1条)より、国の政治的意思決定に関わる公務には国民(すなわち日本国籍を有する者。10条、国籍法参照)が就任することが憲法上要請されていると言える。したがって、外国人には国の政治的意思決定に関わる公務への就任権は保障されていないと解される。
そうすると次に問題となるのは、市職員が国の政治的意思決定に関わる公務を担うかである。市職員は地方公共団体の行政の執行(94条)を担う者である。その職務内容は、多岐にわたるが、「地方自治の本旨」(92条)として地方公共団体は独自の事務を行うという団体自治権限が憲法上保障されていることから、自治事務(地方自治法2条2項)が原則である。もっとも、地方公共団体はそもそもその組織及び運営に関する事項が法律事項(92条)であるから、法定受託事務として国の事務も担う。また、事実上国の職員との人事交流もある。したがって、多岐にわたる公務をあえて分類すれば、市職員の多岐にわたる職務内容のなかには、国の意思決定に関わる公務と、そうでない公務の二種類がある。ただし、それらは市職員の業務の中で混然としており、確固たる線引きが困難なものである。
そうすると、憲法上の規範たる国民主権からは、日本国籍を有さない市職員に国の政治的意思決定に関わる公務をさせることの禁止にとどまるから、日本国籍を有さない者を市職員として採用しても、国の政治的意思決定に関わる業務をさせなければ許されるし、そうすることが職業選択の自由の観点からも望ましいと言える。しかし、前述のように国の意思決定に関わる公務とそうでない公務は混然一体としているから、採用の段階で日本国籍を有することを条件とすることも、いちいちそのものに担当させる業務が政治的意思決定の性質を有するかどうかを確認する判断を省略して市行政の円滑な運用をするために合理的な措置であるから、それが条例の根拠に基づくものである限り、許されると解する。
したがって、A市の条例は合憲である。
これに対して、市議会は憲法上の機関であり(93条)、市議会議員の選挙権は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」であるから、法律事項である(92条)。そして、市議会議員の仕事は条例を制定することであるが、条例には自治条例と委任条例があり(地方自治法14条1項、同2条2項)、委任条例は国の意思決定の結果制定された法律に基づくものであるから、当然に国の政治的意思決定に関わる内容を含む。市議会議員の選挙権は、このように政治的意思決定に関わる条例を必然的に制定する代表者を選ぶ行為であり、市職員のように、国の意思決定に関わらない業務のみを担うという柔軟な態様ができない性質のものである。そのため、国民主権原理より、その権利を行使するのは国民すなわち日本国籍を有する者に限られる。したがって、市議会議員の選挙権に国籍要件を貸している法律は合憲である。
このように、A市の条例と市議会議員の選挙権に国籍要件を定めた法律の違いは、国民主権原理に抵触する業務とそうでない業務を分割できるか否かにある。前者は分割可能だが、業務の円滑という要請から採用段階で国籍要件を貸すことも条例に根拠を有する限り許され、後者は分割不可能であるから当然に合憲だと私は考える。 以上
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