岡潔自身の著作は読んだことがあるのだが, 本書のような評伝的なものは初めて読む.
数学者としての岡潔の生涯を淡々と書いている. よく知られた, 数学に没頭するあまりの奇行などについても冷静に客観的に書いてあり読みやすい.
興味深かったのは岡の研究の進め方である.
ノートに数学上の計算や思索, 進展具合を日々記録する.
それ以外にも, 外へ出て地面に木の枝で図や数式を書いたり, それもせずに心の中だけでひたすら考えることもよくあったようである.
起きているときも寝ているときも, すべての時間が数学なのだ.
そのような中から多変数解析函数論の根源的な業績が生まれていく.
数学上の発見をしたときの喜びを岡は 発見の鋭い喜び と言っている.
これは岡自身も著作の中で何度も書いていて, 自分の好きな言葉の一つである.
この言葉が実は寺田寅彦が元だと初めて知った.
研究ノートは 1925 年から 1966 年まで書き続けられる.
最後のほうは多変数代数函数論への思索が続く.
リーマンが一変数函数論で成し遂げたことを多変数函数論で実現しようとしていたとある.
そのノートは 1966 年 12 月 31 日を最後に書かれることが無くなった.
以後, 岡は随筆の執筆や講演を生活の中心とするようになり, 直接の数学の研究からは離れていく.
第 2 次世界大戦の後, 数学はフランスを中心に極端な抽象化に向かう.
岡はこれを好まなかった.
あまりにも抽象的になった数学を冬景色にたとえている.
この辺りのことはとても興味がある. 数学の抽象化が何をもたらしたかという側面と, 個々の数学者がどう感じているか, 言っているか等.
本書の副題には岡潔を指して 数学の詩人 とある.
そう思う.
「僕は数式も論理も無い数学をやってみたい」という岡の言葉はそれをよく表わしている.
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