タイトルから自分が期待していた
・ 鬱病の苦しみの中でどうやって生きればよいのか
・ なぜ自分は絵を描き数学を考えるのか
・ 自分の生に意味があるのか
といった問いかけへの答えについては, 示唆するところはあまり無かった.
しかし, 一人の哲学者の勉強・研究の軌跡として興味深い.
著者は十代の思春期を戦争の中で過ごす.
戦争が終わって, テキ屋や闇商売などをやりながら今後の人生への絶望から哲学に導かれていく.
ドストエフスキー, キルケゴールなどを読み, 共感しながらも彼らの中にある宗教による救済に馴染めずにいたところ, ハイデガーという哲学者が無神論的実存哲学というものを著書『存在と時間』の中で展開していると知り, 『存在と時間』を読むために哲学の研究に入る.
そして『存在と時間』を理解するためにどんな本を読んだか, という話が書かれている.
著者が哲学書を読むのを本当に楽しんでいるのがわかる.
哲学の研究を行うためには英語・ドイツ語・フランス語・ギリシャ語・ラテン語の習得が必須なのだが, 著者が勉強した方法が参考になる.
年の始めにある本を読むことを決める.
たとえばその本がギリシャ語で書かれていたとする.
年の最初の 3 か月ほど, ひたすらギリシャ語を勉強する. 一日 10 時間以上. 単語を暗記し文法を覚える.
そしてギリシャ語を習得してから, 目的の本を読む.
こうやってそれぞれの言語を身に付けたのだ.
あと, 次のようなテーマについての著者の考えが面白かった.
・ ハイデガーの人間性, ナチスとの関係 (†)
・ ハイデガーとハンナ・アレントの関係
・ ニーチェと妹エリザーベトの関係
著者が哲学を志すきっかけとなった生への絶望が哲学を学ぶ中でどうなっていったのか, 著者の業績である『存在と時間』の書かれなかった続編とハイデガーの後の論文との関係性の考察については, もう少しだけでいいので知りたかった.
現代の日本の哲学者がどんなことをやっているのか何となくではあるがわかった. とても面白く読める. 読んで良かった.
†: ハイデガーの人間性, ナチスとの関係
ハイデガーは早い時期からナチスに入党してナチズムに深く傾倒し, ある部分では彼の思想とナチズムとは結び付く.
ハイデガーは地位や権威を得ることに関して非常に狡猾で頭が良く, 他者を出し抜いて出世していく.
フライブルク大学の学長になるが, 世間からナチスとの関係について非難されると一年でさっさと学長を辞めてしまい, ナチスとの関係はほんの表面的なことであったかように装う.
その他, 研究や生活などについてもどうかと思うようなところがある (流行に敏感で主張をコロコロ変える, 他人への冷徹さと蔑視, 徹頭徹尾利己的).
しかしながら, 研究の内容は非常に素晴らしく魅力的であると著者は言う.
言行一致には全く当て嵌まらず人間的に問題があるが, 凄い哲学者であると.
ハイデガーとナチズムの関係については自分も以前調べたことがある.
業績と人間性とは分けて考えるというのが研究する者の取るべき立場なのかも知れないが, 自分はよくわからない.
少なくとも時代の当時の状況とは背景で繋がっていて, 分けて考えるわけにはいかないと思う.
言行一致という考えは自分にも無いが, それでもハイデガーの思想が持っているある種の力, つまり一つ間違えると全体主義に結び付いてしまうという危険さには何とも言えない恐ろしさを感じる.
※: 実は自分は『存在と時間』を数年前から読んでいる. 読み始めた時にはハイデガーとナチスがここまで深く繋がっていたことは知らなかった. その恐ろしさには自覚的でいたいので読み続けている (と言うことは自分の中にも全体主義への志向があるということだ).
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